任務完了(終)

 現在、絶賛作戦遂行中の元工藤家長女の優希こと山城未耶弥です。これが最後の自己紹介となりました。

「NY支部制圧完了」

「上海支部制圧完了」

「ロンドン、完了」

「ローマ、制圧完了」

「ベルリン、制圧した」

「ニューデリー情報センター制圧」

 どんどん、各支部の制圧完了報告が入ってきた。各国精鋭の捜査官たちに指揮された組織の支部制圧部隊は着実に結果を出している。残るは組織の本部である日本だけだ。

 そこの作戦司令部は何故か工藤邸。うんまぁ、公安も参加しているとはいえ、中心は工藤親子とFBIだからね。結局、この作戦行動に対してFBIもCIAも日本には何の届け出もしようとしなかった。公安も行動を共にするから流石に拙いと、降谷さんと風見さんが色々根回しして何とか拳銃所持及び使用許可の申請を出させて、この作戦に限り・・・・・・・違法ではないように手配した。

『ジン発見。赤井が対応している』

『ベルモット捕縛。残りはラムとボス、ジンのみ』

 降谷さんからの通信が入る。それを受けるのは何故か民間人の癖に指揮官に収まっている新一だ。FBIもCIAも正気か? 降谷さんたち日本の公安は当然のことながら異議を唱えた。飽くまでも工藤優作も工藤新一も民間人であり、捜査権も逮捕権も持っていない。どういった身分で指揮権限を振り翳すのかと。これ、ごく当たり前の疑問だよね?

 なのに、新一もお父さんもFBIも『こいつら何言ってんの?』って顔していた。こちらこそ、アンタら何言ってんの? である。

 指揮官は責任者だ。つまり、この作戦での死亡者や怪我人、様々な破壊工作などの最終的な責任を取るのはその責任者であるわけで、民間人で何の権限も持ってない工藤親子にその責任が取れるはずはないのに。

「日本の探偵はクレイジーだな」

 ドイツの捜査官にそう言われてしまった。マジそれな。公安も内調も苦虫噛み潰したような顔してたよ。無理もない。私も居た堪れなかった。誰も知らないとはいえ、そのクレイジーな探偵は私の弟と父親です。

 降谷さんと風見さんが散々説いて、なんとか責任の所在を明らかにするために、新一とお父さんは臨時のFBI外部顧問という肩書を得た。これでなんかあった場合の責任はFBIが取ることになるわけだ。

 それに関してはNSA国家安全保障局の捜査官さんが頭を抱えてた。日本人なのにアメリカさんに面倒押し付けてごめんなさーい。でも、言い出したのはFBIなんで、文句は自国の捜査機関にお願いしますね。NSAの指揮官は帰国したら問責すると言ってた。FBIのブラック捜査官のチームは帰国したら組織壊滅の功を認めれるよりも先に色々な違法行為と国際問題一歩手前だった様々な主権侵害についての責を問われることになるんだろうな。

『なっ、なんだ、あれは!?』

 降谷さんの焦った声が通信機から聞こえる。同時にこんのすけが『時空の歪みを感知、遡行軍出現まであと10秒』と告げる。

「降谷捜査官、それはこちらで対処します。捜査官は組織構成員のみ対応願います」

 遂に時間遡行軍が出現する。異形が現場の捜査官や組織構成員の前に姿を現す。それに現場は混乱する。

「審神者及び刀剣男士各部隊、作戦通りに遡行軍を殲滅せよ。現場指揮は各部隊長に任せる」

 遡行軍が現れると同時に、その場に幾降もの刀剣が現れる。その刀剣は一瞬の後桜吹雪とともに人間の姿を取る。

『勘解由第一部隊、工藤新一を狙う遡行軍を殲滅する』

『勘解由第二部隊、降谷零を狙う遡行軍の殲滅に入る』

衛守えもり第一部隊、FBIの赤井を狙う遡行軍阻止に入る』

左馬介さまのすけ第一部隊、ベルモット奪回阻止に入る』

 うちの鳴狐と三日月、衛守の加州清光、左馬介の蜂須賀虎徹からそれぞれの部隊が動くという報告が入る。それぞれの部隊の様子は着けている式神の目を通して用意した銅鏡に映し出される。銅鏡とはいっても見た目はパソコンのモニターなんだけど。他の部隊も各所に出現した遡行軍対応で次々と本来の刀剣男士姿で応戦している。

 突然現れた異形と刀を振るう人ならざる美しさを持った青年・少年に現場の捜査官たちは戸惑いを隠せない様子だった。

『一体なんなんだ、これは!』

 工藤邸の司令部にいる風見さんがつけている通信機を通じて新一の焦った声が聞こえる。

『山城!? 真亜と蛍!? それに藤四郎!』

 コナンとしてのクラスメイトだった前田と蛍丸、新一の同級生だった骨喰の姿を見た新一は余計に混乱しているらしい。まぁ、同級生と思っていた子供が刀を振るって異形と戦ってるから、それも無理はないけど。

『主君、工藤邸周辺に遡行軍の気配多数! 増援願います』

 工藤邸内部には狭い室内ということで直ぐに敵部隊増援はないようだけど、工藤邸の周囲には敵部隊が現れているらしい。大太刀3振と太刀3振の部隊を応援に向かわせる。屋外なら大太刀の範囲攻撃が有効だからね。まぁ、工藤邸のリビングが作戦本部になってるし、蛍丸だったら室内でも問題なく得物をぶん回せるだろうけど、石切丸に太郎と次郎じゃ、狭すぎるもんなぁ。

