原作時制突入

 無事原作時制に突入し、弟の元気そうな姿が嬉しいとともに、その活躍に胃が痛くなっている工藤新一の公には死亡した姉・工藤優希こと山城未耶弥です。なんか毎回自己紹介してますけど、まぁ、一種のお約束な流れということで。最初は丁寧語なのに後から崩れるのもお約束ということで。

 新一がコナン化する当日、こっそりと歌仙と薬研と短刀3振と大太刀1振とトロピカルランドに行きました。え、薬研も短刀だろうって? ここは審神者のお約束な合言葉をいきましょう。『お前のような短刀がいるか!』ですね。薬研の包容力は大太刀並みだし、男前さは長船太刀と張りますよね! なお、刀剣男士の髪や瞳の人間にはない色合いは全て黒髪(もしくは茶髪)&黒目(または茶色)に見えるように術がかかっていますので目立つことはありません。いえ、歌仙の雅な美しさや薬研の儚げ美少年ぶりや短刀と蛍丸の天元突破した可愛らしさは目立つ要素でしたけどね。愛染・蛍丸・今剣の無邪気な元気っ子ぶりと控えめについていく大人しやかな前田は周囲に微笑ましく見守られてました。うん、うちの子、世界一、いや宇宙一可愛い!

 新一の様子をこっそり見守りながら、それなりにアトラクションを楽しみました。そこ、ブラコンのストーカーとか言わない。ブラコンでもストーカーでもありません。任務です、任務! 歴史が正しく原作正史通りに動くかを見守っているだけです。

 でも……毛利蘭、どういう思考回路をしているのでしょう。なんで、トロピカルランドの入園料から何から何まで新一が支払っているんでしょう。毛利蘭の都大会優勝のお祝いでのデートだから、まぁ、ランチを驕るくらいなら理解できなくもないんですけど、トロピカルランドの入園料、安くないですよ? アトラクションだってそれなりのお値段しますよ? だから、今回私に同行したのは1部隊だけだったんです。本丸全員で来たら(流石に成人枠潜入組は無理でしょうけど)、本丸遊興予算半年分を使い切ってしまうからと6振に絞ったのに。

 確かに工藤家は裕福です。多分新一のお小遣いも一般の高校生に比べれば多いほうでしょう。確か月1万円だと聞いた覚えがあります。私の前世の高校時代のお小遣いの倍だから多いと思います。ちなみに今の私は審神者としてお給料をもらっているのでお小遣い制ではありません。刀剣男士たちも政府からお給料出てますから同様です。なお、食費等の生活費は本丸運営費として政府から支給されています。

 でも、今日一日の二人分の費用はとても新一の1ヶ月分のお小遣いでは間に合いません。生活費から回しているのではないか、食費を削っているのではないかと姉は心配です。この日のために貯めていたとかならいいんですけど。普段から好きな作家の小説くらいにしか使わないとも言っていたので、それなりに貯まっていたと思いたい……。

 おまけに先日の水族館デートで例によって新一が事件解決に乗り出し、その結果毛利蘭の携帯電話が壊れて、新たな携帯を新一が買うことになったとか。機種変更ではなく、新規契約らしいです。不機嫌になってしまった毛利蘭に新一から『新しい携帯買ってやる』と申し出たみたいですけど、ツッコミたい! 新一は未成年です。未成年では携帯電話の契約は出来ません。当然契約者名は保護者である父です。本体代は新一が払ったのかもしれませんが、通信費は契約者口座からの引き落としのはず。え、毛利蘭赤の他人の電話代、工藤家が払ってるの? お母さんが毛利蘭を気に入っていて既に嫁扱いしているし、お父さんも既に義娘認識なんでしょうか。

 まだこの時点では新一は毛利蘭に携帯をプレゼントしてませんけど。ホワイトデーあたりだっけ?

