Episode:50 新展開

 8月の終わり、2年ぶりの新規戦場が開かれた。『青野原の記憶・阿弥陀ヶ峰』。関ケ原の戦いの戦場だという。うん、また時代の中でのピンポイントだね。

 ということは、歴史修正主義者たちの技術はまだ12世紀までしか遡れないということなんだろうか? 最も古い戦場は私が就任したときと変わらず12世紀の阿津賀志山だし。源平合戦以前の平安時代や奈良時代、飛鳥時代には保元の乱や平治の乱、安和の変に薬子の乱、平将門の乱や藤原純友の乱、恵美押勝(藤原仲麻呂)の乱、壬申の乱や乙巳の変、いくらでも歴史改変の分岐点となる事件は多そうなのに、歴史修正主義者はそこまで手を伸ばそうとはしていない。そもそも源平合戦にだって手を出してないしなぁ。歴史修正主義者は武士にしか興味がないのかな。それとも、古い時代の歴史を知らない知識の浅い集団なのかも。まぁ、歴保省の研究者の間では時代が深くなればなるほど歴史修正力が働いて現代への影響が薄れるのではないかって言われているそうだから、その関係もあるのかもしれないけど。

 兎も角、今回開かれた戦場は関ケ原に関するもの。そういえばピンポイント戦場もだんだん時代を遡ってるな。

「レキシューが何を狙ってるのか、意味不明」

 万年青おもとさんが送ってくださった戦場データを見ながら思わず呟けば、歌仙と長谷部も頷いた。

「石田三成は関ケ原の後、捕まって斬首でしょ? 戦後に死ぬのになんで態々ここでの暗殺狙ってるんだろう?」

 そう、この戦場のメインは石田三成の暗殺。関ケ原で彼が死ぬのは正史だから、どうしてここで態々彼を狙うのかが判らない。

「『関ケ原』の戦いを起こさぬことが目的でしょうか? 飽くまでもこの阿弥陀ヶ峰は元々太閤殿下が埋葬された地で戦場ではありませんし、関ケ原本戦を起こさぬことが狙いとも考えられます」

 私の疑問に応じたのは長谷部。

 ああ、なるほど。阿弥陀ヶ峰は飽くまでも豊国廟があるだけで、関ケ原の戦いには直接関係していない。そもそも京都だし、時期も明言されていない。ここに三成がいるのが秀吉の埋葬のためだとすればまだまだ関ケ原までは間があることになる。或いは関ケ原の決戦を予見した三成が戦勝を願い或いは秀頼のことを守ってほしいと秀吉に会いに来たのかもしれない。ならば、護衛の少ないであろうこのときを狙って三成の暗殺を企んだというのは有り得るかもしれない。9月15日の関ケ原本戦(という言い方は微妙だけど)が起こらなければ小早川秀秋の裏切りも発生しないし、島津義弘の戦場強行突破の逸話も生まれない。徳川秀忠の遅参も結城秀康の活躍もなかったことになる。他にも色々関ケ原の戦いが起こらないことによってなかったことになる出来事は多いし、関ケ原で死亡するはずだった武将だって生き残る。

 そして強硬な反家康の三成がいなくなれば、豊臣から徳川への政権交代はスムーズに進むだろう。いや淀君いる時点で無理か。あの時代の読めない馬鹿母(私個人の評価。絶対豊臣所縁の刀剣には言えない!)が大阪城に居座った時点で豊臣は終わってる。高台院だったら豊臣家は一大名として存続できた可能性もなくはないと思うんだよね。もしかしたら羽柴姓や木下姓に戻ることになったかもしれないけど。

 レキシューの一派には豊臣家の存続を願ってるっぽいのもいるから、関ケ原本戦までにそういった高台院を大阪城の主にしようとする動きとか出たりするのかな。それに伴って西軍の総大将に祭り上げられた毛利輝元に対しての動きもあるかも。

 まぁ、私の考える程度のことを頭の良い官僚ぞろいの歴保省が考えてないわけもないだろうし、もしかしたら、そんな遠征も増えたりしないのかな。戦場は増えたけど、遠征先は増えてないし、政府、後手後手に回ってる感は否めないなぁ。

