Episode:47 怒涛の展開…って平和だけどね

 聚楽第潜入調査が終わったけど、結局あれは何だったのかよく判らなかった。数多くの本丸が調査に向かったというのに、結局事前に知らされていた情報以上のものは出てこなくて、一体何なんだと。

 歴史保全省歴史改竄対策局の情報部も政府所属の刀剣男士に潜入してもらって調べつつ、審神者からも情報収集してたけど、やっぱり判らなかったらしい。もしかしたら審神者には知らせることが出来ないようなヤバい事実が判明したから、通達せずに何も判らなかったと言ってるのかなんて穿ったことを考えもした。でもそれは何十回と潜入して調べた猿丸君から否定された。お猿君の部隊でも何も掴めなかったらしい。お猿君の本丸は彼の性質を反映して情報収集方面に優れている。そのせいか刀剣男士たちも数値には現れないけど索敵や偵察が優れているらしい。観察力に長けているともいえるな。

 なので、丙之五へのごさんから次回同じ聚楽第が出現したらそのときは調査に加わってほしいと言われた。まぁ、今回の調査って、戦績上位本丸殆ど参加してないからなぁ。というか、戦績上位に限らず、達成報酬が山姥切長義って判った時点で山姥切国広モンペ本丸の殆どが手を退いてるもんね。あれは情報の出し方と報酬が悪手だったと思う。山姥切長義も災難だな。

 歴史保全省としては次回があるなら、そこでは何かを掴みたいってことで、戦績上位の本丸には次回参加要請は個別に行ってるらしい。

 さて、そんな聚楽第調査から時は流れ、すっかり夏です。景趣の向日葵畑は入手してません! 向日葵ではなく、庭園の池には睡蓮が咲き乱れて日本の夏! って感じになってる。うちは寝殿造本丸で庭に向日葵は似合わないからと、歌仙や蜂須賀、鶴爺といった雅枠がプロデュースしてくれたんだよね。睡蓮って涼しげでいいよねー。

「暑い」

「いいで…いいだろー。誉取りまくったご褒美!」

 長らく過ごした21世紀の猛暑に比べればかなり涼しいとはいえ、やはり夏は暑い。まぁ、あの頃は異常だったよね。35度とか当たり前で32度だと涼しいとか思ってたもん。本丸は大体28度くらい。あの当時のクーラーの推奨設定気温だから、言うほど暑くはないんだけど。でも、今、私は限定的に暑い。

 それは何故か。今私は執務室を出た縁側(正確には寝殿造なので廊なんだけど)にいる。そして、何故か鯰尾ずおが私の膝枕で寝ているのだ。

「まぁ、日頃中々ゆったりと時間取って交流出来ないから、ずおが甘えるのは別にいいんだけど。っていうか珍しいよね、ずおが甘えるのって」

「たまにはいいじゃないです…だろ。俺が甘えても」

 極修行を終えてずおは言葉遣いが変わった。ちょっと乱暴な言葉遣いになった。でも、なんかそれ、無理してない?

「ねー、ずお。なんかさ、うちの本丸って割と亜種が多いらしいんだよね」

 珍しく甘えん坊になってるずお。多分、これ、ストレスが原因だと思うんだ。だから、一見関係ないような話題を振る。

「えー、何それ」

「ほら、うちだと短刀ちゃんたち甘えん坊じゃない? よそだと秋田あき君や五虎ちゃんや今剣いまちゃんはともかく、前田まぁ君や平野ひぃ君が膝に座ることってないらしいし。鳴狐なき君はきぃちゃんに頼らずに会話が成立するし、骨喰ばみ君だって甘えるし、明石は働くし、鶴爺は落とし穴掘らないし、江雪は戦うし、伽羅は馴れ合うし」

