夏季休暇も終え、映画公開記念で配布された日本号も仲間に加えて、当本丸の刀剣男士も58振になった。
千さんとうぐ爺の顕現は3周年の日だったとはいえ、実際にはうぐ爺は12月に、千さんはその2ヶ月前の10月に入手していて、顕現待機状態だった。つまり2振の入手は2211年。で、次に来たのが貞ちゃん・包ちゃん・
なのに、2213年は2月にその3振が来て、パパ上来て、
審神者錬度や審神者歴が同じくらいの審神者と比べて、うちの刀剣男士数は少ない。難民拗らせてたってのもあるけど、新規刀剣男士が報酬になっているイベントに悉く参加していないのも理由。担当官の
ただ、既に刀帳番号140番以降の刀剣男士が出現して1年半ほど経って、その数も2部隊分いる。今後の戦況を考えるに戦力は多いほうがいいんだろうし、そろそろうちにも呼ぶ方針にしたほうがいいのかもしれない。
というのも、演練やお猿君の本丸での彼らを見て、少しずつ彼らへの偏見も少なく? 弱く? なってるんだよね。
そう思い始めた切っ掛けは鍛刀でやって来た巴形薙刀。あの巴形薙刀の後、ドロップでもやって来て、その2振は自己満足とはいえ依代に顕現しない理由を説明したうえで丁度修行を終えたばかりの太郎さんに錬結した。
でもねー、顕現していない刀剣男士の依代を錬結に回すことに罪悪感を感じたんだよね。折角来てくれたのに、戦力外通告してしまうことに。
他所の本丸に来ていれば彼らは分霊を招かれ顕現して刀剣男士の本分を果たせたんだろうなぁと。うちの本丸に鍛刀され、ドロップされたばかりにその依代に下りるつもりでいただろう分霊は呼ばれなかった。残念に思ってるかもしれないなぁ、なんて。
お猿君のところの両薙刀を見ると、本当になんというか、自我を持って間もない幼子のようなところもあって、それがなんとも素直で健気で、
巴形薙刀も静形薙刀もそれぞれの様式の薙刀の集合体だ。明確な『個』としての本体がないために付喪神になれずにいる数多の薙刀の想いが、政府が巴形薙刀と静形薙刀を作ったことによって集い、形となった。それは名もなき、知られることのなかった薙刀たちもこの国の歴史を守りたいと思ってくれていたから可能になったのだろう。
そう思うと、不思議とこれまで得体のしれぬものと思っていた2柄の薙刀がとても健気で愛おしい存在に思えてきた。名がないから、伝承がないから、逸話がないから付喪神にはなれず、刀剣男士となれなかった。そんな薙刀の想いに形を政府が形を与えたのだ。
今は薙刀だけだけど、もしかしたらこれから他の刀剣男士にも似たような形態のものが増えるかもしれない。以前宗三も言ってたけど。言ってみれば同田貫正国や千子村正も同じだよね。彼らには明確な『個』の刀剣は指定されていない。それが他の刀工名で刀剣男士となっているメンバーとは違うところだ。
加州清光・大和守安定・和泉守兼定・陸奥守吉行・堀川国広、それから一応長曽祢虎徹も刀工名=刀剣男士名と言っていいのかな。でも彼らは刀工の他の作品とは明確に違いがある。それぞれ沖田総司・土方歳三・坂本龍馬・近藤勇に使われた刀剣が付喪神となって刀剣男士になっている。ただ一人の所有者への想いによって彼らは刀剣男士になっているから、まぁ、影響がめちゃ強いよね。数多の主を持った古い刀たちに比べると、主関係のあれこれも至極シンプルだし。
ああ、話が逸れたけど、ともかく、両薙刀に対しての偏見ってのはだいぶ無くなったと思うから、この2柄は迎えてもいいかもしれないと思い始めたわけだ。
更に関係刀剣がいる粟田口と長船。彼らも来てもいいかなという気がしてる。というか、来たんだよね、毛利藤四郎が。まだ顕現してなくて、一期に預けようとしたら方針が方針だから錬結に回しては? って言われてしまった。ここ最近の私の様子から何かを察していたらしい歌仙が『僕が持っていこう』って言って薬研に保管を頼んで今は薬研の部屋に隠してある。薬研も歌仙と同じく私の傍にいてくれることが多いから、薄々気付いてはいたみたい。
長船刀剣2振に関しては、演練で五虎ちゃんが他所の小豆長光や謙信景光を見て懐かしそうにしてたってのもあるし、パン祭でにゃーさん来るまでは長船は光忠一人だったからってのもある。
でも、顕現しないって決めたのも、今更受け容れようって気になったのも、全部私の感情とか考えに基づいてのものだからある意味我が儘ともいえるわけで。私の我が儘で方針変更もなぁ、という気持ちもある。
「だったら、余計に話し合わなくてはいけないのではないのかい?」
私の考えとか迷いとか判ってる歌仙に相談すればあっさりとそう言われた。うん、まぁそうだよね。基本的に本丸の方針は私が決めることだけど、これまで独断で決めたことはない。私の希望ありきでの話し合いにはなってしまうけど。
「だよねぇ……。でも私が顕現したいって考えてるって言ってしまったら、光忠にしろ一期にしろ源氏刀にしろ、本当は思うところがあっても受け容れてしまうんじゃないかなって不安なんだよ。自分の意見を押し殺して隠しちゃんうんじゃないかなって」
刀剣男士たちは余程の理不尽や馬鹿なことではない限り、主である審神者の希望には逆らわない。だから、私がこれまで顕現しなかった刀帳番号140番以降についての方針を変えると言えば、彼らはそれぞれの心のうちはどうあれ、賛成してしまうんじゃないかと思う。
正直にそう告げれば、歌仙はムッとしたように私にデコピンを食らわせる。ちょ、痛いって。手加減しているとはいえ打撃112の指弾は痛いから!
