Episode:51 イベント連発

 ずず様が来て、うちの本丸も60振の刀剣が集まった。うーん、ほんの数か月前までは1年以上刀剣男士数に変化がなかったのが嘘みたいだ。一気に9振も増えた。順調に140番以降も増えていってるし。

 なんて思ってたら、また140番以降が増えそうだ。理由は政府から発表された今後のスケジュール。1年数か月前の改革は何だったのかと言いたいくらいのイベント目白押しだった。

 けど、それはかつてのように審神者を通常戦場から引き剥がすためのものではなくて、一応理由のあるものだった。

 11月下旬から年末にかけて新たな特命任務が課されることが決まったのだ。だから、その前に各本丸が戦力を拡充し錬度を上げるためにそれらのイベント連発となったらしい。行われるイベントは謙信景光鍛刀キャンペーンと江戸城潜入調査、そして内番+1キャンペーン。

 ということで、まぁ理由も判るし、江戸城の宝箱のアイテムも欲しいしってことで、珍しく久々に江戸城潜入調査にも参加することにした。極っ子の遠戦可能面子だと全ての戦闘が完全勝利Sで行けるから、経験値効率もいいしね。

 で、江戸城潜入調査前の鍛刀キャンペーン。

 私の場合、鍛刀キャンペーンでその対象の刀剣が来たことはないから、極っ子の錬結素材作る程度のつもりで推奨レシピで1日3回の鍛刀をしてたら。

「見慣れぬ短刀ですね」

 鍛刀近侍のずず様が首を傾げる。うん、私も見たことないね! ってことは来たわけだ。なので光忠を呼び、依代を預ける。

「ふーん、来たんだねぇ」

 ちょっと怖いです、光忠さん。長船の祖の刀は上杉の長船刀140番以降の同派にちょっと厳しい眼を向けてますからねー。でも、受け入れることを決めたんだからいつまでも拘るのは格好悪いよ!

「みっちゃん、分霊に罪はないからね。決めたのは本霊だからね。うちに来た謙信景光に罪はないから」

「まぁ、それもそうだね。色々とグダグダネチネチいうのも格好悪いし、この子の顕現までには完全に切り替えておくよ」

 ニッコリ笑う祖、怖い。でも、そこはある意味ドライな鎌倉刀だから切り替えると割り切ったらあっさり行くんだろうけどね。それに元々はお世話焼きスキルのカンストした光忠だし、年少の同派が来れば保護者になるだろうしなぁ。謙信景光の相棒兼保護者みたいな小豆長光もまだいないとなると、光忠のお世話焼きスキルがここぞとばかりに発動しそうな気もするなあ。景光刀は光忠刀にとっては孫みたいな位置づけみたいだし。よろしく頼むね、みっちゃん。

 なお、光忠同派の短刀が来たことにこれまで光忠オカンスキルの最大の犠牲者にして恩恵を被っていた伽羅はちょっと複雑そうだった。これで口煩いオカンから解放されるという喜びと、一番構われていた素直じゃない甘えん坊部分で感じる寂しさで複雑な模様。でも大丈夫だよ、伽羅ちゃん! 光忠の包容力は半端ないから! 謙信景光が加わったくらいで伽羅へのオカン度が減少するなんてことはないからね。

「彼も、4月の顕現ですか」

 光忠を見送り、執務室へ向かう途中、ずず様が尋ねてくる。というか、確認だね。ずず様は刀帳番号の関係で直ぐに顕現されたけど、そのあとに来た秘宝の里報酬の豊前江と今日の謙信景光は顕現見送りだから、思うところもあるだろうな。一応どうしてこうするのかは説明してはいるんだけどね。

「そう。以前話した通り、刀帳番号140以降には思うところもあったからね。私や古参メンバーの意識切り替えのために4月にまとめて顕現することにしてるんだ」

 鍛刀でやって来た毛利藤四郎(一期預かり)、ドロップでやって来た巴形薙刀(岩融預かり)、秘宝の里でゲットした豊前江(歌仙預かり)、そして今日の光忠預かりの謙信景光の4振が4月に顕現予定だ。4月までに鍛刀かドロップで小豆長光、篭手切江、静形薙刀のうち2振来れば丁度1部隊で育成出来るな。あ、でも江戸城報酬が南泉一文字だし、巧くゲット出来れば1振でOKか。






