同田貫正国は語る

 あ? なんだよ。俺が洗濯物畳んでちゃ可笑しいかよ。

 『武器だと一番主張しているお前がやっていることが不思議』か。あー、確かにそう思うかもなぁ。なんだ、お前も家事当番に不満なのか?

 当たり前だって? まぁ、そう思うだろうなぁ。けどな、家事当番やりたくねぇ、戦いにだけ使えってんなら、お前、本丸では刀に戻ってろ。そうすりゃ飯も掃除も洗濯も必要ねぇから当番からは外れる。

 あ? 酷いだと? 何がだよ。当然のことだろ? 家事当番は俺らが人の身で生活するのに必要なことなんだから、俺ら自身でやるのが当然じゃねーか。

 まぁ、これは俺が同じこと言ったときに歌仙の野郎に言われたことなんだけどな。

 ああ、そうさ。俺も言ったぜ。料理に掃除洗濯なんざ刀のやることじゃねぇってな。だから俺はやらねぇって。右近に、ああ、主に言ったぜ、面と向かって、全員揃ってるところでな。

「そんなもん、本丸でのんべんだらりと煎餅食ってるお前がやりゃいいだろ。俺たちゃ命懸けて戦ってんだ。ヒマなお前がやるのが筋ってもんじゃねぇのか」

 そう言って拒否したんだ。何人かはそれに頷いてたな。

 どうなったかって? 今の俺見りゃ判るだろうが。

 あんときゃ怖かったぜ、マジで。いや、主じゃねぇよ。その傍にいた前田と乱だよ。あんときゃまだ2人とも錬度低かったはずなのになぁ……。すげぇ殺気だったわ。今剣は冷めた目でこっち見やがるし、五虎退は半べそかきながら睨みつけてくるし。薬研と厚と愛染と小夜はいつの間にか背後とってやがるし。平野と秋田は主のまん前に立って守ってやがるし。

「えーっと、それじゃ、同田貫君は食事は要らないってことだね」

 燭台切は歌仙とそんなこと話し始めるし、訳わかんねーって思ったぜ。

「主さん、こんな狸刀解しちゃおう、そうしよう! 錬度低いんだし問題ないよ!」

「そうですね、あるじさま。乱にさんせいです。だいじょうぶですよ、うちがたなは長曾祢いがいそろってます。たぬきのいっぴきいないところでもんだいありません」

 短刀連中が口々に俺たち不要論を言い出しやがった。まぁ、俺に賛成してた連中ってのが揃って錬度低いってのもあったしな。あ? ああ、そのときにいなかった打刀は長曾祢虎徹だけだな。今もまだいねぇけど。ちなみに俺に賛同してたのは和泉守と蜂須賀、大倶利伽羅だな。

「乱ちゃんも今ちゃんも過激。落ち着きなさい」

 主は苦笑して短刀たちを宥めてた。俺がそう言い出すことは予想してたみてぇだな。いつかは誰かが言い出すと思ってたらしい。武器として兵士として招かれてるんだから、戦と関係ない家事労働に拒否感を示す刀剣男士はいるだろうって。

「うん、判った。家事労働拒否ね。でも、そうすると他との不平等が生まれるから、炊事洗濯掃除以外で何らかの役割持ってもらうよ。あ、出陣・遠征増やすってのはこれも不平等だからダメ。皆出陣遠征はやりたいんだから」

