何故ヲタクは簡単に記憶餅転生するんだろう?
そんなことを考えてしまう、山城未耶弥です。改名前は工藤優希といいます。
あれ、そんな名前の女優いたな(漢字違うけど)と思った方、同じ時代の同じ時空出身ですね! どうぞよろしく。
物心つく前から、前世の記憶がありました。イタタタタ。ヲタクにありがちですね。
でも、これマジなんですよねー。大往生して愛する家族たちに看取られて眠るように死んだと思ったら、自分の産声という爆音で意識を取り戻し。
モノがはっきり見えるようになって目に入った両親の顔にびっくり。前世で何となく惰性で読み続け、気が向けばアニメを見、もっと気が向いたら劇場版も見に行っていた名探偵の御両親でした。成程、私の名前は工藤優作の優と工藤有希子の希でしたか! 安直だなぁ。って、そうじゃねぇ!
あれれーおかしいぞー?
と、未来の弟の科白が頭をよぎります。そう、弟です。ワタクシ、工藤優希、工藤新一の双子の姉になっておりました。
うん、待て? 工藤新一って一人っ子だよね。なんで『私』がいるんだ?
そこで真っ先に浮かんだ可能性がパラレルワールドではなく、歴史改変。私はどこかの時点で歴史改変が起こり、その結果生まれてしまった存在に違いない! そう思ったんですよね。
そうです、私の前世の職業は審神者。21世紀からスカウトされ、24世紀に赴いて歴史改変を阻止するために刀剣の付喪神を率いて戦っていた中間管理職です。
こりゃやべぇ。私がいることで
幼稚園から高校まで弟とは別の学校に通うことは必須。
まぁ、歴史改変が修正されれば私の存在は消えるから、それまでの間極力大人しくしていよう。生後2日目にしてそう決意しました。工藤優希としては0歳児でも、生まれ変わる前の記憶もあるから、頭脳は87歳でしたしね!
ごくごく自然に私はこのコナンの世界にも歴史修正主義者がいて、審神者や刀剣男士がいると感じてました。何故かっていうと、私の魂に加護がついていたから。『神様の加護持ち! すげぇ!!』みたいなハイスペックなものではありません。薄らとちょっとだけ危険に遭いにくくて、ちょっとだけ怪我しにくい。その程度。でも、その『ちょっと』が大事なんです! この米花町ではね!!
因みに加護を付けてくれていたのは祐筆と近衛。具体的にいえ祐筆の歌仙兼定(初期刀)・燭台切光忠・太郎太刀・一期一振・三日月宗近・大般若長光、近衛の薬研藤四郎(初鍛刀)・前田藤四郎・鳴狐・骨喰藤四郎・堀川国広・蛍丸の12振。
そんなこんなで、言葉が喋れるようになると原作から身を守るために行動を開始しました。
まず幼稚園。あれ保育園っぽかったよなー。でも、専業主婦の母と有名作家になりつつあった父の工藤家や財閥の鈴木家が保育園への入園許可が下りるとは思えないから、幼稚園なんだよね。っていうか、一応工藤家も鈴木家も裕福な上流階級扱いのはずだから、そこはセキュリティのしっかりした幼稚園に入れるべきなんだと思うけどなぁ。あ、口調崩れっちゃった。まぁ、面倒なので、このままで。
新一と同じ幼稚園への入園は断固拒否。入園したら毛利蘭と鈴木園子と接点が出来てしまう。それはノーセンキュウ。つか、絶対毛利蘭とは関わりたくないです、ハイ。
名探偵コナンはずっと読んでいたとはいえ、どのキャラが好きとか熱烈なファンというわけではなかった。寧ろ好きキャラのほうが少なかった。いや、ぶっちゃけ好きキャラとかいなかった。強いて言えば小五郎のおっちゃんと灰原哀?っていう程度。
中でもダントツで無理だったのが毛利蘭と世良真澄、赤井秀一、少年探偵団。アニメの赤井秀一は赤井のCVも沖矢のCVも好きだったんだけどねー。一番好きだったのは白鳥だな。塩沢さんも井上さんも超好きだった。
毛利蘭はあの嫉妬深さが無理だった。工藤新一を所有物扱いしていて、人権を認めてないようなところが。よく初期は良かったとか言われるけど、結構初期から酷かったと思うんだよね。赤木なんとかの事件のときから。幼馴染でしかないのに新一に対して浮気! とか。
嫉妬深さと同様に批判される空手の乱用についてはまだ『ギャグテイストの漫画だし』と許容出来ないこともなかった。シティハンターの100tハンマー的な感じと言えば判ってもらえるかな。古すぎて判らないかな。犯人への過剰な攻撃に関してもメタな理由で画面の見栄えとか活躍している演出なんだろうなーで許容できたし。
