それはとある休日の出来事。
短刀共同部屋(各刀剣の個室とは別に刀種毎に集まれる部屋が用意されている)で短刀たちが揃って寛いでいるときのことだった。因みに現在、この本丸には不動行光を除く全短刀が揃っている。ついでに本丸内では短刀枠(要は子供扱い)の蛍丸も主にこの部屋で過ごすことが多い。
短刀部屋で短刀たちは思い思いのことをしていた。ゲームをするものあり、読書をするものあり、TVを見るものあり。
そんな中で乱はファッション雑誌を見ていた。ここの審神者は女性ではあるもののあまりファッションに興味がない。しかし、お洒落に五月蝿い刀剣男士も多い。初期刀である雅兼定もとい歌仙兼定、乱藤四郎、加州清光、燭台切光忠、蜂須賀虎徹、次郎太刀などは日頃から審神者の服装に物申している。それに審神者は『ジャージやスウェットじゃないだけマシでしょ』と溜息をついていた。和装を押す歌仙・光忠・蜂須賀に対しては『そんなもん着てデスクワークは効率悪すぎる。重傷者が出たときに執務室から手入部屋までの機動が落ちる』と尤もらしい理由を受けて撃退しようとしたのだが、『じゃあ休日ならいいだろう』と逆言質を取られてしまい、2週に1回日曜に和装の日を作られてしまっていた。まぁ、その日は歌仙や宗三に茶道や華道、三日月や小狐丸に香道を習うなどして半ば無理やり楽しみを見つけているようだが。
和装推奨派がその望みを妥協の上で叶えたことで洋装推奨派も黙ってはいなかった。そして、洋装推奨派は審神者の日常の服装をコーディネイトするという役目を勝ち取ったのである。現在、毎日の審神者の服装は乱・加州・次郎、時折歌仙・燭台切・蜂須賀も加わっての『主の女子力磨き隊』によって選別されている。審神者の『デスクワークしやすく、動きやすい服』という条件の下、過度な装飾などはない、シンプルでエレガントをコンセプトとしたものになっている。ついでに審神者の適当メイクも不満だったため、朝食後に審神者のメイクを直すこともしばしば。
そしてこの『主の女子力磨き隊』筆頭が乱であり、乱は次のシーズンで審神者に着せる服を選ぶためにファッション雑誌を山と積んでリサーチをしていたのである。
「わぁ、これ、花嫁衣裳ですね。きれいですねー」
乱が積んでいた雑誌の中から1冊を引っ張り出して見ていたのは五虎退と秋田藤四郎だった。普段見ることのない女性用のファッション誌に興味津々だった。そして、その1冊は実はファッション誌ではなく結婚情報誌だった。婚礼衣装特集を組んでいたため、加州が間違えて購入したものだった。
「こちらの白無垢は主君に似合いそうですね」
「そうかなぁ。こっちも似合うと思う」
華やかな写真を見ながらあれこれと言い合う五虎退と秋田に、基本的に主大好きな短刀たちは興味を惹かれた。
「うーん、和装もいいけど、こっちのウェディングドレスもいいよ! ほら、これあるじさんに似合いそうじゃない?」
直ぐに参戦したのは別のウェディングドレス特集をした雑誌を手にした乱である。それにどれどれと信濃や平野も覗き込む。
「婚礼衣装なんだろ? 婚礼っていや祭りじゃねーか! ならこの派手に赤い着物がいいって! こっちなら主さんにも似合うだろ」
「国俊、なんか違う。婚礼は祭りじゃないよ。それにそっちのより、こっちのほうが似合うし」
「主君なら、このどれすも似合いそうです! 濃い青が素敵ですよ」
「こっちのでざいんはすらっとしてて、主君のしゃーぷな雰囲気と合いますよ、きっと!」
「いやいや、大将の温かい感じならそっちよかこっちのふんわりしたどれすのほうがいいだろ」
「これがいいと思う。似合う」