『真亜、蛍! なんだよこれ』

 こんなときなのに説明を求めているらしい新一の声が通信機から聞こえる。うん、戦ってる最中に説明しろとか、阿保じゃなかろうか。

五月蠅うるさいよ、工藤新一! 黙ってろ!」

 同じことを思ったらしい蛍丸が珍しく怒鳴り返している。蛍も前田も修学旅行前から色々ストレス溜まってるから、対応も厳しくなるよね。あれ以来、『主の弟』ゆえの庇護欲も好意もなくなってるからなぁ。寧ろ今じゃ何かを言うたびに刀剣男士の新一への評価はマイナスになっていってるくらいだ。

「風見捜査官、そちらを襲撃しているのは人間には対応不可な存在です。その対応はそこに現れた宮内庁所属武官に任せて、工藤新一には本来の作戦行動の指揮を執らせてください」

 通信機から聞こえる声から判断するに新一もお父さんもFBIやCIAに対する指示が疎かになっている。敵拠点に突入している捜査官たちは新一やお父さんの指示がないと連携が取れないし、動きが制限されるのに、新一もお父さんも指示が出来ていない。自分たちが無理を言って指揮官に収まってるんだから、さっさと指揮しろや。理解の範囲外の事態に陥ってる新一たちに無茶言ってるとは思うけど、指揮官なんだから、臨機応変に優先順位を間違わずに対応しろよな。

『了解しました。しかし、この化け物のような連中に銃は効かないようですが』

 若干上ずった、でも冷静さを取り戻したような声で風見さんが返事をしてくれた。確かに遡行軍には現世の人間の武器は全く効かない。遡行軍を倒せるのは刀剣男士の持つ刀剣本体と刀装だけだ。FBIも遡行軍に対して無駄な攻撃をして弾丸を消費しまくっている。現場の刀剣男士が意味はないから無視して進めと言っているのに言うことをきかないだけではなく刀剣男士にまで攻撃を加えようとしている。

「ええ、その敵に銃や現代の武器は効果がありません。刀を持つ彼らに任せてください」

『判りました。では、こちらは現場への指示に徹します』

 風見さんはそう応じたうえでFBIに刀を使っている彼らは公安の協力者で味方だと告げてくれた。赤井たちはどういうことだって叫んでるけど、風見さんは作戦行動を優先しろと取り合わずにいてくれる。まぁ、説明を求められても風見さんにも説明しようもないんだけどね。

『山城室長、この日本刀を持った山城宗近調査官に似た人たちは味方ですね? 私の護衛と考えてよろしいか?』

「その通りです。彼らはあなたの護衛です。但し、異形からの護衛ですので、組織の構成員からの攻撃には対処しません」

 一方、流石は超えてきた修羅場の数の違う降谷さんは冷静に問いかけてきた。まぁ、最初は呆然としてたみたいだけど、新一のパニック具合で冷静さを取り戻したらしい。

『工藤新一! 自ら望んで指揮官になったんだろうが! さっさと指示を出せ! 取り逃がすぞ! 刀を持った男性たちはこちらの協力者だ!』

 と、今度は工藤邸の司令部に向かって叱咤している。更に風見さんと同じように新一たちに刀剣男士が協力者だとそれ以上の追及をさせない説明を加えてくれた。

『山城室長、説明可能であれば後ほどご説明を願います』

 尤もこっちには作戦終了後の説明も求めてきたけど。ただ、流石は機密の多いゼロ所属というか、全てが説明できるわけではないことも理解してくれているらしい。

 降谷さんや新一、FBIの目の前にはSFやファンタジー映画ばりの人外生物(あれ、遡行軍って生物なのかな)が現れ、更に人とは明らかに存在感の違う刀を振るう美しい青年と少年がいる。本来の姿で、見知った顔が見知らぬ姿で日本刀を振るい、異形と対峙し、倒していく。混乱するのは当たり前だし、説明しろというのも当然だ。尤もその場で説明を求める新一と違って、降谷さんたち公安はちゃんと物事の優先順位を弁えているから、後から説明をと言ってくれたけど。

「はい。可能な範囲でご説明します」

 まぁ、遡行軍出ればこうなることは判ってたから、既に政府にはどこまで説明していいのかは確認している。そうしたら、何と、ここがフィクションの世界であること以外は全部話していいそうだ。私たちが25世紀の政府の組織の者であることも、歴史修正主義者のことも審神者や刀剣男士のことも。え、いいの? バリバリ守秘義務あるじゃんと思ったんだけど、それでもいいらしい。

 その理由は簡単だ。これが政府がある時空の過去であれば、かなりの守秘義務が発生し、情報規制が為される。それこそ記憶消去とか、一生監視が付くとか、本霊の前に連れて行って口外しないように神前の誓いを立てさせるとか。でも、ここは政府のある時空ではない。フィクションの時空だ。直接、政府のある時空の歴史には関係しない。飽くまでもこの時空の歴史改変を阻止したのは、それが僅かでも現世に影響を与える可能性が否定できなかったからにすぎない。決して、この『名探偵コナン』の世界を守ることが目的ではなかった。本来の自分たちの世界を守るための一手段でしかないから、対応も割と杜撰というか適当というか。

 でも、ねぇ? どうして、政府は自分たちの世界が唯一絶対の人類の歴史を刻んでいる正統の世界だと思ってるんだろう? もしかしたら、彼らの時空だって、このコナンの時空と同じように、フィクション時空かもしれないじゃないか。自分たちの世界が例えばもしかしたらゲームの世界だなんて、思ってもいないんだろうね。そういう可能性を全く考えていないあたり、優位世界に立っていると思い込んでいる傲慢さというか。

 まぁ、ともかく、全部終わったら、新一とお父さん、FBIとCIA(キールだけが作戦に参加していて、本国の指示でCIAそのものは既に手を引いているらしい)、それからこちらの作戦本部の公安と内調には説明することになるな。こちらの作戦本部の海外の情報機関は各国での対応に当たっていて日本にいないから刀剣男士たちの姿を見ていないので説明の必要はないし。