「主、僕らを見損なわないでくれ。君が僕たちが顕現して真っ先に願うことは『諫言を恐れるな』だ。どんなことであれ、それが間違っているならば指摘しろ、納得できないことは言え、話し合うことを互いに厭うな。君はそう言っている。これまで一振でもそれを違えたことはあるかい? そんな愚か者はいないはずだよ」
確かに顕現して最初のお願いはそれだ。私は人間だし、間違えることだってある。これだけ美麗な神様たちが
「これまで僕たちが主に異を唱えたことはない。けれどそれは自分の意を飲み込んでいるわけではないよ。主が真剣に考えたことを僕らも判っている。だから、納得しているんだ。ちゃんと君は重要事項を決めるときには僕たちに考える時間をくれるしね」
歌仙は言葉を重ねる。今まで何か方針を決めるとき、その場で決めたことは殆どない。基本的に最低でも1日は時間を置くようにしている(今のところ例外は初回の研修生受け入れ。あれは急ぎ案件だったから、その場で決めた)。そのうえで本丸の方針を決めていた。そうだ、何か不明なことや曖昧なことがあれば、皆それを問うてくれたじゃないか。
「僕たちだけで話し合うこともある。意見を出し合うこともね。めっせーじあぷりのたいむらいんが大変なことになることだってあるんだよ。主厨と言われる長谷部や
うん、長谷部だって自分が納得できなければ『恐れながら』って話に来るときがある。本丸運営に興味のなさそうな田貫や
「そうだね。なんか顕現に関してはしないと決めたこともそうだけど、私の我が儘って気がしてしまって、後ろ向きになってたかも」
ごめんね、とそう告げれば歌仙はふわりと笑って頭を撫でる。
「判ればよろしい。心配なら方針変更から実際の顕現まで暫く猶予期間を設ければいいのではないかな。方針変更に納得してもこれまでの考えを変えたりするには時間もかかるだろうしね」
それもそうだね。私も意見変更に至るまでには時間がかかったわけだし。話し合いは今して、賛成が得られれば年度替わりあたりでの顕現にすればいいかな。まだ半年以上あるし、それなら皆の心の整理もつくだろうし。
「ありがとう、歌仙。流石あなたは頼りになるね」
「当然だろう? 僕は君の初期刀なんだ。頼りにならなくてどうするんだい」
フフンと胸を張って言う歌仙が可愛くてカッコいい。流石は我が初期刀様だ。
歌仙に背中を押されて、まずは全体ではなく源氏刀の意見を聞くことにした。彼らは巴形実装のときに懸念を口にしていたから。
「実は相談したいことがあってね」
そう切り出すと膝の上にいた今ちゃんがにっこりと笑う。
「あるじさま、ぼくたちをおよびになったのなら、巴形薙刀と静形薙刀のことですよね?」
何故判る!? まだ何も言ってないのに!