でも、あの嫉妬深さとかめったに涙を見せない設定なのに直ぐメソメソするところとか、思い込みが激しいところとか、そういうのは無理だった。なんか、女が嫌う女のテンプレって感じで、正直あれが作者の理想の女性とか言われて、首を傾げてた。束縛好きのMなのかなって。いや、亀甲、お前を呼んだわけじゃない。
家計が苦しいというわりにはバイトもせず、節約もせず、園子と遊び歩いてるし。まぁ、これもメタな理由で描写カットと言われれば納得できる範囲だし、園子と遊び歩くのも事件を起こすためだし、許容範囲内ではあったけど。つまり、大人の事情(所謂メタな理由)で納得できる部分は納得できてたから、そこはアンチのような批判はしなかったんだけどね。
まぁ、そういう理由で毛利蘭との接点は極力作りたくないから、同じ幼稚園への入園は断固拒否。拒否の理由を述べても理解してもらえないだろうから(この時点では毛利蘭と知り合ってもいないわけだし)、制服がとっても可愛らしい幼稚園を探し出し、「ママ、ゆうき、このおようふくがいいの!」と強請ってみた。すると、女の子にはフリルにレースにリボン! といつの時代のファッションセンスだよという母はコロッと納得してくれた。新一は原作通り毛利蘭の待つ幼稚園に行ったけどね。
そうして、幼稚園での毛利蘭との出会いは回避出来て、自宅に毛利蘭が遊びに来ても向こうが私に興味が一切ないのをこれ幸いと部屋に籠って読書したりしてた。
小学校も同様の手口で新一とは別の小学校に通った。
なお、元々原作にはいない存在だからなのか、父も母も割と私には無関心だったな。虐待されるわけでもないけど、特別可愛がられるわけでもない、そんな感じ。基本放置だったね。放置の結果、家族旅行に私だけ行かない(忘れられてる)ことはあったけど。
そう、例のさざ波回ってヤツ。夏休みの林間学校的なイベントで不在の間に終わってたよ。事前に何日に何処何処に旅行に行くとか教えられてなかったし。帰宅したら誰もいなくてびっくり。お隣の阿笠博士から旅行に行ってると聞いて二度びっくり。帰ってくるのは翌日と聞いたから、まぁ一晩くらいなら騒ぐほどでもないかと思って、自宅でのんびりしたけどね。冷蔵庫に何もないから、お小遣いでコンビニ弁当買った。流石に小学校低学年で独りファミレスは虐待疑われるし。……ほぼ虐待ですけどね。なお、阿笠博士も特に何も言わなかった。うん、これも想定内。元々がいない存在だからか、周囲の原作キャラは驚くほど私に興味も関心もないんだよねー。これが原作には出てこない通ってる学校の先生や友人、保護者だとそんなことないし、原作の名前なしモブもそんなことはないんだけど。例としてはポアロのマスターとか。
小学校高学年になったころ、中学校についてもリサーチ。できれば全寮制の中高一貫校へ進みたいと考えていた。そうすれば、工藤家から物理的に離れられるからね。いっそ養子縁組して工藤家から出ていこうかとも思ったけど、それを納得させる理由も養子先の宛もがなかったから、次善の策って感じ。
このころになると、もしかしたらこの世界の未来には刀剣男士も審神者もいないのかもしれない、なんて思い始めた。だって、まだ私がいるから。
けれど、それを否定する出来事があった。
某マンションの爆破事件。そう、原作の7年前に起こったとされている萩原研二が死亡する事件。
小学校の友人の許に遊びに行っていたら、それに遭遇した。それだけなら二次創作でよくある展開だよね。で、逃げてるときに流れに逆らって萩原らしき人物の許へと向かう少女がいた。これもまた二次創作でよくある展開かな。救済とかのアレ。ここで私は初めて自分以外の『原作知識在りの異世界トリップ(転生含む)』している存在に出会ったわけだ。後々、こういう転生者がやたらと多い事実に頭痛に見舞われることになるんだけどさ。
でもね、元審神者としては歴史改変は許せないんだ。死んでしまう人を救いたいという気持ちは判らなくもないけど、萩原の死は松田の死に影響を与え、松田の死は佐藤・高木に影響するし、降谷にも何らかの影響を与えるはず。それがなくなってしまうということは、
ってことで、何とか救済を阻止しようとその少女について行ったら……途中でその少女が誰かに捕まってた。捕まえた人物──それは『僕も結構邪道でね!』な兼さんの助手だった。
「……堀川国広」
ああ、この世界にもちゃんと刀剣男士も審神者もいるんだと思ったら、安心した。きっと私の存在が歴史改変してしまう前に、私を抹消してくれると。
「なんだ、お前」
国広の存在に安心していた私は背後から近付いてきた誰かに猫の子供のように首根っこを掴まれて持ち上げられた。この声は『強くてカッコいい流行の刀』ですね!
