Episode:39 作戦開始

 左近先輩たちとのチャットから数日後。再度左近先輩から連絡があった。週末に万年青おもとさんはじめ幾人かの審神者と会合を持つそうだ。私たちのような一般審神者が気付くようなことに有能な黎明期審神者方が気付いてない訳もなく、御三方は連携してに調査を開始していたらしい。確かに三貴子さんきし審神者様は審神者行政にも関わっていて歴史保全省上層部にも陸軍にも刀剣男士の本御霊を祀っている護歴神社にもパイプを持ってる方々だからそれも納得だ。

 その会合は余り大人数でも混乱するし意見が纏まらない可能性もあるからと、戦績上位10人の審神者が集まって行なうらしい。左近先輩は昨年度のランキングは4位だし、余裕で参加枠。他は全員が神薦審神者。っていうか、戦績ランキング見てると審神者IDでGA(神薦審神者)が並ぶ中に唯一入っているPM(一般男性)って凄いよなぁ。

 で、その会合の内容は私たち丙之五グループには後日伝えてくれるそうだけど、チャットでは通信傍受される可能性もあるから、会合の翌日に左近先輩の本丸にお邪魔して話を聞くことになった。本丸内だったら盗聴とかの可能性一切ないしね。こんのすけが音声や映像の記録して政府に送ることは可能だけど、こんのすけの所属は歴史保全省じゃないから多分問題ない。因みにこんのすけの所属は宮内庁神祇局呪術部こんのすけ課だそうだ。こんのすけの専門の部署があるのか。

 そうして、やってきた報告会の日。近侍の歌仙を伴って左近先輩の本丸を訪れた。報告会の参加者は喜撰さんと初期刀の蜂須賀虎徹、大輔おおすけさんと初期刀の加州清光、お猿くんと初期刀の陸奥守吉行。全員初期刀連れてきてた。うん、やっぱり初期刀は本丸の全刀剣男士の代表であり纏め役だもんね。なお、左近先輩と私は初期刀が同じ歌仙兼定なもんで、初期刀ファイブのうち山姥切国広だけが不在だった。

「いやぁ、めっちゃ緊張したわー」

 当日の様子を開口一番、左近先輩はそう語った。まぁ、錚々たるメンバーによる会合だもんね。天照大神・月読命・素戔嗚尊の三貴子推薦の審神者様に天津神の推薦を受けた方々。そこに戦績上位とはいえ一般人な先輩じゃ、緊張するよね! お疲れ様でした!!

「実際の話し合いは『最近の歴保省、完璧に賊のスパイ入り込んでるよね』っていう前提から始まったな」

 そうして始まった左近先輩の報告。会合では既に全員の共通認識としてそれがあったらしい。その根拠はうちの本丸でも出た、イベントの多さとそのイベントに出現する仮想遡行軍、更に実質能力低下させれている極刀剣だった。それもそうだろうな、今の政府の動き(目立つ部分)を見ると利敵行為しているようにしか見えないから。積極的な弱体化というよりは徐々に力を削いでいる感じだ。

「短刀の際はゆっくりだった極化のスピードがここ最近は急に上がっている。しかし、戦力拡大に繋がるのであれば真っ先に了承しそうな初期刀が未だ了承していないのは、不審に思っているからだ」

 推量ではなく断定して仰ったのは第一号審神者である白菊様だったそうだ。白菊様は今上陛下の第三皇子。紛れもない皇族直系男子でご家族からも国民からも愛される聡明な宮様だそうだ。この時代の国民がこの歴史保全戦争に理解を示しているのには、この宮様の存在があるかららしい。『国と民を守る戦いの最前線に立つのは皇族として当然の責である』と仰って、当時17歳だった若宮が審神者に立候補なさったそうだ。そこらの芸能人なんか目じゃないほど国民に愛されていた三の宮が自ら志願なさったのだから、ほぼ全ての国民がこの戦いへの理解を示した。そして、審神者志願者は殺到したらしい。

 で、そんな白菊様だから、当然兄君の第二皇子水穂宮みずほのみや章仁あきひと親王殿下が祭主を務められる護歴神社ともパイプがある。極化に対する不信感を覚えた時点で白菊様は兄君を通して本御霊に問い合わせをなさったらしい。そして得た答えが前述のもの。どうやら極短刀弱体化未遂の辺りから本御霊も不審を感じていたようだ。

 そういった本御霊のご意見も踏まえて、白菊様(と兄君の水穂宮様)は歴史保全省内部に歴史修正主義者のスパイがいることを確信なさった。でなければ、戦力の弱体化なんてするはずないんだから。