 バブル期あたりだったら、新一は間違いなくミツグ君と呼ばれていたんでしょうね。新一は疑問に思ってないし、不満もないようだし、両親もそれを了承しているみたいだから、今は他人となっている私が口出すことじゃないですよね。うん。

 そして、このトロピカルランド、色々ツッコミどころが満載です。

「あねさまーへんなひとがいますー」

「しっ、見ちゃダメだよ、剣」

「こりゃ長光の叔父貴に報告だな」

 男性2人を指さして言う今剣。人を指さしちゃダメだし、あんなヘンなもの見たらあなたのキレイな赤い瞳が汚れます!

 薬研が極短刀の隠蔽を利用してこっそりとスマホで写真撮影。原作ではこのころはまだガラケー時代ですけど、原作終了時の技術に合わせているのか、普通にスマホが流通してますね。

 今剣が変態認定し、薬研が般若へと爆笑画像を送信したその人物たち。そう、ジンとウォッカです。いかつい男性2人、如何にも場にそぐわない黒ずくめの格好で律義にジェットコースターの列に並んでいます。うん、組織の任務で遊園地に来ているのはいいんです。でもね、TPOというものを考えましょうよ。明るい陽の光溢れる休日の遊園地です。周囲は学生やデートのカップル、家族連れで賑わっています。その中にその恰好と明らかに裏社会の人間な雰囲気を漂わせた2人は浮いてますよ? この後取引があるんでしょう? だったら、目立っちゃダメだと思います。事実、周囲のちょっと腐ってるっぽいお姉さんたちはざわついてますし、家族連れは子供の視線を必死に逸らしてます。遊園地での取引を指定したのは黒の組織側か相手側か判りませんけど、せめて日が暮れてから遊園地に入り目立たないようにしましょうよ。

 なお、山城ファミリーのグループLINEには爆笑スタンプとともに般若が『ワwwwロwwwスwwwwww』と大草原を出現させてました。ついでに薬研はツイッターに『遊園地でガチホモらしいカップル発見』と目線処理加工した2人の写真付きで呟いており、あっという間にリツイされて拡散されています。それに気づいたのがバーボンで、ベルモットとキャンティとコルンに画像を見せて、皆大爆笑していたらしいです。なお、直ぐに薬研にはアカウントを削除させました。特定されたら拙いですからね。

 その後は原作通りの展開を迎えました。ジェットコースターで殺人事件が起き、それを新一が解決し。新一は怪しげな黒づくめの2人組に不審を持ち、後をつけ……幼児化しました。

 もしかしたら新一の幼児化を阻止しようとする動きがあるかもしれないと用心していましたが、それはなく、無事原作がスタートしました。

 新一が毒を飲まされたときは気が気ではありませんでした。原作補正があり、主人公ゆえの守護があるとはいえ、万が一ということがないとは言い切れません。私という異分子がいます。様々な転生者がこれまでに歴史修正を画策していました。成功した改変はありませんが、それが世界に影響を与えていない保証はないのです。積み重なった原作にはない人々と行動がバタフライエフェクトを発生させ、歴史が歪み、新一がコナンとならずに死んでしまう可能性もゼロではありませんでした。

 だから、新一が幼児化し、意識を取り戻したときにはホッとしました。

 その後警備員経由で警察に保護され、派出所を逃げ出し阿笠邸へと辿り着き、毛利蘭と共に毛利探偵事務所へと移ったことで、漸く一安心して私たちも帰宅しました。まぁ、毛利蘭が返事も待たずに留守の工藤邸に侵入したときには『常識ないな、アンタ!』と全員でツッコミを入れましたが。




 新一がコナンとなって数日、国広から工藤新一が休学届を出したという話を聞きました。原作では特に描写はありませんでしたから、二次創作では休学届を出しているパターンと無断欠席のパターンがありましたけど、ここでは休学届提出となったようです。まぁ、そのほうがいいですよね。無断の長期欠席はいらぬ詮索を招きますから。