 11月中旬になり始まった江戸城潜入調査。出陣は極でまだ錬度上限になってない短刀たち。いやだって、この戦場って極鍛刀が特上銃兵2装備してれば完全勝利Sだけで周回出来るからね。刀剣たちもそれを知ってるから育成順序がちょっと前後することになるけど、快く了承してくれた。皆極ってからの錬度上げには苦労してるからなぁ。

 尤も、その苦労は初期極の6振からすれば『全然苦労でも何でもないだろ!』になる。元々極の必要経験値って桁間違えてるだろ!? って言いたくなる数値だったし。1年数か月前の改革で必要経験値が見直されて、薬研たちのころに比べれば約4分の1にまで減ってるからねー。今の極の経験値でも打刀とか大太刀とか凄い数値なのに改革改正されてなければどんだけ必要だったのかと怖くなる。

 そういう過去の錬度上げの厳しさを皆知ってるから、今がどんなに辛くても何も言わないんだけどね。いや、過去の必要経験値時代を知らない貞ちゃんと行ちゃんと包ちゃんともっくんと亀甲がちょろっと愚痴を言ったことがあるんだけどさ、うん、怖かったよね。初期極の6振が。声を荒げることもなかったけど、目が笑ってない笑顔だったよね。薬研や厚や乱ちゃんならともかく、前田まぁ君や五虎ちゃんや愛染あい君のそんな笑顔なんて見たくなかったよ……。直ぐに保護者たちから過去の事情を説明されて平謝りしてたけど。

 ともあれ、江戸城周回しまくって宝箱開けまくって無事南泉一文字をゲット。余り鍵の収集率が良くなかったからギリギリでした。うん、これも物欲センサーなのかな。ついでに特上刀装や修行道具1セットもちゃんとゲットできたから、まあ問題はないかな。

 南泉の依代は特に縁者はいないっぽいんで歌仙に預けて、これで4月顕現予定の刀剣男士は5振になった。






「陸奥~、どうする?」

 文久土佐藩の特命調査が近づいてきて、一番の関係者であろう陸奥と話をすることにした。文久は将軍家茂の時代。生麦事件とか馬関戦争とか薩英戦争とかあった時期だね。池田屋事件もこの頃か。とすると、陸奥は現役バリバリで坂本龍馬の刀やってた頃だ。直前情報で前回の山姥切長義的な位置にいるのがどうやら武市半平太と岡田以蔵の刀剣っぽいという話も出てきてるし、彼らは坂本龍馬と関係深いから、陸奥ともそれなりの関係はあるかもしれないしね。尤も、陸奥がその当時既に付喪神として目覚めていたかは判らないけど。

「んー、どーでもいいちや。部隊編成はおまさんに任せちょるき、わしが入っても入らんでもどっちでもええき」

 行きたい! っていうかなと思ったけど、陸奥はあっさり。

「おまさんや歌仙たちの考察じゃとわしの本霊に関わる戦場っちゅう予想じゃろ? けんど、そこにわしが行くのもなんか違う気がするんじゃ」

 聚楽第は山姥切国広の存在に関わる戦場だと言われていた。今度の特命調査も陸奥守吉行の関わるのではないかともいわれている。だから、何処でも陸奥守吉行を中心に部隊を組むみたいなんだけど、それはどうなんだろうって思うんだよね。だから、陸奥次第で出陣メンバーに入れるかどうか決めようと思ってたんだけど、陸奥はどっちでもいいと。

「じゃあ、陸奥は今育成部隊だし、このまま第一部隊でカンスト目指そうか。特命調査はカンスト済みの隠居組が戦いたいって言ってるからそっち出す」

 今回の特命調査もスルーしようと思ってたんだけど、一応1回は出陣してほしいって丙之五へのごさんから要請が入ってるんだよね。だから、カンストして暇してるメンバーで出陣してもらおう。

 うちは基本的に本刃直接が関わってるような戦場には本刃が希望しない限りは出さないようにしてる。本能寺の織田組とか、函館の土方組とか。池田屋は土方組は希望してくれたから行ってもらったし、阿津賀志山や延享は直接の関わりじゃないから行かせたけど。