 つらつらとそんなことを考えながらも、歌仙たちと今後の出陣計画を立てる。

 うちの本丸はまだ新規戦場には進出しない。パパ上以降に来た刀剣男士、パパ上、物吉もっ君、大般若にゃーさん、日本号ごうさんがまだカンストしてないから、そっちが優先だ。

 取り敢えず新人君たちがカンストしてからだね、新戦場は。






 9月半ばにパパ上が無事カンストし、そろそろもっくんもカンストするというころ。政府から新刀剣と新刀種の発表があった。それは『刀種:剣』の白山吉光。粟田口の剣の実装だった。

 まさか、政府が行き当たりばったりで新刀種導入までするとは思わなかった。なんで行き当たりばったりかって? 最初から実装予定なら白山吉光の刀帳番号が164の訳ないからね。彼が164ってことは元々彼は参戦予定はなくて、彼が参戦したから新たな刀種が生まれたって解釈で間違ってない気がする。こりゃそのうち風魔小太郎が使っていた手裏剣とか猿飛佐助が使ってた手裏剣とか百地三太夫が使ってた苦無とかって銘打って他も実装されたりするんじゃない?

 で、140以降については来年度から顕現する予定にしていた。ただ、ここでネックなのは新たな刀種ってことだ。これはうちの本丸でも早々に来てもらったほうが今後の為にもいいのかもしれない。

 ってことで、緊急会議を開いて話し合った。特にこの剣は『神技』という特別な力があるというし。それを知るためにも、彼は招こうということが決まった。一期や鳴狐なき君は自分たちの親族が結果的に優遇されているようで申し訳なさそうにしてたけど。けど、鳴君、君ときぃちゃんが発表された一部映像で小さな白狐がいることにテンション上がってたのを知ってるぞ。うんうん、可愛いねぇ。

 そして、白山吉光の鍛刀キャンペーン。例によって1日3鍛刀の制限付きだったけど、さにわちゃんねるで確率が高いとされたALL893で挑んだよね。なんで893ヤクザと思ったけど。BASARAの片倉小十郎が浮かんだけど! ヤクザじゃなくて893ハクザンだったんだね!

「なんでヤクザ?」

「恐らくハクザンの語呂合わせですぞ、主殿」

 思わず呟いた私に苦笑してツッコミを入れたのはお兄ちゃんでした。

 まぁ、結果は見事惨敗でしたよね! 鍛刀キャンペーンで狙った刀剣男士が来たことないわ! そして、狙ってない不在刀剣が来るのは最早デフォ!

 何日目かの鍛刀でやって来たのは見たことのない打刀。現在、うちの本丸に鍛刀可能な打刀でいないのは一振だけ。鍛刀の近侍はにゃーさんにお願いしてたんだけどねー。光忠叔父から何か聞いてたのか、にゃーさんはその刀を見た瞬間、私に拡声器を渡してきた。それを受け取り、スイッチを入れてボリュームを上げると、何処か懐かしいキーンという甲高い音。間近にいたにゃーさんは耳抑えて蹲ってた。うん、ごめん。

「もっくん、貞ちゃん! お兄ちゃん来たよー!」

 拡声器を使って叫ぶ。拡声器使ってるんだから叫ぶ必要ないし、実はこの叫びには霊力載せてるから本丸内の何処にいても聞こえるから本当は拡声器も必要なかったんだけど。無駄に大声出したからかハウリングが起きて更ににゃーさんが耳を抑えてた。すまんかったって。

 程なく貞宗弟ズと思われる軽快な足音とともに明らかに太刀や打刀と思われるドスドスと重い足音も聞こえた。全員集合になるのはまぁ、いつものことだけど、今回は無関係刀剣の誰が反応したんだろう。

 そうしてやって来たのは、勿論、もっくんと貞ちゃん。嬉しそうでいて何処か困惑した表情してる。うん、まぁ、兄の色んな風評うわさ聞いていれば無理もないか。弟たち2振はかなりいい子だしなぁ。