短刀全員14振+蛍丸がテーブルを取り囲み、あーでもないこーでもないと審神者にどれが似合うかを主張し合う。それぞれが主張を曲げることなく、議論?は白熱していった。しかし。
「けどよ、これって婚礼衣装だろ? 大将、着る予定ねぇだろ。婚礼相手もいねぇだろうし」
何気ない、全く悪気のない厚の言葉に場がシーンを凍った。
「いち兄がいるじゃない!」
その空気を破ったのは乱だった。が、その発言に乱を除く全員が『何言ってんだこいつ』という顔になる。
「いち兄があるじさん娶れば婚礼できるから、このウェディングドレスも着てもらえるし、なにより、あるじさんがいち兄のお嫁さんなら、ボクたちにとってあるじさんは姉さまになるし!」
自分以外のポカーン顔を気にもせず続いた乱の言葉に粟田口は衝撃を受けた。
あるじさんは姉さま あるじさんは姉さま あるじさまは姉さま……姉さま……姉さま……姉さま………………
その言葉が粟田口短刀の脳裏でエコーする。
「いいじゃねぇか! そうだな、いち兄がいるな!」
普段は冷静沈着な薬研が珍しく喜色満面で力強く頷く。
「そうですね! 主君が私たちの姉上になる……素敵です!」
「うんうん、いいね! 大将のことはいち兄に任せて!」
キラキラ笑顔で審神者の第二の懐刀(第一は初鍛刀の薬研である)を自認する前田が同意し、それに懐に入りたい系男士信濃も続く。
「主様が……姉さま……」
「主君が姉上なんですね!」
「よかね! よかね!」
「うわぁ。姉さまかぁ。早く主君をそうお呼びしたいです!」
「大将が姉貴かぁ。なんか照れるな!」
「けど、いち兄と大将が
「ね! ああ、早くいち兄あるじさんにプロポーズしないかなぁ」
盛り上がる粟田口短刀10振。
「よし、いち兄に主さんに求婚するごつ発破かけんといかんね!」
立ち上がった博多につられて、他の9振も立ち上がる。
しかし……
「ちょっと待ったぁあああああ!」
懐かしの『ちょっと待った』コールを発し、博多の前に立ちふさがった者がいた。え、ちょっと待ったコールが判らない? ねるとん紅○団でググってみてください。
「なんで一期一振なんだよ! 主の旦那ならみっちゃんだろ!」
そう、立ちふさがったのは当本丸一番の新人、太鼓鐘貞宗。本丸では燭台切に倣って『貞ちゃん』の愛称で呼ばれている。
「一期一振よりみっちゃんのほうが主の傍にいるし! みっちゃんのほうがお似合いだぜ!」
1対10の睨み合いである。が……
「そういうことなら、三条だって、(えーと……こぎはぺっとわくだし、石切丸はおとうさんだし、岩融はありえないし……そうだ!)三日月がいます!! あるじさまには三日月こそがふさわしいんです! いちにいもみつただもおよびじゃありません!!」
色々な葛藤の末、天下五剣を持ち出して今剣も参戦する。そうなると他の二派も黙ってはいなかった。
「待ってよー。国行のこと忘れてない? 国行は主の好みだよ!」
「そうだぞ! 主さん、関西弁眼鏡好きだって言ったんだ!」
自称ニート(但し当本丸ではそれなりに働き者)の保護者を持ち出す来派の蛍丸と愛染。しかし、君たちは失念している。審神者が好きな『関西弁眼鏡』は200年前の某週刊少年漫画テニヌとバヌケのキャラクターであることを。
「こ……江雪兄様だってあの人にお似合いだと思う」
控えめに左文字も主張する。ここで宗三を推薦しないところが小夜らしい。まぁ、宗三ではどっちが嫁か判らないが。
「江雪はこの本丸にいないから却下!」
しかし、一瞬で退けられる。未だ江雪難民から抜け出せていない審神者だった。
一見10対1対1対2対1(ラスト1はほぼリタイア)の6つ巴に見える戦いだが、実のところは粟田口VS少数派の戦いでもある。
「っていうか、光忠さんじゃ貞ちゃんの『姉さま』にはならないでしょ!」