『工藤邸周辺の遡行軍は排除完了したよ。時空の歪みはないから、これ以上の遡行軍出現はないと思う』

 石切丸から報告が入ったのを機に、各部隊から続々と殲滅完了報告が入る。全ての部隊から完了報告が入った後、こんのすけからも全ての時空の歪みが消えたため、遡行軍は殲滅完了したと告げられた。よし、これで私たちの役目は終わりだ。後は本拠地突入部隊が決着をつけるだけだ。

 遡行軍を始末した刀剣男士たちは全て撤収し、各審神者の許へと転移する。それぞれの遡行軍自体はそこまで強いものではなかったけれど、数が多かったから重傷者こそいないものの殆どが中傷かそれに近い傷を負っていた。弟子たちは直ぐに各本丸へと撤収した。うちの部隊は一旦本丸に戻り、手入れをした。本丸との行き来は作戦司令部の一角を本丸と繋げておいたから一瞬で出来たんだけどね。

 そうして全員の手入を終えて宮内庁の作戦司令部に戻ってから間もなく、先に捕縛されていたベルモットを除くボスと幹部の死亡が確認され、組織殲滅作戦は終了した。原作通り、最後の足掻きに赤井たちを道連れにしようとしたジンが本拠地各所に仕掛けられていた爆薬を起爆して、本拠地は物理的に壊滅することになったけど。

 こうして、原作通りの展開で、組織は壊滅した。原作で残されているのは数年後、或いは十数年後の新一の息子であろう存在へと繋がる場面だけとなった。




 組織壊滅作戦の後、まずは様々な事後処理が行われた。といっても、ボス及びほとんどの中枢幹部は死亡し、生き残っているのはベルモットのみ。更に生き残っているNOCは全て中枢に近い幹部だったから、その全容を掴むのは簡単だった。各支部に残されていたデータは全部押収したし、NY支部は副本部だったし、ニューデリー支部はデータセンターでもあったから、そこに情報は集約されていた。そのお陰で組織掃討に必要な情報は全て手に入っていた。

 日本の本部施設からは殆ど情報を持ち出せなかった。こちらの作戦本部では全ての情報がニューデリーにあることを把握していたから本部のデータは重要視していなかったこともある。新一たちはデータを持ち出すことも当然狙っていたけれど、組織は部隊が突入した時点で全てのデータを破壊していた。

 そういったこともあって、事後処理は完全に公安を中心としたこちらの作戦本部の指揮の下に進んでいった。それに新一や父、FBIは不満だったみたいだけど、ボスと幹部を確保できずに死なせたのは彼らであり、何の情報も得られなかったのも彼らだ。降谷さんはじめこちらの捜査員は彼らの不満など総スルーした。

 それぞれの国で行われた犯罪については現地主義によってその国で裁かれることになり、1ヶ月が経過したころ、漸く全ての案件が各国での起訴に持ち込まれた。

 NSAをはじめとする国外の情報機関の捜査員が帰国したあと、私たちは降谷さんに改めて事情説明を要求された。

 その場に集まったのは、公安(降谷さんと風見さん)、内調の室長、そして工藤親子とFBIからジェームズ・ブラックと赤井秀一、ジョディ・スターリングにアンドレ・キャメル。CIAのキールは理解不能だから説明の必要はないと参加しなかった。

 やってきたお父さんと新一は私の姿を見て驚いているようだった。化粧で歳を誤魔化しているとはいえ、顔が変わったわけではないから娘(姉)であることはすぐに判ったんだろう。おまけに他に見知った顔もいたことだし。私を問い詰めようとした彼らを大太刀3振が大きな体で遮ってくれた。

「まず、ご説明の前に申し上げておきます。これからお話しすることは我が国の最重要国家機密に属する事項です。当然守秘義務が派生いたしますので、一切の他言は禁じられます。他言した時点で罰が下ります。それに同意できないならば、退去願います」

 最初にそれを言っておかないといけない。まぁ、この世界は長くてもあと30年ほどで時が止まるし、25世紀の私たちの時空には影響がないから本当はそこまで厳しくはないんだけど。でも内容は普通に機密事項だしね。私たちの時空であれば誓約を交わしたうえで漸く話せる内容だ。

 好奇心が勝るのか、退去した者はいなかった。うん、同意した時点で神前の誓いが成立しちゃってるけど大丈夫かな。一応罰が下るとは言ったけど、それが神罰とは思ってないだろうし、罰則が加わるなんて思ってもいないだろうけど。

「では、ご説明いたしますね。わたくしどもの政府からも全て説明してよいと許可を得ておりますので」

 審神者としてこの場にいるため、私は正装をしている。こんなときなのにその装束に感動していた降谷さんって、ある意味本当に歪みないな。

 私の後ろには刀剣男士21振も控えている。彼らは現代の衣服を身に着けているが、これは後から正体を告げるときに信じないだろうから、その対応でもある。

「わたくしどもの政府というのはどういうことでしょう? 同じ日本国政府ではないのですか?」

 降谷さんは私の細かな言葉をきちんと捉えてくれた。

「日本国政府であることは変わりありません。けれど、現在の○○首相を首班とする内閣率いる政府ではありません。私が仕える政府は25世紀の、2400年代の政府です」

 私の告げた内容に、聞いていたこの世界の住人達はポカンとしている。うん、仕方ない。私が同じ立場でも同じ反応をする。

「西暦2205年、この国は未曽有の国難に見舞われます。いえ、それは我が国だけではなく世界規模の大事件、世界崩壊を招くテロリズムが起こるのです」

 彼らが正気に戻って何かを言う前に続けて爆弾を投下する。流石に公安にFBI、テロリズムという言葉に反応して顔つきが変わる。うん、こういうところはどちらも国家を守る警察組織だなと感心する。下がっていたFBIの評価も若干上がる。