 で、その貞宗弟ズの後ろにいたのはある意味予想通りのメンバーだった。歌仙、蜂須賀、光忠、一期、宗三、明石。そう、本丸の保護者組兼風紀委員。

「ついに来てしまったのかい、主」

 真っ先に口を開いたのは歌仙。というか歌仙、来てしまったってなんだ、しまったって。その言葉に貞ちゃん苦笑してるじゃないか。

「そのようです、歌仙さん。亀甲兄さんですね」

 依代を見てもっくんが応じる。兄弟に会えて嬉しそうではあるものの歌仙たちの反応も理解できると複雑そうな表情だ。

「主殿、是非彼の教育係は我々にお任せいただきたい。大丈夫です、弟たちに害は及ばぬよう叔父上と骨喰に守らせています」

「ええ、お小夜も共にいますから、兄上も彼らを守っていますしね」

「うちの国俊と蛍丸もご一緒させていただいとります」

「うちの浦島もだよ。あれは脇差の中ではどちらかと言えば幼いからね。粟田口に混ぜてもらってる。贋作とはいえ兄もついているから防衛策は万全だ」

 次々と主張するのは保護者組だ。あれ、短刀だと唯一今剣いまちゃんがいないな。と思ったら今ちゃんはがっちり石切丸いしさんに抱っこされてた。御神刀の守りですか。

「ははは、スゲー。亀甲兄ちゃん警戒されまくってるー」

 乾いた笑いを貞ちゃんが漏らす。うん、笑顔が引き攣ってるね。ごめんね、貞ちゃん。

「貞ちゃん、ごめんね。君のお兄さんに対して失礼だとは思うんだけど、他所に顕現されている彼を見ると、とても教育上よろしくない性癖持ちとしか思えないんだ」

 本当に申し訳なさそうに光忠が貞ちゃんに謝っている。でも、この保護者兼風紀委員による教育体制を止める気はなさそうだ。

「貞には申し訳ないが、彼の言動は弟たちに悪影響を与えるのではないかと怖くてね。警戒してしまうんだ」

 お兄ちゃんとして眉を寄せて一期も謝ってはいる。長兄不在の貞ちゃんやもっくんは乱ちゃんや後藤、鯰尾ずおと仲がいいこともあって一期も可愛がっているし。

「それ、おまいうだよな。包やら毛利やら、特殊性癖持ちいるじゃねーか」

「だよなー。短刀だから余計に破壊力あるぜ、あれ」

 ぼそぼそと尤もなことを言う同田貫と御手杵ぎね君。うん、まさにその通りだよねー。包ちゃんの人妻発言もまだ顕現してないけどショタに奇声を発する毛利もかなりの問題児だと思うんだけどなぁ。まぁ、包ちゃんの人妻は『ある程度大人の優しい女性』全般を指してるっぽいし、人妻寝取りをしたいわけじゃないから別に問題ないっちゃ問題ない。問題はまだ顕現してない毛利藤四郎。ぶっちゃけ子供好きの私の影響でうちの刀剣は皆子供好きに顕現する。だったら毛利藤四郎は標準毛利藤四郎よりもショタコンに磨きがかかるんじゃないかとコワい。でも! そこは藤四郎だしちゃんと紳士だと信じてる! イエスロリショタ、ノータッチでやってくれるよね、まだ眠ってる毛利藤四郎!

「一期、歌仙、蜂須賀、宗三、明石、光忠。気持ちは判らんでもないけど、メインのお世話係は兄弟の貞ちゃんともっくんだからね。まぁ、もっくんは明日には修行で4日間不在になるけど」

 そう、もっくんは今日の出陣でカンストする予定だから、明日には修行に出る。顕現翌日の癖のある兄を弟一人に任せるには不安もあるかもしれないけど。貞ちゃん、素直だしなー。

