第1章 序説

1.歴史保全戦争の目的

 『正統歴史守護軍』を名乗る歴史修正主義者なるテロリストから本来の正しい歴史(正史)を守ることが我々の使命です。正史を守ることにより、先人たちの偉業はもとより、その志を守り、生き様を守ることも目的としています。

 どんな歴史的悲劇も凄惨な事件も、それは全て『今』を作る欠かすことの出来ない要素です。名もなき市井の民とはいえども、それは『国家として大局的に見た場合』に名もなき存在として捉えられるだけで、本当に『名もなき』存在などありません。誰もが重要な日本国民であり、守られて然るべき存在なのです。ゆえに日本国政府は歴史改変を目論み、過去に生きた全ての人々の生き様を否定するテロリストを赦しません。

 また、歴史改変は生きるべき者が死し、死すべき者が生き、生まれるはずの者が生まれず、存在しない者が生まれるという混沌を生み出すものです。一つの事象が狂えばそれは連鎖し、『現在』が崩れることは明白です。これは日本国内にとどまらず、他国へも影響を与えることが十分に予測出来ます。

 歴史改変は過去の一事象の否定のみならず、そこから現在へと続く人の営み全てを否定するものであり、それは何人であろうとも赦されることではありません。

2.歴史保全戦争の概要

 2189年に始まった歴史修正主義者との戦いを『歴史保全戦争』と称しています。

 この戦争は人間部隊(陸・海・空・宙の日本国軍)と刀剣男士(指揮官である審神者を含む)が実働部隊として前線に立ち、皇室・政府・各寺社・国民が一丸となって支援するものであります。

 審神者と刀剣男士はその特殊性により、陸軍所属ではありますがその管轄は歴史保全省とし、同時に宮内庁神祇局とも連携をとるものとします。

歴史修正主義者の存在の発覚

 2189年、内閣官房長官小出水淳治氏が時間遡行装置の実験のため、20xx年に赴いた際、街頭演説を行なっていた当時の内閣総理大臣(小出水真士郎士郎氏)を狙うテロリストを発見したことがきっかけとなりました。そのテロリストの装備が明らかに20xx年当時の科学技術では作り得ないものであったことから、時代遡行者の可能性を鑑み、護衛警官が職務質問を行なったところ、テロリストが同時代人であることが発覚、即座に捕縛し、2189年へと連行しました。

 その後の取調べにより、『正統歴史守護軍』を自称する歴史修正主義者の存在が発覚したというわけです。捕縛したテロリスト(幹尚史死刑囚)の証言によりアジトを急襲するも、既にそこは放棄されていました。なお、幹死刑囚が把握していたアジトは全て一時滞在型のものであり、下位構成員に過ぎなかった幹死刑囚は本拠地並びに幹部構成員の氏名などは一切知らされておりませんでした。

 以降、『正統歴史守護軍』の調査を進めるとともに、各研究機関・調査機関により、各時代の調査を行ない、歴史修正主義者の存在が確定となります。

 2205年、東京大学の幕末史研究班が函館戦争を調査中、人ならざるものが土方歳三を助けようとする動きを感知します。幸いにして歴史改変は成りませんでしたが、これにより『時代遡行軍』の存在が明らかとなりました。

 その後については3項の『審神者制度設立までの経緯』にて解説します。

20世紀以降の歴史改変阻止

 現在、政府所有の時間遡行装置にて遡行可能な時間は、人間であれば300年までとなります。ゆえに20世紀までの歴史改変行為に対しては陸軍特殊部隊(歴史改変阻止部隊)が対応を行ないます。

19世紀以前の歴史改変阻止

 19世紀以前は有機物(人間)の時代遡行が不可能であるため、刀剣男士による歴史改変阻止を行ないます。皆様審神者様がたが指揮を執るのは19世紀以前の戦いということです。今後、人間の遡行可能時間が増えるに従い、順次陸軍による阻止へと移行予定です。

3.審神者制度設立までの経緯

 2205年、歴史修正主義者が『人ならざるもの』を使役し19世紀以前の過去に干渉していることを踏まえ、宮内庁神祇局を中心に対策が講じられました。その一方、皇室は廃れていた伊勢の斎宮・賀茂の斎院を復活。今上陛下の女一宮安子内親王、女二宮寧子内親王がその任へと就かれました。

 科学技術庁時間遡行装置部門(現歴史保全省技術局)による時間遡行装置改良も進みましたが、19世紀以前に有機物を安全に送ることは叶わず、宮内庁神祇局陰陽部と連携を図るも一進一退で現状を変えることは出来ませんでした。

 そこで今上陛下(国家神道最高司祭)、伊勢神宮祭主(今上陛下の叔父宮)、伊勢斎宮、賀茂斎院の四方が天津神々に祈りを捧げ神託を得、刀剣の付喪神のご協力を得ることに成功します。これにより、人間では不可能であった19世紀以前への時間遡行が可能となりました。

 刀剣の付喪神は政府と契約を結び、各刀剣の分霊を『刀剣男士』として肉の器を与え、実働部隊とすることが決定しました。しかしながら、全ての分霊に肉体を与えるには本御霊(刀剣の付喪神)の負担が大きく、どれだけの刀剣男士を必要とするのかも不明でした。また、刀剣の付喪神のどの付喪神が指揮官となるのかという問題もありました。全ての刀剣の付喪神は付喪神として過ごした時間の差による力の強さの違いはあれ、神格は皆同じです。またかつての所有者に関する複雑な関係もありました。更に、本来人間が起こした戦争であるのだから全く人間が関わらぬわけにも行きません。そういった事情から、部隊の責任者・指揮官として人間が『審神者』として赴くこととなりました。審神者という神職の名を持ってはいますが、審神者は飽くまでも前線の部隊の指揮官、つまり軍人です。

 なお、古来付喪神は妖怪の一種でしたが、『人ならざるもの』と対峙することからより優位に立つため、神格を与えることを天照大神様が指示なさり、現在刀剣男士として協力を約してくださった58振の刀剣の付喪神は『刀剣の戦神』として『護歴神社』(2205年創建、祭主:今上第二皇子水穂宮章仁親王)に祀られています。

 審神者制度成立当初、審神者は内閣府歴史改変対策局管轄でしたが、歴史保全省設立に伴いその管轄下へと移行しました。