 この文久土佐藩の戦場も陸奥守吉行は直接関わってはいないだろうけど、縁の深い土地だし、元主と縁の深い人物たちも関わってくるから、行かせるのが怖いんだよね。特に陸奥は色々自分の悩みとか懊悩とかは隠すタイプだから。まぁ、隠したとしても仲のいい清光キヨや兼さんが吐き出させてくれるだろうけど。

 キヨや兼さんが仲いいというと偶に驚かれるんだけど、キヨは初期に顕現した初期刀組同士で1回喧嘩した後は直ぐに仲良くなったし、兼さんも割とすぐに打ち解けてた。実は個人的に土方歳三と坂本龍馬って出会い方によっては親友になれたんではないかとか勝手に思ってる。幕府配下と討幕派志士という立場の違いはあるけど、どちらもこの国の未来のために戦ってたことに違いはないだろうし。それに坂本龍馬って討幕派だけど反徳川ではないようにも思えるからなあ。まぁ、こんなことを考えるのは某CDドラマで土方を最愛声優だった塩沢兼人氏が演じ、坂本を好き声優トップ5に入る井上和彦氏が演じてて、彼らが別の大好きな作品で親友役をやっていたせいかもしれないけどね!

 そうして色々準備を整えて始まった特命調査。

 部隊編成は極のカンスト済み刀剣で編成し、始まった特別マップを選択する。その途端いきなり通信が入り先行調査員からの指示が伝えられる。つまり前回とは違っていきなり本丸にやって来ることはなかったわけだ。

 前回は突然監査官を名乗る不審者が審神者やこんのすけの許可なく本丸に不法侵入したんだけど、あれは悪手だったと政府も反省したようだった。結構なクレームが歴保省に入ったらしいからね。

 本丸には基本的に審神者かこんのすけが承認しないと入れない。但し監査部の抜き打ち監査は別だ。だから山姥切長義は『監査官』という身分を与えられていたんだろう。でも、いくら監査官とはいえ無許可での本丸侵入が許されるのは飽くまでも『抜き打ち監査』の時だけだ。だから、当然ながらかなりの数の審神者が歴保省と監査部にクレームを入れた。そんな政府の悪手の影響で前回の特務には戦績上位の殆どの本丸が参加していない。理由は一つ。監査官に信が置けないから。山姥切長義が『命令』したことも信用されなかった理由になってる。参加しなかった本丸の殆どが突然やって来た監査官を不法侵入者として拘束して、問い合わせの後送り返してるもんなぁ。

 で、政府は前回の轍は踏まないようにということで、特務エリアであるマップに肥前忠広を『先行調査員』として派遣して、途中で合流するようにした。まぁ、前回よりはマシな対応かな。っていうか、事前に『本丸に肥前を向かわせます。彼とともに調査をしてください』って通達するだけでも十分だと思うんだけど。いきなり本丸に行って送り返された山姥切長義がトラウマ抱えたとかそんな感じだったりするんだろうか。だとしたら申し訳ない。うちも送り返したし。

 ともあれ、『先行調査員』である肥前忠広が後ほど合流するため、短刀8振・打刀3振のカンスト極刀剣のうち本丸を長期不在にはしたくない歌仙と薬研を除いた刀剣で話し合った結果、肥前が脇差なので二刀開眼狙いの打刀1の外は短刀4振が出ることになった。

 結果。遠戦で粗方戦線崩壊させ、取りこぼした1、2振を白刃戦で片付けるという、ほぼほぼ完全勝利Sの戦果で以て肥前と合流することなった。まあ、1日に2回しか賽子さいころが振れなくて、しかも賽子運の悪い私なので1日に2マスしか進めないなんて日もあったんだけどね。博多に絶対7マス進める賽子購入の相談をしたんだけど却下されました。

 それでも2日目後半には肥前と合流できたし、予想よりも早く南海太郎朝尊とも出会うことが出来た。そうして特命調査が始まってから4日ほどで無事任務達成報酬として肥前忠広、その2日後に南海太郎朝尊の依代をゲット。因みに肥前貰った日にずず様がカンストしてた。特務出陣しつつハード出陣してもらったから1ヶ月でカンストしてました。