「ええ、主様が仰るようにボクは明日から不在です。なので、その間愚兄がご迷惑をおかけしますが、どうぞ厳しく躾けてやってください!」

 キラキラといい笑顔で言い切るもっくんに保護者兼風紀委員は任せろと力強く頷いている。

「すげー。亀甲兄ちゃん、顕現前からすっげぇ警戒されてる。無理ねぇよなあ。今だって中々呼ばれないの、放置プレイだゾクゾクするとか悦んでそうだしなー」

 次兄の笑顔を何処か遠い眼をしながら眺め、末っ子貞ちゃんは苦笑する。あれ、三兄弟の末っ子って実は苦労人ポジション? 虎徹の浦島うら君といい、左文字の小夜ちゃんといい……。堀川の場合は全員が程良く脳筋だから大丈夫な気がするけど。

 っていうか、まだ呼んでないけどこのまま呼んだら審神者のイメージの影響受けてドMなド変態の亀甲貞宗で顕現しちゃいそう。尤も、他の刀剣、鶴爺とか千さんとかのときもそうだけど、意識の表層のイメージからびっくり爺やら脱衣マンを追いやっておけば端迷惑な悪戯・脱衣癖も大人しかったりしたから何とかなるはず。

「ハイハイ、静かにー。亀甲呼ぶから大人しくしてなって」

 ワイワイと騒がしい保護者風紀委員を静め、弟貞宗を両脇に座らせて(保護者風紀委員は例によってその後ろに座ってるけど)、亀甲貞宗の依代を手に取る。

 黙っていれば白菊のような美青年。多少の問題言動はあれど、主を、仲間を、弟を大切にする穏やかな打刀。それが亀甲貞宗。さぁ、御出で。

「ぼくは亀甲貞宗。名前の由来?……ふふっ。ご想像にお任せしようか」

「いらっしゃい、亀甲貞宗。祥瑞紋の亀甲文様を持つ君は私たち本丸の仲間に、ひいてはこの戦いに勝瑞を齎してくれると信じてるよ。よろしく、私が審神者の右近だ」

 決して! 亀甲縛りじゃないから! そう思って告げれば、亀甲貞宗は花開くように微笑んだ。

「うん、ご主人様、よろしくね」

 その笑顔は見た目通りの麗しさ。さて……ドM度合いがどの程度なのかは、これから見定めていかないとね。

 幸い、心配するようなことはなく、亀甲は穏やかな刀剣だった。審神者に従順でちょっとワンコっぽいなーと思いながら育成を進めてた。そう思って油断してたのかもしれない。でも、やっぱり亀甲ってデフォルトで変態なんだなと実感せざるを得ない瞬間がやって来た。

「高まるよっ!」

 うちでは無印刀剣の場合特が付いたら最大まで錬結する。その錬結で亀甲=変態を実感することになった。

 うん、あの声調と表情は保護者風紀委員が警戒するのも仕方ないよね!






 無事亀甲貞宗を迎え、もっくんも修行から帰還し、増え続ける本丸内新人の育成に出陣を繰り返す日々。

 亀甲貞宗を育成する中、石切丸と蛍丸の極も実装されて、即彼らも修行に出た。なんか石さん、見た目ちょっとワイルドになってた。そして、蛍君は可愛さマシマシ!

 いやー、蛍君に関しては心配してたんだよね。まぁ、シルエットが先行発表されたから、懸念していた大人姿になるわけじゃないことは判ってたけど。修行では大人びて帰ってくる短刀多かったから、蛍君も見た目は変わらなくても中身は大人になってるのかなーとか。保護者の明石とソワソワしながら待ってたら、うん、可愛い生意気さに磨きはかかったけど、相変わらずの癒しな大太刀でした! 安心した明石国行とその夜祝杯を挙げたことは同席していた保護者太刀との秘密です。

 そうして最後の新人、亀甲貞宗が無事カンストして、修行に出て。

 愈々当本丸も今までスルーしてきた新戦場への出陣です。

 先ずは様子見なので先遣部隊になる歌仙(極カンスト)・薬研(極カンスト)・鳴狐なき君(極カンスト)・骨喰ばみ君(極錬度87)・太郎たろさん(極錬度50)・蛍君(極錬度42)で部隊を組んで出陣。