 休学届が出されたということは両親も新一の幼児化を知ったのでしょう。ついでに色々誤魔化すために警察に捜索願出しておいたほうがいいとも思うんですけど、国内にいない両親には無理ですね。っていうか、息子が大変なことになっているんだから、普通は取るもの取り敢えず帰国すると思うんですが。新一を信頼しているということかもしれませんけど、まだ新一は未成年ですよ? これは育児放棄やネグレクト、保護者意識の欠如と言われても仕方ないと思います。うちの三日月なんて、私が午後6時過ぎて帰宅しなければ大騒ぎしますからね。通学鞄の中に目晦ましの術を掛けた薬研がいるのが判っていても、すわ誘拐か事件に巻き込まれたかと大騒ぎします。米花町在住(正確には隣の杯戸町)とはいえ心配し過ぎです。うちは過保護すぎるし私が審神者でテロの攻撃対象であるという理由があるとはいえ、工藤の両親と比べるとその違いが大きすぎます。メタな理由で言えば、主人公である新一が自由に動くためには保護者不在のほうがいいからでしょうが。少年漫画やラノベでよくありますよね。主人公がどれだけ出歩こうが外泊しようが五月蠅うるさく言われないために両親ともに海外にいるとか既に亡くなっていて遠い親戚が書類上の保護者で両親の有り余る遺産で好き勝手に暮らせるとか。

「あまり構い過ぎては娘に鬱陶しいと思われて嫌われてしまうよ」

 と呆れたように三日月に言っていた歌仙はまるでお母さんでした。いっそ歌仙に女体化の術でもかけてお母さんになってもらいましょうか。なんて思ったらアイアンクローされました。歌仙、我主ぞ!? でも、生活態度に口煩かったりお料理上手だったりするところはまさにお母さん、とても美人な自慢のお母さんだと思います! って、褒めてるんだからアイアンクローは止めて! 頭蓋骨が変な音立ててるから!!




 新一がコナンになって数か月が経った。不思議なことにコナンになってから、カレンダーが突然飛ぶようになっている。目が覚めると前日は月末でもなかったのに月が替わっているということが数回。これが原作補正か!

 コナンとなった新一は高校生だったときより色々なことに首を突っ込んでいるらしい。前田と蛍丸がいるクラスに転入してきて、それなりにクラスメイトとして交流している2振が呆れたように報告してくれているんだけどね……。

 報告だけでは心配で、こっそり様子を見に行ってみた。小学校の帰り道で隠れて待ち伏せして。うん、新一たちには見つからないように見てたので向こうは気づかれなかった。でも、一緒に帰っていた前田には確り気づかれて、帰宅後叱られた。見た目小学校1年生に正座で叱られる高校2年生ってシュールだよね。

 新一がコナンになって、阿笠博士経由で毛利家にお世話になるようになって。順調に事件に遭遇しまくって。

 うん、色々ツッコミたい。新一、なんで警察に助けを求めないの? なんで自分で国際的な犯罪組織に対抗しようとするの? 一介の高校生が各国の捜査機関が半世紀近く追いかけて未だに壊滅も摘発も出来ない組織を追い詰めることが出来るとでも? 逮捕権も捜査権もないただの一般市民の高校生に何が出来ると思っているんだろう。探偵は万能じゃないんだよ!? まぁ、対抗しないと原作進まないんだけど。

 でも、原作とか物語とか抜きにして姉として言いたい。まずは警察頼れ。そりゃ、最初に保護されたときに信じてもらえなかったというのはあるだろうけど、それは仕方ないでしょうに。新一だって、自分の身に起きたことじゃなければ、鼻で笑ったよね? あなた、超現実主義者だもんね。だから、面識のないお巡りさんが信じなかったとしても無理はないでしょうが。だけど、目暮警部に連絡すべきだったんじゃないの? 直ぐにお父さんに連絡して、目暮警部に伝えてもらうべきだったんじゃないの? だって、目暮警部は小さいころの新一を知ってるんだから、似ているどころか同じ顔だって判ったんじゃないの? 普段から日本警察の救世主なんて煽てられて、捜査協力しているから自惚れて、警察は自分の手足程度にしか思っていないのかもしれない。明らかにお父さんも新一も警察への敬意なんて持ってないもの。

