懸念事項が片付いて、ホッとしている工藤優希こと山城未耶弥です。この自己紹介も多分、あと1回で終わりに出来るでしょう。
相変わらずループ時空で時間の進みは遅いけれど、着実に組織壊滅への動きが進んでいる。
あれから色々あった。沖矢昴の登場、バーボンの存在の発覚、バーボンの変装によるFBIへの揺さぶり、世良真澄の登場、安室透の登場、ミステリートレイン。そして、所謂『緋色シリーズ』。
安室透が降谷零という公安警察であることが判り、
このころ既に公安は不自然な『江戸川コナン』という存在に目を付けていた。公安に潜入している青江や捜査一課にいる燭台切がそれとなく、降谷や風見にその不自然さを知らせていたから。だから、彼らは直接関わる前からFBIの関係者として『江戸川コナン』の存在を知っていた。
そして、赤井秀一たちFBIの動向にも目を光らせていた。そりゃ、観光ビザで立て続けにFBI局員が入国していて、しかもそれが全部同じチームとなれば、不審に思うよね。何でも『ライ』がFBIの潜入捜査官と判ってから色々と調べていたらしい。
着々と公安はFBIをはじめとする海外捜査機関の違法捜査(無許可・申請なしの勝手な捜査活動)の証拠を積み重ね、江戸川コナン周辺の異常について調査しその隠された犯罪の証拠を集めている。組織壊滅後、その罪は暴かれることになるのだろう。
正直なところ、赤井秀一をはじめとするFBIに対して私も刀剣男士もあまりいい感情を抱いていない。なんで他国で好き勝手にやらかしてるの! しかも後始末は全部日本に丸投げ! 銃撃戦やったり好き勝手に動いて後は知らんぷり。全部公安が必死で後始末して事件にならないように、一般人に不審を抱かれないように尻拭いしてるんだよ!? 毎回毎回青江と追加潜入の江雪・山伏が赤疲労になってるんだからね! 青江も江雪も山伏も沸点はかなり高いし短気とは程遠い気性なのに、『せめて、笑顔を浮かべて死んでいったらどうだい』とか『戦いは嫌いです……しかし、むざむざ殺されるつもりもありません……!』とか『拙僧も未熟であるな……今や平常心にはほど遠い!』とか言っちゃってるからね?
そして、FBIへの評価が下がる一方、共感し好感度が上がるのは公安。黙々と(内部では愚痴を零したりはするけど)捜査を進め、後処理と尻拭いをし、証拠を積み重ねている。スタンドプレーもしなければ手柄を誇ることもない。飽くまでも陰に徹して動いている。それを見て、青江たちはどんどん好感度を上げているし、それは私や他の刀剣男士も同じだった。
青江は極秘の特務部署同士の連携を図る目的で警察庁警備局警備企画課の通称ゼロに出向している。そして、青江は主に事務仕事がメインだ。時期的に降谷零関係の事務処理を中心に行なっていたから、青江は降谷と面識がある。数年を潜入捜査官とそのバックアップとして過ごして信頼関係を築いた後、青江は降谷に協力者として燭台切と大般若と一期を紹介していた。これは降谷の公安としての姿が原作には詳細に描かれていなかったから可能だった。なので、同じ情報系幹部として警戒していた『上善如水』が日本国内別組織のNOCだと知って少しばかり動きやすくなったらしい。まぁ、『上善如水』はあの組織の中にあってジンやベルモット以上にフリーダムな存在として有名だったらしいし。服装だって黒一色じゃなかったからなぁ。
『緋色の交錯・帰還・真相』で降谷さんが赤井を問い詰めるときには外に青江も江雪も山伏も控えてた。江雪はチャンスがあれば赤井を殴る気満々だったそうで、その機会がなかったことを凄く残念がってた。うん、待とう。江雪だって結構な打撃ゴリラだからね? それで人間殴ったら顔面崩壊どころじゃないからね? 完全に人相変わるから。どうやらうちの江雪は和睦(物理)だったらしい。
というか、うん、判ってはいたけど、なんでお父さん、新一に協力してるの! そして、新一、私、公安の存在匂わせておいたよね? どうして公安を欺こうとするの? 安室が公安だって判ってるんなら、なんで協力体制作ろうとしないの! 判ってる。公安だと新一やお父さんがイニシアチブを取れないからだよね。公安と工藤家は関わりが薄い。FBIならこれまで散々協力していたし、恩を売っているから扱いやすいものね。でもどうして、組織犯罪に対抗するのに個人が主導権握れると思うんだろう。