 正直なところ、打刀は既に飽和状態でうちの本丸にも顕現済み15振、顕現待ち2振いるし、脇差は脇差で今ちょうど1部隊分揃ってるから、肥前も南海も別に来なくてもいいかなとは思ってた。今回の特務に参加したのは丙之五へのごさんからの依頼があったからだし。でも、次にいつ依代入手の機会があるかも判らないから取り敢えず報酬獲得分までの任務は達成しておいた。顕現は140番以降刀剣だから4月か、再来年度に回してもいいしなーと。

 なんてことを思ってたら! 受け取り箱から報酬の依代を取り出した途端、顕現しましたからね! 肥前も南海も! なんでや!!

 前回の山姥切長義のように初めから人型でなかったことはいい。ちゃんと私の霊力で以て体が作られていることは判るから。だからちゃんと『私の刀剣男士』と思えるからね。

 でもさー、錬度1になってステータス初期になってるとはいえ、記憶あるんだよね。これって分霊はうちの調査担当だった調査員と罠職人で体だけ新しくしたってことか。まぁ、特務で一緒に戦った短刀&打刀とはそれなりに会話もしてたみたいだし、記憶ありのほうが本丸に馴染みやすいのかな。

 今回やって来た2振は共に維新側の刀剣男士。まぁ、政府所属刀剣やってたから心配は要らないかなぁと思った。でも本丸の数だけの肥前忠広と南海太郎朝尊が政府所属刀剣やってたとも思えないから、そうするともしかしたら先行調査員だった肥前と罠職人の南海はこの特務のために目覚めたのかな? 錬度高めの2振を臨時顕現みたいな感じで仮顕現させておいて、任務達成できなかった本丸の先行調査員と罠職人は任務終わったら本霊に還るとか。

 うーん、そう考えると、うちに来た前回の監査官・山姥切長義は何も出来ずに本霊に還ったのかもしれない。だとしたら申し訳なかったな。

 まぁ、飽くまでも私の想像でしかないから本当のところはどうなのか判らないけどね!

 で、何を心配していたかといえば、維新側刀剣と新選組刀剣の確執ですね! 確か岡田以蔵・武市半平太の在京時期と新選組というか試衛館メンバーの在京時期は若干の被りはあるけど殆ど入れ替わりみたいなもののはずだから大丈夫かな。

 それに陸奥と新選組刀剣も仲が悪いわけでもないし、確執があるわけでもない。前の主はどうあれ、今は全員『右近本丸の仲間』って認識になってるからね。全員が極だからというのもあるかもしれないけど、極になる前からそうだ。キヨの顕現初日にキヨ・ヤス君VS陸奥で喧嘩して、歌仙に説教されてから互いに話し合って和解しているし、国広くに君と兼さんもそれには同席してたから、かなり初期に和解してる。それからは同時代を生きた刀同士ってことで平安・鎌倉・戦国刀とのジェネレーションギャップについて共感しあえる同士っぽくなってる。長曽祢そねさんは互いの元主のことで喧嘩っぽくなることもなくはないけど、喧嘩というよりは議論だし、結論はいつも『互いの主は己の信念に従って精一杯生きたのだからそれでいいのだ』になってるらしい。彼らの議論は一種のコミュニケーションだ。

 そんな前例があるから、まぁ、肥前や南海も何とかなるだろうと。基本的に元主関係のアレコレについては私が口を出すことはしないので、本丸内で抜刀沙汰を起こしたり任務に支障が出ない限りは何かをするつもりもないけど。

「肥前君! 待ちなさい!!」

 とか思ってたら、顕現して本丸内を陸奥に案内されていたはずの肥前が国君に追いかけられてた。

「後藤君、今剣いま君、五虎君! 捕まえて!」

 更に国君は短刀3振に指示を出す。ちょっと待て。肥前は顕現したばかりの錬度1。対する短刀は全員極で今ちゃんと五虎ちゃんはカンストだ。よって、肥前はあっさりと捕まっている。何があったし、一体……。