「俺とみっちゃんは兄弟みたいなもんだからな! 問題ない!!」
「国行も俺たちの兄ちゃんじゃねーけど! でも保護者だからな! とーちゃんって感じじゃねーかからにーちゃんで問題なし!!」
「そうだよ! だから主が姉さまでいいの!」
「ぼくたちはだれがあにかはわかりませんせど! だったらべつにみかづきがちょうなんでももんだいありません! だからあるじさまがあねさまです!」
「江雪兄様のお嫁さんなら、姉さまだよ」
お前らなんで誰が審神者の夫になるかで喧嘩してるんだ、どれが似合うかって話じゃなかったのか。そうツッコミが出来る者はここにはいない。なので閲覧者の皆さん突っ込んでください。
10対5の争いは数の上では粟田口優勢ながらも徐々に勢いに押されている。
「そこで退いちゃダメですよ! 主は俺たちの姉さまになるんだから!」
「主が姉上だ」
スパーンと障子を開き登場したのは、粟田口年長組、脇差W藤四郎だった。が、それでは終わらない。
「ちょっと待てよー。ここはやっぱり長曽祢にーちゃんだろ?」
続いて乱入したのは同じく脇差の浦島虎徹だ。
「一期一振も光忠さんもニートも皆主さんよか年下設定(当本丸限定年齢設定・審神者の独断と偏見)じゃん! その点長曽祢にーちゃんなら主さんよか年上設定! お似合いじゃん!」
「そういうことなら伏の兄弟だっていいですよね! 本丸最初の主さんより年上設定でしたし!」
にっこりと食えない笑みを浮かべた鬼の副長の愛刀まで参入する。本当は局長の刀である長曽祢もいいなーとは思ったのだが、やっぱり堀川も審神者を『姉』と呼んでみたかった。きっと切国の兄弟も喜ぶし!
(ここで数珠丸恒次! って僕が主張しても小夜君の二の舞だよねぇ)
本丸では唯一大人扱いの脇差青江は賢明にも参戦を回避した。でも面白そうだから観戦はする。どうなるんだろうねぇとにっかりと笑いながら。
脇差部屋は短刀部屋の隣だ。そのため短刀部屋が婚礼衣装話で盛り上がり始めたときから声は丸聞こえだったのだ。そして話題が展開してからは黙っていられなかったというわけだ。
「としうえなら三日月もですよ!」
「みか爺は爺枠なんだから、夫とか有り得ないでしょ!!」
反論した今剣は即座に乱に撃破される。
「うぐぐぐぐ」
三条・来派・左文字(ほぼリタイア)に続いて虎徹・堀川までもが参戦し、戦いは混沌としてくる。
「江雪兄様だって、来たら、きっと年上……」
「仮定の話は意味がなか!」
小夜の言葉は直ぐに却下される。いや、そもそも誰が審神者の夫になるかと言うのがそもそも仮定の話ではないのか、というツッコミ(以下略)
「小夜、退いてはなりません。きっと江雪兄上も間もなくやってきます。信じるのです」
そして、混沌は更に加速する。打刀参戦である。脇差組乱入の襖とは反対の襖が開き、流石は魔王の刻印を持つ刀らしい妖しさを漂わせ籠の鳥が現れた。
「宗三兄様……」
「小夜、1人でよく頑張りました。僕が来たからにはもう安心ですよ」
「何を仰るウサギさん! でございますよぅ!」
「主は、俺の姪っ子」
宗三の肩に手を置きまるで威圧するかのように現れたのは本丸無口ナンバーワンの粟田口の叔父・鳴狐と本丸おしゃべりナンバーワンのお供のきぃちゃん。鳴狐の姪=甥(一期一振)の嫁というわけだ。無口ながらも本丸絶対的第一部隊隊長の叔父の登場に粟田口の甥っ子たちは力を得る。
「そうですよ! 主君は私たちの姉さまになるんです!」
「俺っちたちが大将の弟だぜ? こればっかりは譲れねぇなぁ」
力を得た前田と薬研が再び反撃に出ようとしたそのとき。
「御用改めである! 主の夫は長曽祢さんに決まってるじゃん! 隊長の刀なんだから!」
