三日月宗近は戸惑っていた。
人間とはいつの間に被虐趣味が常態となったのであろう? 自ら骨を折り(慣用句にあらず)、自ら肉を裂き血を流す。
門扉を潜った瞬間にそうした者2名。どちらも後継として政府から任命された審神者だった。
政府から使わされた式神(管狐のこんのすけは審神者のナビゲーターなのでいない。なんとも愛らしい三毛の仔猫だった)から新しい審神者が来ると聞いて皆で歓迎の準備をしていた。
三毛猫から伝えられていた審神者到着の時間を過ぎても、一向に審神者は現れず、不審に思い最古参の陸奥守吉行とともに出迎えに大手門へと向かえば、そこには血を流した男がいた。
まさか敵襲かと思い、慌てて抜刀し駆けつける。が、男は『来るなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』と叫び、再び門を潜って逃げていった。
「一体何があったっちゅうがじゃ……」
「はて……?」
首を傾げるしかなかった。
皆が集まっている大広間に戻り、見たままのことを話せば、皆等しく首を傾げる。
「禍々しき気は感じていないし、本丸の警報も鳴っていないから、敵襲ではないと思うのだけどね」
石切丸はそう言うが、では何故あの新審神者(仮定)は血まみれになっていたのだろう?
「あの……僕たち、見たよ」
怖々と兄の後ろから手を上げて発言したのは短刀の小夜左文字だ。
「あの人、門を入ったらいきなり、塀に頭をぶつけ始めたんだ」
「それで、額から血が出て……」
「そうしたら、『これじゃ足りないな』って言って、石灯籠に腕を振りかぶって」
「ゴキッって凄い音がしましたから、腕の骨が折れていると思います」
「んで、今度は持ってた竹刀袋から刀取り出したんだよ」
「あれはつくもがみのやどっていないむめいとうですね」
「そうそう、それで刀の柄に縄をくくりつけて振り回したんだ」
「そうしたら、その刀が男の方の背を撫でて、でも余程鋭い刀だったのでしょう、すっぱりと薄皮1枚程度切れていました」
「切ったところが良かったのか悪かったのかしらねーけど、結構血が出てたよな」
「ねぇ、あの男の人って、マゾヒストって奴?」
次々と短刀たちが告げる内容に見た目大人の刀剣たちは唖然とする。一体新審神者(仮定)は何がしたかったのだろう?
ちなみに短刀たちは新審神者を歓迎するために出迎えようと門の近くの植木の影に隠れていたそうだ。それに大人たち(+薬研)はうちの子達マジ可愛いとほっこりとした。
「それで驚いちまって、とりあえず治療しなきゃって薬研といち兄呼びに行ったんだ」
それがちょうど三日月と陸奥守が出て行くのと入れ違いだったらしい。
短刀たちの証言を以ってしても、一体何があったのかは不明だった。否、敵襲ではないことも判明したし、審神者(仮)の傷は自分自身でつけたつけたものであることも判った。けれど、何ゆえそのようなことをしたのかはやはり判らない。
一同は首を傾げるしかなかった。
数時間後、再び式神の三毛猫がやってきた。本丸では『みーちゃん』と呼ばれている。そしてみーちゃんは告げた。
「後継審神者様は酷く恐慌状態に陥っておられ、着任は不可能と判断されましたにゃ。なので、3代目審神者様が明日来られますにゃ」
取ってつけたような猫語尾は媚びるためのものだと判っていても、小動物が好きな面々はそれに悶えた。掌サイズの仔猫が小首を傾げてそう言えば、猫嫌い以外は大抵落ちる。ちなみに小動物が好きな面々は同田貫正国、大倶利伽羅の強面ぶっきら棒・一匹狼といった少女漫画によくあるパターンである。
刀剣たちは審神者歓迎のために準備した豪勢な料理を『仕方ないな』と自らの腹に収めたのであった。
そして、再び翌日。