「判るよー。この前巴投げが来たときから何か考えてるみたいだったじゃない」
ほわほわと髭爺が言う。それに他のメンバーもうんうんと頷いている。
「巴形薙刀だ、兄者。それでは柔道だぞ。主は我らからすれば判り易過ぎるからな。何かを悩んだり気にしていたりすれば直ぐに判るぞ」
前半は兄に向けて後半は私に向けて膝丸も言う。そうか、私は単純で判りやすいのか……。
「皆主のこと大事だからな。主の機微には敏感にもなるって! 主が自分のことには無頓着な分な。杵や田貫だってちゃんと気付くぜ」
獅子君が苦笑交じりに言う。自分のことは後回しなのは刀剣男士たちにはバレバレなんですねー。伊達に3年以上一緒に生活しているわけじゃないってことか。傍にいることの多い祐筆や短刀たちにはバレてるかなーとは思ってたけど、そうじゃない刀剣にも気付かれてたのか。複雑だけど嬉しいな、うん。
「そっか。ありがと、皆。うん、確かに相談は両薙刀のこと。そろそろ彼らを仲間に加えてもいいかなって思ってるんだ」
そうして自分の考えを説明する。それを彼らは真剣に聴いてくれる。
「成程。目から鱗とはこういうことをいうのかもしれないね」
話を終えて最初に口を開いたのは石さんだった。
「私たちは『付喪神』となる要件を満たしていない不確かな存在として彼らに懸念を抱いていた。得体の知れぬモノと思っていたが、そういう考え方もあるんだね」
巴形薙刀実装時に石さんたちが心配して反対した理由はまさにそれだった。当時は私も同じように不気味に思ったし、政府の『典礼用のため神格が高い』という説明に不快感を抱いた。だから、顕現しないと決めたんだよね。まぁ、この『神格が高い』という説明は刀剣男士課の一部の意見ごり押しでの説明だったらしくて、後から撤回されている。そりゃ宮内庁神祇局だけじゃなく護歴神社からも苦情と訂正要求が入ればねぇ。人々の想いと願いから自然発生した付喪神と人間が人工的に作り出した付喪神。どちらが本当に神格が高いかと言われれば当然前者だろうし。ただ、これに関しては巴形薙刀は何も悪くない。寧ろ一部の人間の我欲によって嫌悪感を抱かれた被害者だ。
「お猿君のところの両薙刀って、なんか如何にも生まれたての付喪神です! って感じで、幼気な印象なんだよね。やっと得た自分の主に喜んでもらいたい愛してもらいたいって一所懸命で」
そう言えば、お猿君のところの彼らを見たことのある岩さんと今ちゃん、獅子君が頷く。
「絆されちゃったんだねぇ。主って母性本能が強いのかな」
クスクスと可笑しそうに髭爺は笑う。それにつられるかのように石さんも膝丸も笑っている。
「かもねー。小さい子が一所懸命お母さんやお父さんに褒めてもらおうと頑張ってるみたいに見えるんだよね」
薙刀だから図体でかいですけどね! なんて言って皆で笑う。
「うん、いいのではないかな。私は彼らを本丸に迎えるのも吝かではないよ」
「ぼくもです!」
「ぼっち刀種脱出だな!」
「まー、物欲センサー働いて出てこねーかもしれないけどな!」
「うん、巴投げとしずむくんだね」
「巴形薙刀と静形薙刀だ、兄者。俺も異論はないぞ」
そう言って皆は両薙刀の顕現を受け容れてくれた。あっさりと済んでちょっと拍子抜けだけど、まぁ、いいか。
源氏刀との話し合いが終わったから、今度は粟田口。一期と
で、今回は毛利藤四郎を、とではなく刀帳番号140番以降をってことで話をする。まぁ、毛利藤四郎だから顕現を考えてるっていうよりも、毛利藤四郎が140番以降にいるからだしね。
一期も今回は反対しなかった。毛利藤四郎だから顕現しようというのではなく、140番以降も等しく顕現対象になるなら問題ないらしい。粟田口だからという理由で顕現されるのであれば本丸運営の観点から良くないと判断してたみたい。うん、流石、吉光長兄で祐筆課だね。
ってことで改めて薬研が預かっていた毛利藤四郎の依代を一期に預けた。
「コレの性質から考えると私が預かるよりは秋田や前田、平野のほうが嬉しいのでしょうが」
苦笑交じりに言った一期の言葉には全員が乾いた笑いを漏らしたよね。
そして、粟田口の次は長船の2振と五虎ちゃん。五虎ちゃんは非顕現対象だった長船とは所有された家が同じ上杉家だからね。まぁ、粟田口で説明はしているから別にいいかなとも思ったんだけど。
「うん、まぁ、別に主がそれでいいんならいいけど。でも、僕が一言嫌味言うくらいはOKだよね?」