 それに、刑事課じゃ無理でも、公安なら保護してくれたかもしれないでしょう。私という前例があるんだから、公安に助けを求めればいいじゃないの。

 普通は事件に巻き込まれたら、警察署に行って事情を説明するものなのに、警察はガン無視。自分で情報を集めるとばかりに探偵事務所に転がり込むとか、色々可笑しい。探偵は万能なヒーローじゃないのに、単なる民間調査会社に過ぎないのに。コナン世界って探偵の万能感凄いよね。探偵なら何でも出来るし、何でも許される。

 あと、いくら元刑事で探偵だからって、調査業の小五郎おじさんを巻き込むのもどうなの。毛利蘭も保護者の了解もなしに子供を引き取るって何。小五郎のおじさんどころか『江戸川コナン』の親も了解してないのに。未成年者略取だって言われても仕方ないよね?

 阿笠博士もどうやってコナンを小学校に入れたの? 戸籍もなければ住民票もないのに。いくら帝丹小学校が私立とはいえ、義務教育なんだし住民票なしじゃ受け容れてくれないよね? これってお父さんが裏で手を回したの? 阿笠博士にはそういう伝手ないだろうから、十中八九そうだろうけど。お父さんもそんなことに手を貸さずに公安に保護求めようよ。宗近父さまが公安に伝手があるってことは知ってるはずだよね? 娘が公安に保護されて実験的証人保護プログラム適用されてるんだから! というか、せめて帰国しようよ。息子の無謀を止めてよ。

 以上、原作が展開するうえで言っても仕方のない突っ込みでした!

 そういえば、ここで起きる事件、原作通りの順番じゃないんだよね。宮野明美が死亡する事件、原作だと初期も初期、コミックス2巻で起きている5つ目の事件だったので警戒していたんだけど、1周目では起きなかった。同様にコミックス7巻で起きる月光殺人事件も1周目では起きなかった。原作改変に関わる事件だから、1周目から外れたのかな。




 宮野明美と浅井成実に関わる事件は起きなかったけど、他は原作の流れ通りに過ぎて行っている。原作でいえば15巻までの事件が起きていて、既にループ2周目に入っている。突然日付が飛んだりするから、2周目といっても365日が経過しているわけではないのだけど。

 その間に少年探偵団が結成され、両親が一時帰国して江戸川文代が出現し、正式に小五郎のおじさんが保護者代理になった。お父さん、お母さん、色々突っ込みたいです! 原作展開のために仕方ないとはいえ、国際的な犯罪組織に殺されかけて小学生になってしまった息子を、本人の意思とはいえ一人で残さないで! そこは保護者として諭すべきところでしょう!? 探偵に捜査権も逮捕権もないんだから、各国の捜査機関やICPOも把握して追いかけてる犯罪組織相手に一高校生(但し現在は小学生)が何が出来るっていうの! メタな理由じゃ仕方ないとは判っていても、娘として姉としてはどうして! と言わずにはいられない。

「これらが原作通り正史とはいえ、同じ親としては有り得ぬし、頭の痛いことだ」

 この世界の戸籍上『山城未耶弥』の父親である三日月が蟀谷こめかみを揉みながら言う。うん、宗近父さま、子育て熱心だったもんね。何度『あれ、私刀剣女士? 三日月の娘?』って思ったことか。

 全てのお説教は組織壊滅後にすることにしました。組織壊滅後なら、コナン界の原作補正に守られた一般とはかけ離れた常識も、私が馴染んでいる現実世界の常識へと書き換わるだろうから。

 ああ、1周目を終えたことで、私たちも漸くコナン世界の常識とか法律とかをきちんと見直したりできた。原作時制に突入する前はまだ一般常識とコナン界常識の乖離が少なかったから調べてなかったんだよね。