新たな審神者を歓迎するために大広間を飾りつけ(昨日の使いまわしなのは大目に見てもらおう。予算は限られているのだ)、昨日張り切りすぎたために厨房予算が心許なくランクダウンした料理を盛り付け、全ての準備を整えた刀剣たちは新たな主を出迎えるために大手門へと向かった。向かったのは爺さゆえに本丸代表となっている三日月、最古参の陸奥守、一大派閥である粟田口を代表して鳴狐とお供の狐、無刀派勢を代表してへし切長谷部というメンバーである。もちろん、歓迎する意味も込めて他の刀剣たちもこっそり後ろから付いてきている。つまり、全刀剣男士が審神者の出迎えに向かったというわけだ。
そして、彼らは目にした。審神者が来る予定時間よりも10分ほど早かったけれど、そこには既に1人の男がいた。神主が着るような装束をまとっていることから恐らく彼が新審神者だろう。早速声をかけようとした三日月は異変に気づいた。
何故か男は地面を転がっていた。ゴロゴロゴロゴロと。そして徐に起き上がると拳を握り、己の頬を強かに殴りつけた。何度もそれを繰り返し、口の端からは血が滲む。
「こんなもんか……。いや、この程度じゃ、10万もいかねぇか」
何事かを呟き、男はきょろきょろと周囲を見渡す。するとそこには柄に紐がくくられた日本刀が放置されていた。そう、前日の審神者が結果的に残していったものである。すっかり刀剣男士たちもそれを忘れていて、回収していなかったのだ。
「ふむ」
何を思ったのか、男はその刃を己の腹に突き立てた。
あまりの出来事に刀剣たちは声も出なかった。あの男は自害するつもりだったのか!?
「いてぇ……でも、これで桁が跳ね上がったはず……」
男はそう独り言ちるとよろよろと大手門へと向かって行った。そして門の横にある未来の機械に向かって叫んだ。
「助けてくれ!! 殺される!!!!」
そして程なく、大手門が開く。開いた門を男は思いのほかしっかりとした足取りで潜っていった。
「一体何が起こっておるのだ」
「判りませぬなぁ……マゾヒスト極まれりと鳴狐が申しております」
「……言ってない」
「前の主(※信長)も狂人でしたが、あれも中々……」
「……一旦戻るぜよ」
4人は見た光景を脳内で処理できず、ふらふらとした足取りで本丸の中へと戻った。それにぞろぞろと同じ光景を見、理解不能状態の他の刀剣も続く。
そして歴史(笑)は繰り返す。
三度、みーちゃんの来訪。そして告げられる、審神者の着任不能と新審神者の派遣。そのとき『二度あることは三度ある』の言葉が全員の脳裏によぎった。
翌日、審神者到着予定の1時間前に大手門前に数人の刀剣男士が揃っていた。面子は一期一振、堀川国広、五虎退、前田藤四郎、燭台切光忠の5人である。比較的『穏やかに見える』メンバーを選出した。新しい主を優しく丁寧に出迎え、主の暴挙を抑えるのが目的である。審神者が門を潜って現れた瞬間にロイヤル王子様一期一振と天然ホスト燭台切光忠が主の手を取りエスコートする。可愛い代表の五虎退と前田藤四郎がその心を和らげる。そしてハイスペック気遣い堀川国広が彼らをサポートする。今度の審神者は女性だというから、このメンバーであれば怖がられることなく任務を果たすだろう。
そう思っての人選だった。そう、だった。けれど。
「ここここここここここ」
「こけっこっこー?」
『こ』の連呼についつい古いツッコミを入れたのが誰かは本刀の名誉のために伏せておく。
「来ないでください!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
地を割るような大声で怒鳴ると、女審神者は猛然と駆け去った。向かった先は離れ。客が来たときの宿泊用施設である。
「今度は一体何なんだい?」
エスコートしようと差し出した手は空ぶったまま、呆然と燭台切が呟く。
「自分ではよくわからんのです。今自分が、どんな顔をしているのか……」
同じく手を空にさまよわせ、一期一振も呟く。そんな長兄を慰めるかのように五虎退と前田藤四郎は兄の背を撫でている。
「様子を見てきます!」
そう言って離れに駆けていったのは偵察値・隠蔽値ともにトップ5に入る鯰尾藤四郎と堀川国広だった。