最初期に契約している『燭台切光忠』としてはやっぱり思うところはあるみたい。でもその一方でにゃーさんという親族が来たことで他の親族に会いたいという思いも芽生えてきたんだそうだ。
「そうだなぁ。俺としちゃ、一族揃うのはいいんじゃないかとしか言えんねぇ。叔父貴の気持ちも判らんでもないし。まぁ、叔父貴は色々背負い込みすぎと思わんでもないがね」
祖の刀剣として唯一の参戦だからね。気負っちゃってる部分はあるのかなぁ。燭台切光忠って見た目からは考えられないほどに生真面目で気を遣う刀剣男士だからね。
「あるじさま、景光君と小豆さんが来たら、いーっぱい謙信公のお話しますね! あるじさま、謙信公のことお好きでしたよね!」
可愛らしく笑う五虎ちゃん、マジ天使! うんうん、顕現したときに上杉謙信好きだって言ったもんね。覚えててくれたんだね。懐かしいなぁ。五虎ちゃんは審神者2日目のトップバッター顕現だったんだよねぇ。
「長船揃ったら本丸の一角が見た目ホストクラブになりそうだけどね! 長船太刀って、見た目派手だし」
「そうだねぇ、否定は出来ないかなぁ。僕単体でもホストだの夜の帝王だの言われてたからね」
光忠が苦笑する。うん、光忠とにゃーさん並んでると、しかもそれが戦装束だと正にその場が夜の歌舞伎町に見えるからねー。でも中身はオカンとオッサンだけど。ぶっちゃけ見た目もオッサンな号さんよりもにゃーさんのほうがオッサンじゃね? それにどうやら小豆は謙信景光とセットになることが多いから保父さんっぽいらしいし。そういえば、小豆と謙信景光はその喋りが平仮名表記されることが多いんだけど、あれって、BASARAの謙信の影響だったりするのかな。
「小豆長光はスイーツ男士ともいわれるみたいだし、本丸のおやつ担当になってくれたら、僕や歌仙君も夕餉に集中出来るね!」
これ以上料理人を極めるつもりですか、光忠さん!
とまぁ、源氏刀に続いて難関だと思ってた光忠もあっさり了承してくれて、次の説明は脇差6振。140番以降にいない刀種は槍だけなんだけど、他の刀種については刀種別の説明はしてない。ただ、脇差は篭手切江実装のときに当時いた5振揃って『要らない』って言いに来たからね。個別に相談しておいたほうがいいかなと。
が、脇差には粟田口が2振いるわけで、しかもうちの脇差たちは結構仲がいい。まぁ、ばみ君と
つまり、私が話す前にずおばみ兄弟から脇差には話が行ってたみたいで、6振は執務室に来て座るや否や『篭手切江来たら、宴会余興で脇差揃って光GE〇JIやりますねー。主さん好きでしょ?』とか言われた。まぁ、確かに好きですよ、光GEN〇I。あのグループ丁度7人だし、篭手切江と言えばアイドル目指してる系男士だし。
「参戦が遅いことに思うところがないわけではないけどねぇ。でも、これだけ後期参戦が増えればもうどうでもいいよね」
青江はあっさりとそんなことを言ってくれた。気を使ってくれたんだろうけど、本心でもあったんだろうなぁ。
そして、最後のグループ。切国たち堀川派3振、初期刀組、そして長船。そう、山姥切長義に関わるグループ。山姥切長義の写しである切国とその兄弟、切国と関係の深い初期刀組、そして本来は同派である長船。
ただ、ここでの説明は他のグループとは違う。他のグループは『顕現しようと思っている』という説明と相談だけど、ここは逆だ。顕現する気がないということを説明するために呼んだ。
「俺に気を遣っているのか?」
私が山姥切長義を顕現する気はないと言うと切国が眉根を寄せてそう言った。
「違うよ、切国。まぁ、切国が修行に行ってなかったらちょっとは気を遣ったかもしれないけど、今の切国は写しとか本歌とか気にしてないでしょ」
元々うちの切国はあんまり写し写し言わなかったけど。割と初期に本丸に来た山姥切国広は写しコンプレックスを拗らせる個体は少ないらしい。本丸初期だと忙しくてそれどころじゃないからね。初期に来る刀剣男士は割とどの刀剣も拗らせ要素が薄かったり、手がかからなかったりするらしい。
「演練やお猿君のところで山姥切長義を結構見たよ。さにちゃんでの山姥切長義スレも見た。まぁ、さにちゃんは話半分どころか8割は誇張されてると思って読んでるけど。でもね、それでも、やっぱり私は彼の言動が好きになれないんだ」