「兼さん……」
前世の本丸では確り者の市街戦担当参謀だった和泉守兼定。初期刀の曾孫認定だったこともあって、結構頼りにしていた刀剣だった。
「……アンタ、審神者か? 之定と国広の加護があるな」
刀剣男士の目から見れば私についている加護は一目瞭然だったらしい。ちなみに後から聞いたら、歌仙と国広は関係が深いからはっきり判ったらしい。残りの10振については『加護がついてるのは判るけど、誰かまでは判らない』ということだったそうだ。
「一先ず、ここにいると爆風に巻き込まれるんで、どこか移動しません? それと首が苦しいです」
兼さんを見下ろして(首根っこ掴まれて持ち上げられてるから、若干兼さんより高い位置から見下ろすことになった)告げれば、兼さんはそれもそうだなと呟いて国広を呼ぶと階段を降り……ずに、通路から飛び降りた。ジェットコースター苦手なのに!
で、私はそのまま兼さんに抱っこされて(拘束の意味合いが強かったと思うんだけどね)、国広は気を失っている例の少女を俵担ぎにして現場を離れる。というか、体格的に逆じゃないのかい。そのまま仲間が待っているらしい場所へと連れていかれた。
辿り着いた場所には4振の刀剣男士。兼さんと国広から予想はしてたけど、いたのは新選組の3振プラス脇差補強ってことで浦島虎徹。そして、政府職員っぽいスーツの男性と、どこか見覚えのある気がする、30代後半くらいの男性。恐らくこの男性が審神者なんだろうけど。
「兼さん、その女の子誰だい? いくら好みの幼女だからって誘拐はダメだよ」
「ちげぇよ。俺らのこと知ってるっぽいから連れてきた。之定や国広の加護がついてるし、審神者関係者だろ」
男性審神者の問いかけに兼さんは応じつつ、私を降ろした。でも、不用意に審神者に近づかないように頭を掴まれてるんだけどね。一見ポンポンと撫でているようで微笑ましくも見えるけど!