「そのテロリズムは歴史修正と呼ばれるものです。2100年代中盤に時間遡行装置、所謂タイムマシンが開発され、過去への時間旅行が可能となりました。そして、それは過去の悔いをなかったことにするための夢の装置でもありました。つまり、過去の出来事、歴史を変えようとする者が現れたのです。初めは些細な個人的な悔恨を未然に防ぐものであった歴史修正はやがて歴史を変えて自分たちの望む現在を、未来を造り出そうとする政治的なテロリズムへと発展しました。けれど、当時の装置では300年を超える時間遡行は不可能でした。いいえ、人間には不可能だったのですが、無機物であれば可能でした。故にテロリストは人間ではない異形を使って歴史改変を目論みました。その異形こそが先日あなた方の前に現れた時間遡行軍です」

 一気に説明する。取り敢えず彼らが流れを頭に入れるまで、しばし沈黙の時を置く。

「異形に対抗するため、時の政府はこちらも人ならざる御方々の御力をお借りすることにしました。131代護歴天皇陛下が皇御祖神すめらみおやのかみ天照坐皇大御神に願い、建御雷神の御力をお借りして日本古来の破魔の武具・日本刀に宿りし付喪神を刀剣男士と為し、この戦いに臨むこととなってのです。ここにいましします21振もその刀剣男士です」

 そう告げると同時に21振は一旦現身を解く。床に21振の刀剣が突き立つ。突然のその現象に新一をはじめ皆が息を呑む。

「日本刀の祖、小烏丸」

 呼びかけると、小烏丸が顕現する。常の戦装束で。続けて、三日月宗近、石切丸、今剣、数珠丸恒次、にっかり青江、燭台切光忠、大般若長光、鳴狐、蛍丸、愛染国俊、一期一振、骨喰藤四郎、薬研藤四郎、前田藤四郎、江雪左文字、太郎太刀、歌仙兼定、次郎太刀、山伏国広、堀川国広と生まれの古い順に名前を呼び顕現する。己が本体を佩きその戦神たる姿は唯人である新一たちの目には眩しいものだっただろう。皆が呆然と刀剣男士を見つめる。公安の2人と内調の1人は何処か陶然とし崇敬の念もあるように見える一方、唯一神を信奉するキリスト教世界に生きるFBIは何処か嫌悪感を滲ませ、神を信じない工藤親子は彼らが神などとは信じていないようで何かのトリックがあるのではないかという表情をしている。

 刀剣男士たちはそんな人間の視線に気づいていて、公安と内調の3人以外の視線を不快と感じているらしく、短気な我が初期刀は明らかにムッとしている。老獪な飛鳥・平安・鎌倉組は呆れたような顔してるけど。

「我らがここにいるのは、この時代に歴史修正主義者の介入があったからです。その歴史改変を阻止するため、7年前から私たちはこの時代で活動していました。そして、黒の組織の壊滅を以て、テロリストのこの時代への介入及び歴史改変行動は終息したのです」

 これで説明は終わりだ。言うべきことを言い終えてホッとする。それを労わるように歌仙と薬研が寄り添ってくれた。

「7年前からと言ったね。では、お前が家を出たのはそのためだったのか? お前の父となった彼は人ではないというのかね」

 沈黙が満たす中、真っ先に口を開いたのはお父さんだった。まぁ、一番疑問を持つのは『工藤優希』の家族であるお父さんと新一だろうし。

「ええ。7年前、私は審神者──刀剣男士を勧請し主となる能力を持つ人間のことですけれど、その審神者の能力に目覚めました。そして、役目を果たすために家を出たのです」

 流石に前世がどうのなんてことは面倒なので、そういうことにしておく。これは刀剣男士たちにも説明して同意を貰ってるから、偽りでも問題ない。

「何故話してくれなかったんだよ!」

「話したら信じましたか?」

 抗議する新一に冷静に返す。あの頃話しても絶対に信じないしね。今だって9割がた信じてないだろうし。

「それに事は最重要国家機密です。今回は特例措置として事情説明が許されました。本来ならばあなた方の記憶を抹消するところです」

 新一は弟として問いかけてくるけど、私は審神者として答える。今は個人としてここにいるわけではないから。

「私からお話しできることは以上です」

 まだ納得していない表情の新一やお父さん、FBIは無視して話を終える。これ以上話せることもないし。信じる信じないは当人たちの問題だからね。

 説明終わったし、さっさと帰りたい。いや、まだ帰れないけど。まだ今日のメインが残ってるけど。

「あのっ! その刀を見せていただくことは出来ませんか!? 神々に失礼かとは思いますが、日本の誇る最も美しく最も鋭い武器を是非拝見したい!」

 場の空気はあまり良くなかった。公安と内調の3人は私の話を信じてくれている。私の所属が宮内庁神祇局と知っているし、呪術(正確には陰陽術)を使っていることも知っていたし、彼らは日本文化の源泉である日本神道についてもある程度の知識があったから。だから、刀剣男士が刀剣の付喪神と判った時点で最初に告げた『罰が下る』の意味も正確に把握できたらしい。でも、新一や外国人であるFBIは違う。明らかに不満を持っているし、ファンタジーな内容に懐疑的だった。だから、場の空気は良くなかった。

 そこに降谷さんのこの発言である。一瞬あっけに取られた後、刀剣男士たちは破顔した。

「降谷はほんに日ノ本が好きだなぁ。良いぞ、俺を見るがいい」

「そうだね。君たちなら見せてもいいだろう」

 機嫌よさそうに三日月が応じ、石切丸も続く。

「おや、そこはまず僕からじゃないかな? 僕と降谷はこの数年ともに切っても切れない浅からぬ縁で結ばれていたんだからね。任務のことだよ」

 青江節を炸裂させながら青江も参加し、刀剣男士たちの雰囲気は一気に和やかになる。おまけに興味があったのは降谷さんだけではなく、内調の室長も同じだったようで、是非私にも! と興奮気味だった。