 その結果、色々判った。だから、まず、新一や探偵諸氏に謝りたい。

 新一がね、ドヤ顔で『江戸川コナン、探偵さ!』って言うのに対して、『いやいや、お前、東都公安委員会に営業届出してるのかよ! 出してないなら身分詐称だぞ!』とか思ってたんだよね。で、調べたの。そしたら、ごめん、新一。アンタ名乗っても問題なかったわ。

 なんと、この世界、『探偵業の業務適正化に関する法律(通称:探偵業法)』なかったわ。公安委員会への届け出も必要なかったわ。つまり、自分で『探偵だ』って名乗ればそれで通用する世界だったわ。だから、実際に事務所を営んでいる小五郎おじさんは勿論のこと、まだ高校生の新一や服部平次が探偵名乗っても何の問題もなかった。まだ登場してない安室透に関しては公安だからきちっとしてそうだけど。仮に探偵業法があったとしてもちゃんと届け出してそう。

 でもね、それでも捜査権も逮捕権も持ってないからね。一般市民と同じで現行犯の一般私人逮捕以外は出来ないからね。やっぱり姉としては危ないこともしてほしくないし、別時空とはいえ国家公務員の身としてもちゃんと国から捜査権と逮捕権を与えられている警察に頼ってほしいと思うんだ。

 それから、証拠汚染問題。これさ、鑑識作業の方法が原作開始当初から変わってないのよね。うん、原作開始当初ならまぁ、証拠汚染なんて考え方もなかったよね……。仕方ないのかな?

 おまけに、個人情報保護法もこの世界ないしね。情報漏洩とかって特殊な産業での産業スパイくらいしかないんだよね、この世界だと。一般市民も公務員も守秘義務って考え方がないらしい。あるのは弁護士さんくらいかな。探偵も探偵業法ないし個人情報保護法もないから、守秘義務意識ないんだよ。びっくり。ただ、ペラペラ情報漏らしたら信用問題に関わるからっていう、完全に個人の良心とかそんなのに依存してるんだよ。びっくりだよ、歴保省出向中の陸軍特殊部隊尉官としては! がっちがちの国家機密に関わって守秘義務だらけの職場にいたんだから。自分の名前も言えないし所属も明かせないくらいのガチガチさだったから。私たちの守秘義務の厳しさ理解できるのってこの世界だと降谷とか風見とかの公安だけじゃないかな。




 それから姉として気になって仕方がないのが毛利蘭との関係。これも原作上仕方のないことだから、心の中でツッコむだけにした。これまでも何かを実際に新一に言っていたわけじゃないけど。仮令搾取(毛利蘭)と被搾取(新一)の関係じゃないかと思っていたとしても、新一がそれでいいなら何も言えない。戸籍上でも姉のままだったら小姑として色々口出ししただろうけど、今は他人だからその権利ないし、弟とはいえ人の恋路を邪魔することは出来ないしね。公序良俗や倫理に反しない限りは何も言わない。

 コナンは殺人ラブコメっていうジャンルらしいから、新一と毛利蘭の関係は少年漫画らしい大袈裟な描写のせいで行き過ぎているように見えるだけだと思うことにしてる。ただね、殺人とコメディって並べちゃダメだと思うの。仮令創作物のフィクションだとしても。せめて推理&ラブコメとかミステリー&ラブコメとかに出来なかったのかなぁ。

 前世では割と推理小説も読んでた。東〇圭吾とか内〇康夫とか森〇誠一とか松〇圭祐とか。でも、推理物=殺人事件というのは安直すぎるとも思ってた。だから、前世で好きだった推理小説は松岡〇祐の『人の死なないミステリー』として人気だったQとαのシリーズ。どちらもヒロインが必ず20代前半の美女という設定でなんかしょっぱい気分にはなったけど。別に20代後半でも30代でも良くない? と思ったのは自分が既に三十路近かったからだと思います。