そうしているうちに政府職員は別の職員に件の少女を連行させていた。残ったのは政府職員と審神者と刀剣男士。
「防音結界と認識阻害の結界貼ってありますね。助かります」
そう言うと、相手方は驚いた表情をする。うん、まぁそうだろうねと思いつつ、更に爆弾投下。
「私は歴史改変の影響で生まれた存在だと思います。どうか、私に対して適切な処置をお願いします」
更にそう告げれば、審神者たちは言葉を失ったようだった。まぁ、そりゃそうだよねー。見た目10歳の少女が、この時代にはない存在を知ってるんだもん。
混乱から立ち直った政府職員の誘導で、場所を移して詳しく話を聞かれることになった。連れていかれたのは彼らがこの時代の任務にあたって拠点としているマンションだった。おい、そんなところに連れてきていいのか! と思ったら、今日明日にも引き払うから問題ないと言われた。成程、萩原が正史通りに死亡するのを確認するまでが任務だったわけか。
「さて、ご自身が歴史改変の影響で生まれたと仰いましたが、あなたは何故それを知っているのですか。我々のこともご存じのようだ」
そう言って話を切り出したのは政府職員。
「うーん、どこまで話せばいいのか判らないので、全部話します。ちょっと長くなる可能性もありますけど、いいですか?」
そう応じれば、どこでもお手伝いなら任せて! な気遣いの出来る国広がお茶とお茶菓子を用意してた。
えーと、どこから話そうか。
「ええと、あなたは政府職員でいいですよね。歴史保全省対策局審神者管理部の方か、宮内庁神祇局もしくは監察局」
まずは政府職員に聞いてみる。部署名である程度の時代も判るし。
「……歴史保全省対策局審神者管理部担当官課大国室の職員です」
「ということは2240年以降から来ているということですね」
「はい、2412年から来ています」
なんと! 前世の私が死んで11年後か。なら、名乗れば判るかもしれない。
「審神者ID2345CF005、審神者号を勘解由と申します。前世、ですが」
前世の記憶のままにそう告げる。すると、驚いた声を上げたのは男審神者だった。
「えっ!? お師匠様!?」
その声にまさかと思って彼をじっと見れば……うん、最後の弟子だ。
「
「はい! マジでお師匠様なんですね」
最後の弟子は目を潤ませている。うん、昔から涙脆い子ではあったけどね。
前世では私は幾人かの弟子がいた。所謂審神者になる前の見習い研修を担当していたのだ。2~3年に1度程度だったけど、見習い研修をして、その後は適宜助言したりサポートしたりする関係だった。
「そっかー、お師匠様だったんだね。道理でなんか懐かしい感じがすると思った」
そう言ったのは衛守の初期刀の加州清光。加州清光はよく衛守と一緒にうちの本丸に来てたしなぁ。
「つまりあなたは前世の記憶を持って転生した、元審神者ということですね。衛守様と加州様の言葉もありますし、疑う必要はなさそうですね」
衛守と会話している間に政府職員は私の前世の記録の照会をしていたらしい。そして審神者号と審神者IDが完全に一致しているから、納得もしたみたいだった。
その後、前世の記憶持ちであること、私の知識の中ではここは漫画『名探偵コナン』の世界であることから、原作にはいなかった『工藤優希』は歴史改変の結果生まれた存在だと判断したことを説明した。
「ええ、ここが漫画の世界であることは間違いありません。所謂異世界軸というやつですね」
政府職員はそう説明してくれた。何でもここ数年、フィクションの世界での原作改変が起きているらしい。それが発覚したのは本丸ゆえの不思議現象というか。本丸にある無機物は歴史改変の影響を受けない。審神者は有機物なんで影響受けるけどね。だから、本丸にある漫画や小説、DVDと現世にある同じもので内容が違っているものがあることが発覚した。
創作物が変化してるだけじゃん、なんて軽く考える者は歴史保全省にはいない。今は創作物だけに留まってとしても、いつ何時現実に影響を及ぼすかも判らない。だから、異世界軸への干渉を歴史保全省は決断したんだそうだ。
改変が起きている創作物にはいくつかの条件がある。①現代日本(20世紀以降)が舞台であること ②ファンタジー要素がないこと ③知名度が高く熱狂的なファンが多いこと ④作中でキャラが死亡していること らしい。
今のとこと確認されているのは、ここ(名探偵コナンの世界)と『金田一少年の事件簿』らしい。同じ作者でも『まじっく快斗』なんかは魔法というファンタジー要素があるために対象にはなってないそうだ。でも快斗父に関しては名探偵コナンでも出てくるせいで改変対象になってるっぽいけどね。
この改変を調査した結果、私が前世でいた世界の歴史修正主義者の関与があることも判明している。所謂ヲタクたちを記憶あり転生させて『救済』という名の歴史改変をさせようとしているってことらしい。迂遠なやり方ではあると思うけど、僅かな影響でも積もり積もれば大きくなることもあるから、それを狙ってるっぽい。まぁ、直接関与が中々旨くいかないからこういう策も出てきたのかな。レキシューの中のオタクがダメ元で計画した作戦なのかもね。
「つまり、さっき捕まえたような転生ヲタクが多いってことですか」
あれ? じゃあ、記憶持ちの私もレキシューによって転生させられたの? っていうか、レキシュー、どうやって転生なんて神の領域に手をだしたの?