「あー、捕まったか」

「いやはや、極というのは怖いねぇ」

 そこにやって来たのは案内を任せた陸奥とともに案内されていた南海。

「何で肥前は国君たちに追いかけられてたの?」

 やって来た陸奥に尋ねれば苦笑される。

「いや、肥前君の装束がね? ほら、彼の戦装束は血で汚れているのが通常だろう?」

 答えたのは維新組には『先生』と呼ばれている南海。

 あー、成程。本丸内で血で汚れた装束は不潔だからお洗濯! ってことか。そういえば国君は洗濯班長だし、追いかけてた短刀も洗濯班だわ。

「あの血ってデフォルトでついてるんだから、洗濯しても落ちないんじゃないの? 最早模様のようなものでしょ」

 今までそういった装束の刀剣男士はいなかったけど、顕現した瞬間から血の付いた装束だったから、あれは模様と認識したんだけど。

「けんど国が追いかけるのも判らんでもないちや。肥前の来歴から考えればあれは己の怪我もしくは人斬りの返り血じゃ。そうなると本丸に穢れが入り込むと警戒するのも判るきのう」

 あー、成程。

「んじゃ、取り敢えず私服購入までは内番服で過ごしてもらおうか。国君のあの剣幕じゃ出陣や手合せ以外で戦装束着てたら追い掛け回しそうだしね」

 うちの刀剣男士たちは基本的に私服で過ごしてる。戦装束も内番服もそれぞれの仕事の時間しか着てない。だから特にそれで問題ないだろう。

「今ちゃん! 肥前こっちに連れてきて!」

 肥前を持ち上げて連行して着替えさせようとしていた今ちゃんに声を掛け、執務室へと連れてきてもらう。いつもなら本丸の案内を先にして一服してから関係者遠征に出すんだけど、先に維新組3振で遠征してもらおう。肥前が脇差だから、甲州勝沼の20分遠征だな。

「陸奥、遠征中に2振の支度金とか部屋の準備済ませておくから、帰ってきたら通販の仕方とか色々生活のこと教えてあげて」

「おお、りょーかいちや! 本丸ルールも遠征中に説明しとくき」

「うん、頼むね」

 この関係者遠征って、刀剣男士目線から本丸ルールを説明してもらう時間でもあるんだよね。初めは家族とか関係者揃ったから彼らだけで話す時間もほしいだろうなってことでやってたんだけど。勿論ルール説明は私からもするけど、同じ刀剣からされるとより納得しやすいらしい。

「じゃあ、ちょーさんも遠征中に陸奥から色々聞いてね。陸奥は運営3日目顕現で初期メンバーだし、初期刀組として本丸運営にも協力してくれてるから頼りになるよ」

 南海はそういえば顕現時に『長いなら朝尊とでも呼びたまえ』とか言ってたから、南海と呼ぶよりは朝尊のほうがいいのかなと、ちょーさん呼びにしてみた。ちょーそんだからちょーさん。

「ちょーさん……」

 が、不服みたいだ。やっぱりにゃーさんみたいにすんなり受け入れてくれるほうが希少種だよねー。ホント、長船の包容力と懐の深さ半端ない。

「ん、複雑っぽいから朝尊って呼ぶね」

「ああ、そうしてくれたまえ」

 そうして3振を遠征に送り出し、彼らが帰還するまでの20分の間に彼らの分のお守り極を買って、彼らの口座に支度金5万円を入金しておく。これで普段着とかは揃えられるな。

「これで62振か。随分と増えたものだねぇ」

 私の作業の隣で見ていた歌仙が感慨深そうに呟く。

「そうだね。最初は歌仙と2人だったし、初日はまだ7人だったのにね」

 あと数か月で4周年になる。時間が経つのはあっという間だなぁ。

「更に4月になればあと最低5振は増えるよ」

「67振か。すると670万円だね」

 は? いきなり何を言い出すんだろう、歌仙は。670万円って。

「主が僕たちのために使ったポケットマネーだよ。顕現して最初に主は僕たちにお守り極と支度金を支給してくれるだろう? それが主個人の財布から出ていることは知っているよ」

 歌仙は穏やかな目で私を見つめる。というか、歌仙知ってたのか。私が私費を使うことを嫌がるから、特に何処からの出費かは言わなかったんだけど。ああ、でも、運営費の内訳は歌仙も見るし気付かれて当然か。あれ、ってことは経理課のメンバーも知ってるよね。経理課が知ってたら、多分博多と後藤から粟田口には伝わってる気がする。博多から長谷部にも伝わってそうだな。