「おいおい、旦那方。和やかになるのはいいが、まだ最大のメインイベントが残ってるだろ? そっちを先に終わらせたほうがいいんじゃないのかい?」

 が、それに待ったをかけたのは苦笑した薬研だった。

「そうだね。この資料のこと、話さなきゃけないだろう?」

「こちらも……あります……」

 同じような声が続く。捜査一課にいた燭台切と公安にいた江雪だ。2振が示した先には山積みになった書類がある。

 これこそが、今日の本来の目的だった。それは新一が、FBIが、これまでの7年の間に犯した数々の犯罪の記録だった。




 新一もFBIも、その他の原作キャラクターたちも原作時制で様々な罪を犯していた。その大半は原作補正や主人公補正によって見て見ぬふりをされた。けれど、組織壊滅によってそれらの補正はなくなり、常識が25世紀の私たちの持つそれと変わらないものへと変化し、これまで免れてきた彼らも罪を問われることになった。

 手始めに捜査一課はその情報漏洩を問い質され、探偵たちが事件現場で好き勝手に行動する公務執行妨害を黙認したとして、処分が下った。殆どの捜査一課目暮班や関係した警察官は降格や左遷などの処分を受けている。そのため、目暮班は解散していた。

 そして、最も多くの罪を犯した新一も当然ながらそれを問われることとなった。

 内調の室長と私たち宮内庁には捜査権も逮捕権もないからこの場にいる必要はなかったが、オブサーバーとして同席することになった。

 但し、これは各国捜査機関と政府によって同意を得ていることだけれど、潜入捜査官が潜入捜査の中で犯した罪については不問に付されることとなった。尤も、降谷さんの度重なる道路交通法違反についてはスピード違反とか色々罰を受けることになっていて、既に免停処分が下されているけど。

「工藤新一君、君は江戸川コナンだったころに様々な罪を犯しているね」

 そう降谷さんが切り出した。けれど新一は何を言われているのか判らないという顔をしている。これは降谷さんに限らず、こちらサイドとしては予想していた反応だった。だから、降谷さんは新一の犯した罪について説明をしていった。

 『江戸川コナン』及び『灰原哀』という存在について。これは罪に問われるか微妙なところだから、まずはそこから入ることにしていた。

 江戸川コナンも灰原哀も沖矢昴も全員本来の生まれながらの戸籍はない。だから、当然住民票もない。だったら、どうやって学校に通っていたのか。偽造したの? だとしたら有印公文書偽造だ。但し、私たちの世界では義務教育年齢の子供に対しては無戸籍児に特別措置が取られることがある。児童福祉が優先されるから、戸籍の無いまたは不明の小学生という扱いで義務教育施設に通うことが出来るし、健康保険も保険料さえ支払えば国民健康保険に加入できる。

 これがこの世界でも同じなのかを調べ(弁護士に相談という形で聞いてみた)たら、同じだった。だから、無理に偽造する必要はない。ただ、これを阿笠博士は知らなかったらしく、江戸川コナンと灰原哀の戸籍と住民票は偽造されていた。阿笠博士が偽造する手段を持っていたとは思えないから、そのアドバイスをしたのはお父さんだろう。但し、住民票や戸籍を偽造していたけれど、これは緊急避難に当たる可能性がある。偽造したのは黒の組織に見つからないためにしたこと。国際的犯罪組織に命を狙われるということで違法性阻却事由(正当防衛・緊急避難)があったりするので執行猶予付きのほぼ無罪の判決が下される可能性も高い。まぁ、起訴はされるから、罪に問われるんだけど。この場合罪に問われるのは新一や宮野志保ではなく阿笠博士だ。

 新一の罪は当然これだけじゃない。全部上げたらきりがないってくらい新一は罪を犯している。主なものだけでも思いつくのかこんなところかな。

 まず麻酔銃の使用。これは薬事法違反と毛利小五郎・山村ミサオ・鈴木園子に対しての傷害罪。まぁ、1回きりのメンバーも含めれば毛利蘭や灰原哀、服部平次や妃英理への使用もあるし、他にも何人もいるけど。1回だけだとその効果時間の短さや直ぐに衝撃で目覚めることから傷害罪の適用は難しいらしいけど、小五郎おじさんたち複数回使用されている人への傷害罪には問えるはずだ。時計型麻酔銃の現物も抑えているし、小五郎のおじさんの体には針の痕が確り残っている。そりゃ、2~3日に1回、ループ時空10数周分(つまり10数年間)針を撃ち込まれていたら痕も残るだろう。しかもおじさんの体内には通常では考えられないくらいの麻酔成分が残っているらしい。

 それからスケボー。映画の影響で頻繁に使っている気がしてたし、高速道路とか公道を走り回ってる印象だったけど、まずこの時空は映画の出来事は起ってない。原作では実は3回しか使っていなくて、うち2回は普通のスケボーと同様のモーターを使わない使用だった。とはいえ、1回でもモーター使ってしかも3人乗りしてるし、スケボーにエンジン付けてる時点で自動車扱いになるから、道路交通法違反にはなる。ただ、それほど重い罪にはならないだろう。

 キックシューズとサッカーボールの使用も確認できた分は傷害罪が適用される。

 そして、盗聴。これは言い逃れ出来ないよね。但し、盗聴は『ただ聞いただけ』だと罪にはならないんだよね。盗聴器設置の際に不法侵入してるか、盗聴内容で脅迫・恐喝をしてないと違法行為じゃない。それも結局は盗聴という要因はあれど不法侵入や脅迫・恐喝の罪だし。