 まぁ、ミステリーとしては殺人事件を扱うほうが盛り上がるとは思う。一番悲劇を演出しやすいし、動機とかトリックとか理解しやすいとも思うし。でも、せめて少年探偵団が絡む事件は殺人じゃないほうが良かったなぁ。時々ある殺人(未遂含む)事件じゃない冒険的なストーリーのときはホッとした記憶がある。短刀や蛍丸みたいに見た目は子供だけど中身は1000年越えのおじいちゃんなんて見た目詐欺じゃなくて、正真正銘の子供だからね。今は理解していなくても、将来大人になったときに自分たちの行動や見たものを理解して、それで苦しんだりする可能性はあるだろうし。下手をすれば精神を病むよ、あれだけ遭遇していれば。言っても仕方ないとは思うんだけどね。せめて組織壊滅後、まともになった警察が彼らにカウンセリングを勧めてくれることを願います。勧めなかったら、宗近父さまが同級生の父として勧めるけど。単なるクラスメイトの父と警察じゃ言葉の重みも違うからな。




 新一と毛利蘭のこと、見守ることにはしたんだけど、1周目の出来事でどうしても突っ込まずにはいられない事件が一つある。それが『プロサッカー選手脅迫事件』。

 あれ、陰から国広と今剣が観察してたんだけど……私も式神使って見てたんだけど、凄かったね。

 赤木量子が新一の彼女を騙ったら、毛利蘭、鬼の形相だったもの。いくら両片想い状態とはいえ、まだ二人は恋人でも何でもなかったのに、なんで『浮気!』ってなるのか。既に新一の妻気取りってところにドン引きした記憶がある。あの形相で追いかけられて、それでも消えない新一の恋心って凄い。

 一方的片想いでの嫉妬深さといえば『うる〇やつら』のラムちゃんもいるけど、あれは異星人だし、あたるの行動が彼女の星では求婚にあたってたという理由もあるからなぁ。嫉妬深さも個性というか魅力になってたと思う。あたるが徹底した女好きっていうのもあったから、ラムちゃんの嫉妬も納得できたし。あれだけラムちゃんの電撃食らってたあたるも凄いよね。まぁ、ギャグだしな。

「髭切さん、いなくて良かったですよ」

 しみじみと国広が言ってたけど、頷いちゃうよね。あの形相、まさに嫉妬に狂って鬼になった女だったもの。『鬼は斬っちゃうよ』って常々兄者言ってたからヤバイ。あと『他人に嫉妬とかよくないよ。鬼になっちゃうからね……』とも言ってたなぁ。この世界、鬼になっちゃった女性が起こした事件、少なくないから兄者のいうこと正しかったんだね。

 結局あの件は被害者家族と加害者が和解して、被害者である弟は誘拐されたとも思ってなかったから刑事事件にはなってないけど、犯人、毛利蘭のせいで怪我したよね? 加害者宅のドア破壊してたよね? 嫉妬して散々責め立てた赤木量子にも謝ってないよね。

 ラブコメゆえの誇張表現で大袈裟に描いているんだろうと思ってたけど、実際に漫画通りの言動してて、無理。小姑としてはあんな子を弟の嫁にはしたくない。現時点では到底無理。成長して改善すれば再考の余地はあるけど。

 原作時制に入るまでもう一つ要改善と思ってたのが、直ぐに振るう空手技という暴力だった。事件の際の犯人制圧のための空手は、登場人物皆が殺意高めの攻撃してるから、あれがコナン世界のデフォルトだと思ってる。なので、コナン世界的には問題にならないから、私たちもスルー(したくないけど)してる。

 ただ、日常生活での公共物や他人の家の塀とかへのパンチやキック。あれはアカン。原作を読んでいたときはコメディゆえの誇張だと思ってたし、そこまで気にしてなかった。でも現実ではね、なんて思ってた。ところが、この世界でも毛利蘭のあの攻撃は誇張だったらしくて、彼女が折った電柱も凹ませたロッカーも割った机も罅を入れた塀も、一瞬の後には何もなかったかのように元通りになってた。最初にそれに気づいたときにはびっくりしたよね! え? 形状記憶電柱に形状記憶ロッカーなの!? って。私らの世界25世紀より科学技術進んでるの!? と一瞬思ってしまった。