「そこらへんはこちらも調査中です。勘解由様の転生についても調査いたします。但し、原作7年前までのエピソードについては何ら改変は起きておりませんので、恐らく勘解由様の転生はレキシュー関与のものではなく、単なる記憶もち転生だと思われます。記憶があるのは恐らく魂に刻み込まれた刀剣男士様方の加護によるものではないかと。勘解由様のことを忘れたくなくて、忘れてほしくなかったんでしょうね」
あー、そうかもしれない。祐筆と近衛は私の死に際して刀解を望まなかった。他の審神者に仕えるのでもなく、政府所属の刀剣男士になることを選んでたもんな。所謂主を持たない刀剣男士たちになってる。
それはともあれ、私の存在があることによる歴史の歪みは今のところないらしい。頑張って原作に絡む出来事に関わらないようにしてきた甲斐もあったな。
「それでも原作にいなかった私が、主人公の家族ってのは拙いだろうし、出来るだけ速やかにこの世界とおさらばしたいんですけど。できれば合法的に工藤家の籍から抜けて、原作開始前には私の存在を周囲が忘れてしまってるのがベストだと思うんですよね」
切実に原作前に工藤家からおさらばしたい! 原作改変のリスクもだけど、毎日毎日殺人とか事件が起こる世界なんて無理! それに嬉々として突っ込んでいく父親とか弟とか無理! 新一が姿を消せば、一応姉である以上、『新一は何処!?』って毛利蘭に絡まれる確率跳ね上がるだろうし。隣人として灰原哀のお世話するのはありかなと思うけど、他の少年探偵団とか無理!
「加州」
「うん、あるっぽいねー」
無理無理と主張してたら、何やら衛守が加州清光に問いかけて、加州清光は私をじっと見てた。
「担当さん、霊力測定キットある? お師匠様、今世も審神者適性ありそうなんだけど」
マジか! ってことで政府職員さんが持ってた簡易キットで測定した結果、前世と同じだけの審神者適性があるってことが判明しましたよ!
「これだけの適性値がありますし、正直今でも審神者は不足してますし、勘解由様は優秀な審神者様でしたし、復帰していただけるなら非常に有難いです」
前世勘解由とは別人! だから復帰じゃないですよ、役人さん!
「審神者になれるなら、なりたいです」
まだ現役で政府所属刀剣男士やってるという12振にも会いたいし。ぶっちゃけコナンの世界で生きてるより、元の世界で審神者やってるほうが充実して生きられるだろうし。
「何がネックかといえば、勘解由様の現在の年齢ですね」
あー、未成年だもんな。放置されているとはいえ、何事にも保護者の了承は必要か。それに、審神者制度について明かすわけにもいかないから、難しいかなぁ。
「一先ず持ち帰って、またご連絡します。そのときには勘解由様の刀剣男士様方も一緒においでになると思いますが」
政府職員さんは自分だけで判断できることじゃないからと一旦上司に相談するために案件を持ち帰ることになった。その際、通信機をもらった。この時代にはまだない、スマホ型の通信機で、アドレス帳には職員さんと衛守の連絡先が入ってた。
職員さんから連絡があったのはそれから3日後。翌日には会うことになって、私に関心のない家族には『お友達のところに行ってくるね』と放課後遊びに行くふりをして、待ち合わせの場所へ。そこは新たな衛守の拠点になるらしい一戸建ての民家だった。
「主!」
「大将!!」
部屋に入った瞬間、抱き締められたよね! 初鍛刀の薬研ごと初期刀の歌仙に!
「聞いてはおったが、まこと
「随分可愛らしくなってるね」
「妹が出来たようですな」
わらわらと他の10振も私を取り囲む。前田と蛍丸も私に抱き着いてきたし。
何時までも私に構っていそうな刀剣男士たちを何とか宥めて本題に入れたのは30分ほどが過ぎてからだった。職員さんも衛守も止めてよね! 微笑ましそうに見てないでさ。
まぁ、判るけど。一応この世界での顔面偏差値高い工藤家の娘ですから、今の私もそれなりに美少女だし。尤も、絵柄は好みではなかったから、登場人物の誰も美男美女と思ったことはないけどねー。なんてことを言ったら、『でも、主さんとご家族、似てないですよね。こちらの世界の人には判らないだろうけど。なんていうのかな、青山剛昌の絵柄の中に池田理代子の女の子が混じってる感じです』って国広に言われた。全然タイプ違うやん!