 これが現世の国家間や地域間の戦争・紛争であれば、敢えて自軍を弱体化させて戦争を長期化させるということがないわけではない。戦争には必ずそれで利益を得るものがいる。軍需産業が代表例だけど、それに限らず。だからそれを狙って一時的な弱体化を図るということはありえなくもない。

 だけど、この歴史修正主義者との戦いを長引かせるということは、それだけ歴史改変の危険が増すということだ。歴史改変が為されれば今の世界は崩壊し、今存在する自分が消滅する危険性も高い。仮にも国家公務員となっている者がその危険性を知らないわけもあるまい。だから、少なくともどんな役人も政治家もこの歴史保全戦争に対しては『早期決着こそが第一』と考えている。よって敵のスパイでない限り、この戦争が長期化する懸念を含む事項を推進するはずがないのだ。

「やはり、ことがことだけに本丸に篭りきりになる審神者だけでは如何にもならん。信頼できる政府職員と連携して内部監査を進めねばならんな」

 そう言った万年青さんの言葉もあり、まず白菊様は宮内庁内の信頼の置ける役人を通じて調査を開始。なんとか数名の『確実にスパイではない』と確信できる協力者を得ることに成功した。そして先日の会合にはその信頼された政府職員数名も同席していたらしい。宮内庁からは神祇局の局員(局長では事が大きくなりすぎるために代理)と監察局監査部の職員、歴保省からは情報部と企画課の職員(極短刀弱体化について監査に連絡した事務官や技術者)、それから審神者部から三貴子推薦審神者様の担当官3人と丙之五さん。

 丙之五さんもいたと知って報告会に参加していた全員がホッとしてた。丙之五さんが信頼できる人だっていうのは判ってたけど、それが三貴子推薦審神者様によって保証されて、他の審神者にも信用されるようになったのが嬉しい。なお、監査や情報部・企画課は前回の露骨な弱体化策であった極短刀事件の折に内部告発したり摘発に動いたりしていたんだからスパイじゃないだろうと仮定し、宮内庁の術者が人ならざる力を使って裏付け調査をして白確定後、協力者となったそうだ。因みに裏付け調査は全部式神とかがやってるらしい。うん、なんというか、この戦争らしいよね。

 勿論、丙之五さんたち政府職員も独自に調査は進めていたようだけど、通常業務の合間にやることでもあり、何処の誰がスパイかも判らないから下手に協力者を募ることも出来ず、結構手詰まり状態になりかけていたらしい。そこに現状に不審を抱いた審神者たちからの連絡。うちのグループは皆丙之五さんに『イベントの不満』という体で探りを入れていたし、他の上位審神者方もそれぞれの伝手での政府職員や研究者・技術者に探りを入れていたようだ。因みにそのときには歴保省審神者部担当官課白確定だった神薦審神者担当官と丙之五さんを含む一部の担当官でミーティングを持つようになってた。

 複数の審神者から探りを入れられた担当官たちは『あ、審神者も動こうとしてる』と当然ながら気付いたわけで。そうするとそこで悩んだ。審神者は現世から切り離された本丸という最前線で実戦の指揮を取っている。そんな審神者が後顧の憂いなく目の前の戦いに集中できるようにするのが担当官課の役目だ。だから担当官課の正式名称は実働補助課なんだし。なのに、スパイの炙り出しや排除といった本来後方勤務が行なうべき仕事に審神者を巻き込むべきではないと思ったらしい。

 まぁ、確かに『役人確りしろや!』と思わんではない。でも、少なくとも知る限りの政府職員さんはすっごく頑張ってるからなぁ。ワーカホリックといわれる20世紀出身審神者よりも仕事してるの知ってるし。だから、責める気にはなれないし、寧ろ協力できることがあればどんどん言って状態なんだよね。

 私と同じ気持ちの審神者も多かったみたいで、三貴子推薦審神者様たちはにっこり笑って『いいから一緒にスパイ潰すぞ(意訳)』と、政府職員と審神者が協力する体制を作ることになったわけだ。

