1.歴史保全戦争の目的
『正統歴史守護軍』を名乗る歴史修正主義者なるテロリストから本来の正しい歴史(正史)を守ることが我々の使命である。この正史を守ることにより、先人たちの偉業とそれによって作られた現在の社会を守り、国民が安心して暮らせる今現在の社会を守ることを目的とする。また、先人たちの偉業はもとより、その志や生き様を守ることもまた、歴史を守る上で重要なことである。
どんな歴史的悲劇であれ、凄惨な事件であれ、それは全て『現在』を作るために欠かすことの出来ない要素だ。名もなき市井の民とは雖も、それは『国家として対局的に見た場合』に大である国家に貢献した重要人物に比べて小さき名もなき存在として捉えられるだけであり、本当に『名もなき』存在などありはしない。誰もが重要な日本国民であり、守られて然るべき存在なのである。ゆえに日本国政府は歴史改変を目論み、過去に生きた全ての人々の生き様を否定するテロリストを赦しはしない。
また、歴史改変は生きるべき者が死し、死すべき者が生き、生まれるはずの者が生まれず、存在しない者が生まれるという混沌を生み出すものである。一つの事象が狂えばそれは連鎖し、『現在』が崩れることは明白である。これは日本国内にとどまらない。現存する世界最古の国家である我が国の歴史が乱れることは即ち世界の歴史が狂うことを意味する。事は我が国だけの問題ではなく、世界規模の問題なのである。しかしながら、他国には時を遡る技術はあれど、時を遡り戦うことの出来る存在がない。旧アメリカ合衆国(現リバティ共和国)がロボットを遡らせ、政府自ら歴史改変をしたことは忘れてはならない教訓である。なお、その際の改変は直ぐに我が国の歴史保守部隊によって正史に正されている。
歴史改変は過去の一事象の否定であるばかりか、そこから現在へと続く人の営み全てを否定するものであり、それは何人であろうとも赦されることではない。
2.歴史保全戦争の概要
西暦2189年に始まった歴史修正主義者なるテロリストとの戦いは我が国においては『歴史保全戦争』と称される。これはこの戦いの始まった当時の国会にて決定された呼称であり、現在において世界的な正式名称となっている。
我が国においては陸軍特殊部隊である歴史保守部隊がその中心となり、その他全ての軍(陸軍・海軍・空軍・宙軍の日本国軍)はもとより、皇室・政府・各寺社・国民が一丸となってそれを支援する。正に国民全てが関わる重大な戦争である。
我が国は古来より八百万の神々の守護を受け、国民が万物に神が宿ることを理解しているため、様々な植物や器物に神性を見出してきた。その結果、武器の付喪神が戦神としてお力をお貸しくださり、特に刀剣(槍・薙刀を含む)の付喪神が刀剣男士として戦場にお立ちくださっている。これは世界的に見て唯一の例であり、我が国のみが近代兵器を用いずに歴史改変対応が可能となっている。
審神者及び刀剣男士はその特殊性より、陸軍所属ではあるものの宮内庁神祇局、内閣府神社庁とも密接な関係を持ち、この戦争に対応することとなる。その連携のため、審神者は陸軍より歴史保全省への出向という形をとるものとする。
歴史修正主義者の存在の発覚
西暦2189年、当時の内閣官房長官小出水淳治氏が時間遡行装置の実験のため、20xx年に赴いた際、街頭演説を行っていた20xx年当時の内閣総理大臣(小泉真士郎氏)を狙うテロリストを発見したことが歴史修正主義者の存在発覚のきっかけとなった。そのテロリスト(幹尚史死刑囚)の装備が明らかに当時の科学技術では作り得ないものであったことから、時間遡行者の可能性を鑑みた官房長官護衛官が職務質問を行なったところ、テロリストが22世紀の人間であることが発覚、時間遡行許可証を所持していなかったことから即座に捕縛し2189年へと連行した。
その後の取り調べにより、『正統歴史守護軍』を自称する歴史修正主義者の存在が判明した。捕縛した幹尚史死刑囚の証言により、テロリストの活動拠点と思われる建物を急襲したものの、そこは既に放棄されていた。なお、幹死刑囚が把握していた拠点は全て一時滞在型のものであり、下位構成員に過ぎなかった幹死刑囚は本拠地並びに幹部構成員の氏名などは一切知らされていなかった。
以降、『正統歴史守護軍』の調査を進めるとともに、各研究機関・調査機関により各時代の調査を進め、歴史修正主義者の存在が確定となった。但し、『正統歴史守護軍』は当時のみの組織ではなく、本体は30世紀以降にあることが2215年に発覚しており、少なくとも22世紀から30世紀までのテロリストとそれらが使役する遡行軍が過去の改変のために軍を送り込んでいることが判明している。
遡行軍の存在が判明したのは西暦2205年のことで、東京大学文学部の折口研究室(幕末史研究チーム)が函館戦争を調査中、人ならざるものがそこで戦死するはずの土方歳三を助けようとする動きを感知した。幸いにして歴史改変はならなかったが、これにより『時間遡行軍』なる存在が明らかとなった。
その後については3項の『審神者制度設立までの経緯』にて解説する。
20世紀以降の歴史改変阻止
現在、政府所有の時間遡行装置にて遡行可能な時間は、人間であれば約500年までとなる。ゆえに19世紀までは遡行可能ではあるが、当時の戦争形態を鑑み、人間が遡行し歴史改変阻止を行なうのは明治維新以降とする。なお、明治維新以降については陸軍特殊部隊歴史保守部隊近現代対応部隊が対応することとなる。
19世紀以前の歴史改変阻止