 結果、まぁ、賽の目に泣かされるのは毎回のこととして、それ以外は特に恐れることはなかった感じ。寧ろ延享の阿鼻叫喚を覚悟していた身としてはちょっと拍子抜けだった。

 尤も、その後希望して出陣した未極の太刀・槍・薙刀(全振カンスト)は阿鼻叫喚で帰還したので……うん、極の強さのせいで感覚麻痺してたみたいだ。

 というわけで、延享よりも(極のせいで)楽に進軍できる阿弥陀ヶ峰で育成だよね! 経験値効率いいし。但し、賽の目によって中々後半のより経験値効率のいいマスにはたどり着けないし、ボスマスに行けないからドロップの小竜景光も狙えないけど!






 そんな新戦場に一気に増えた(この2月から11月の10ヶ月で8振という初年度以来の増加)新人のおかげで活気に満ちた本丸に、更に新人ががやって来た。当本丸2振目の天下五剣にして3振目のレア度極。あ、蛍君が修行でレア度上がったから4振目になるか。

 日課の鍛刀で、太刀レシピの資材を投入した炉の表示が4時間。これはもう何振り目か数えるのも止めたみか爺(だってなんだかんだと乱舞レベル4になってるし)か、実はまだ2振り目が来たことのない小狐丸か。そう思ってまぁ、放置するよね。

 午前の出陣を終えて、昼食を終えて、午後の出陣に入る前に鍛刀所に赴いて出来上がっている短刀と太刀と打刀を保管庫へ移そうとしたら。

「あれ、この太刀、見たことないね」

 みか爺でも小狐丸こぎでもない、4時間太刀。このとき、私の頭の中には4時間=三日月宗近or小狐丸としかなかった。大典太光世は鍛刀出来ないし、パパ上は3時間20分だったし。数珠丸恒次は初回の鍛刀キャンペーンの10時間が頭にあったからね。

「これ、青江の親戚じゃない?」

 鍛刀近侍だった蛍君が私が手にした太刀を見て言う。うん、多分、この拵、そうだよね。政府が配ってる資料にある姿だよね。

「え、ちょ、マジか」

「もー、主さん、おちつこーよ!」

 予想外のことに慌てる私に苦笑し、蛍君は一緒にいた愛染あい君に青江を呼びに行かせる。頼りになるね、ほたるん!

 そして、愛君に手を引かれたやって来た青江は、いつもの飄々とした彼らしくもなく、何処か慌てて狼狽うろたえているようだった。うん、私以上に。そんなオタオタオロオロしている(しかもいつもは滅茶苦茶落ち着いている、慌てるとは縁のなさそうな青江が!)青江を見て私はストンと落ち着いた。

 愛君が青江を引っ張っていくという珍しい光景にこれまた恒例のように全刀剣が鍛刀所に集まってきた。天下五剣仲間のみか爺も仏僧所縁刀剣の山伏ぶしさんや江雪も、私が持つ新たな太刀が誰なのか判ったみたいで、優しい眼で漸く家族の来た青江を見ている。

「青江―、お待たせ! お兄ちゃん? 従兄弟? 叔父さん? どの位置づけか判んないけど、ともかく来たよ!」

 青江派の刀工の系図ってよく把握してないけど、確かにっかり青江の作者と言われる青江貞次の弟が青江恒次ともいわれてるんだっけ? でも、にっかり青江の作者の貞次が恒次の兄の貞次とは限らないし、数珠丸恒次の作者の恒次が貞次の弟の恒次とも限らなくて、同名の刀工もいるって聞いたし、訳わからん!