 で、その第一回会合ともいえるものが昨日白菊様の本丸で開かれたということ。そして現状の把握が一通り済んだ後。

「白木蓮様が爆弾発言なさったんだよ」

 引きつった笑いを浮かべ、左近先輩の報告は続く。

 白木蓮様は白菊様や万年青さんと同じく三貴子推薦の審神者様だ。御三方の中では唯一の女性で確か白菊様と同じ年。審神者になったときはまだ高校生だったらしい。

「いっそのこと、餌を撒きましょうか」

 一見、儚げな嫋かな微笑を浮かべ仰ったそうな。この白木蓮様、その血筋は某戦国大名らしく、しかもいくつもの大名家の血が混じっている。直系ではないけれど、だからこそというべきか。少なくとも甲斐と越後と相模の『虎』と称された戦国武将の血は引いているし、東北の竜の血も混じっているとかいないとか。そしてご実家はそんなある一家の伝統を守って今でも『武家』としての暮らしをしているとかで、ご兄弟皆さん、戦術とか戦略とか政略とかの教育されているらしい。うん、600年ほど時代が違ってないかな。

 とはいえ、スパイの炙り出しは急務。時間をかけていてはその間にどんな愚劣な弱体化策を実行されるか判らない。スパイが洗脳したり利益誘導したりして仲間を増やす可能性だってある。ゆえに白木蓮様の策は実行に移されることになった。

 白木蓮様が提示した『餌』。それは戦績上位の審神者100人が一堂に会する場を作ることだった。

 これまで審神者が現世において集まることはなかった。まぁ、審神者候補の研修所はあるけどね。でも現役の審神者が一度に10人以上現世で集まることはない。審神者が集まるとすればそれは異空間である演練場か万屋街、或いは誰かの本丸だ。それは敵である歴史修正主義者から審神者を守るための措置だった。

 つまり、100人もの審神者が現世に集まれば、しかもそれが戦線維持に多大な貢献をしている──つまり、この戦争の要の主戦力──審神者となれば、それは歴史修正主義者にとって格好の襲撃対象となるわけだ。

「それって、主たち自ら囮になるってこと?」

 柳眉を顰め大輔さんの加州清光が言う。喜撰さんの蜂須賀虎徹もお猿くんの陸奥守吉行も難しい顔をしている。多分背後にいる歌仙も同じような顔してるんだろうなぁ。心の中で『首を差し出せッ』って繰り返してる気がする。左近先輩の歌仙兼定は事前に知ってたからか苦い顔してるけど、やっぱり葛藤があるんだろう。刀剣男士たちにしてみれば守るべき審神者を危険に晒すことになるわけだし。

「まぁ、そうだな。俺たち審神者が囮になって歴史修正主義者を呼び寄せる。尤も、呼び寄せる前に、歴史修正主義者を引きこもうと動いた奴らを捕まえるのが目的だが」

 実際に審神者会議が襲撃を受けることはないかもしれない。というか、ないようにして欲しいし、ないように政府職員さんたちも頑張るだろう。でも、囮になることに違いはないか。

 会議までの準備期間は1ヶ月。その間に政府職員側ではスパイの特定を急ぐことになる。白確定以外の歴保省職員全員を宮内庁神祇局陰陽部の術者の式神が24時間体制で見張ることになるそうだ。うわぁ、術者さんの負担凄そう。勿論、監察局総出で人間の見張りもつくし、当然ながら通信の監視もする。審神者会議に限らず審神者行政に関することを一言でも歴保省以外に漏らしたら即監視強化。

 スパイ確定したらどんどん隔離していくらしい。具体的には歴保省庁舎の地下にある資料室で過去のどうでもいい始末書とか決済不可だった領収書とかの整理。機密事項だから外部との接触不可という建前で隔離するんだとか。逮捕じゃなくて隔離なのは、他にもいるだろうスパイに気付かれないようにするためらしい。まぁ、事が済めばそのまま逮捕するんだけど。

 これでなんとかなればいいんだけど、どれだけスパイがいるか判らないし、スパイそのものではなくてもお金とかの報酬で雇われた協力者もいるだろうし、全てを当日までに処理できるとは限らない。だから、当日に歴保省が襲撃される可能性もある。

 ゆえに、これからの1ヶ月、私たち審神者は審神者で準備を進めることになった。通常業務を進めつつ、積極的に演練に参加し、当日召集予定の審神者との顔合わせと連携するための交流を深めることが一つ。それから、刀剣男士と審神者の錬度上げ。今回召集される審神者は基本的に殆どが刀剣男士は錬度上限に達してる。でも、つい最近実装されたばかりの刀剣たちはまだカンストしてない者もいるし、極に関しては成長に膨大な経験値を必要とするから初期に実装された厚藤四郎たちでもまだまだカンストは遠い。だから、彼らを中心に錬度を出来る限り上げることになる。

