Episode:48 三木眞ヴォイス~~~~!!

 夏真っ盛り、今月中旬から土日を合わせて9連休の夏季休業が始まる。審神者の福利厚生もかなり充実していて、昨年度から漸く夏季休業についての規定が出来た。7月から9月の間に5日間。うちのように土日を全体休日と設定している本丸だと最大9連休が可能だ。

 そんな8月を迎える前に政府から2つの通達があった。一つは2回の鍛刀キャンペーン。1回目は日向正宗、2回目は大般若長光。そして、通称パン祭。期間中にとある任務を毎日達成することによってシール? を集めて、それを便利道具や刀剣男士の依代と交換できるというもの。

 このパン祭、去年までは所持刀剣数に制限があって余裕がないからという理由で便利道具と交換していた。でも、今年は刀剣男士所有枠に余裕も出たことだし、刀剣男士ゲットだぜ。

 日向正宗は代表的な持ち主が石田三成ということで余りゲットする気にはなれない。清正公せいしょうこさんと犬猿の仲と言われているし、そんな武将の刀剣は欲しくないって感じだ。まぁ、刀帳番号140以降なので顕現する気皆無。既に飽和状態といっても過言ではない短刀ということもあって、まぁ来たら取り敢えず顕現する気になったときのために依代ゲット出来ればいいかなくらいの気持ちでいた。結果、来なかった。政府が提示していたレシピがALL300ということで、まぁ、今居ない物吉貞宗とかくればいいなーなんて程度の気持ちで日課の一つとしてやってた。そうしたら、日向鍛刀最終日。

「物吉貞宗と言います! 今度は、あなたに幸運を運べばいいんですか?」

 来たよね! 骨喰ばみ君でも鯰尾ずおでも国広くに君でも青江でもない依代が出来た時点で貞ちゃん呼んで顕現して。貞宗兄弟の真面枠揃った―!

 貞ちゃんに本丸案内してもらって、そのあとはこれまで出来ていなかった脇差6振での出陣。主要任務はこれで槍3条での出陣を残すのみ!

 物吉の愛称は吉君と考えてたんだけど、口をついて出てきたのは『もっくん』だった。うん? そのときふっと薬研を『やっくん』、行光ゆきちゃんを『ふっくん』と呼べば、シブ〇き隊だなぁなんて思ってしまった。まぁ、薬研に以前『やっくん』呼びは拒否られてるんだけど。もし薬研を『やっくん』と呼ぶなら、同じ短刀兄貴分の厚は『あっくん』、後藤は『ごーくん』(流石にごっくんは変だし)と巻き込まれることになる。というか私と薬研が巻き込む。

 もっくんが来たので、夏季休暇の終わりに2泊3日で行く沖縄保養所は1人分予約を追加。現世のホテルだと中々追加変更とか難しいんだけど、そこは審神者業界専用保養所。日々の鍛刀や出陣で本丸人数が変動することが当たり前だから、予約の人数変更は当日の朝10時まで受け付けてくれている。まぁ、こういうことがあるから、保養所のレストランは全てビュッフェ形式になっているんだろうなぁ。

 早速、池田屋の記憶周回でもっくん育成しつつ、今度は幸運を運ぶもっくんまたは祖の刀光忠を相槌に大般若長光チャレンジ。まぁ、鍛刀キャンペーンといっても、日課分以上の鍛刀はしないというかさせてもらえないんだけど。

「にゃーさん来たら、パン祭は大包平かなー」

 パン祭では最近実装された山姥切長義・豊前江・祢々切丸以外の全ての刀剣男士と交換可能だ。

 うちは刀帳番号140番以降は呼ばない方針だから、大般若長光鍛刀さえできれば、あとはどの刀剣でも構わない。鍛刀・ドロップ不可能なのは大般若長光以外は全部140以降だしね。