「あー、確かにそうかもー。演練で馴れ合わない伽羅さん見るとビビるよね。他所の叔父上の声聞いたことないし、明石さんもうちの10倍はダルダルしてるし」

「ねー」

 私の言葉に応えるずおの頭を撫でながら会話を続ける。

「だから、ずおも無理に他の極鯰尾藤四郎に合わせて乱暴な口調にしなくてもいいんだよ」

 それが言いたかったこと。するとずおはびっくりしたように私を見上げる。

「え、なんで……」

「伊達に3年以上ずおの主してませーん。ずおが何度も言い直してるのバレバレだし」

 言い直さなくても一拍置いてから喋ってることも多い。だから、あ、無理してるんだなって判った。

「別に他所の鯰尾藤四郎と違ってもいいじゃない。それがうちのずおなんだから」

 ぐりぐりと頭を撫でながら言えば、ずおは何処かきょとんとした顔をしていた。

「あ、それとも修行終えたら美少女ぶりに拍車掛かったから、男の子主張?」

「なんですかー美少女って! それは乱でしょ!」

「うん、だねぇ。乱ちゃんにはびっくり。修行から帰ってきたら美少女アイドル爆誕!」

「本体がマイクに見えました」

「やっぱり? 私も見えた。っていうか、殆どにそう見えたらしくてね、ほぼ全員にそう言われたらしいよ」

 クスクスと笑いながら言うと、ずおも笑う。乱ちゃんが呆れたように言ってからね。『やっぱりボクたちってあるじさんに似るんだね』って。

「別に見た目気にしてるわけじゃないですよ。修行前も俺、美少女とか言われてましたし」

「まぁ、刀剣男士って一見美少女や美女に見える子も多いよね。短刀だと明確に男の子! って判るの厚と後藤と愛君くらいじゃない? 後の子はボーイッシュな女の子と言われても納得する」

 中身は超絶男前でお前のような短刀がいるかとまで言われる薬研だって、見た目は完全中性的美少女だからなぁ。というか女装男士の乱ちゃんも次郎ちゃんも中身は男前だけどね。

「それ、本人たちには言わないでくださいよ」

「言うわけないでしょ。あー、宗三も極てから未亡人度増したよね」

「それ言ったら怖いですよ」

「うん、凄まじい口撃受けた」

「言ったんですか! ホント主って怖いもの知らず!」

「まぁ、あの口撃が宗三のチャームポイントの一つだしね」

「時々俺、主って滅茶苦茶大物なんじゃないかと思います」

 呆れたように言うずおはすっきりした顔をしている。

「演練でね、見たんです。ハッキリ亜種って判る刀剣男士。で、そのとき周りの審神者がヒソヒソ喋ってるのが聞こえて。通常と違う刀剣男士は審神者の影響だから、あの審神者は問題があるんだって言ってたんです」

 そうして、ずおは語り始めた。偶然見かけた亜種な刀剣男士。別に問題のある個体だったわけじゃないらしい。言ってみれば同田貫とか御手杵とか大倶利伽羅とか獅子王とか、普段から全く敬語を使わない男士が前田藤四郎や平野藤四郎みたいな話し方になっていたというようなもの。違和感はバリバリあるけど、決して負の変化ではない。けれど、審神者が刀剣男士の言動を縛っているのではないかと疑われるようなものでもある。

 ずおが見たところその刀剣男士を連れている審神者に問題はなかったらしい。刀剣男士であるずおたちは人の穢れとか悪意とかには敏感だから、問題のある、所謂刀剣男士虐待とかするような審神者であれば判るという。そんなずおから見ても件の審神者は何ら問題はなかった。

 なのに、周囲の審神者はさもその審神者に問題があるようにヒソヒソと話をしていたらしい。

「まぁ、ヒソヒソやってたほうが問題ありげな感じでしたけどねー。でも、噂ってあっという間に広がるでしょ。何の責任もないから面白がって広めちゃう。もし極になった俺が前と変わらない口調で主と話してたら、そんなふうに言われちゃうんじゃないかって思っちゃったんですよね」

 つまり、ずおは私のために無理してたってことか。もう! 何この子可愛い! 健気!! 一期、やっぱりあなたの弟は天使です!