 でも、取り敢えず一瞬後には破壊がなかったことになるなら他人には迷惑かけてないし、小五郎のおじさんが損害賠償する必要もないからスルーしていいよね。尤も、直ぐに暴力で自分の希望を押し通すのはどうかと思うけど。そうすれば自分の思い通りになると判ってやってるんだから、脅迫罪成立するんじゃないかな。その被害に遭ってるのは新一と小五郎のおじさんだけで、彼らは友達(くどいようだけどこの時点ではまだ新一と毛利蘭は単なる幼馴染に過ぎない)や親子のじゃれあいとしか認識してないと思うから事件にはしないし、ならないだろうけど。




 そろそろ2周目も終わりかけ。取り敢えずここまでのところ、アニオリ展開や劇場版の事件は起きていない。劇場版はパラレル設定なんだと聞いたこともあるけど、少なくとも覚えている範囲では『純黒の悪夢』と『から紅の恋歌』と『ゼロの執行人』は原作展開と若干の関係性があるからなぁ。気を付けておかないと。

 原作のエピソード的にそろそろ本来は灰原哀登場となるはずなんだけど、まだ宮野明美の事件が起きていない。なので、周辺警戒と調査を密にする。灰原哀登場しないとかなったら確実に歴史改変が起きてることになるから。

 そして今日は、青江兄弟とともに新一の様子を見に来た。あ、コナンだけどね。現在のところ公安に潜入している青江はそこまで忙しくない。青江は公安に潜入しているとはいえ、宮内庁からの出向という立場なので、潜入調査や事件捜査はしていない。飽くまでも宮内庁の特務部署との連絡係であり、公安での役目は後方支援だ。なので、それなりに休日もちゃんと取れていて、こうして私の護衛として一緒に出掛けることも出来る。

 それに今日、青江兄弟にともに来てもらったのは、コナンのクラスメイトである蛍丸から無視できない報告を受けたから。同じくクラスメイトの前田は認識できなかったけど、御神刀である蛍丸には歴然はっきり判ったらしい。

「うわぁぁ」

「すごいねぇ……」

 ちょっと見ない間に凄いことになってた。何がって、コナンを取り巻く瘴気。うん、最早これは瘴気といってもいいだろうってくらいに黒い靄がコナンを覆ってる。これ、多少霊感ある人なら見えてるんじゃないかな……。

 コナンが纏っている黒い靄は事件関係者の恨みとか念。その中には犯人の逆恨みもある。でも、多くは理不尽に情報を開示された加害者家族や被害者遺族たちのもの。自覚して推理を披露した小五郎おじさんを恨んだりしているわけじゃない。無意識のうちに心の奥底に澱んでいる思いだ。本人たちが無自覚だから、推理を披露したことになっている小五郎おじさんに向かうのではなく、実際に色々と暴露あばいた新一に対してその念は向かっている。

 新一、アンタどれだけうらまれてるの。ドン退いてしまう。何しろ、意識して霊的な視覚をセーブしないとまともにコナンの姿見えないからね。霊的な視覚使うとコナンは黒い靄に包まれて見えないからね。

「主が弟君から離れていてよかったと心から思います」

「そうだねぇ。あれほどの恨みを買っていたら、傍にいる者にも影響は出るよ」

 青江兄弟は呆れも隠さずに言う。うん、まぁ、新一に対して攻撃的な意思を持った靄じゃないのがまだ救いではあるかな。

「え、じゃあ、新一にも出てる? もしかして新一の事件吸引体質ってあの瘴気が関係してる?」

 だとしたら、原作の事件、いくらか回避可能かもしれない。政府の調査によればサブキャラクター(服部とかFBIとか黒の組織とか)が出ないエピソードは実際に起きなくても歴史改変にはならないらしいから。飽くまでも中心キャラクターが関わる事件と黒の組織関係が正史らしい。それなら、瘴気を払えば多少は事件から遠ざかることは可能だよね?