彼のこだわりは判ると思う。彼は『本歌』だ。なのに審神者業界では『山姥切』といえば『山姥切国広』を指す。刀剣男士が世間にも認知されているから、今では余程の刀剣マニアでなければ『山姥切=山姥切国広』になってしまっていて、山姥切長義の存在を知らない人も多い。それに対しての不満はあるだろうし、元々プライドの高そうな彼には耐えがたいことだろうとも思う。尤もだったらさっさと参戦してればよかったじゃないとも思うけど。
だけど、それを他への攻撃性にするのはどうかと思う。うちにはいない南泉一文字に『猫殺し君』と言ったりするというし。もしかしたらそれは旧知の南泉一文字に対しての親愛の情からくる、気を許しているからこその弄りなのかもしれないけど、南泉一文字はその呼び名を嫌がっているともいう。
実はお猿君の本丸の山姥切長義と会話を試みたことはある。出来るだけフラットな気持ちで、偏見を持たずに……と思ったけど、無理だった。お猿君の山姥切長義には偏見から滅茶苦茶素っ気ない態度を取ってしまったことは謝罪した。勿論、彼の主であるお猿君にも、彼の本丸の刀剣たちにも。
で、そこで気づいた。私の山姥切長義への隔意は既に偏見とかそういった段階ではなく生理的嫌悪感にまで発展してしまっているのだ。いや、もしかしたら元々そうだったのかもしれない。彼が監査官として現れたときから合わないと思っていたし。
生理的に合わないタイプと認識していると説明すれば、付き合いの長い初期刀組と堀川派と光忠は『あー』と納得した顔をしていた。
「生理的に、というのがどういうものかはよく判らないけれど、要は本能的に無理だということだろう? 何となく、納得できるよ。主が出来るだけ公平に僕たち刀剣男士を見ようとしているのは僕たちも理解している。そして、人には根本的に相性が悪い者がいるということもね。それは理性や理屈ではないんだろう?」
私を一番理解してくれているだろう歌仙が言う。本当に彼は私の意を酌んでくれるのが巧い。
仮令その人物がどれほど優れているかを理解していても、どれほど優しい人なのかを知っていても、それを認めていても、どうしても知人や友人という立場にはなれない者もいる。理屈じゃないんだよね。無理と思ったら、もう無理。
人間同士でもそうなってしまったら友好的な関係を作るのは難しい。それが審神者と刀剣男士となったらどんなことになるのか。想像するのも怖い。刀剣男士は審神者の霊力によって肉体を得る。完全な神ではないから、精神も性質も審神者の影響を受ける。私が『生理的に無理』と思っている山姥切長義を顕現したら、多分、彼は本来の山姥切長義ではなく、歪んでしまう。仮に真面な顕現が出来たとしても、その後どれだけ公平に扱おうとも、そこには絶対に無理が出る。それは歪みになって山姥切長義を傷つけるだろうし、他の刀剣男士にも本丸そのものにも影響を与えかねない。聡い山姥切長義のことだからきっと私がどれだけ隠しても私が彼を嫌悪していることに気付くだろうし。人の想いを得て付喪神になっているのだから、人の感情には敏感だろうしね。
「そういうことだから、うちの刀帳は永遠に埋まらないと思う。もしかしたら、今生理的に無理と思ってるのは私の思い込みかもしれない。他の本丸の山姥切長義と接していくうちに私の気持ちや考えも変わるかもしれない。そのときはまた相談する。でも、やっぱり当分の間は山姥切長義をうちの本丸に受け入れる気はない」
そう告げる私に、切国たちは頷いてくれた。
全グループへの説明と相談を経て、日曜夜のミーティングで方針変更について相談した。既に各刀派や刀種、部隊によって情報は共有されていたようで、個別に相談や説明をしていない刀剣男士たちも特に驚きなく私の話を聞いてくれた。
そのうえで彼らは意識改革の猶予期間を設けることを条件に了承してくれた。
元々直ぐに顕現をする気はなかった。依代を得ても顕現するのは4周年を迎えてからと考えていたから、その条件はこちらからも提案しようと思っていたことだし。
ともかく、本丸の方針変更は特に大きな波乱も問題もなく、受け入れられたのだった。
まぁ、そうなったらそうなったで、何気に物欲センサー仕事しそうですけどね! 鍛刀出来る長船とか薙刀とか、ドロップできる篭手切江とか!
っていうか、その前に貞宗長男と青江長男、古備前弟だよね! あ、三池兄弟もいたか。物欲センサーめっちゃ働きそう。