「ずお、ありがと。でも、ヒソヒソやられるよりずおが無理するほうがイヤだなぁ、私は」

 ぐりぐりと頭を撫で続けて、たっぷりずおを可愛がる。実はばみ君よりも甘えてこないからね、ずおは。

「そーですね。っていうか、本丸でまで無理して口調変えることなかったですよねー。演練とか万屋とかで気を付ければいいんだし。まぁ、主が万屋に行くこと殆どないし、考えすぎちゃいました!」

 粟田口の中では明るくてムードメーカーなずおだけど、やっぱり真面目なんだよね。だから考えすぎちゃったか。

「ねぇ、ずお。私はどんなずおでも、今ここにいるずおが大好きで可愛くて大事なんだよ。だから、ずおはずおらしく過ごせばいいんだからね」

「へへっ。そうですよね!」

 ずおはニカっと笑うとお腹に抱き着く。

「主、ちょっとお腹タプタプになってません?」

「えっ、マジ!? やべぇ。光忠と歌仙の御飯が美味しすぎる所為だ」

「やや子がいるとか?」

「おう、喧嘩売ってんのか。言い値で買うぞ」

「ヤベ、そんなことになったら弟たちにお覚悟されます」

 クスクスと笑い合いながらポンポンと会話が弾む。どうやらずおの屈託は解消されたみたいで安心だ。

 そうして甘えん坊ずおは弟の薬研が『珍しいな、ずお兄が大将に甘えるなんて』とやってくるまで続いたのだった。弟に見られたお兄ちゃんは恥ずかしそうにしてたなぁ。






「はぁぁぁぁぁ!?」

 その事前情報を見て、思わず叫んだ。その瞬間、後頭部をスパコーンとハリセンではたかれた。犯人は『雅じゃない!』と常の口癖を発した本日の祐筆である初期刀様だ。

「どないしはったんです、主はん」

 近侍の明石は興味深げにメール画面を覗き込む。何処かにハリセンを仕舞った歌仙も同じく覗き込む。

「次の極の先出情報。大太刀からだって」

 政府は数か月に一度のペースで先行して刀剣男士の新規・極の実装予定やイベント予定を知らせてくる。そのスケジュールの中に次の極が大太刀だとあったのだ。

「うわぁ。光忠はん、ごっつう楽しみにしてはったのに」

 打刀の極実装が終わったから、次は太刀だよねと初太刀の光忠はかなり楽しみにしている。光忠だけじゃなくて他の太刀も楽しみにしていて、太刀はどんな順番で極修行の許可が下りるのかを予想したりもしてた。それに現状当本丸唯一のレア5であるみか爺は自分のスロット数がどうなるのかも気にしてたなぁ。

 なのに! 太刀を差し置いて先に大太刀!!

「なんや、大太刀が先に極になったら、自分ら太刀の出番、のうなるのとちゃいます?」

 はぁ、と深い溜息の明石。まぁ、太刀と大太刀って戦場完全に被るもんなぁ。打撃最大の大太刀が先に極になったら、打撃で劣る太刀は危機感抱くよねぇ。

「大太刀4振、大太刀の機動と偵察と隠蔽をカバーするために短刀もしくは脇差と組んで1部隊。これが主力になると言われても納得してしまうねぇ」

 こら、歌仙、止め刺さない! ただでさえ極短刀は長らく最前線張ってたから、太刀面子の心を抉りまくってたんだし。

「確かに戦場は被るけど、それは今までも同じだからね。野戦は太刀メインの大太刀・槍・薙刀混じりで編成するよ。極だろうが無印だろうがね」

 今までと変わらないんだよと明石を宥める。全員極になるんだから、早いか遅いかの違いだけで、どの刀種を優遇するとかはない。そりゃ、夜戦や室内戦は短刀・脇差メインの打刀サブで太刀以上の出番はないけど。それは弱体化してしまうから仕方ないしね。