 そう言って主は歌仙を見たんだ。初期刀であるあいつは近侍だったからな。第1部隊隊長じゃなくなっても実際には第一の側近だ。それは今も変わらねぇな。

「まぁ、家事労働以外の役目を与えるというのは反対しないよ。でもね、主。その前に僕は彼らの言い分に異を唱えたいんだが」

「ああ……写しの俺でも判っていることを判らぬこいつらは写し以下だ」

「世間知らずの籠の鳥でも判っていることを判らぬなど……蒙を啓いてやるべきでしょうね」

「そうじゃのう。知るべきことを知らんのはようない」

「だよね! 首落ちて死ねっての」

「ホント。マジ有り得ない~」

「……加州、女子高生?」

 俺ら側以外の打刀が口々に言いやがった。

「……主、暇なんかじゃない」

「寧ろ、一番忙しいのって主さんですよねぇ」

「そうだね。いつ倒れてもおかしくないよね」

 脇差連中は冷たい目でこっち見やがるし。相変わらず短刀連中は殺気滲ませて睨みつけてくるし。

「そこで提案だ。明日1日主に密着してはどうかな? そうすれば主がどれだけ忙しいかよく判るはずだよ」

 歌仙の野郎がそう提案してきた。朝から寝るまでの間、ずっと主に付き従って何をしてるのかを見てろってな。

「えー、歌仙さん、それ拙いって。主さん、女人だよ? お風呂や寝るときどうするの?」

「いや、乱。誰もそこまで密着しろとは言ってねぇだろ」

「だが、厚。大将が忙しいのは日中だけじゃねぇ。寧ろ俺っちたちが休んだあとも大将は仕事してるじゃねぇか」

「そうですね。主君は夜中まで戦況分析や戦場・敵の情報収集などなさっていますし」

「僕、歌仙さんが夜中に主様の執務室から出てくるところ見ました。色々相談なさってるんだと思います」

「日中は戦場に出てるから……夜中にやるしかない」

「燭台切も主さんとこ出入りしてるよな」

 短刀たちの証言に主は驚いてたみたいだな。知ってるとは思ってなかったらしい。

 あのな、主、めちゃくちゃ仕事してるんだ。俺はそのときまで全然知らなかった。でも、2日目・3日目顕現の連中はちゃんと知ってたんだ。あ? 俺は4日目だな。燭台切も同じだ。けど、燭台切はちゃんと判ってた。同じ日に顕現した加州と青江も知ってた。

 主の朝は早いんだ。日の出とともに起きる。まぁ、それは結構な数の刀剣もそうだけどな。んで、まずは朝餉作り。燭台切と歌仙と薬研も手伝ってるな。朝餉が済んだら、日課任務の刀装作り・鍛刀、錬結と刀解。ここまではお前も知ってるだろ?

 で、そのあとは出陣なわけだ。俺らは戦場を歩いて敵を探して、戦ってる。けどな、主にとって俺らが歩いて索敵してる時間はないんだ。どういう仕組みなのかは知らねぇけど、戦場と本丸じゃ時間の流れは違う。俺らがのんびり休憩してる時間は、主にはないんだぜ? 知らなかった? ああ、そうだろ? 俺も知らなかった。主は俺らが戦場にいる時間、全て偵察と戦闘なんだ。ぱそこんのもにたーを通して戦闘だけを見てる。緊張しっぱなしなんだよなぁ。

 1日密着して驚いたぜ。主がぱそこんの前にいる間は常に戦闘してるんだ。1時間に10~12戦くらいだったか。それを午前中に3時間、午後に5時間ぶっ続けだ。俺たちみたいに途中で休憩を挟むこともねぇし、めんばーの入れ替えもねぇ。

 確かに俺らの認識は間違ってた。暇なんかじゃねぇ。寧ろ戦場に出てる俺らのほうが暇だ。

 しかもよ。俺ら、夕餉の後は『ふりーたいむ』だろ? けど主はその時間も仕事してんだ。報告書書いたり、情報収集したり。歌仙や燭台切、長谷部、今だとそこに一期一振も加わるか。そいつらと部隊編成組んだり、戦場選定したり、今後の進軍計画立てたり。

 結局、寝るのは日付が変わってからだな。俺らには最低6時間は眠れっつってる癖に、本人の平均睡眠時間が4時間とか巫山戯んなって感じだろ。だから倒れるんだ。

 あ? ああ、そうか。知らねぇよな。うん、倒れたんだよ、あの馬鹿主。3ヶ月目くらいかな。今の隠居組が錬度カンストしたあたりだ。そりゃ3ヶ月目でカンストさせるっつーんだから、かなり出陣しまくってたのは判るだろ? あのころは1日に100戦近くやってたからな。倒れたのは過労だよ、過労。あんときゃ本丸中大騒ぎだったぜ。態々現世からあいつの担当官ってやつまでやってきやがったくらいだ。

 あー、話逸れたけどな。

 家事労働が刀剣の仕事じゃねぇってのは判る。その気持ちは充分にな。だから、どうしても嫌だってんなら、それを主に言えばいい。出陣・遠征以外で刀剣として妥協出来そうな仕事を考えてくれるはずだ。

 けど、くれぐれも言っとくぞ。主が暇そうに見えるとか言うなよ。実際、あの間の抜けたツラ見てるとそう見えるんだけどな。

 でも、言ったが最後、主を母親のごとく慕ってる短刀連中と、主の激務を見てきた打刀・脇差勢と、主の激務に保護者化してる太刀連中に折られるからな。マジで。本気で『主はヒマそうだな』はこの本丸では禁句だからな。