私は審神者で国家公務員で軍人だから、一般人で民間人に過ぎないお父さんや新一が組織犯罪というかほぼやってることはテロリストと変わらない『黒ずくめの組織』に関わろうとすることが理解できないし、理解したくないし、腹が立つ。こちとら日章旗掲げて五七の桐と十六弁の菊花に忠誠を誓って戦ってるんだ。それに誇りを持っている。それは旭日章を掲げ桜の代紋の下、国を守っている公安の降谷さんたちだって同じだろう。国を背負って国家から与えられた職権と職能を以て職務に当たっているんだ。その領分を訳知り顔の、私怨と好奇心に駆られた一般人に荒らされて黙って見過ごすなんて出来る筈もない。
それはFBIに対してだって同じだ。同盟国とはいえ他国に主権国家の治安維持を邪魔されて黙って見ていることなんて出来ない。そもそも、FBIの主力となっている赤井秀一もジョディ・スターリングも捜査の原動力となっているのは父親を奪われた私怨だ。家族が関わった関係者はその捜査から外すというのは何処の国の捜査機関でも基本だと思うんだけど、FBIはどうなってるんだという話だよね。
確かに私も家族が関わっているから本来ならばこの任務に就くことは望ましくなかった。でも、私たちの場合は特殊な事情がある。時空を超えるから、異物である政府のある世界の人間は長期間の滞在が難しい。長期的な任務であることを鑑みて、この世界の出身である私が任命された。これは異例であり特例の措置だ。私の他に家族が関わっていないこの時空の出身審神者がいれば、その人が任命されていただろう。
そんなこんなの事情で、私も刀剣男士も政府の関係各所のお役人たちも、非常に公安には同情的で、密かに協力的だ。ゼロの皆さん、お疲れさまです。直接労うことなんて出来ないので、せめて後方支援します。
そう、弟と父に対して! 今はまだその時期じゃないけどね。時期が来たら説教かまします。
そうして、私の中で原作一、新一が馬鹿に見える展開がやってきた。そう、修学旅行編。
ツッコミいきまーす!
なんで堂々と工藤新一が表に出てるの! 工藤新一の存在は隠さないといけないんじゃなかったんですか! これまでの事件に関わっても内緒にしてきたことが全て無駄じゃん。
楠田陸道の件で自分の罪を自覚したから、新一は精神的に大人になったと思ってた。成長したんだと思ってた。だから、修学旅行編が起こるのは当然としても、原作で描かれていない部分で色々根回ししたり対策を取っていたりしたのかと思ってた。でも、そんなことなかった。原作補正とはいえ、新一は何も考えてなかった。
例えばこれが、二次創作であるように組織壊滅作戦の一環で、新一が表に出ることで組織の目を引き付け、その間に各捜査機関が各地の拠点を殲滅するっていうんなら、百歩譲って納得も出来る。それでも、たかが何の力も持たない殺し損ねた自己顕示欲が強いだけの高校生探偵にそこまで組織が注目するかといったら、それはないと思う。これまで組織は工藤新一の存在を殆ど認識してないから脅威だなんて欠片も感じていない。仮令赤井の死亡偽装をしたのが新一だとしても組織はそれを知らないんだから、高校生探偵が出てきたからって気にも留めないだろう。まぁ、殺したはずの工藤新一が生きていたとなればどうしてなのか調査はするだろうけど、でも囮となるには工藤新一の存在は弱すぎる。
けれど、新一はそんなこと何も考えてなかった。単純に高校生活最大の青春イベントを毛利蘭とともに過ごしたいというだけの理由で、散々副作用と免疫の関係で使用制限されている解毒剤の試作品を使ってまで工藤新一に戻っている。馬鹿なの? 馬鹿だよね!
修学旅行前にポアロで会ったときに京都土産は何がいい? なんて緊張感のないド阿呆なことを聞いてきた新一には散々警告した。灰原哀も告げたであろう危険性を説いた。でも、意味はなかった。原作補正万歳(白目)。
それでもまだ、京都で大人しくしてるなら問題なかった。でも、新一がいて事件が起こらないわけがないよねー。服部平次もいるしねー。っていうか、服部平次も学校さぼってまで恋愛脳のアホに協力してるんじゃないよ!