 取り敢えず、今日の全体ミーティングで周知しないとね。ああ、でも短刀や脇差に兄弟のいる太刀は特に楽しみにしてたから、落ち込みそうだなぁ。特に一期と江雪。






 太刀が落ち込みまくり、それに大太刀がアワアワを慌て捲った日から数日後、いよいよ最初の極大太刀のシルエットが公表された。

「太郎はんと次郎はんですか。蛍やないんやね」

 偶々IT関係のシステムについての報告で執務室にいた明石が知らせを覗き込んで言う。

「うん、蛍君の実装はちょっと心の準備をさせてほしいなぁ。ほら、蛍君、大太刀で唯一子供姿でしょ。極めたら成人するんじゃないかって話もあるんだよね」

「え、蛍の姿変わるんですか。大人の蛍もええですけど、なんや複雑やなぁ」

 うん、そうだよね。大人姿の蛍君も見たい。きっと神秘的な姿になると思うの。でも、今の可愛らしい蛍君がいなくなるのも悲しいんだよね。

 短刀の極化のときにも成人するんではないかという話は出ていた。でも、短刀はその役目柄あの子供姿となっている。ならば、極めたからと言って大人姿になるのは特性を損なうことになる。だから、彼らは極めても子供姿のままだった。

 でも、蛍君の場合、何故彼だけが大太刀の中でただ1振子供姿なのか理由が判っていない。様々な考察が審神者の間でされていて、有力なのは実は蛍丸は『阿蘇氏が奉納した来国俊作の蛍丸』ではなく『失われた蛍丸のレプリカとして阿蘇の人々が打った蛍丸』の付喪神であり、刀が打たれたのは2000年代だから若い付喪神故に子供姿なのだという説だ。そして、もう一つが失われた蛍丸を守れなかった阿蘇の人々の想いが守られるべき存在として子供姿を取らせたという説。私は後者だと思ってる。

 前者の説であれば、それは御手杵にも適用される気がするんだよね。彼も残っているのはレプリカだし。でも、御手杵は成人の姿だから、一方が大人姿なのにもう一方は子供姿というのは可笑しいと思う。だから、後者を支持してる。

 で、そうなると、『これまでは俺が守られてきたけど、俺もちゃんと皆を守れるんだよ』ってことで蛍丸が極修行で成人することもあるかなぁと思うんだよね。

「ああ、ありそうやなぁ」

 成人する可能性の理由を告げれば、保護者の明石も同意する。極になって仮令大人姿になっても、私の大切な蛍君であることには変わりないんだけど、でも、でも、一気に大人姿になられたらなんか寂しい!

「判ります、主はん。どんな蛍であれ自分は愛せます。せやけど、今の蛍の姿が失われてしまうんも寂しいんです。人のように徐々に成長するんやったら、それも楽しめるやろうけど」

 まぁ、ここで私たちが心配してもどうにもならないんだけど。でも、やっぱり考えちゃうんだよね。

 よし、蛍君の極実装までに覚悟決めよう! ね、明石。

 そして。

「さて、主よ。お願いがあります」

 と、実装当日の朝食前に太郎たろさんは旅立った。で、4日後、

「いくら神がかりとされ、霊格が上がろうと、私は貴方の実戦刀。そういうことです」

 見た目は完全に神職なのに実戦刀としての自覚バリバリになって太郎さんが帰ってきた。うん、美しさに磨きがかかってるね!

「おー、兄貴! お帰り! じゃあ、次はアタシだね!」

 って、出迎えた次郎じろちゃんは

「ん~、ちょっとさ~、お願いがあるんだよね」

 兄を出迎えたその足で自分の修行へと旅立っていったのだった。機動遅いのに素早かったなぁ。

 因みにこの日、何度目かの連隊戦が始まった。今回の報酬、御歳魂10万個は新たな大太刀祢々切丸だった。まぁ、例によって140番以降なんでスルーですけど。というか、やっぱりイベント減ってないよね。だから、うちは基本的にイベントはスルーしまーす。