 変声機を使っての詐欺罪は微妙かな。小五郎おじさんはじめ色んな人の声で推理ショー以外にも連絡したりなんだりしてるから、詐欺罪が成立しそうなものだけど、それによって財物の交付を受けたり財産上不法の利益を受けたりしたわけじゃないからね。

 それから意外と見過ごされがちなのが公務執行妨害。捜査現場であれこれやってるのって、公務執行妨害なんだよね。正式な捜査協力要請があったわけじゃないし。

 そして、これはどう足掻いてもどうにもならないのが楠田陸道さんの死体損壊と死体遺棄。実行したのは赤井秀一だけど、新一も共謀共同正犯となるだろう。

 赤井秀一に関しては沖矢昴としての学生証と運転免許証の偽造があるから、これも有印公文書偽造と行使に問われることが確定している。それに盗聴もある。継続的常態的に阿笠邸を盗聴していたから、これって灰原哀へのストーカー行為も認定されるんじゃなかろうか。それ以外にも銃刀法違反や無免許運転の道路交通法違反にも問われるね。当然、楠田陸道さんの死体損壊と死体遺棄についても罪に問われる。

 公安を中心とした捜査で、新一と赤井秀一の罪は明らかになっている。赤井は一応捜査官だからか、それらの罪を認め素直に裁きを受けることに同意したし、他のFBI捜査官も同様だった。

 けれど、新一は納得しなかった。全て真実を明らかにし、組織を壊滅させるために必要なことだったのだと抗弁した。

「仮令そうだったとしても、君が刑法上の罪を犯しているのは事実だ。君のそれは裁判で主張することだ。それで被害者や裁判官、裁判員が納得するとは思えないけれどね」

 降谷さんの声は冷たい。当然だろう。罪を罪と認めず、独り善がりな正義のためと主張しているんだから。罪と正義は関係ないというのに。

 それに、新一はこれまでに新一としてもコナンとしても散々犯罪者を断罪してきた。そんな権利などありはしないのに断罪を続けてきた。どんな事情があろうとも一切の考慮をせずに。なのに自分のことは棚に上げて正義のためには仕方がなかったのだと主張する。それはこれまでの行動と矛盾があるし、ダブルスタンダードとでもいうべきだろうか。

「新一は未成年だ。少年法が適用されて然るべきではないかね」

 息子を擁護するためにお父さんが口を挟む。まぁ、父親としては当然か? いや、違う。父親ならば息子の犯罪行為を止めなければならなかったし、擁護するのではなく新一に罪を素直に認めて裁きを受けるように促すべきだ。結局父も認識が甘くて自分たちに甘いのだ。

「事の重大さから恐らく逆送されます。成年相当として、同等の刑事裁判が行われることになるでしょうね」

 お父さんの言葉にも降谷さんは冷静に応じている。お父さんと新一は私にも擁護を求めるかのように視線を寄越したけれど、私も降谷さんと同じ考えだから、彼らの望む言葉は言わない。

「素直に罪を認めて裁きを受けなさい、新一。お父さんもね。あなたたちは実際に重大な罪をいくつも犯しているの。新一、あなた、楠田さんのことは認めていたわよね? 来るべき時が来たら罪を償うと言っていたでしょう? そのときが来たのよ。自分の言葉を覆すの?」

 楠田さんの事件から何周もループした。その間に新一の中から罪悪感は消えてしまったのだろうか。だから、自分が言ったことすら忘れてしまったのだろうか。

「それは……」

 新一は黙った。思い出したのだろう。自分があれほど罪の意識に苛まれていたころのことを。私に泣いて縋っていたあのころのことを。

「罪を認めなさい。今は認められないというなら、罪を犯したという事実を受け止めて考えなさい」

 まずは罪を犯したという事実を受け容れること。そのうえで抗弁するならまだマシかもしれない。

 沈黙し、俯いた新一とお父さんを見遣り、降谷さんは風見さんに合図する。風見さんは室外に控えていたらしい捜査官を入室させ、新一もお父さんもFBIも、逮捕拘束された。

 捜査官に連れていかれる新一とお父さんの姿を見送る。審神者でなければ止めたかった。彼らが犯す罪を未然に防ぎたかった。でも、やはり私は彼らの娘であり姉である前に審神者だった。家族よりも歴史を選んだ私は彼らの家族である資格などないのだ。悲しむ権利などないのだ。

「山城室長、辛い思いをさせてしまって申し訳ない」

 新一たちがいなくなってから、降谷さんは私に頭を下げてくれた。そんなことしなくていいのに。

 降谷さんはこの1か月の事後処理の間に私についても調べていた。だから、私が7年前に実験的証人保護プログラムを受けた工藤家の長女でありまだ17歳の高校生であることを知っていた。高校生でありながら国家公務員の身分を持っていることを疑問に思っていたようだけど、国家に身分を保証されていることから敢えて何も言わずにいてくれた。宮内庁神祇局というのが特殊な部署で、一般の国家公務員とは違って血筋や家系によって職務に就くケースが少なくないと知っていたこともあるのだろう。

「いいえ、同席すると決めたのは私です。私は彼らが罪を犯すことを知っていました。けれど歴史を守るために止めなかった。本当に罪深いのは私です」

 だから、降谷さんが私に謝る必要なんてない。降谷さんにとって私は責められてしかるべき人間なんだから。彼の友人たちが死ぬことを知っていた。それを防ぐことも出来た。けれど、見殺しにした。それどころかそれを防ごうとする者たちを積極的に排除した。彼らが歴史原作通りに死ぬように誘導したのだ。