どうやら、今日までの3日間、あちらの世界では1週間ほど経過しているらしく、その間に色々調査していたらしい。私が生まれてからの10年間を遡って調べたりしてたっぽい。
その結果。
「主は僕らが育てる」
真剣な顔で歌仙が宣言しました。
「こんな犯罪魔境に大将を置いておくことなんて出来ねぇしな」
男っぽい笑みを浮かべて薬研も宣います。
「主、ちゃんと食べているかい? 他の子供に比べて痩せすぎだと思うんだ」
「それに弟や父親の影響でしょうが、よくない気が纏わりついています」
家庭環境を心配する燭台切と太郎。燭台切の言葉には国広も頷いてるし。
「主君の御家族に対して失礼かもしれませんが、この環境に幼い主君を置いておくわけには参りません」
今の自分よりも幼い容姿の前田に言われ、同様の蛍丸にも力強く頷かれる。
「主の環境は知っておるぞ。ねぐれくとというやつであろう?」
「弟との差が酷いですな。しかも差別していることに気づいてはいない様子」
三日月と一期の表情も険しい。うんーやっぱり刀剣男士の目から見てもそう感じるのか。
「それに関しては、イレギュラーな存在だから、原作補正が働いてるんじゃないかなぁ。いない存在だからそうなってしまうというか」
両親も近所の人も意図的にやってるわけじゃない。だから、それを責めるのもなーと思う。まぁ、私が本当に10歳児だったら絶望してるだろうけど。
そういった私の言葉も刀剣たちにとってみれば納得はしがたいらしく、工藤家から私を救出する! と息巻いている。歌仙、首を差し出せとか言わない。薬研、柄まで通さなくていい。一期、お覚悟しなくていいし、国広も闇討ちも暗殺もするな。
「上と検討を重ねまして、勘解由様のご希望もあることですので、勘解由様には審神者となっていただくことになりました。工藤家との縁切りも可能です。ただ、納得させるのに時間がかかるかもしれませんが」
「それはあまり心配いらないかと。原作補正のせいで私のことには無関心ですからね。年々それが強くなっている気がしますし」
そう、もっと幼いころはもう少し両親も弟も私に関心を持っていた気がする。幼稚園に入る前までくらいは、ごく一般的な4人家族だったんだよね。でも原作が近づくにつれて、段々両親も弟も私への関心を失っている。
まぁ、原作補正だから仕方ない、というのは寂しさを納得させるための言い訳でもあるけれど。
「そう、ですか。では、今後についてご説明いたしますね。まず、1ヶ月以内に工藤家から出ることになります。その後、直ぐに本丸着任となります。但し、この本丸はこれまでとは少々異なります」
そうして説明されたのは、新たな本丸のこと。新たな本丸は米花町の隣、杯戸町の一戸建て。写真ではごく普通の民家。但し、内部は異空間の本丸に繋がっている。こういう仕様なのは私の主要任務がこの世界の歴史改変阻止だからだ。異世界である元の世界の審神者がこの世界に滞在するのは結構な体の負担がかかるらしい。だから、元々コナン世界の住人である私が、この世界を担当することになる。まぁ、最大18歳まで過ごせばいいから終わりははっきり見えているし、その後は杯戸町側の入り口を閉じて異空間の本丸を拠点とすることになるんだけどね。
コナン世界での任務があるから、私はこの世界に留まって、高校まで通うことになる。別にそんな必要ないだろうけど、任務の性質上原作キャラに関わらないといけない可能性もあるからね。但し、関わる場合は『工藤優希』としてではない。新たに作られる戸籍の『山城未耶弥』としてだ。ちなみに顔も変わるらしい。整形手術というわけではなく、刀剣男士の神気を利用した術で。この中では最も古い刀である三日月宗近と御神刀の太郎太刀と蛍丸の神力を使うらしい。前世の顔になるのかなとか思ってたら、数日後に変わった顔は三日月宗近寄りの和風美少女でしたけど! まぁ、三日月が私の父親設定だから、仕方ないといえば仕方ない?