 なんて思ってたら。いや、イベントはスルーで変わりないんだけど、140番以降は要らないよーって思ってたら。鍛刀でついに来ちゃったよ、140番以降。巴形薙刀。

 打ち上がったばかりの依代に分霊は宿っていないとはいえ、そのまま刀解したり錬結に回すのもなんか申し訳ないというか後ろめたい気がして、『巴形薙刀』に聞こえるわけないと思いつつも、顕現しない理由を説明した。『巴形薙刀』が悪いわけではないが刀剣男士となった経緯に納得がいかないため歪んで顕現してしまう可能性があるから顕現はしないこと。刀剣男士たちから依代であっても長く本丸の置いておけば影響が出る可能性がゼロではないと言われたから錬結に回すこと。それをできるだけ誠意を込めて依代に語り掛ける。

「気が済んだかい?」

 そんな私に苦笑して、歌仙が尋ねる。

「うん、まぁ、所詮は自己満足だけどね」

 というわけで、巴形薙刀には早速太郎さんの錬結資材になってもらいました。






 そろそろ本丸の夏季休暇も決めないとねーなんて薬研と話をしながら今日も日課の鍛刀をするために鍛錬所へと行く。日本号出るまでは槍レシピ! と思ってたけど、まぁ、出ないよね。ってことで、基本的に槍レシピなんだけど週に1回脇差レシピの日と重めの太刀レシピの日を作ってる。そして今日は太刀レシピの日。

 妖精さんに資材を渡しつつ、薬研とは夏の帰省について話す。物欲センサー切るには雑談しておくのが一番だからね!

 去年からOKになった乙種過去出身審神者の帰省。新年は本丸で神事擬きをすることから帰省しない。なので、夏に2泊3日を2回(私は5泊6日だけど)することにした。

 で、今回連れて行くメンバーをどうするかっていうのが今刀剣たちには最も熱い話題らしい。これまでに実家に連れて行ったのは、初回の歌仙・薬研・小夜ちゃん・蛍君・田貫・愛染あい君、2回目の鳴狐なき骨喰ばみ君・光忠・国広くに君・太郎さん・一期・前田まぁ君、2回目後半の厚・みか爺・石切丸いしさん・小狐丸こぎ今剣いまちゃん・岩融がんさんの19振。帰省時護衛の必須条件である極っ子同行については打刀までは実装されてるメンバーは皆極めてるから問題ないし。

 そんなことを話しつつ炉の時間を見れば、3時間2つと3時間20分。おお、これは小竜景光か小烏丸の可能性もあるな!

 取り敢えず、手伝い札もかなりのストックが出来たので今日は全部手伝い札でサクッと終わらせよう。博多からも許可出てるし。

 というわけで、相変わらずの鍛刀率の燭台切光忠2振と見たことのない太刀。うん、これは……。

「小竜景光か小烏丸か」

 薬研はそう呟くとちょっくら呼んでくるぜと鍛錬所を出て程なく光忠をお姫様抱っこして戻ってきた。いやさ、そりゃ光忠って太刀の中でも機動遅いけどさ。伊達男が恥ずかしそうに顔を覆ってるじゃないか。

「長船じゃないね。ってことは小烏丸さんだよ」

 鍛刀された太刀を見て光忠は言う。そして傍らの刀掛けにある自分を見て『僕来過ぎ』と呟いてた。光忠が『長船じゃない』と言ったのは3時間20分だと今現在は求めていない小豆長光もいるからだ。

 140番以降に思うところはあれど、もう20振もいれば段々それも薄れては来る。特に私としては光忠の同派が悉く来ない現状、もう謙信景光や小豆長光でもいいかなーなんて気はしてるんだよね。毛利藤四郎だってたったひと振だけいない粟田口だから別に来てもいいかなーと思ってもいる。

 正直なところ、今の私が偏見と隔意を持ってる140以降の刀剣って3振だけなんだよね。だから、それ以外は来てもいいかなーって思ってる。ただ、方針として顕現しないって決めてるから、そこは時期を見て刀剣たちと話し合いをしなきゃと考えているところだ。

 ということで小烏丸を手に取り、顕現するために呼び掛ける。

「我が名は小烏丸。外敵と戦うことが我が運命。千年たっても、それは変わらぬ」

 桜吹雪とともに現れたのは最も古い日本刀と言われる、日本刀の父。見た目は完全に子供だけどね! いや、身長だけか。雰囲気は年齢とかそんなのは超越してる感じ。年寄りって印象はないものの、全ての刀剣男士よりも年長だと感じさせる貫禄と神秘性がある。