「感謝しているよ。僕たちが安心して戦えるように、快適に本丸で過ごせるようにしてくれていることに。お守りと支度金は僕らが最初に受ける主の愛情の形だ」

 愛情の形、かぁ。そんな風に思ってくれてたんだ。うちの本丸に来てくれたからには、心置きなく戦ってほしいし、折角得たヒトの身だから快適に過ごしてほしい。そう思って支給してたんだけど、そんな風に捉えてくれてたのなら嬉しいな。

「大事な仲間で家族だからね。出来ることは全部やりたい。皆が無事にこの戦いを終えられるようにね」

 正直なところ、戦争終結の目途なんて立っていない。相手の出方次第みたいなところがあるからね。敵の本拠地が未来にあるらしいからこちらからは干渉できない。だから、未来の政府が歴史修正主義者を根絶するまで、私たちは現在の戦いを続けるしかない。いつ終わるとも知れない戦い。1秒後には終わるかもしれない戦いだから、今できることを惜しみたくはないんだよね。彼らを大切に思っていると伝えることもそうだ。

「まぁ、僕たちとしては主の退任後に生活に困らないように無駄遣いは控えてほしいんだけれどね。こう言ったら主は支度金もお守りも無駄遣いじゃないと言うだろうから、これに関しては有難く受け取ることにしているんだ」

 流石初期刀、よく判ってらっしゃる。無駄遣いとか言われたら、懇々と違うということを力説するところだった。

 そんなことを話している間に陸奥たちは遠征を終えて帰ってきた。陸奥に準備OKの旨を伝えて、ミーティング後に方針説明することを新人2振に伝えて彼らを部屋に戻した。

 さて、明日からの育成計画を立てないとね。






 年が明けて1月。2214年になった。年始休業が明けて間もなく、新人2振はカンストした。早いなぁ。まぁ、それだけ出陣しまくってもらったからね。

 大体新人は1振か2振でのパワーレベリングだから、1ヶ月くらいでカンストするようになってる。カンストもしくは高錬度の極っ子と出陣するからね、経験値効率が滅茶苦茶いい。その分経験値ではなく実際の戦闘経験そのものは少なくなってしまうけど、まずは能力値を上げてしまうことが優先だ。

 刀剣男士の能力は刀帳や編成画面で確認できる生存・打撃・統率・機動・衝力・必殺・偵察・隠蔽の他に表に出ない能力値があると言われている。錬度に合わせてその数値は変化しているらしく、確認できる数値は同じでも錬度30と錬度99では明らかに99のほうが強い。そういったこともあるから、先に錬度を上げて、戦闘スキルはその後の手合わせや演練、道場の訓練で身につけてもらっている。なので、今新人2振はほぼ毎日戦闘訓練課の計画に従って鍛錬に明け暮れている。

 さて、そんな中、前回から2ヶ月も経ってないのに新たな特命調査が行われることになった。

 新たな、というのは語弊があるかもしれない。前回の聚楽第特命調査が再度行われることになったのだ。

『前回の調査では明らかになっていないことが多いんです。なので、今回は右近様にも調査に参加していただきたい』

 特命調査実施の連絡の際、丙之五へのごさんは態々そう依頼してきた。確かに前回の調査の後、次回があれば参加してほしいとも言われていたし、それは別に問題ない。

「今回も監査官、来るんですか?」

『はい、派遣されます。調査開始日の午後4時に本丸を訪問しますので、よろしくお願いします』

 前回は何の連絡もなく突然やって来たから、多くの本丸で不法侵入者として政府に送り返されてるからね、監査官こと山姥切長義。今回は同じ轍を踏まないように、事前に何日の何時に訪れるかまで通達が来たわけだ。

「了解です。前回もそう教えてくれてれば良かったのに。あと、今回も優判定だったら監査官がそのまま仲間入りですか?」

『そうですね。前回入手済みの本丸には、所属している山姥切長義が任務開始を伝えることになっています。未入手本丸ですと、優判定で報酬となります』

 えーと、前回と同じなら、最終ボスの前に300体撃破で優判定か。なら、299以下の撃破数でクリアすれば問題ないね。1周目でサクッとラスボス叩けばどうやっても優判定にはならないから大丈夫だ。