新撰組、参戦。加州の隣には大和守・和泉守が揃っている。
「兼さん……いくら兼さんがそう言ってもこれは譲れないよ!! 主さんは伏の兄弟の奥さんなんだ! 僕の義姉さんなんだ!」
何故か確定したかのように言う相棒に和泉守はやれやれと首を振る。
「修行修行言ってる伏さんじゃ、主の旦那は務まらねぇだろ。近藤さんの刀の長曽祢さんなら立派に務まるさ!」
「そうだよ。贋作とはいえ兄は素晴らしい刀なんだからね。浦島、1人でよく頑張ったね。ほら、兄弟以外にも心強い味方がいるよ」
ついにはこんなことには加わらないであろう真作までが登場する。
「蜂須賀兄ちゃん! 新撰組の皆!!」
キラキラとした笑顔で浦島は新たに出来た味方を振り返る。次兄と新撰組3振。
「写しの俺など力になれるかは判らんが、兄弟、俺もいる」
いつの間にか堀川の背後には布お化けもとい山姥切国広が立つ。口は立たないが心は兄弟と一つだ。
争いは粟田口(13)VS伊達組(1)VS三条(1)VS来(2)VS左文字(2)VS虎徹+新撰組(5)VS堀川(2)。カオスもいいところである。
「粟田口のかずのぼうりょくですね……三日月をしじするものはいないのですか!」
絶対的第一部隊隊長の鳴狐の参戦で粟田口は勢いを盛り返している。ただでさえ本丸最大勢力。
「和泉守は歌仙をすいせんしないのですか? あなたのひいひいおじいちゃんでしょう!」
ここで今剣は作戦変更だ。かっこげきはとしゃれこみますか! 最大のライバルの台詞であるが気にしない。歌仙ならば審神者の初期刀で本丸の誰もが一目を置いている。充分に対抗馬になるはずだ。
「そうか! 之定か!」
「僕を巻き込まないでくれるかい?」
実は打刀部屋にいた歌仙であるが、我関せずを貫いていた。
「僕が参戦したら圧倒的有利だろう? 主の絶対的な信頼を得ている初期刀だからね」
我関せずを貫く割に煽りよる、この初期刀。でも面倒事に巻き込まれたくないからそれ以上は何も言わずに読書に戻る。耳はダンボだが。
「伽羅ちゃん!」
「馴れ合う気はない」
ついでに打刀部屋の隅にいた大倶利伽羅に貞宗が声を掛けるも一言で拒否。といいつつ、大倶利伽羅は何故か貞宗の後ろに移動した。目一杯馴れ合ってるね、伽羅ちゃん!
そして、そんな大倶利伽羅や歌仙を見、へし切長谷部・同田貫正国・陸奥守吉行の3振はこっそりと短刀部屋からの死角に逃げた。巻き込まれるのは面倒だが、ネタとしては面白い。勝敗が気になるのでこっそり盗み聞きを続けることにした。主厨なへし切長谷部だが、自分が狙うのは主の夫の座ではなく腹心の座だ。ライバルは一期や燭台切ではなく歌仙なので大人しい。
「宗三兄様……左文字は不利だよ。江雪兄様いないもの」
「そうですね……では小夜、何処に加勢するかは貴方に任せましょう」
「うん」
やはり現時点で本丸にいないのは痛い。主の江雪難民が恨めしくなる。いや、難民という意味ではここにいる誰よりも審神者に求められているのは江雪だ。
「ねぇ……一期も光忠さんも三日月も主は求めてなかったよ」
いや、一応、三日月以外は求めていた。ただ、あっさり来たからその期間が短かったというだけだ。その言葉に宗三はハッとし、意図を察して小夜に続く。
「ですが、江雪兄上は現在進行形で主に求められています。ならば、兄上が来れば兄上こそが一番夫としてふさわしいのではありませんか」
難民を逆手に乗っての左文字の作戦!
「来てから言ってくれや、お小夜、宗三の旦那」
しかし流石は審神者の懐刀。あっさりと一刀両断。
「……なら、左文字は伊達組に加勢する。光忠さん、いい人だから」
延享で自分をとても気遣ってくれたのが光忠だ。長兄はいない。昔馴染みの歌仙は不参加。ならば、燭台切を支持する!