「あなたは7年前からこの世界の出来事を知っていたのですね」

 静かに降谷さんが尋ねる。

「はい。大体の流れは把握していました。細かな出来事までは判りませんし、人それぞれの内面も知ることは出来ませんけれど」

 あなたの大切な人たちを見殺しにしてしまって申し訳ありません。でも、その謝罪を告げることは出来ない。

「心の痛みに耐え、職務を全うなさったことに同じく国を守るものとして敬意を表します。これまでご苦労様でした」

 なのに、降谷さんは敬礼とともにそう告げてくれた。もしかしたら、いいえ、恐らく彼は私が誰を見殺しにしたのかも推測わかっているのだろう。それでもゼロの指揮官として国を守る一人として、そう言ってくれた。

「ありがとう、ごさいます。降谷さんも、長い潜入捜査お疲れさまでした」

 降谷さんの優しさに心からの感謝を。そして誇り高い捜査官である降谷さんに最敬礼を送る。

 降谷さんが取り調べの指揮を執るために風見さんに呼ばれて退室する。既に内調の室長もこの場から去っている。室内に残っているのは私と刀剣男士だけだった。

「好い男だったね。清濁併せ呑む強さを持っている」

 彼の言葉にしなかったことも刀剣男士には判っていたのだろう。歌仙が言う。

「惜しいですな。あの方であれば、主殿の御夫君候補ともなり得ましたでしょうに」

 場の空気を換えようと一期が冗談のように言う。口調は至極真面目だったけど。

「まあ、まだ大将も俺たちもこの時空にあと10年程度は留まらないといけないからな。縁があればまた会うこともあろうさ」

「縁が結ばれていれば、主があの者と夫婦となることもあろうて。全ては天上の神々の御導きよ」

 薬研と三日月までもがそんなことを言う。

「きっと、ないよ。あの人と私の縁はこれまでだよ」

 きっともう、二度と彼と会うことはないだろう。もし会うことがあればそれは捜査官と犯罪者の肉親としてだろう。

「さぁ、本丸に戻ろう。今日は休んで、明日からは通常任務だよ。ああ、新しい刀剣男士もどんどん呼ぼうね。皆兄弟に会いたいでしょう?」

 これで、『名探偵コナン』世界での歴史改変阻止の任務は完了したのだ。これからは1人の審神者として、通常の任務に励む日々がやってくる。




 新一や赤井たちの裁判が始まり、他の原作キャラクターたちの罪も次々と摘発あばかれることになった。

 毛利蘭もいくつかの傷害罪で起訴された。妃英理が浮気していると勘違いして獣医さんに蹴りを放った件。それから中華料理店でクーポン絡みの一件で店員に対して首元に寸止めの蹴りを放ち恫喝した件。エレベーターに殺人事件に関連したコスプレの人が入ってきたから、何もされていないのに全力で蹴りを放っていた件。他数件の傷害・暴行罪で逮捕された。自分の行いを罪であると自覚せず反省も後悔の色もないこと(寧ろ自分の行いは正当であるとさえ主張していた)から悪質であるとされ、少年刑務所へと送られることになった。教育での更生は不可と判断されたということだろう。

 灰原哀こと宮野志保もいくつかの罪に問われている。メインは薬事法違反。個人宅で許可なく薬品を使用しての研究しているからね。これは阿笠博士も同様だな。組織時代の毒薬の製造に関しては本来の目的が人を殺す薬の製造ではないということもあって、多少の考慮はされるらしい。全く罪に問われないということはないけれど、組織に囚われ洗脳に近い教育と軟禁に近い境遇なんかも配慮されるらしい。重大事案であることから少年審判ではなく逆送され成年の事件と同等の刑事裁判を受けることになった。色々な背景や事情もあるため、まだ審判中で判決は出ていない。

 阿笠博士は麻酔銃に関してやはり薬事法違反に問われるし、スケボーとか探偵バッジとか盗聴器の製造でこれもまた罪に問われることになる。電波法違反なんかもあるそうだ。あ、探偵バッジについては使用していた新一たち少年探偵団も該当するけど、小学校1年生の3人については14歳未満ということで罪に問われることはない。新一と宮野志保は問われるけど。

 大阪の服部平次も公務執行妨害や傷害罪などいくつかの罪に問われているらしい。尤も彼も当初の新一と一緒で罪を認めず、事件解決のために仕方がなかったのだと主張しているそうだ。反省の色が全くないため、少年刑務所送致になる可能性が高いらしい。息子の犯した罪の責任を取って父親の大阪府警本部長は辞職したそうだ。

 お父さんは犯人隠避と公務執行妨害に問われた。さらに戸籍の偽造に関しての幇助の罪にも問われている。ただこの戸籍偽造に関しては阿笠博士と同様に緊急避難が認められる可能性が高い。お母さんもいくつかの罪に共犯として問われているが、お母さんは執行猶予付きの判決が出る可能性が高い。

 判決が出て服役した新一やお父さんの許へは定期的に面会に行っている。新一は中々自分の罪を認めず、第一審後判決を不服として控訴していた。でも第二審でも第一審の判決が支持され、さらに上告しようとして弁護士に止められ、刑に服した。でも、やはりまだ納得していないらしい。きっと新一はもう変わらないんだろう。哀しいことだけど。




 組織壊滅から20数年が経った。数年前に新一は出所し、結婚した。相手は敢えて言わないことにする。そして、息子が生まれた。

『工藤コナン、探偵さ!』

 まるで昔の新一を見ているかのような彼の息子。時間が止まるのでなければ、きっと彼は父親と同じような過ちの道を歩んでしまうのだろう。でも、原作時制が終わり、この世界は止まる。彼が父親と同じ轍を踏むことは永遠にない。