 なので、鍛刀とドロップだとまだ鍛刀運のほうがマシなので、ドロップ限定の刀剣男士を交換するつもりでいる。となると、大典太光世・ソハヤノツルキ・大包平・篭手切江の4振で、篭手切江は142番なので除外。残り3振なら『鳴き声オーカネヒラ』のうぐ爺のためにも大包平かなぁ。太刀ばっかり増えるけど、まぁ、そもそも太刀は実装数が多いから仕方ない。

 それに8月に入ってあった通達によれば8月下旬に2年半ぶりとなる新戦場が開放されてしまう。そこは関ケ原の戦場に近く、時代としては室町の南北朝期の戦場若しくは天下分け目の関ケ原関係の戦場らしい。どうやら平原とかそんな戦場だという話だ。ならば、これまで後方支援に回っていた太刀や大太刀の出番になる。ああ、この戦場があるから、大太刀の極が先に来たのかな。

 池田屋の記憶、延享の記憶と初期刀組に関係のある戦場が続いているから、この戦場もそうなんじゃないかな。だとすると、初期刀組で最も古い刀は歌仙兼定で戦国時代生まれ。ならばこの新戦場は関ケ原関係かな。蜂須賀虎徹と陸奥守吉行はまだ生まれていないから、山姥切国広関係? でも、山姥切国広は足利城主長尾顕長以外は有名どころいなかったような気がするし、関ケ原に関係する所有者っていたかな。南北朝期はまだ山姥切国広生まれていないし、関係ないだろうから、安土桃山時代の関ケ原だと思うんだよね。もしかしたら、今度の新規戦場は初期刀組無関係なのかな。

 現在は神薦審神者の方々と政府預かりの刀剣男士が先行調査してくださっている。新戦場の出現は一部で盛り上がっているけど、これ、盛り上がることじゃないから! 新戦場ってことは敵が新たな時代に侵攻を始めたってことなんだからね!

 一部の盛り上がっている審神者に歴保省も『遊びじゃないんだ! 戦争だって自覚しろ』と頭と胃を痛めているらしい。でも、一部がそうなっちゃったのって、政府がやたらと娯楽色を出したイベント連発した影響だと思うよ。自業自得。本当に敵が絡んでた特別任務なんて、2ヶ月前の聚楽第潜入調査と一昨年10月の初回江戸城潜入調査だけだし、他の任務は定期化してる政府が用意した擬似戦場だもんね。

 と、まぁ、そんな感じでもっくん育てながら鍛刀してたんだけど、一向に来ません! 政府の指定したALL800のレシピで富士札使ったら4時間でみか爺! 富士札効きすぎ!

 やっと3時間20分だと思ったら、ほぼ恒例のいち兄! 一期がまたOTZしてそのままごめん寝して光忠に謝ってた。光忠は苦笑してたな。うん、みっちゃん主に左文字に同じことしまくってたもんね。

 そんな一期に見慣れている弟たちは『ホント、いち兄もあるじさんのこと大好きだねー』なんて笑ってた。それを聞いた包ちゃんが『いち兄、主と結婚するのか? じゃあ主は人妻になるの!?』と目を輝かせて、一期と鳴狐なき君とばみ君と薬研と前田まぁ君に教育的指導としてプロレス技掛けられてた。私が格闘技とか観ないからどんな技なのかは判らないけど。っていうか、その情報と技術は何処で仕入れたんだ。まぁ、個々人でパソコンやタブレット端末持ってるし、居間と刀種部屋にはTVもあるし、それで見たんだろうけど。

 だけどね、包ちゃん、うちの本丸で私と刀剣男士の結婚はないからね? というか、殆どの本丸でもないから。禁止されているわけでもないけど、刀剣男士に性欲がないことも恋愛機能がないことも護歴神社と神祇局から正式通達出てるし、審神者も刀剣男士もそれは判ってるんだよね。

 まぁ、刀剣男士との結婚も『生涯傍にいて守るため』『生涯の縁を強めるため』という理由で選ぶケースもないわけじゃない。一部、そういう理由で婚姻関係を結んでいるケースもあるらしいけど。尤もそれは建前で、結婚相手が初期刀や初鍛刀ではなく三日月宗近・一期一振・鶴丸国永と偏っている時点で、政府は『あ、恋愛脳審神者』と判断してるっぽくて、要注意本丸に登録されてしまうらしい。