19世紀以前は近現代兵器での戦闘が不可であること、並びに敵が人間ではなく刀剣に宿った怨霊であることから、刀剣男士による歴史改変阻止を行なうものとする。審神者が指揮を執るのは19世紀以前の戦いとなる。現在19世紀までであれば審神者も遡行可能ではあるが、人間が遡行することによる影響を鑑み、審神者の時代遡行は原則禁止とする。
なお、時間遡行軍の存在は各国で確認されているものの、我が国のように武器に宿った兵士ではない。悪霊や怨霊といった類のものが暴れており、これはそれぞれの国の神に対する信仰の形態によって異なっていることが国際会議にて判明している。また、国家形態が変わった時点で歴史遡行は不可能になることも確認されている。娯楽或いは学術目的の時間遡行は可能ではあるが、歴史改変は行われず、仮令歴史改変が成功しても国家形態が変わった(王朝交代を含む)時点で正史に修正されることも判明。その一例としてはイングランドのフランシス・ドレイク暗殺に成功し、スペインの無敵艦隊が敗れた歴史が修正されたもののその後のイングランドの王朝交代(テューダー朝→ステュアート朝)によって正史に戻っている事例が挙げられる。スペインの無敵艦隊も数年遅れてイングランド海軍に敗れ、世界の歴史は変わらなかった。
この意味においても、我が国はこの戦争における重大な位置を占めていることが判る。我が国は世界で唯一1000年の歴史を持つ世界最古の統一国家であり、神武天皇以降天皇家が国家元首であるという国家形態に変化がないため、我が国の歴史改変は世界にも影響する。ゆえに、審神者の責任は重大であり、その重大さゆえに審神者の身分は天皇陛下の御名を以て保証されるものである。
3.審神者制度設立までの経緯
西暦2205年、歴史修正主義者が『人ならざるもの』を使役し19世紀以前の過去に干渉していることを踏まえ、宮内庁神祇局を中心に対策が講じられることとなった。その一方、国家鎮護のための国家神道の最高司祭たる天皇家は約900年間途絶えていた伊勢の斎宮、約1100年間途絶えていた賀茂の斎院を復活、時の天皇であられた護史天皇の女一宮安子内親王、女二宮寧子内親王がその任へと就かれた。以降、伊勢神宮祭主・斎宮・賀茂の斎院は直系皇族が務められることとなる(それ以前から伊勢神宮祭主は皇族が務められている)。
科学技術庁時間遡行装置部門(現歴史保全省技術局)による時間遡行装置の改良も進んだが、当時の技術では19世紀以前に有機物を安全に送ることは叶わず、宮内庁神祇局に陰陽部が復活し連携を図るも、戦況は一進一退で現状を変えることは出来なかった。
そこで護史天皇陛下(国家神道最高司祭)、伊勢神宮祭主(護史天皇の叔父宮)、伊勢斎宮、賀茂斎院の御四方が天照坐皇大御神をはじめとした天津神々に祈りを捧げて神託を得、建御雷神の御助力を以て刀剣の付喪神の御協力を得ることに成功する。また、天目一箇神の御助力により刀剣の付喪神の分霊を降ろす依代を打つ鍛冶式神が使役可能となった。
こうして刀剣の付喪神は政府と契約を結び、各刀剣の分霊を『刀剣男士』として肉の器を持った実働部隊とすることが決定した。しかしながら、全ての分霊に肉体を与えるには本御霊(刀剣の付喪神)の負担が大きく、どれだけの刀剣男士を必要とするのかも不明だった。また、ご協力いただく付喪神のうちどの刀剣に指揮権を与えるのかも問題となった。全ての刀剣の付喪神は付喪神として過ごした時間の差による力の強さの違いはあれ、建御雷神と天目一箇神から与えられた神格は全て同等であった。また、かつての所有者に関する複雑な関係もあった。更に、本来人間が起こした戦争であるのだから全く人間が関わらないというのもあまりに無責任といった意見も出たこともあり、部隊の責任者・指揮官として人間が『審神者』として刀剣男士を率いることとなった。『審神者』という神職の名を持ってはいるが、この戦争における審神者はあくまでも前線の部隊指揮官、つまりは軍人である。
なお、古来付喪神は妖怪の一種であったが、『人ならざるもの』と対峙することから、より優位に立つため神格を与えることを天照坐皇大御神が指示なさり、建御雷神と天目一箇神により承認されたことによって、現在刀剣男士として協力を約してくださった74振の刀剣の付喪神は『刀剣の戦神』として『護歴神社』(2205年創建)に祀られている。
審神者制度成立当初、審神者は内閣府歴史改変対策局管轄だったが、歴史保全省設立に伴い、その管轄下へと移行した。
4.戦争の長期化
既にこの戦争は100年を超えて継続し、未だに終わりは見えていない。しかし、この戦争に講和や停戦、休戦は有り得ない。歴史を改変し身勝手な歴史観を押し付け現在の社会を否定する歴史修正主義者と歴史を守り現在の社会を肯定する我々では決して相容れないものであり、講和に必要な妥協点などあるはずもない。よって歴史修正主義者を完膚なきまでに殲滅しなければ、再び歴史改変の危機が訪れる。我々政府が完全勝利を収めなければこの戦争は終わらないのである。
日本は現存する国家の中では世界最古の統一国家であり、世界で唯一1000年を超える歴史を持つ国家である。唯一連続する1000年を超える国家の歴史が改変されることは、世界規模での改変の危機を意味する。よって、我が国の敗北は即ち世界の敗北であり、現在の世界滅亡の危機と言って過言ではない。ゆえにどれだけの時間がかかろうとも、敵が諦めるまであるいは壊滅するまでこの戦いが終わることはない。