結論から言えば、その審神者が初日に本丸から去ることはなかった。だが、審神者は離れに閉じ篭もり一向に刀剣男士たちと交流しようとはしなかった。勤めを果たすためにと出陣遠征を行い、その報告に行っても「来ないでください!!!!」と拒絶される。仕方なく報告は文書で審神者の篭もる離れの部屋の前に置くようにした。燭台切や歌仙兼定など本丸の厨房部隊が腕によりをかけた料理を届けても「要りません!!」と拒否される。人懐っこさを活かして今剣や愛染国俊、浦島虎徹が遊びに誘っても「何を企んでるんですか!?」と叫ばれた。全て結界と襖越しだ。
錬度の低い刀剣たちを鍛えるために出た戦場で検非違使が出、博多藤四郎と長曾祢虎徹が重傷を負ったときには、一期一振と蜂須賀虎徹が審神者に手入れを頼みに行った。しかし、審神者は中々手入れを了承しなかった。「手入れをしろといって私を斬るつもりでしょう」と訳の判らないことを言って抵抗していた。手入れ部屋周辺には誰も立ち入らせない、全ての刀剣本体を納戸に仕舞い、その鍵を審神者に預ける。そう言って説得してようやく審神者は手入れを了承した。審神者の説得には半日がかかった。あと1時間、手入れが遅ければ博多と長曾祢は折れてしまっていたかもしれない。
だが、1ヶ月ぶりに目にした審神者の様子に刀剣たちは愕然とした。審神者の目は落ち窪み、顔色は青黒くなっている。疲労が積み重なっているでは済まされないほど過労状態だ。その審神者には目つきの悪いこんのすけが付き従っていて、こんのすけは刀剣男士たちを威嚇するように睨み付けていた。
そして、その翌日。審神者はこんのすけとともに本丸を出て行った。救急搬送されたのである。精神的過労と栄養失調により意識混濁を起こした結果だった。
4度目のみーちゃん来訪はしかめっ面の仔猫の登場で幕を上げた。
「審神者様はぁ、精神的な極度の疲労から精神の均衡を崩して物狂いになりかけておられましたにゃあ。よって審神者継続は不可能と判断されましたにゃん」
審神者が発狂しかかっていたと聞いて、刀剣男士たちは愕然とした。一体何が審神者をそこまで追い詰めたのか。栄養失調だったと聞いたときにはさもありなんと思った。毎日3食料理当番によって離れに届けられていた膳は毎回手付かずだった。この1ヶ月審神者は一体何を食べていたのだろう。無理にでも食堂に引っ張り出して一緒に食事をさせるべきだったと本丸保健短刀もとい保健担当の薬研藤四郎は悔いていた。審神者は自分たちとの交流を徹底的に拒否していた。だから、さっぱり、何故彼女が精神を病んだのか判らない。
ただ、これだけはハッキリしている。この本丸は呪われている。主に審神者運という点で。最初の審神者は酷かった。悪逆非道・傍若無人・唯我独尊の小心者。矛盾しているようだが、それが真実。そして、2人目は自ら骨折・頭突き・背中の袈裟懸け(薄皮1枚)の怪我を負って逃げ、3人目は泥まみれになって自分を殴打し腹を刺して『殺される』と叫んで悠々と去っていった。そこにこの3人目。引き篭もった上に精神を病んで栄養失調で救急搬送された。
「みーちゃんよ、我らはもう審神者はいらぬ。主などいらぬ。刀解してほしい。それが叶わぬならば、このままここで朽ち果てたい」
もう、刀剣たちはどうしていいのか判らなかった。ここに来る審神者はおかしい。もしかしたらここに来るからおかしくなるのかもしれない。これ以上愛しい人の子が壊れる姿は見たくない。ゆえに三日月はみーちゃんに告げた。『同じみーちゃん仲間にゃん』とみーちゃんに言われて以来、三日月は燭台切とともにみーちゃんの来訪を楽しみにしていた。けれど、みーちゃんが来るのは審神者に何かあったとき。みーちゃんに会えなくなるのは寂しいが、仕方ない。
「判りましたにゃん。政府のおっちゃんたちにはみーちゃんがちゃんと伝えますにゃ。でも、受け容れられるかは判らないのにゃ」
みーちゃんは可愛らしく首を傾げて言う。確かに全ての刀剣男士が揃い、その錬度も概ね高い。低錬度なのは入手が難しい三日月や一期一振、鶴丸国永、江雪左文字、最近確認されたばかりの明石国行、博多藤四郎、日本号くらいなものである。そんな本丸をこの戦況が厳しい中、政府や軍部が手放すとは思えない。