「そうですね。光忠なら忙しい主をしっかりとサポートすることが出来ます。炊事洗濯掃除完璧です」
「だよな! みっちゃんなら書類仕事だってバッチリだぜ! なんたって全部をかっこよく決めたいんだから!」
「あいつは伊達の刀だからな」
左文字加入により力を得る伊達組。更にそこに追加勢力が加入する。
「あー……国行じゃ主さんのサポート無理だよなぁ……」
「うん、本丸一の働きたくない系男士だし。うん、じゃあ、俺たちも光忠支持するー! 光忠のご飯美味しいし!」
厨房番長は伊達じゃない。しっかり胃袋ゲットだぜ。男を落とすにはまず胃袋からというしね!(なんか違う)
「おいおい、いち兄だって大将のサポート出来るぜ?」
「いち兄のお嫁さんなんですから、私たちもしっかりこれまで以上にお手伝いしますから」
流石粟田口、数の暴力。祐筆班に5人もいる粟田口ならお手伝いはバッチリだ。
「何言ってやがる。曾祢さんだって局長の刀なんだ! 隊の運営は判ってるからしっかり主を手伝えるぜ」
「弟として俺だって手伝うしね」
「局長の(刀の)奥さんなんだから、俺がばっちりデコっちゃうしー!」
新撰組+虎徹も黙ってはいない。
もうなにこれカオス。そんな風景が短刀部屋で繰り広げられていた。
「こんなとき、どういう顔をすればいいのか判らんのです」
聞こえてしまった弟たちの会話に一期は赤くなった顔を覆い、俯いてしまった。その肩を慰めるように燭台切が叩く。太刀部屋は短刀部屋とは廊下を挟んで正面だ。ヒートアップした短刀部屋の会話は筒抜けだった。
「もう、貞ちゃんも伽羅ちゃんも何を言いだすんだか……」
燭台切も呆れたように溜息を漏らす。
「蜂須賀がデレた……(感涙)」
「長曽祢殿、何か違うのである」
将棋を指していた長曽祢(打刀)がいつもはつれない次男に感動し、それに山伏が苦笑する。弟たちの暴走は『これもまた修行であーる』といつもの台詞で片付けた。何が修行なんだろう。
「というか、なんであんなにヒートアップしてるんだろうねぇ、あの子たち」
碁石を置きながら髭切が呟けば
「そうさなぁ……主を『姉』と呼びたいということか」
碁盤を眺めて唸りながら三日月が応じる。平安太刀は流石の落ち着きである。因みに髭切の横では膝丸が(出遅れた……!)とか思っているとかいないとか。
「蛍も国俊もひどいわー。自分のことなんやと思ってますの」
「ぐうたら保護者じゃね?」
被保護者があっさりと伊達組に協力したことで落ち込む明石を、同派がおらず巻き込まれることなく平和だった獅子王が慰める。まぁ、獅子王の場合高校生認定だから関係者がいたとしても名前は挙がらなかっただろうが。
「ぬし様は短刀や蛍のことは弟ではなく我が子認定しておられるからのぅ。我らのことも弟と思うておいでじゃ」
今剣が自分をガン無視していたことにちょっとばかり悲しみを覚えつつ小狐丸は呟いた。
「蔭でこっそり『お母さん』って呼んでるよね、あの子たち」
小狐丸の言葉を燭台切が受ける。そう、あの審神者は既にこの本丸の刀剣男士を『家族』だと思っている。息子であり、弟であり、兄であり、祖父であり。そこに『夫』はないのだ。
「しかし、このような騒ぎ、主殿に聞かれなくてよかったですな……。主殿を困らせてしまいかねません」
「主であれば笑って流すであろうがな」
この日審神者は現世へと出かけていた。因みにお供は大太刀(蛍丸以外)・槍・薙刀の6振である。なにやら現世でしか手に入らないものを大量購入するためだとかで、本丸ガタイよい男トップ6を連れて出かけていたのだ。
短刀部屋でヒートアップする議論をBGMに太刀(打刀1含む)たちは改めてそれぞれの休日を過ごすのだった。