結局、積極的に事件に関わった結果、新一の生存がSNSで拡散された。FBIもベルモットもそれを見て『何をやってるの、
お父さん、お母さん、尻拭いお疲れさまでした。でも、きっちり叱りましょうよ。FBIも阿笠博士もちゃんと叱りましょうよ……。
このことでAPTXを飲んで死んだはずの工藤新一が生きていたと組織が認識しちゃって、危険は哀ちゃんにも及んでいるわけで……毛利蘭とラブラブしたーい、という軽い気持ちの新一の行動は各方面に多大な影響を及ぼした。本人は毛利蘭にほっぺチューされて、『私たち付き合ってるんだよね?』ってメールで舞い上がってるけど。
っていうか、この毛利蘭の態度もいただけないよね。新一は回りくどい言い方ではあったけど毛利蘭に告白をしている。それを毛利蘭はループ数周分返事をせず、単純な月の流れからしても4ヶ月から5ヶ月は放置していた。なのに言葉に出さずに公衆の面前での頬へのキスと、飽くまでも新一に恋人と言わせるためのメールでの確認。なんとも厭らしい女の狡さばかりが目立つ。元々そういうところはあったけどさ。告白するよりされるほうが女性として上だとか、女から告白するのは負けみたいな、常に女性は受け身で自分からはっきりとした言葉は示さないとか。愛するよりも愛されるほうが価値があるとか。いつの時代の女性観だよと言いたい。
ともかく、この修学旅行事件は新一の信用を落とす方向に作用はしても、プラスは何もなかった。特に、我が家の刀剣男士たちにとっては大きなマイナス要素となっていた。
「主さん、僕はもう、ビジネスライクに徹します」
「俺もだ」
まずそう言いだしたのは、工藤新一の同級生として修学旅行中の彼を見ていた国広と骨喰。
国広は新選組鬼の副長の愛刀で、骨喰は最初の武家政権の棟梁・源頼朝の刀剣であり、様々な戦国大名の手を経て天下人の許へと渡った刀だ。自分の役割とそれに伴う責任と影響を身を以て知っている人々に愛され使われた刀だ。それだけに、周囲への影響を全く考えもせず、自分の感情と欲求の為だけにこれまでのループ10数周分の歳月をまるっと無駄にした新一への失望は大きいだろうなと思う。
全員原作は知ってる。だから、新一が修学旅行に行くことは判ってた。それでも原作で描かれていない部分に期待していたんだけど、何もなかったからな。皆失望してしまったんだ。
ただ、そういった私たちの感情はともかく、修学旅行編に不満を持つ転生者もいたわけで、改変しようとする者はいた。中々彼らは過激だった。新一の心を変えて修学旅行を諦めさせるのは難しいと思ったんだろうね。物理的に修学旅行に行けないようにしようとした。新一に怪我させようとしたり、酷いと京都でテロを計画して修学旅行そのものを中止にさせようとしたり。
『気持ちは判りますが、過激すぎます!』
『この世は地獄です』
コナンを守るのに必死だった前田とテロを未然に防ぐために徹夜記録更新していた江雪がまるで血を吐くように言ってたな。無事修学旅行編が終わってから確り休暇取らせて労わり労いました。
修学旅行の後始末と新一の尻拭いで帝丹高校組やらFBIやら工藤の両親がドタバタしているころ、公安では一つの方針が確定していた。というか、公安としては至極当然のことだった。
それは江戸川コナン及び工藤優作を組織壊滅作戦には参加させないというもの。
普通に考えて一般人で民間人の父と弟が組織壊滅作戦に加わることって有り得ないよね。ただ、父の人脈と頭脳、新一の頭脳は捨てがたいと降谷さんは考えていたらしい。自分たちにはない柔軟な思考という意味でね。国家や組織という枠組みにとらわれない自由な思考は作戦立案に利害を含まずに有効だと考えていたようだ。
でも、この修学旅行で降谷さんは工藤家を排除する方針を決めた。
公安は江戸川コナンが工藤新一であることは早い段階で知っていた。でも、それを証明する証拠はなかった。
工藤新一も江戸川コナンも事件現場に一般人にはあるまじき頻度で出入りしている。だから事件現場に彼らの指紋もDNA(頭髪とか唾液とか汗とか)も残されることになる。そうすると除外するために彼らの指紋もDNAも登録される。だとすれば、新一とコナンが同一の生体情報を持っている=同一人物であると判断するのは容易い。けれど、ここで原作補正というか主人公保護力というか、そういったご都合主義な力が働いて、工藤新一のデータは江戸川コナンのデータが登録された時点で破棄されているのだ。だから、工藤新一と江戸川コナンをイコールで結ぶための証拠はなかった。