「ようこそ、小烏丸。審神者の右近です」

「ふむ。ここには随分と子らが多いようだな」

 どうやら本丸にいる刀剣男士たちを感じ取っているらしく、小烏丸は言う。

「そうね、パパ上で55振目。実装済み刀剣男士数からすればまだいない刀剣男士も多いけど」

 薬研と光忠とともに鍛刀所を出、出陣前の朝礼のために皆が集まっている広間へと行く。小烏丸の場合は関係者遠征もないし、1回通常の出陣させてる間にパワーレベリング編成しないとな。順番待ちしてる極勢と一緒に阿津賀志山でいいか。

「パパ上、とは我のことか?」

 首を傾げるパパ上。

「審神者の間での小烏丸の愛称だよ。刀剣の父とはいえ、本丸内では石切丸が実質お父さん的立場にいることが多くてパパって呼ばれてるし、刀剣たちにしても刀工を父と呼んでる子が多いからね。だから、区別をつけるためにパパ上。気に入らないなら別の呼称を考えるけど」

「パパ上、希望があるなら言ったほうがいいぜ。言わねぇと妙に可愛い呼び方されたりするからな」

「ああ、こぎさんとか蜻蛉切とんさんかな」

 私の説明に薬研と光忠が補足する。別にこぎもとんさんも不平不満は言ってないじゃんー。それとももしかしたら私のいないところでは言ってるのかな。ちょっとそこは今剣いまちゃんと千さんあたりに聞き込みするか。

「ふむ。別によいぞ。パパ上か」

 薬研たちの補足を聞いて、パパ上はフム、と頷く。古刀って懐広いんだろうか。あっさり受け容れてくれた。あー、いや、古刀には限らないなぁ、刀剣男士の懐の深さや寛さって。戦神なのに皆穏やかで度量が大きいよね。

「パパ上には早速ガンガン出陣して錬度上げてもらうからそのつもりで。今レベリング中なのは極だけで、極になってない刀剣男士は全員カンストしてるからね」

 極も結構な数カンストし始めてるけどね。歌仙も既にカンストしてるし。そう考えると、実質錬度差って200近いんじゃ……。当分は出番もなく終わるだろうな。阿津賀志山なら短刀は金銃兵2だし、脇差は金弓兵2、打刀は金投石兵2(一部3)だし。下手すりゃ遠戦で終わる。パパ上は太刀の中では機動高いとはいえ、極に勝る機動にはならないし、白刃戦でも出番なさそう。

「早速我の力を欲するか。良かろう。戦いこそ、刀の本分。存分に我を使うがよいぞ」

 自信たっぷりなパパ上に薬研と光忠は苦笑してる。うん、まぁ、新人の誰もが通る道だよね。

 案の定、1日を終えたパパ上は攻撃が通らず、それどころか殆ど出番がなくちっとも誉が取れないことにこっそりと落ち込んでいたみたいです。






「どうだ! アタシの晴れ姿! 惚れなおした? なおしたよね? じゃあ祝い酒だ!」

 パパ上が来た翌日、次郎ちゃんの修行帰還。って、ちょ、何! なんか次郎ちゃん、可愛くなってない!?

 修行から帰ってきた次郎ちゃんを見て、思った。萌えキャラ化してないかって。いや、中身は変わってないけど。見た目がね! 装束が太郎さんと同じく直衣になってるし(狩衣じゃなくて直衣になってるよね?)、派手なお化粧もなくなってるし。小首傾げて帰ってきたから、余計に!

 まぁ、口を開けば変わってませんでしたけど。頼りがいも相変わらずですけど。

 脇差の極化は2振ずつだったから、大太刀もかなぁ。だとしたら次は石さんと蛍君だけど、いつになるんだろう。

 石さんの機動、どれくらい上がってくれるかな。そして……蛍君、成人するや否や。楽しみであり、怖くもあるなぁ。