因みにコナン化した新一には前田と蛍丸が同級生として接触し、高校生新一及び毛利蘭たちの対応は骨喰と国広がやはり同級生となって接触することになった。その関係で、時期が来るまで前田と蛍と骨喰、国広は彼らとその関係者への接触は禁止。黒の組織側へは大般若と一期が潜り込むらしい。刀剣男士を犯罪者にしたくないんだけど……と言ったら、人を殺すような役割には絶対につかない(情報収集系で潜り込むらしい。それってバーボンと役割被るよね)し、そもそも神に人の
そんなこんなで今後のことも決まったところで、満を持して政府職員さんが工藤家を訪問した。なお、衛守の担当さんが私の担当もすることになった。事情をよく知ってるからってことでね。ちなみに職員名は
黒鋼さんは三日月を伴って工藤家にやってきた。黒鋼さんの肩書は警察庁公安部の職員ってことになっている。これは一般に知られている組織の中で、これからの策に一番適してるだろうなと思われる部署ってことで選んだ。
私は数日前、ちょっとした事件に巻き込まれた。被害は受けていないが、目撃者的な感じ。まぁ、毎日何らかの事件が起こっている米花町周辺では珍しいことじゃない。でも、その事件というのは結構ヤバい背後関係があるものらしく、目撃者である私は生命の危機があるという。そこで、日本では正式導入されていない証人保護プログラムの実験的措置として、私にそれを適用して守ることになるというのだ。──という設定で黒鋼さんは話を進めていく。
「療養のため自宅を離れ、数か月後に死亡という扱いになります。その後は名を変えて生きていくこととなります。お嬢さんの安全のため、またご家族の安全のために直接間接を問わず一切の接触は不可能です。本来であれば」
「だが、ご息女はまだ幼い。御両親もご心配であろうから、特例措置として、新たな父親である俺との連絡のみ可能となる」
余りの話に呆然としている両親に黒鋼さんと三日月は話を進めていく。全て決定事項として。
「いきなりそのようなことを言われましても」
父は戸惑って反論しようとするけど、それを三日月が笑顔で封殺する。
「ご息女の了解は得ておる。そもそもご息女はこの家の中では疎外されておったようだし、いなくなっても問題はなかろう?」
ちょ、三日月、何を言ってる! そこは言わないはずじゃなかったのか?
三日月の言葉は両親にとっては心外なものだったのだろう。そんなことはないと母が反論しているけど、うん、やっぱり無自覚だったんだなぁ。良かった、やっぱりこれ、原作補正だったんだ。
「優希、どういうことだよ。どんな事件だったんだ? 犯人は? 手口は?」
両親と黒鋼さんたちが話している応接室の扉の前に張り付いて盗み聞きしていた新一が私に珍しく興味を示して聞いてくる。興味を示してるのは私にじゃなくて私が巻き込まれた事件にだけど。普通の姉弟なら『大丈夫か?』がまず来ると思うんだけどねー。まぁ、普通の姉弟じゃないから仕方ないか。
「新一、実験段階の証人保護プログラムが適用されるような案件だよ。当然、情報規制があって守秘義務が発生するとは思わないの? というか、私も詳しくは知らないし」
常々コナン世界の守秘義務については疑問を持ってたから、ついつい厳しい口調で言ってしまう。ちなみに新一の質問のときには服の中に隠している薬研が不快そうに揺れてたけど。あ、薬研は三日月が家に来たときにこっそり渡してくれたんだよね。守り刀だって。これから暫く(直ぐに工藤家を出られるか判らないから)は薬研が刀剣状態で守り刀となってくれて、陰から骨喰と国広の脇差コンビが護衛してくれることになってる。
「チッ」
私の言葉に面白くなさそうに舌打ちする新一にまた薬研が揺れる。っていうか、空間を怒気が満たしてる。あー、これ、脇差コンビと前田がどっかから工藤家に潜り込んでるな。三日月も確り聞こえてるな。鈍感な新一は気づいてないけど、刀剣たち怒り捲ってるなー。