でも、今回新一が京都で事件に関わったことによって、彼は改めて関係者として指紋と唾液を採取され、彼の生体データは京都府警に登録された。登録時に既存データとの重複がないかの検索が行われなかったのは、これもまた原作補正なんだろうか? コナンも何度か京都で事件に首を突っ込んでいるからデータ登録されていそうなんだけど。ともかく、京都府警を通じて警察庁のデータベースにも改めて工藤新一のデータが登録され、それによって工藤新一と江戸川コナンはイコールで結ばれた。
だから、公安は江戸川コナンと工藤優作の組織壊滅作戦への参加を認めないと決定したのだ。
工藤新一と江戸川コナンが同一人物というだけなら、参加は認められただろう。けれど、新一は自らの行いによって、参加に値しない人物であると証明してしまった。危機意識の欠如、客観的大局的視野の欠如、周辺への安全対策の欠如、情報保全意識の欠如。作戦参謀となるには必要な意識が悉く欠如していると判断されたのだ。
原作では対組織最終戦はFBIと新一、工藤優作、キール、安室透で行われていた。組織幹部のジン・ウォッカ・キャンティ・コルンとの銃撃戦が主で、メインはジンVS赤井・新一だった。そして、ジンが斃れた後は組織のアジト各所で爆発が起こり、中から味方キャラがボロボロになりながら出てくるところで終わっている。新一と宮野志保は組織戦突入の前の回で何の副作用や後遺症といった代償も何もなく元の姿に戻っていた。碌な説明もなしに工藤新一と宮野志保はFBIやキール、安室に受け入れられていたのはご都合主義すぎるというか、紙面の関係という大人の事情だったのか。
最終戦ではその作戦会議の様子も、どういった組織がどういった作戦で組織壊滅に追い込んでいるのかの描写が皆無だった。ならば、幹部との戦いは新一やFBIに任せて、公安は本当の組織壊滅のために動けばいい。ただ、幹部を殺してアジトを爆破しただけで組織が潰れるんだったら、こんな簡単なことはないし、どんだけ脆い組織なんだということになる。
本当に組織を壊滅させるためには拠点に乗り込む前に様々な準備や根回しが必要だ。FBIもそれは当然知っているだろうに、彼らは全然そんなことはしなかった。新一もお父さんも、だ。組織本部に乗り込んで武力制圧するための準備は整えていたけれど、組織の詳細な構成員や取引先といった関係組織、その構成なんてものは新一たちは全く意に介してはいなかった。彼らが見ているのは幹部だけ。それもはっきり言えばジンとベルモットだけだ。ボスの烏丸蓮耶ですら、彼らは軽んじていた。
FBIや工藤家のそういう傾向が判っていたから、公安(警察庁警備局)は別途各国に呼び掛けた。呼び掛けたのは各国の『国際的にみて何ら問題行動のない』捜査・情報機関だ。つまり、ちゃんと事前に捜査・情報収集目的で入国することを外務省や外事警察を通じて公安に連絡していた機関ということ。アメリカのNSA(国家安全保障局)、イギリスのSODA(重大犯罪局)、フランスのDGSE(対外治安総局)、ドイツのBND(連邦情報局)、イタリアのSISDE(情報・民主主義保安庁)、インドのJIC(合同情報委員会)。実際に組織に関わっていた国家はこの数倍、捜査・諜報機関は10倍ほどはいたはずなんだけど、日本で捜査するにあたりちゃんと申請してくれていたのは僅かこの6組織のみだった。おい、FBIにCIA! 同じお国の
え? 何やら私が事情に詳しい? そりゃ私もこの作戦本部のメンバーだからね。
日本からは全てを主導していた警察庁警備局は勿論、内閣調査室と宮内庁神祇局書陵部調査室も加わる。当初宮内庁は加わる予定ではなかったんだけど、原作改変を目的とした歴史修正主義者となっている転生者とトリップ者が結構組織に入っていることが判明しているため、急遽参加することになった。まぁ、一応般若が所属を隠したNOCだったし、ゼロにも書陵部調査室から3人加わってるし、捜査一課にもいるし。全員山城姓なのは仕方ないな。
で、なぜか、会議には私が参加することになった。いや、まぁ、確かに私がこの時空の書陵部トップではあるんだけどさ。書陵部全員うちの
流石に高校生だと不信感しかないだろうから、成人女性のふりをすることにしている。歌仙と燭台切の見立てのスーツと次郎太刀監修の化粧で20代後半に見えるように化けることになった。大丈夫大丈夫、降谷零があの童顔でアラサーなんだから。もし仮に年齢を確認されても『女性の年齢は秘密よ』とかなんとか言って誤魔化す。ちなみに、私は『宮内庁神祇局書陵部調査室室長』の肩書で作戦本部に参加することになってる。これはこの場限りの肩書じゃなくて、実際にこの役職に私は就いているんだけどね。