そしてその通りに、その後も幾人もの審神者がこの本丸に送られることになった。
けれど、刀剣男士たちは学習していた。実例が4人あるのだ。学習しないほうがおかしい。この本丸に来た審神者は狂う。ゆえにこの本丸に立ち入らせてはいけない。すぐさま現世に返さなくてはならない。
そう、刀剣たちは決意した。そして、最も錬度の高い同田貫正国、和泉守兼定の2人が審神者が来た瞬間に刀を突きつけ、大手門の中に押し込めた。そうやって新たな5人の審神者を無傷で追い返すことに成功した。
そろそろ政府も諦めて自分たちを刀解するなり放置するなりしてくれるのではないか。そう思ったとき、10人目の審神者がやってくることになったのである。
そのとき、刀剣男士たちは既に半ば自棄になっていた。追い返し担当の同田貫と和泉守も疲れきっていた。罪悪感が胸をチクチクと刺す。狂わせないためとはいえ、刀で脅して追い返すのだ。審神者の恐怖に満ちた顔は2人の罪の意識を苛んでいた。
もう、どうとでもな~れ。
それが彼らの偽らざる心情だった。ゆえに彼らは10人目の審神者の出迎え(追い返し)をしなかった。自分たちが引き篭もろう。そう決めていた。そのころには47振りのうち半数近くが自ら顕現を解き、刀に戻っていた。残っていたのは追い返し担当の同田貫と和泉守、責任者を自認する三日月、最古参の陸奥守と薬研、弟を放ってはおけない一期一振、その兄を心配した鯰尾藤四郎と骨喰藤四郎、前田藤四郎と厚藤四郎と乱藤四郎。甥っ子たちを心配した鳴狐。和泉守のお世話係である堀川国広。和泉守と堀川国広を放っておけない新撰組刀剣仲間の長曾祢虎徹・加州清光・大和守安定。兄を放っておけない蜂須賀虎徹と浦島虎徹。同田貫と仲の良い御手杵と大倶利伽羅。厨房を放置できない燭台切光忠と歌仙兼定。眠るのは退屈だと拒否した鶴丸国永。以上23振りが残っていた。
ソルシエールはその本丸に足を踏み入れた瞬間、違和感を抱いた。確かここはブラック男士が支配する、9人もの審神者を追い込んだ審神者にとってブラック本丸のはずだ。しかし、到底そうは思えない。本丸を吹き抜ける風は爽やかで心地よく、夏の高原を思わせる。降り注ぐ日差しは温かくまさにこの国の主神の恩恵そのものだ。本丸を満たす空気は慈愛に満ちたものでソルシエールを柔らかく包む。とても『ブラック本丸』とは思えない。
「カイア、どう?」
「ふぉっふぉっふぉ。まこと心地よいのう。そうは思わぬか、
ソルシエールの言葉に老爺の声が応じる。その声はソルシエールの肩の辺りにふわふわと浮いている小動物から発せられていた。それは淡い穹色の色彩を除けば、20世紀から21世紀にかけて児童の心を鷲掴みにした某電気ネズミそっくりの小動物だった。
「ブラック本丸って感じじゃないわよねぇ」
そう言って呟くソルシエールは名前こそこうではあるが、正真正銘の日本人である。一応女子高生ということになっている。もちろん、現在の名はソルシエールではなく別のごくごく平凡な日本人名だ。ひ○こクラブ調べの女児名前ランキングで5年連続堂々の1位に輝いたくらい、何処にでもいる名前である。が、今は日本の女子高生とはいえ、その中身は違う。まぁ、今はこれは重要なことではないので割愛するが。
ソルシエールは持っていた端末を操作し、この本丸の情報を確認する。自分の担当官から『相当手強いと思われる本丸です』と深刻な顔で言われたのはつい数十分前のこと。依頼を受けこうして建て直しの中継ぎのためにやってきた。ソルシエールはブラック本丸建て直し選任の審神者である。同じ境遇の審神者が他にも数名いる。誰もが一般的な審神者に比べればスーパーチートな審神者である。これも今はどうでもいいので割愛。
「調べてみよう。ロデム、シュヴァルツ、ノアール、ネロ、セイレーン。調べておいで。これまでの審神者のこと」