 刀剣男士としては『親子は一世、夫婦は二世、主従は三世』という概念?を持ってる。親子の縁は今世のみ、夫婦ならば今世と来世、主従は来々世まで繋がる縁ということだ。つまり、刀剣男士は夫婦よりも現在の主従(政府の契約は主従関係じゃないんだけど)のほうが縁が強いということを知っている。だから態々弱める選択をするはずないし、仮に承知の上で選択しているなら寧ろ刀剣男士側は縁を少しでも弱めたいと思ってるってことになる。つまり、その審神者は問題ありってことだ。

 って、すげぇ話逸れた。

 ALL800だと太刀と打刀が出まくって、中でもレア打刀と言われるメンバーが出まくってたから、あの同田貫ですら『あー、わりぃ』なんて言うほどだった。どうやら、打刀勢の中では歌仙と同田貫が私の霊力と相性がいいのか、かなりの頻度で鍛刀されるんだよね。あれ、これって霊力というより地元の縁? 小夜左文字も結構出るし。尤も蛍丸はレア大太刀ってことでそんなに頻度高くないけどね!

 そうそう、蛍君といえば、極実装時期はまだ判ってないけど、シルエットは出た。子供サイズだった! 可愛い蛍君のままなことが嬉しかったけど、本刃は複雑そうだった。大きくなりたいって気持ちもあったんだろうな。

 そういえば、極の修行について、気になる話を聞いた。元々各本丸の刀剣が同じ時期の同じ場所に修行に出ることについて時間軸がどうなっているのかという話はあったんだよね。厚藤四郎とか乱藤四郎みたいに時期不明の刀剣男士はともかく、明確に日付が判る薬研藤四郎とか和泉守兼定、長曽祢虎徹、時期がほぼ特定できる今剣、前田藤四郎、五虎退、愛染国俊、物吉貞宗、浦島虎徹、大和守安定、歌仙兼定、太郎太刀もいるわけだし。それは各本丸が同じ時に同じ戦場に出陣しても鉢合わせないのと同じで各本丸ごとに微妙に世界線が違うのかなという予測も出来た。

 ただ、最近実しやかに噂されているのが、実は修行に出たのは本霊で、刀剣男士は修行に出たと見せかけて政府本部の何処かで眠り、その間に本霊から修行の記憶をインストールされているのではないか、というもの。手紙も内容が一言一句全く同じだと確認されている。個々刃が修行に出ているのであれば、個体差もあって全く同じ行動は取らないだろうし、手紙の内容だって違うはずだと。初期刀とそうでない同位体であれば、本丸運営を気遣う内容が入っているいないの違いもありそうなもの、というのだ。でも、本霊の記憶をインストールされ、手紙も本霊が書いているのであれば、全く同じ行動と同じ文章の手紙も納得がいくというのだ。

 その話を聞いたとき、成程と思うと同時になんか怖かった。だから、デマだと思いたい。楽しそうに修行の話を聞かせてくれる刀剣男士の表情を見ているから、それが本刃が体験したことではないとは思いたくない。






 結局、鍛刀キャンペーンは惨敗した。

 なので、パン祭では大般若長光を選択する。これは刀剣男士たちも納得していた。叔父にあたる光忠以外はね。

「え? いいの? うぐ爺は大包平さんを待ってるし、青江君だって数珠丸さんに会いたいよね? ずっと日本号難民だし、貞ちゃんやもっくんだってお兄さんに会いたいでしょう?」

 うちの本丸にいないのは大典太光世・ソハヤノツルキ・数珠丸恒次・大包平・亀甲貞宗・大般若長光・小竜景光・日本号の8振だけ。140番以降を含めれば増えるけど、まだ当分は140番以降を呼ぶ気はないから。