私たち25世紀の政府関係者がこの会議に参加する理由は前述のとおり組織に結構な数の歴史修正主義者がいるからなんだけど、その理由は表に出せない。なので、どうして『宮内庁神祇局』なんて部署が出張ってくるんだって話になってしまう。そこは元々この組織の一部がオカルトに傾倒していてそれ専門の部隊があるから、そこに対応するためということにしている。実際にオカルト案件があるからというわけではなく、オカルト案件があると信じているクレイジーな構成員に対応するにはそれなりに知識のある者が対応したほうがいいという建前だ。うん、ぶっちゃけ、建前というより壊滅作戦時に遡行軍襲撃の可能性もあるんで当日は弟子が3人ほど4部隊ずつ率いて参加することになってる。
そうして、日本警察主導の作戦本部が始動した。初日は警察庁ではなく宮内庁で会議が開かれた。作戦本部は警察庁ではなく宮内庁に置かれるのだ。飽くまでも建物が宮内庁だというだけなんだけどね。
日本警察内部に黒の組織のスパイがいることは判ってる。誰がそうなのかの証拠も揃ってるけど、まだ泳がせてる。下手に拘束してそれが組織にバレて対応取られたら面倒だからね。それに警察庁にも警視庁にも口の軽いのはいる。極秘の会議とはいえ、国際色豊かな如何にも捜査官といった風貌の人間の出入りが多くなれば、何かに気付く者もいるかもしれない。
だから、そういった情報を他所に与えないためにも科学的なセキュリティだけではなく、呪術的な結界と防衛の出来る宮内庁に本部を置くことになったのだ。
「それでは、会議を始めましょう」
各国の捜査官が揃った場を仕切るのは日本警察の降谷零。各国の機関の捜査官がそれぞれ4~5人ずつ参加している。書陵部調査室からは、室長の私の他、三日月と大般若、出向を終えて宮内庁に戻った燭台切と江雪がいる。公安で参加している風見さんは燭台切がいることに『なんで捜一の刑事が』って呟いていたけど、宮内庁側の席に座ったことで出向だったのだと気づいたみたいだった。
ちなみにこの会合に先んじて私と三日月は降谷さんたち公安の方々には挨拶済みだ。その際、全員の姓が山城だということに驚かれたが、コードネームのようなものだと説明したら納得された。情報機関では偽名をいくつか持つのは当たり前のようなものだし、呪術も関わる神祇局ならば余計に本名を隠すのも納得だと言われた。流石に日本大好きな降谷さん。当然日本の文化や民俗学的な内容にもある程度は精通しているんだろう。呪術の効果を信じる信じないは別にして、そういう文化や背景があることは理解して受け容れてくれていた。
うん、新一、こういうところ見習おう。信じる信じない・納得できる出来ない・共感できる出来ないはともかくとして、そういう立場やものの見方があるんだってことを理解するだけでも、全然違うんだよ。降谷さんは自分の信ずる正義以外の正義も認めている。それぞれの国家や立場によって正義は異なるものだって理解しているからだ。でも、新一は自分の信じる正義こそが全てだ。それ以外の正義は正義とは認めてない。それはとても子供っぽくて視野が狭いし、日本的じゃない。一神教的な考え方だと思うの、ただ一つしか認めないという新一の正義観(正義感ではなく、観ね)は。多神教の日本であれば『うちはうち、他所は他所、皆違って皆良い』って考え方になると思うから。
新一が言う、『真実は一つ』も、違うと思うんだよね。真実なんて、正義と同じで立場によって変わるもの。主観によって変わるものだ。変わらないのは真実ではなく事実なのだと思う。尤も、この考え方を新一に強要するわけじゃないけど。押し付けたらそれこそ『皆違って皆良い』じゃなくなるし。
作戦本部の初回会合はまず自己紹介から始まった。各機関からはNOCとして潜ってる捜査官も参加していて、互いに『あんたNOCだったのか』と言い合ってた。というか、潜入捜査官全員コードネーム持ちって……組織の幹部ってNOCしかいないんじゃね? と思わず声に出してしまったら、結構な数の捜査官に同意を返された。
なお、一番驚かれていたのは当然というかなんというか、うちの般若だった。『上善如水』という幹部は組織の中でもフリーダムでマイペースで有名だったらしいから、とてもお堅い宮内庁職員には見えないだろうなと納得。
ちなみに、今回会合に参加したメンバーは皆戦装束(但し鎧部分は外している)だ。三日月は狩衣だし、燭台切と般若はスーツ、江雪は袈裟。私も審神者の正装である
いかにも日本! な私の神官装束と三日月の狩衣姿は海外の捜査官には『Oh! ファンタスティック!』と大好評だったし、降谷さんは感動に目を潤ませていた。今回は初顔合わせということで全員正装で参加しただけで次回以降や捜査現場では当然スーツ着用になるんだけど、降谷さんの癒しになるなら、会議の時だけなら和装でもいいかな?