 原作時制が終わり、30年近くに及んだ任務も終わり、杯戸町から本丸を切り離す準備をしていたころ、こんのすけがとんでもないことを言い出した。

「弟君に審神者の能力があることが判りまして。政府の一部が弟君を審神者にしようと画策しているようです」

 弟のことを知っているはずのこんのすけの言葉に唖然とする。いや、それはないでしょう。

「止めといたほうがいいと思うよ? 確かにあの子霊力は豊富だし、審神者の能力もあるだろうね。ただ、根本がアウト。超現実主義者だから、神とか信じない。信じない者がいくら祝詞を上げたところで、勧請できないよ」

 刀剣男士と会ったときだって、信じなかったくらいだ。最後まで信じてなかったのだから、きっと新一は刀剣男士の勧請は出来ない。

「あー、でも、実物を見せれば」

 未だに政府は審神者の確保に四苦八苦している。だから、能力ありで時間の止まった創作時空からのスカウトには熱心なんだろう。何しろ後腐れがないからね。

「実物見たけど信じなかったじゃない。それに、そもそもあの子の性格が無理。自分の正義を信じるのはいいんだけど、一方で他者の正義を認めないからね。この世に万人にとっての正義なんてないよ」

 今回の長期任務だってそうだ。転生者たちが原作キャラを救済しようとしたのは、その原作キャラのファンにとっては正義の行いだろう。けれど、原作を重視する者、或いは自分たちのように歴史を守る者からすれば、彼らをそのまま死なせることが正義だ。

「正義はそれぞれの立場によって変わる。あの子はそれが理解できない。だから、無理だね。偏った認識しか持てない審神者に顕現された刀剣男士は歪むよ」

 新一の根本が審神者には不適格なのだと告げる。それでもこんのすけは食い下がる。政府のお役人に何としてもスカウトしろとでも言われているのかな。

「流石に三十路超えましたし、変わっているのでは?」

「変わってたら、最終回のラストで息子が推理ショーやってドヤ顔してるはずないでしょ」

 そこまで言えば漸く諦めたようだ。でも、更にとんでもないことを言い出した。

「そうですね。では、赤井秀一は」

 え、あの超現実主義者で神も何も信じてない男にも審神者の霊力あったの? けど、新一以上に有り得ない。

「有り得ないでしょ。審神者の第一条件は日本国籍を持っていること。FBIに入局している時点で多分生まれたときに持ってたイギリス国籍と日本国籍は放棄してるよね。外国人は審神者にはなれません。それに、彼が日本国籍取得したとしても、審神者になって苦労するのは役人さんたちだよ?」

「といいますと?」

「あの赤井、ホウレンソウ茹でられないじゃん」

 お役所なんて報告書作ってなんぼじゃん。それがあの男には出来ない。

「あ」

 それに思い当たったのかこんのすけも納得している。

「一匹狼気取って自分だけで何でもやろうとしてるし、自分の力に自信持ってるし。まぁ、これは弟も一緒だけど。刀剣男士に情報降ろさずに自分だけで動こうとするんじゃないの?」

「あー…」

 さらに告げた言葉に唸るこんのすけ。そこで話に入ってきたのは膝の上で本を読んでいた今剣だった。

「あるじさま、ほうれんそうゆでられないというのはどういういみですか?」

 ああ、これって俗語というかネットスラングみたいなものだったなと今剣に説明する。

「ホウレンソウは報告・連絡・相談。仕事をするうえで大事なそれが出来ないことをいうの」

 すると今剣も納得していた。散々あの男の遣らかしは見ていたからね。

「では降谷零は」

 諦め悪いな、こんのすけ。っていうか、降谷さんにもあるのか! 政府も審神者確保に必死だね。徹底して原作キャラ調べたのかな。

 降谷さんか。最後の会議で会ったっきりだからもう30年近く会ってないな。もう還暦間近のはずだけど、あの童顔は今でも健在なんだろうか。

「うーん、あり、かな? 刀剣男士とか審神者とかを受け容れてくれてたし。まぁ、初期刀とかの補佐役は苦労しそうだけど。ホウレンソウは茹でられるし、自分の力の過信はしないだろうし。自分の正義に固執することもないでしょ。国が違えば立場が違えば正義が違うことは判ってるから」

 原作キャラで審神者が務まるとしたら、降谷さんと風見さんくらいじゃないかな。

「っていうか、フィクション時空からのスカウトなんて可能なの?」

 そもそもそこだよね。別時空から連れて行くって色々制限があったんじゃなかったっけ。ああ、審神者の能力があれば時空を超えられるし存在消滅にはならないんだっけ。

「原作終了の止まった時空からならば可能ですね。実際、BLEACHの黒崎一護は現在審神者候補生です」

 なんと! 鰤は前世で21世紀にいるころ嵌まってたな。24世紀の本丸でも復刻版集めて本丸皆で楽しんでた。刀剣男士も斬魄刀に興味津々だったし。

「マジか! 会ってみたいな」

「じゃあ、勘解由様本丸を研修先に指定しますね」

「あ、それはパス。遠くから眺めるだけでいいや」

 面倒なことはパスだね。25世紀に戻ったら、平々凡々な平穏な審神者生活を送りたいから。戦争指揮官で平穏な生活ってなんか矛盾してるけど。

「そうですね。30年様々な思いを抱えて頑張っていらしたんです。結局ご結婚もなさらずに」

「うん、それ、言わなくてもいいよね?」

「25世紀に戻られたら、一審神者として、穏やかに過ごされませ」

 こんのすけは穏やかな表情でそう言ってくれた。そうだね、刀剣男士たちと日々の任務を果たしながら、本丸では穏やかに過ごしたいよね。それくらい、許される、よね?

 そうして、私は40年近くを過ごしたコナン時空を後にしたのだった。




 何故か転生前に過ごした時空で有り得ない筈の再会を果たすことになるとは思いもしなかったけれど。