 また、歴保省が襲撃された場合、現地で手入れが可能なように、或いは審神者が結界や術符で身を守れるように術の勉強もしないといけない。これは元宮内庁陰陽部職員の審神者や神官・僧侶系審神者から講習を受けることが可能で、刀剣たちが演練で戦ってる間に審神者は審神者で控え室でお勉強ということになるそうだ。

 更に、霊珠作りも進めないといけないらしい。『霊珠』という聞きなれない言葉に全員が『?』を浮かべると昨日初めて聞いたらしい左近先輩が説明してくれた。神薦や寺社薦の審神者は日常から使っているアイテムらしいんだけど、陰陽部特製(神薦と一部神官系は自作)の水晶に審神者が霊力を篭めると出来るもので、そこに審神者の霊力を保存することが出来るらしい。で、その霊珠を使うことで審神者不在でも刀剣男士の手入が出来るし、長期不在でも刀剣男士や本丸に霊力を供給することが可能になるんだそうだ。なんだ、その便利アイテム! 手入の場合だと大体霊珠一つで生存を5回復する程度だそうで、受傷度合いによって使う個数を調整できるし、一気に使えるから手伝い札を使ったのと同じように短時間で手入は完了するらしい。もう一回言う。なんだ、その便利アイテム!

「で…この霊珠作りをする理由だが。最悪の事態を想定してのことだ。上位審神者が不在になる隙を狙って各本丸が襲撃される可能性がないとはいえないからな。内部にスパイがいれば、政府と各本丸を繋ぐ大手門を開けることだって可能になっちまう。本丸は亜空間にあるから位置の特定は出来なくても、本部や万屋街、演練場と繋ぐことは可能だ。だから、それを想定しておかないといけない」

 なるほど、確かにそうだ。歴保省を襲撃して審神者を排除するのと同時にその基地を襲撃して潰す。当然の戦術だよね。まぁ、審神者が死んでしまったら刀剣男士も消えちゃうんだけど。でも、審神者を逃してしまっても本丸を壊滅させておけば戦力を削ることは出来るから、多分、歴史修正主義者も歴保省と本丸は同時襲撃を狙ってくるはず。

 そうなった場合、審神者不在の本丸では刀剣男士が傷を負ってもそれを癒す術はない。手入部屋の妖精さんたちは私たち審神者の霊力がなければ何も出来ないから。それを防ぐためにこの霊珠を作って備えておくというわけだ。

 更に2~3の指示を受けて、私たちは左近先輩の本丸を出た。しかし、あれだけのことを昨日1日の会合で決定するなんて、相当ハードだっただろうなぁ。恐らく事前に政府職員側や上位審神者方がそれなりの案と実行計画を練ってから参加していたんだろうけど。

「歌仙、直ぐに祐筆と戦況分析課、各隊長を集めて。明日からの計画を立てるから」

「承知」

 本丸に戻り、大手門から寝殿へと向かいながら歌仙に指示を出す。これから忙しくなりそうだ。この1ヶ月は休日返上になるだろうし。

 外出していた私を出迎えてくれた短刀ちゃんたちの笑顔が、私を見た瞬間に引き締まる。ああ、険しい表情してんだろうなぁ。ごめんね、皆。でも、今はちょっとキャパオーバーしてて気遣う余裕ないや。

「ごめんね。ちょっと今余裕ないや。会議して、ご飯食べたら落ち着くだろうから」

 腰に抱きついていた今剣いまちゃんの頭を撫でつつ言うと、

「畏まりました。少しでも落ち着かれるよう、うぐ爺からいいお茶を分捕ってきますね!」

 にっこりといい笑顔で平野ひぃ君がうぐ爺の部屋のある東の対屋に駆けていった。うぐ爺、すまん。






 執務室には祐筆課と戦況分析課と各隊隊長が続々と集まってきた。祐筆課は歌仙・薬研・前田まぁ君・鳴狐なき君・骨喰ばみ君・国広くに君・光忠・太郎たろさん・一期の9振、戦況分析課は長谷部・厚・兼さん・青江・蜻蛉切とんさん・みか爺・膝丸・髭爺・長曽祢そねさんの9振で、各隊長は第1部隊隊長の鳴君(祐筆課兼任)、第2部隊隊長の江雪、第3部隊隊長のとんさん(戦況分析課兼任)、第4部隊隊長の蜂須賀、打刀投石部隊隊長の曽祢さん(戦況分析課兼任)、夜戦・室内戦専任部隊隊長の厚(戦況分析課兼任)、本丸警備(屋外)隊長の岩融がんさん、、本丸警備(屋内)隊長のまぁ君(祐筆課兼任)の8振。被りがあるから実際に集まってるのは21振だけど。ここにいるメンツで各刀種代表も兼ねてるから、このメンバーが集まってれば全刀剣男士に話は行き渡る。まぁ、ミーティングのあと私からも通達はするけどね。