「では、降谷捜査官はFBI側へのスパイですか」
会議の席上、別動隊というか、協力体制のないFBI・CIAをどうするかという話題になった。下手に動かれてはこちらの邪魔になるから。
なお、会議の会話は全て日本語だ。日本が主導し日本国内での作戦なのだから、日本語を話すのが礼儀だろうと、各機関は日本語が話せるというレベルではなく日本語で生活できる程度には堪能な捜査官を派遣してきていた。助かった! 一応ヒアリングはゆっくりめなら何とか聞き取れるけど会話とか無理だし、刀剣男士たちも英語は理解できないし。捜査官の皆さんが日本への敬意を示してくれて本当に有難い。降谷さんも心からの感謝を述べていたし、FBIやCIAとはえらい違いだよね。
FBIや新一たちの監視を含めて、降谷さんは基本的に彼らと行動を共にしている。そして、そこで得た情報はこちらに回してくれるので、こちらもそれを踏まえて動くことになる。実際に動くのは主に公安と内調になるんだろうけど。私たち書陵部は特殊だというのは周知しているので、組織のオカルト関連部門にのみ対応することになっている。勿論、必要に応じて公安や内調、各国捜査機関とも協力はするし、情報共有もする。
赤井や新一たちは降谷さんに口を酸っぱくして言われたらしい。とにかくホウレンソウ! と。赤井にしても新一にしても、情報を共有するという考えがほぼない。とにかく自分が情報を握ってイニシアチブを取り、少しでも自分に有利に事を進めたいと思ってる。でも、そんなことしてたら、組織(幹部)壊滅戦なんてやれるはずがない。だから、情報共有は最低限必要なことだって告げて、降谷さんは情報を吸い出してくれている。尤も、それらの情報は既にこちらでは把握していることだったりするんだけどね。まぁ、こちとら潜入捜査官全員生きてますし、中でも情報屋・探り屋と言われる『上善如水』と『バーボン』いますからね。CIAのキールしかいないあちらとでは情報入手ルートが格段に違う。
こっちで得た情報も公安&バーボンが入手した情報としてあちらの作戦に必要なものに関しては渡している。あっちが幹部(特に厄介なジンやラム、ベルモット)の目を引き付けてくれていればこちらも動きやすい。
初回以降、全員が集まっての会合はない。各国捜査官は隊長の位置づけであるメンバーを残して潜入再開したり、捜査や一斉摘発の準備にかかっているし、日本国外に出ている捜査官もいる。
各国の捜査官が連携するようになって、NOCがそれぞれ連携できるようになったせいか、情報の集まりが早くなった。効率が良くなったということだね。しかも、全員が私たちが使う陰陽術を受け容れてくれたおかげで、潜入組との連絡が取りやすくなった。何しろ通信が電波や回線を使用しなくてよくなったから。式神が猫や犬、或いは虫になって捜査官に接触し、情報を伝えたり受け取ったりする。式神なんて組織側は理解の範囲外のことだろうから警戒もしていないし、かなり情報交換と連絡がしやすくなった。なお、初めて式神を見せたときにはこれまた『Oh! ファンタスティック!!』と感動された。
組織の全容、関係している外部の組織や人間、関わりの深度、そういった情報がどんどん集まっていく。それを精査し、優先度や有用度を分け、降谷さんやNSA・SODAの隊長格が逮捕計画や摘発の時期を決定していく。作戦本部にいる国に関しては自国に連絡して自国警察を動かし、作戦本部にいない国に関してはICPOを動かす。