「え、ああ、うん? 数珠丸? 本当に? え、10時間だっけ? あれ?」

「落ち着きなさい、青江」

 うわー、予想してないアクシデントにこんなに弱いのか青江! 運営4年目半ばを過ぎて初めて知ったな、意外な青江の一面。

 パニクってる青江を石切丸いしさんが宥め落ち着かせようとしている。その石さんに目配せして、座った私の隣に青江を座らせる。彼を支えるようにその後ろに石さんが座る。青江とは逆の隣位置には天下五剣仲間のみか爺。

 日蓮の守り刀にして仏の道を進む者を守護する太刀。そしてうちの優しい頼りになる大脇差にっかり青江のお兄ちゃん的な位置にいるはずの同派太刀。私は勿論、青江も貴方のことを楽しみに待ってたんだよ。

 依代を捧げ持ち呼び掛ける。ふぅわりと舞う桜の花弁。

「私は、数珠丸恒次と申します。人の価値観すら幾度と変わりゆく長き時の中、仏道とはなにかを見つめてまいりました」

 儚げな見た目の割にはちょっと低めの落ち着いた声。

「ようこそ、数珠丸恒次。価値観は変わるけれど、決して変えてはいけないものもある。人の営みの積み重ねの証である歴史は変えちゃいけない。歴史を守るために力を貸してほしい。よろしくね、私が審神者の右近だよ」

 名乗りに応えて数珠丸恒次と契約し、視線を転じる。顕現した数珠丸恒次に劣らず、私の隣で桜を吹雪かせている青江に。

 青江は真っ赤な顔をして口をハクハクさせて言葉が出ない様子。それを仲のいい脇差仲間(そういえば脇差は全員兄弟がいるなぁ)が我がことのように嬉しそうに見ているし、兄の立場の刀剣たちも、何気に仲の良かった歌仙や蜂須賀も、怪異切り仲間の切国や源氏兄弟も微笑ましそうに青江と数珠丸を見ている。

「さてさて、本丸の案内は青江に任せるね。じゅじゅま……」

 噛んだ。数珠丸って刀剣男士史上最大に言いにくくない!? もういい!

「ずず様は今日は出陣はなしで、明日からパワーレベリング開始するんで、今日は青江とゆっくりしてて」

「承知しました。にっかり青江、我が弟、案内してくれますか?」

 ずず様は咄嗟の私の噛まないための愛称にも様付けにも何も言わずに青江を促してくれた。そうか、ずず様は青江を弟認識なのか。

「っ! ああ、数珠丸……兄様。こっちだよ」

 うわーうわーうわー。青江が真っ赤!

「青江さんのあんな顔初めて見た」

「嬉しそうだな」

「ずっと縁者がいませんでしたからね」

「よかったなー、兄ちゃん来て」

「数珠丸様が青江さんに幸せを運んでくださったんですね」

 脇差シックスの面々が本当に自分のことのように嬉しそうに言いながら、鍛刀所から出ていく青江ブラザーズを見守る。ずっと青江は脇差の中ではお兄ちゃんポジションで脇差の保護者枠だったからなぁ。そんな青江に頼りがいのある兄が出来たことが嬉しいんだろうね。まぁ、ずず様錬度1のステータス初期値、青江極錬度71のステータスMAXだから、ずず様が青江を守れるようになるのは随分先の話だろうけど。でも精神的には違ってくるよね。

「数珠丸殿も必死にカンストを目指されるでしょうね。早々に延享に放り込むのがよろしいかと。防御型のレア度極ですから、問題ありますまい」

 穏やかに聞こえる声で怖いことを言うのは江雪だった。まぁ、顕現したときに弟たちがめっちゃ強くなってるのはレア太刀の兄の宿命みたいなもの。江雪も自分が顕現したときには弟2振がカンストしてたから、少しでも早く強くなりたいって必死になってたもんねぇ。同じことがずず様にも言えるわけだ。

「そうだね。まぁ、そこらへんは今夜にでも編成決めるよ」

 江雪の言葉に苦笑とともに返し、午後の出陣の指示をすべく、近侍祐筆とともに執務室へ向かうことにしたのでした。






 青江派の兄は、当本丸に顕現する兄刀の例に漏れず、相当なブラコンでした。

 初陣で殆ど敵に損害を与えられないことについては仕方ないと思ったらしく、これも仏道を極めるための試練とかなんとか、伏さんの『修行』みたいなことを言ってた。けど、そんな彼が普段は閉じているように見える目を見開き、異様なほどの興味を示したものがある。それが。