『御意』
ソルシエールが言うと、姿なき声が応じる。人外の存在である彼ら(全てソルシエールの召喚獣、つまり元は魔物である)ならば10分もすれば戻ってくるだろう。その間にソルシエールは渡されていたこの本丸の過去の調査資料に目を通す。
反吐が出るほどに醜悪な『ブラック本丸』だった。コレクター気質の審神者はレア刀剣を求めて過剰な出陣を刀剣たちに強制していた。当然のごとく資源は鍛刀にのみ使用され、刀剣たちが傷を負っても放置されていた。幸いなのは過剰出陣の結果、刀剣たちの錬度が高く滅多に傷を負うことがなかったことだろう。更に現世ではキモヲタと蔑まれ女に忌み嫌われていた醜悪審神者は見た目が女性的な刀剣男士に暴力を振るい、顔の美麗な男は敵だとこれまた暴力を振るっていた。そして、最悪なことにこの男は某財閥の三男だった。つまり金だけは有り余るほどに持っていた。実家の父や兄たちにしてみれば金さえ与えておけば自分たちに迷惑はかけないだろうと思ってのことだったが、それは逆だった。男は金に物を言わせて自分より劣ると思った他の審神者からレア刀剣を奪い取っていたのだ。そうして三日月宗近や鶴丸国永を手に入れた。結局、そのことが発覚し、男は逮捕された。芋づる式にブラック運営が明るみになり、罪状は増え、男は現在終身刑で刑務所に入っている。絶対に恩赦の与えられない特別形態の終身刑である。
その後、この本丸は政府が派遣した建て直し担当の審神者によって手入れと場の浄化が為され、その後2人目の審神者が着任することになった。けれど、その審神者は本丸に赴いて30分もしないうちに命辛々の体で現世に逃げ帰ってきた。3人目もほぼ同様。4人目は幸いなのか1ヶ月もったが、精神衰弱と栄養失調によりこんのすけが緊急の救急要請をしてきた。5人目から9人目までは門を潜るや否や同田貫正国と和泉守兼定に刀を向けられ現世に逆戻り。
「……あれ? この5人目以降って誰も怪我してないね」
ん?と疑問が湧く。これってもしかして、刀剣男士が審神者を安全に現世に戻してくれてるんじゃね? そう感じたのだ。
『ミレディ、戻りました』
いつの間にやらソルシエールの周りには4人の青年と1人の中年女性が立っていた。但し、半透明。後ろの日本庭園が体越しに見えている。
『呆れましたわ。この本丸、超ホワイトでしてよ』
中年女性はそう言って報告する。その内容にソルシエールはリアルOTZする羽目になった。
そして……ソルシエールはウサイン・ボルトも真っ青なスピードで本丸を駆け抜け、大広間に見事なスライディング土下座で滑り込んだのである。
セイレーン、ロデム、シュヴァルツ、ノアール、ネロによる過去の審神者の調査報告。
・1人目のブラック審神者:政府の報告書の通り。現在は刑務所で過酷な労働に従事。
・2人目の逃げ帰った審神者:政府に対する詐欺容疑で捜査開始。自作自演の怪我によって審神者労働災害保険を申請し受け取った容疑。その額7桁。
・3人目の逃げ帰った審神者:政府に対する詐欺容疑で捜査開始。自作自演の怪我によって審神者労働災害保険を申請し受け取った容疑。その額8桁。
※なお、この2名に関しては背後に示唆した者がいると思われるため、それについても捜査中。
・4人目のSAN値0審神者:元から思い込みが激しい性格だったらしく、『元ブラック本丸なのだから人間を憎悪する刀剣男士に違いない』と思い込む。前任2名が流血沙汰で帰還していたことを知っていたため、その思い込みに拍車がかかる。こんのすけからは根幹プログラムにバグが見つかる。
・5~9人目の審神者:全員が「あの同田貫正国と和泉守兼定が人間を憎んでいるとは思えない。むしろ人間大好きで罪悪感を感じてるように見えた」と証言。現在は全員、新規本丸で再スタートを切っている。
「ブラックなのはここの刀剣じゃなくて、人間でしたーーーーーー!!!!!!!!! スミマセン!!!!!!!!!!!!!!」
ソルシエールの絶叫が本丸に響いたのであった。