組織の中枢には遠いところから摘発していき、どんどん組織を丸裸にしていく。流石に各国の精鋭捜査官たちは動きが早く無駄がない。組織は下部組織や取引先をどんどん摘発されていっているのに、それが各国の捜査機関が協力して摘発してるのだとは思ってもいないようだった。各捜査機関がそれぞれの組織を摘発する際に『黒ずくめの組織』とは全く関係ない理由で捕まえてるからね。自分たちから引き剥がすためだとは思ってないんだろう。
この作戦が始まってから、新一と会う時間は全くない。それでも電話やメールはしている。そして、新一、守秘義務というか情報管理は確りしようね!? いくら事情を知ってる姉だからといって、組織壊滅作戦立案中とか、父さんも関わってるからあっさり終わるはずだとか、簡単に漏らさないの! 元々情報管理に関してはガバガバの子だとは思ってたけど、思ってた以上だった。まぁ、そうでなきゃ、被害者や加害者の極私的でありデリケートな問題であるはずの殺人に至る経緯を推理ショーで暴露したりしないもんね。
勿論、こちらから情報を漏らすなんてことは一切ない。新一は私たち一家が組織壊滅作戦に関わっているなんて思ってもいないから、こっちから情報を抜こうとはしないしね。
新一たちが武力制圧に向けて準備を進める中、組織の中枢を一気に摘発するための準備が整った。北米・西欧・中東・東南アジアの指令拠点、研究所等の主要施設。それらを一気に摘発する。これは降谷さんが調整して、新一たちが日本にある本拠地施設に武力制圧に向かう日に同時進行することになった。
その日は組織の主だった幹部が拠点に集まるのだという。作戦本部のNOCたちにも招集が掛かっているから間違いない。召集の理由は協力組織・下部組織の相次ぐ摘発や離反によって減退した勢力を回復させる方法を話し合うため。ボス烏丸蓮耶もラムもその日は拠点にいるという。だから、烏丸もラムもその他幹部も降谷さんたち公安に任せることになった。
それぞれの捜査機関はそれぞれに役目があるから、各国捜査機関はそれぞれ独立した動きを取ることになる。招集が掛かっているNOCはその場で降谷さんと連携するし、それ以外はそれぞれの国や関係する国にある支部拠点や研究所などの摘発をする。情報の取り纏めは国内は新一たちがやっちゃうせいで担当がない内調がやる。
そして、私たち宮内庁組は時間遡行軍対応だ。歴史修正主義者が組織壊滅を防ぐための最後の足掻きに遡行軍を次々と呼びこむことが考えられる。だから、うちの本丸の21振だけではなく、弟子たち3人の部隊計12部隊が遡行軍討伐を行なう。政府による遡行軍予測は多く見積もって150部隊くらいだろうとのことだから、15部隊で対応するし問題ないだろう。全部隊極カンストだし、現世任務に慣れた刀剣男士ばかりだから。
「では、主君、行ってまいります」
やってきた組織壊滅作戦の日。前田、今剣、愛染、骨喰、鳴狐、蛍丸の6振は新一の護衛へと向かう。幹部やボスの集うアジトへの武力制圧を目論む新一たちの許にも遡行軍が現れる可能性は皆無じゃない。そしてその中で最も狙われやすいのは主人公でありキーパーソンとなる新一だ。だから、新一の護衛に前田たちを配置した。
「武運を願っています。気を付けて」
6振を送り出す。
今日の作戦で時間遡行軍が現れるとすれば、それは新一たちが制圧に向かった組織の拠点とその周辺になる。だから、私たちもそこに結界を張り拠点を作り、制圧作戦を見守ることになった。私たちがこの場で控えていることは降谷さんや宮内庁で通信の中継担当の内調の捜査員には伝えてある。
『これより組織本拠地内部に突入します』
新一やFBIと行動している降谷さんからの通信が入る。と同時に各国の捜査機関も摘発のためにそれぞれの担当施設へと突入する。
世界同時の組織摘発作戦が開始された。