「いいんだよ、数珠丸は鍛刀でもドロップでも入手可能だからね」

「きっこー兄ちゃんも同じく! それに俺も物吉兄ちゃんもまだ来たばっかりだからな!まだまだ待てるぜー」

「そうですね。あの兄なので、当分まだまだまだまだ来なくていいですよ」

「大包平は鍛刀は出来んが、拾えるからな。そのうちひょっこりとやってくるさ」

 関係者はそう言って光忠に気にするなと笑う。というか、もっくん、中々酷いこと言ってない? まだの数が多い気がするんだけど。

「御上の通達で今月下旬には日本号が配布されるんだ。だから、日本号をパン祭で交換する必要はないね」

 初期刀として政府通達を見ていた歌仙が更に付け加える。

 政府は審神者政策の広報の一環として、色々なことをやっている。刀剣男士をモチーフにしたアクセサリーや小物、バッグや着物を販売したり、アニメやミュージカルを製作したり。そして今回、なんと映画を作ったのだ。現世の俳優を使っての映画なんだけど、実は審神者には余り評判は良くない。うん、人間に刀剣男士役をやらせるのはねぇ? いくら人間としてはカッコいい人たちを集めたとはいえ、実物を知っている身からすれば『喧嘩売ってんのか、ああん?』という感じだ。人間のどんなイケメンであっても流石に神様である刀剣男士の美しさには及ばないからね。特に天下五剣一美しい三日月宗近とか初期刀組で一番モンペの多い山姥切国広とか不満を漏らしている審神者は少なくない。

 初期刀組にはモンペ多いよねー。私も歌仙モンペな自覚ある! 映画に出てないけど、それはそれで『ああん? 歌仙じゃ役不足とでもいうのかよ!』って不満。アニメもミュージカルも初期刀組でメイン扱いされるのってほぼ山姥切国広で偶に加州清光。時々陸奥守吉行。歌仙兼定と蜂須賀虎徹は殆どスルーされてる。出演したらしたで作画がどうとかビジュアルがどうとか文句言う気もするけど。当の本刃は呆れて『出ても出なくても文句を言うのなら、出ないほうがマシなんじゃないかい?』って言ってた。うん、ダメージ少ない出ないほうがマシかな? でも、我が初期刀が軽んじられているみたいで不満なんだよ! って言ったら、嬉しそうに頭撫でられた。

 映画化が決まったとき、実は面白いこと大好きな鶴丸国永の本霊は『俺が出てやろう!』なんてことを仰ったらしい。それを聞いたうちの鶴爺は『俺が言いそうなことだ』と苦笑してた。流石に神様が映画に出るのは問題ありまくりだろうということで護歴神社と神祇局が必死に止め、親戚筋の三条刀と伊達家所縁の刀がお説教したそうだ。石切丸と燭台切光忠が正座させた鶴丸国永を説教してる姿が目に浮かぶ。うちでもたまーに見る光景だな。うちはびっくり爺じゃないからお説教頻度は2ヶ月に1回くらいだけど。

 そんなことがあったからなのか、映画に鶴丸国永は出ないそうだ。映画に出てくる刀剣男士は8振で三日月宗近・骨喰藤四郎・薬研藤四郎・鶯丸・山姥切国広・へし切長谷部・不動行光・日本号らしい。本能寺の変が舞台なんだから、宗三左文字も入りそうなものなのになぁ。織田組の薬研・長谷部・不動が出るのは判るし、秀吉との絡みで三日月と骨喰かな。まぁ、三日月は刀剣男士政策(審神者と刀剣男士の諸々の政策は『刀剣乱舞』政策というらしい。広報活動に力を入れたときにこの名称がついたそうだ)の広報担当として前面に出てるから納得。でも鶯丸・山姥切・日本号はなんでこの3振なんだろうという気がする。山姥切は初期刀組の代表かもしれないけど、だったら歌仙兼定のほうが織田家とは縁があるんじゃないかなぁ。細川忠興は信長嫡男の信忠に仕えていたわけだし、明智光秀の娘婿だし、それなりに関係深いと思うんだけど。刀剣男士の選定基準は判んないし、今更言っても仕方ないけど、どうしてって思ってしまう。あ、本霊が出演拒否った可能性もあるのか。歌仙兼定とか蜂須賀虎徹とか拘り強そう。そう考えれば、宗三左文字も本霊が出演NG出したのかもしれない。