これ以上聞いていることもないかと、私は自室へと戻る。必要な荷物をさっさと纏めよう。まぁ、人生全てリセットだから、荷物は全部置いて行ってもいいんだけど。黒鋼さんからもらった通信端末だけ持っていけばいいんだし。衣類とか日用品は歌仙と燭台切が張り切って揃えてるらしいし。学校は転校することになるから、教科書なんかも全部新しくなるし。ただ、転校して友達と別れることだけはちょっと寂しいなあ……。
結局、持っていくものは通信端末と数冊のお気に入りの本だけだった。
暫くすると、階下から父が私を呼ぶ。応接室へ行くと、見たこともないくらい真剣な表情の両親と盗み聞きがばれてばつの悪そうな新一、そして黒鋼さんと三日月が揃っていた。
「こちらの方々から話は聞いた。お前も了承しているということだったが本当かね? 家族と離れるんだぞ?」
「そうよ、優希ちゃん。ママやパパを捨てるの?」
うーん、これは……。ちゃんと話を聞いたんだよね? このまま私が『工藤優希』として存在していると命を狙われる可能性が高いから、守るために別人になるってこと、理解してるのかな。まぁ、ウソだけどさ。
「お父さんもお母さんも新一も守るために、私は家を出るんだよ。このままだと私だけじゃなくて家族も危険だから。ちゃんと警察のお兄さんが説明してくれて、私もそうするほうがいいんだって判ったの。10歳の私が理解したことをお父さんとお母さんは判らないの?」
これまでの育児放棄もあって、ついつい口調はきつくなる。両親が悪いわけじゃない、原作補正だって判ってはいても、やっぱり寂しかったのは事実だしなぁ。
「本当はお父さんとお母さんと新一もプログラム適用がベストなんだよ。幸いまだ私の情報が洩れてないから、私だけの適用で済ませてくれたの。お父さんもお母さんも今の自分のステータスを捨てるなんて考えられないでしょう?」
うわー、家でこんなに喋ったの幼稚園入園以来かも。証人保護プログラムを工藤家全員に適用させない理由は多分、黒鋼さんが説明してるはずなんだけどね。一応元有名女優の母と有名推理小説家の父が消えてしまえば社会的影響が大きいからって。まぁ実際は私を工藤家というかコナン世界から退場させるための措置だから、家族にプログラム適用は有り得ないんですけど! 適用させたらそれこそ
「決意は固いんだな」
父が苦渋の決断って感じの表情で確認してくるけど、多分、一晩明ければ家族は何事もなかったかのようにいつも通りに生活するんだろうな。2ヶ月くらい経ってから黒鋼さんからの連絡を受けて私のお葬式をやってそれで終わり。娘なんて初めからいなかったかのような原作通りの工藤家になるんだろう。うん、自分で望んだこととはいえ、ちょっと寂しい。でも、仕方ない。原作にいない私が主人公周辺に主人公の家族として存在するわけにはいかないから。
父の言葉に確りと頷いて、私は10年間の礼を告げた。どうしてもだめだと反対されて説得の必要があった場合は数日間は工藤家に残る予定だったけど、何とか父が納得したから、黒鋼さんたちと家を出ることになった。ぐずぐずしてたら色々と考えちゃうし、悲しくなっちゃうし、実行は早いほうがいいもんね。
纏めておいた荷物──誕生日に買ってもらった可愛らしいリュックを背負い、玄関に立つ。すると涙を流す母に抱き締められ、同じく泣いている弟に抱き着かれた。
「優希は優希じゃなくなっても俺の双子の姉さんだからな! 俺のこと忘れるなよ!」
そう言って弟は大事にしていたホームズのシルエットを象ったキーホルダーをくれた。
「新一、元気でね。推理もいいけど無茶や無謀はしないでね」
無理だけど。原作通りに進むと無茶も無謀も一杯やらかすけど。でも、『姉』としてはそう願わずにはいられない。
母と弟から解放され、深々と頭を下げてから、私は工藤家を出た。10年間娘として過ごした家を離れる。家族と離れる。そのことに知らず涙が出た。──でも、本丸についたら、気持ちは切り替えなきゃね。大丈夫、今は悲しんでいる家族だって30分もすれば、それを忘れるだろう。それが原作補正なんだから。