「あ、もしかしてうちに来る監査官って前回と同じ個体ですか?」

『いえ、前回報酬とならなかった山姥切長義は既に本霊に還っていますから、前回とは別個体ですね。まぁ、前回赴任しなかった山姥切長義たちから、通達方法や戦績判定方法の見直しをするようにと要望がありました。政府側の不手際が原因で赴任する以前の問題だった山姥切長義が多いですからね……』

 うん、そだねー。事前に山姥切長義が参戦することになった、監査官は山姥切長義だってことを通達してればその後のモンペ問題はクリアになってるよねぇ。

「まぁ、うちは山姥切長義をお迎えする気はないので、優判定未満でさっさとクリアします」

 山姥切長義を顕現する気がないことは丙之五さんにも伝えてある。丙之五さん、というか歴保省としても無理に全刀剣男士を揃える必要はないと考えているし(そもそも元々の所有限界が参戦済み刀剣男士数よりも少ない審神者も結構いるしね)、顕現して冷遇する可能性があるというなら、顕現しないほうが余程いいという判断だそうだ。

 実は山姥切長義の他にも私が微妙に思っている刀剣男士がいる。短刀の日向正宗だ。刀剣男士自身には特に何か含むことがあるわけではないんだけど、彼の代表的な所有者がね。歴史上の嫌いな人物ワースト3に入るのだ。彼が評価の高い人物であることは知っている。でも物心ついたころに観たドラマの影響は大きい。ドラマじゃ完全に悪役の間男にされてたからね。それに彼は清正公せいしょうこさんと対立してた。それだけで十分に嫌う理由になる。人格者だろうが能吏だろうが関係ない。清正公の敵ならばそれだけで嫌いなのだ。

 なので、日向正宗に関しては他所の同位体を見て判断と決めている。今のところ嫌悪感はそこまでないけど、招きたいとも思わないという微妙なライン。なので、積極的にお招きしようとは思わないし、肥後組の様子を見て決めるつもり。なお、肥後組で清正公と関わりがあるのは田貫だけだけど、細川家は加藤家を立ててくれていたから、歌仙も小夜ちゃんも清正公には好意的だったりするのだ。






 そんなこんなで1月下旬。2回目の聚楽第特別調査が始まった。事前連絡の通りに現れた監査官は前回の彼のように刀を突き付けられることはなかった。

「うちの本丸、撃破数200未満で1回目の最終ボス倒すから、優判定はないよ。だから、同行しなくてもいいと思う」

 つまりあなたがうちの一員になることはないですと言外に伝えておく。

「元々うちはこういった特殊任務は免除されてる本丸なんだ。特殊任務時期になると通常戦場が疎かになるからね。そのフォローのために不参加が認められてる。今回は政府側からの要望で1回は全マップ踏破するけど、1周終わったら通常任務に戻るから」

「ああ、担当官から聞いている。だが、俺にも監査官としての勤めもある。戦績優秀な本丸だというし、こういった本丸もあるのだと、本霊にいい土産話になるだろう」

 なんと、今回派遣された山姥切長義は本霊に還ることを想定済みでした。丙之五さんもフォローしてくれてたんだなぁ。

 それに前回のちょっとしか話さなかった山姥切長義と違って、この山姥切長義は穏やかそうな個体だし、上から目線でもないな。もしかして前回の教訓から事前研修とかあったのかな。本霊が謙虚さ成分強めの分霊を前回突っ返した本丸用に用意してたとか……。

 ちょっとだけ山姥切長義への偏見が薄くなったんだけど、それでもまだ本丸に受け入れる気にはならないだよね。巴形薙刀受け入れられるようになるまで2年かかったんだから、山姥切長義にもそれくらいはかかるかなぁ。一般鍛刀もしくはドロップで顕現できるようになるまでには、偏見払拭できればいいかな、くらいの気持ちにはなったけどね!

 まぁ、今回は最終ボス到達までに300体未満だったから、狙い通り優判定にはならなかったんで、山姥切長義入手にはまだ時間が出来たから、色々考えるにはちょうどいいかな。