 で、その映画公開を記念して、何故か出演刀剣の依代を配布することになったそうだ。なんで? まぁ、難民化してた日本号が手に入るならいいけど! これでやっと三名槍が揃うし、主要任務コンプリート出来る。この情報に蜻蛉切とんさんも御手杵ぎね君も博多と厚、小夜ちゃん、そして隠してるけど長谷部も嬉しそうだ。

 とまぁ、そういう事情があって、日本号も入手出来ることが確定している。なので、鍛刀キャンペーンやこういったイベントがなければ入手不可能な大般若長光を交換するってことで刀剣男士と私の意見は一致しているわけだ。ただ光忠は身内なだけに、他の刀剣への遠慮があったんだと思う。本当に光忠は気を遣うからなぁ。

「ってことで、大般若長光ー!」

 受け取り箱から大般若長光の依代を取り出す。実は既に交換していたのだ。悪いな、光忠!

 既に夏季休暇に入っていた我が本丸。乱ちゃん・五虎ちゃん・平野ひぃ君・秋田あき君・切国・宗三を連れて一旦実家帰省し2泊3日。3日目に去年の夏と同じく丙之五さんに東京駅まで来てもらって刀剣男士の交代。去年第一部隊で帰省同行していた国君を除く幕末組と青江がやって来て、そのまま軽井沢旅行。2泊3日の旅行を終えて、本丸へと戻ってきたのが今日で、既に交換を終えていることを教えていなかったから光忠はこんな話をしていたというわけだ。交換は持って行ってたタブレット端末から出来たからね、帰省中に引換所オープンしたから、即交換しておいた。

「お初にお目にかかる。俺は大般若長光。長船派の刀工、長光の代表作さ」

 ふぉぉぉぉぉ!! いい声!! 流石三木眞一郎激似ヴォイス!!

 中学のころから筋金入りの声優ファンだった。見るアニメ、吹替映画、プレイするゲームは内容はもとより出演声優で選んでいたほど。興味ないジャンルのアニメや映画やゲームでも好きな声優が出ていれば見て(遊んで)いたからね。当時はドラマCDなんかも多くて、それも知らない作品であっても好き声優さんが出ていれば買ってた。一番好きな声優だった人に関しては溜息だけで彼だと判っていたくらいだ。

 そんな中でも三木眞一郎氏はベスト10には入る好き声優さんだった。残念ながらベスト5入りは無理だけど。上位3位は不動で塩沢兼人氏・関俊彦氏・池田秀一氏だ。そのあとに井上和彦氏・堀内賢雄氏・速水奨氏と続き、ここまではほぼ不動。その後鈴置洋孝氏・子安武人氏・森川智之氏・田中秀幸氏・森功至氏・置鮎龍太郎氏、そして三木眞一郎氏がその時々によって順位を変えつつ続く感じだ。私がこちらに来るころには既に主役級を演じることは少なくなった方たちだが、上位5人にどれだけつぎ込んだか判らないな。

 なので、三木眞一郎氏そっくりな声の大般若長光に悶えてしまう。

「……主?」

 雅じゃない! とお怒りの歌仙だってスルーさ! でも、いかん、このままでは主としての威厳が!!

「千さん、カモン!」

「何でショウ主?」

「『俺様の美技に酔いな』って言って!」

「huhuhuhu。よいでデスよ。俺様の美技に酔いな!」

「ふぉぉぉぉぉ!」

 叫んだ瞬間、後頭部に歌仙のハリセンが炸裂した。勿論手加減はしてくれたんだろうけど。してなきゃ首もげてるはずだ。

「ああ、あるじさんの観てたアニメの貴様何様跡部様」

 納得したように言うのはアニメ鑑賞もゲームも付き合ってくれることの多い乱ちゃんだった。

「そういえば、千さんの声、似てますね」

 短刀ちゃんたちが頷く。そう、似てるでしょ? 諏訪部順一ボイスに!