「それはないね。あれは魂の性質だよ」

 そんな私の希望を青江がスッパリと切り捨てる。

「厄介な性質だな!」

 魂の性質とか! どうやっても回避可能だし、多分、転生してもついてくるぞ、事件吸引体質!

「推理漫画の主人公ですから、当然の性質ですね。金田一一氏も浅見光彦氏も同じ魂の性質を持っていますよ」

 数珠丸が納得の理由を告げる。ああ、それもそうだね。推理漫画や推理小説は事件が起きなきゃ物語が成立しないもんね。ということは推理物の主人公という時点で、どんなキャラクターにも事件吸引体質は付与されているってことだ。作者という名の神によって。そりゃ魂に刻まれてるよね。

「でも、あれだけの瘴気纏ってちゃ影響あるよね。何とかしなきゃ」

 姿が見えなくなるほどのものだから、攻撃性はないとはいっても全く影響がないはずはない。体調崩したり怪我したりする可能性はある。が、これも数珠丸がきっぱりと否定した。

「しなくても大丈夫です。弟君は霊の存在を信じてはいないでしょう。信じないということは存在しないと同義。存在しないものは影響を与えることは出来ませんからね」

 そういえば、御神刀たちも言ってたな。信じているかいないかで影響の強さが違うって。審神者だって同じだ。審神者の能力があっても神や妖怪といったものを信じていない、伝承ですら否定し馬鹿にしたりする者は刀剣男士を顕現出来ないし、手入れしたり刀装作ったりも出来ない。こんのすけはボディが科学技術の粋を集めたものだから認識できるらしいけど。刀剣男士に関しては初めから刀剣男士という付喪神として紹介されると見えない人が多いそうだ。

 そういう意味では、新一は私の仕事と家族刀剣男士を理解できないし、理解しようとはしないだろうな。騙されてるって思うだろうなぁ。あの子、夢見る子供であるはずの小学生時点でも超現実主義者だったから。前世の記憶持ちだから、神社とか祠とかスルー出来ずに参詣し祈ると、必ず帰宅後に『神様とかいねーから。空想上のものだろ』と否定されたもんなぁ。科学で解明できないものは存在しない。そういう科学万能主義みたいなところが新一にはある。お父さんも超現実主義者だけど、新一ほど超常現象否定はしてなかったのになんでだろう。

 というか、歴史保全戦争が始まってからって、神様や妖怪の研究こそが最先端科学なんだけどね。

「彼には影響はないかもしれないけど、あれだけの瘴気だと彼の周囲にも影響が出かねないね。主がもし姉として側にいたら確実に病に侵されていただろうねぇ。主は神霊を信じているし、関係は深いからね」

 聞き捨てならないことを飄々と青江が言う。ちょっと待って。それかなり拙いでしょう。

「え、極カンスト12振の加護ついてる私でも寝込むなら、相当ヤバイじゃん」

 私には歌仙をはじめ前世からの付き合いの刀剣男士たちの分厚い加護がついている。偶に会う弟子たちが苦笑するくらいには分厚い。それを以てしても同居してたら病気になるって、相当拙いから!

「今夜にでも石切丸と一緒に祓っておくよ。弟御に執着して迷う魂も哀れだしね」

 青くなった私に苦笑し、青江がそう言ってくれた。本来なら青江たちの役目ではないけれど、主の弟だからと彼らは新一に対してもある程度の愛情を傾けてくれている。本当に慈悲深い神様たちだ。

 その夜、青江は石切丸と兄の数珠丸とともに新一のところに赴き、毛利探偵事務所に溜まっていた穢れと弟に纏わりついていた瘴気を祓ってくれた。そのうえで弟が関わった事件のせいで成仏できていなかった魂を供養し、道を示してくれた。

 翌日、学校から帰ってきた蛍丸が『1ヶ月ぶりにまともに江戸川の顔見た!』と言って、そんなに前から酷くなってたんなら、もう少し早く報告してほしかったと姉はリアルOTZすることになったのでした。




 発生時期が遅れていた2つの事件。それが立て続けに起きることになるとは、まだこのときは思ってもいなかった。