「二刀」

「開眼」

「はっ!」

「イヤッ!」

 粟田口コンビによる二刀開眼だった。打刀と脇差によるコンビネーション攻撃。それにずず様は異様なほどに興味を示した。自分も青江とそれをやりたいと。

「無理、だと思う。脇差と打刀の、連携だから」

 どうやったら出来るのかと詰め寄られた鳴君は困ったようにそう答えてたけど、ずず様はそれに相当ショックを受けていたみたい。更に同じ部隊には青江も入っていて、その青江は歌仙の二刀開眼のお供をする。まぁ、青江も初期からいるし、ばみ君や国広くに君ほどではないにしても一緒の部隊になることも多かったから、歌仙のお供することも少なくないからねぇ。

「主! ずず様の目が怖いんだが!」

 部隊が帰還するや、我が初期刀がそう雅じゃない泣き言を言ったくらいにずず様は歌仙をじっと見ていたらしい。

「主、大変です! 止めてください!!」

 歌仙を慰めているといつもの気だるげな様子をかなぐり捨てて宗三が執務室に駆け込んできた。

「今、兄弟と雪兄が止めてるんですけど! 火事場の馬鹿力で! いつまで持つか!!」

 一体何事!? と訊く暇もなく、宗三に続いて駆け込んできた国君に俵担ぎされて鍛刀所に連れていかれた。

 そこで見たのは、伏さんに取り押さえられたずず様と、彼の依代を手が届かないように抱き締めて部屋の隅に逃げている江雪、おろおろと慌てている鍛冶式神たち。

「何があったの」

 一体何がどうした。凄く、カオスの予感です。

「ずず様、二刀開眼したいって」

「青江と二刀開眼したいらしい」

 そう言ったのは鳴君とばみ君。っていうか、ずず様抑えるなら君らのほうが適任じゃない? 力の強さ打撃は君らのほうが伏さんより上だよね。

「太刀は二刀開眼出来ないのであれば、わが身を刷り上げ打刀と為せばワンチャン……!」

「ねーよ!?」

 とんでもないことを言い出したずず様に速攻ツッコミを入れてしまった。

 え、何、この天下五剣、ブラコンが過ぎて弟と二刀開眼するために自主的に刀種変更しようとしたの!? っていうか、一期、成程その手があったかって顔しないで! アンタまで打刀になりますっていうの!? 自ら口上の科白否定する方向ですか!

 カオスになりそうだった鍛刀所はそれぞれの弟たちが兄を説得してくれたおかげで、何とかなったけど……。ずず様、これがデフォルトの性格じゃないよね? うちに顕現したせいでブラコンが高じて亜種ったのか……。

 結局、その後ずず様は仏法僧所縁の刀剣と天下五剣仲間のみか爺から、一期一振は粟田口一同からこんこんと説教されたらしい。






 中々灰汁の強かったずず様に振り回された感じがあるけど、実はこのとき、秘宝の里イベントが開催されてた。

 いつもは参加しないことのほうが多いんだけど、今回は息抜きも兼ねて参加した。うん、特別ほしいというわけではないけど、報酬の豊前江目指してみるかーって。

 殆ど怪火を引けないせいか、中々玉は貯まらず、何とかギリギリで7万を達成して、無事豊前江の依代ゲット。顕現は年度が替わってからの予定なので、依代は歌仙に預けた。

 秘宝の里って、一番玉集めに効率いいのって、最初の2マスが落とし穴、次の2マスが怪火が出てくれるパターンだよねー。中々そんなのないけど。というかボスマス前で怪火が出たときの虚しさと言ったら! 近侍祐筆と『そこじゃねーよ!』と何度叫んだか。

 まぁ、そんな感じで禍々3や4に泣かされながらも安全に気楽に錬度上げ出来るイベントで気分転換をし、改めてずず様育成に戻ったころ。新たな特命調査が行なわれることが明らかになったのだった。

 今度は、陸奥守吉行か。