「あ! 僕判った! 大般若さんの声、天の青龍に似てるんだ!」

 そう言ったのは何故か乙女ゲームプレイ率の高い安定ヤス君で、同じくプレイ率の高い清光キヨと頷きあってる。

「いい加減にしないか、主! 顕現したばかりの大般若長光が戸惑っているだろう!」

 初期刀の当然のお叱りに姿勢を正す。すると、大般若はお腹を抱えて大笑いしていた。

「ハハハッ。あんた、面白いなぁ」

 笑いながら大般若は気を悪くしたふうでもなく戸惑ってもいなかった。流石長船太刀。この包容力と許容力半端ねぇ。

「俺にリクエストはないのかい?」

「喋ってくれてるだけで十分」

 頼久にも頼忠にも特に決め台詞はないし、どちらかと言えば口数の少ないキャラクターだった。プレイしまくっているのは1と2だけだから、3以降は判らん。3はねー歴史改変しまくるゲームだから、流石に本丸でプレイする気にはならないんだよね。

「いきなり変な審神者でごめんね。改めてこの本丸の主である審神者の右近です。もう、めっちゃ待ってた! 江戸城でも鍛刀キャンペーンでもゲットできなかったからね! よろしく頼むよ」

「待たせちまった分は頑張らないとなぁ」

 屈託なく笑む大般若はカッコいい。

「光忠、にゃーさんの案内と部屋決めお願いね」

「判ったよ。長光、こっちだ」

 光忠ににゃーさんの案内を頼む。お、珍しい。年上刀剣には『さん』、年下刀剣には『君orちゃん』付けする光忠が呼び捨て。やっぱり同派親戚だからかな。

「にゃーさんってのは俺のことかい?」

 可笑しそうに笑いながらにゃーさんが尋ねる。

「審神者の中での愛称だね。嫌なら他に考えるけど」

「いや、にゃーさんでいいさ。愛嬌があっていいじゃないか」

 おお、懐広いな、にゃーさん。流石長船太刀!

「長光がいいならいいんだけどね。主、序でに僕まで変なあだ名で呼ばないでよ?」

 カッコいいことに拘る祖の太刀としては甥っ子認定のにゃーさんの呼称には物申したいところなんだろうけど、私が聞かないのは判ってるらしい。流石に初太刀。大丈夫、ピカチュー呼びもママン呼びも心の中だけにしておくから!

 そうして、光忠がにゃーさんを呼んで、そのまま何かを話し始める。

「うわぁ、あそこだけ歌舞伎町」

「大将、気持ちはめっちゃ判るが、そろそろやめねぇと歌仙の旦那の血管切れるぜ」

 思わず呟いた言葉に薬研が同意しつつ窘めてくれる。うん、随分今日は雅や風流とは程遠い言動しまくったからね。歌仙の心の平穏のためにもそろそろ通常に戻します。

「あ、保養所の予約変更しないと。1名追加だね」

「主、僭越ながらこの長谷部、既に変更連絡をいたしました」

 極まってから主厨に磨きのかかった長谷部がシュタッと目の前に現れて報告してくる。うん、素早いね、色々。

「ありがとう、流石長谷部、素早いね」

「お褒めに預かり恐悦に存じます」

 キラキラお目々の長谷部。だから君は忠犬ハセ公なんて言われるんだよ。ほら、宗三と行ちゃんが揶揄う気満々で見てるから。






 これで本丸に集った刀剣男士は57振。随分揃ったなぁ。まぁ、実装数は76振だから、まだ20振近くいないんだけどね。そこはのんびり行きましょう。

 ああ、そろそろ、140番以降をどうするか話し合う時期かなぁ。