「休日なのに召集して申し訳ないね。ただ、ことは急を要する。直ぐにでも動きたいけど、色々決めなきゃいけないこともあるからね」

 集まった全員を見渡して告げる。刀剣たちは今日私が何処に何のために出かけていたかを知ってるから、特に不審を抱く様子もなかった。

 全員に今日の報告会の内容を説明する。現状については割りとあっさりと。ここに時間をかけるわけには行かない。これからのことで決めなきゃいけないこと、相談しなきゃいけないことは沢山あるんだから。

「会議と本丸に賊軍の襲撃があるかもしれない、と?」

 私と歌仙の説明に長谷部が呟く。

「そうだね。丙之五さんはじめとした政府職員さんもそうならないように動いてくれるだろうけど、そうそう上手くこっちの思惑通りに敵サンが動くとも限らない。だから、会議襲撃と本丸襲撃はあるものと思って、それに備える」

 そして、これからの予定を伝える。明日から毎日演練に参加すること。午前中の3時間を演練に充てて、そこで今回召集される審神者との交流を図る。午後の5時間の出陣は極っ子育成に集中する。まぁ、既に今の出陣はそうなんだけどね。午前中に白金台で検非違使対策、午後は極っ子で江戸城内短距離ルート周回。これは刀剣たち(非極組)から『極っ子たちは錬度上げが厳しいことになってるから、集中育成したほうがいいんじゃないか?』と提案があって、それを容れたから。因みに江戸城内でも検非違使は出るんですけどね! でも8時間フル極っ子っていうのも不満出そうなんで、午前3時間は検非違使対策という名の他の刀剣出陣。貞ちゃん来たら日本号探しに池田屋にしてメンバー入れ替えるつもり。いつになるやらと思うけど、伊達組を思いやって池田屋主力になる打刀勢から提案された。皆ホントにいい子や……。

 それから毎日やることとしては霊珠作り。これは後から全体軍議の後、御神刀勢に協力依頼をする。

「ふむ。歴史保全省の襲撃や本丸の襲撃ともなれば、部隊編成を先に決め、それぞれに役割を与え、連携強化しておいたほうがよいのではないか?」

 みか爺の言葉に頷く。そう、だから今このミーティングを召集したわけだ。

「神薦審神者様から召喚符をいただくことになっててね。これは1枚で1部隊6振を私のいる場所に呼べる術符らしいんだ。で、会議が仮に襲撃された場合、各審神者が4部隊を召喚することになる。1審神者につき24振、100審神者だから2400振の賊軍殲滅部隊が出来上がるわけ。それに本丸襲撃もセットで起こる可能性が高いから、本丸にも最低4部隊は残さないといけないし。取り敢えず、会議対応が4部隊24振、残りの27振で本丸防衛部隊を組む」

 そう告げれば、全員が真剣な表情で考え込む。

「審神者不在だから、初期刀の歌仙には本丸に残ってもらって、本丸の総司令官となってもらうから。これは決定ね」

「承知。それが初期刀の役目だからね」

 私が敵に襲撃される可能性が高いとなれば、きっと歌仙は私の側にいたいだろうと思う。これは自惚れでもなんでもなく、全ての審神者が思っていると思う。刀剣たちは審神者を守るべきものと認識してくれているし、その中でも初期刀と初鍛刀はその意識が強い。 それと同時に初期刀は審神者不在時の本丸の要でもある。それもまた初期刀は皆理解してくれている。だから、歌仙は私の指示を至極当然のこととして受け入れてくれた。

「会議の際、恐らく護衛刀2振の同行が認められるはずだ。これまで歴史保全省に赴く際は大抵そうだからね。健康診断のときも研修生との面談のときも2振同行していたから。その2振は会議の襲撃対策部隊の隊長を務めてもらうことになる。薬研と鳴狐、頼むよ」

 歌仙が説明し、薬研と鳴君を指名する。懐刀と絶対的第1部隊隊長。短刀と打刀なのは室内戦対策でもある。

「俺っちの部隊は極短刀で固めていいか? 大将の直接の護衛部隊になるはずだからな」

「寧ろそれ以外の選択肢はないな」

 薬研の提案に筆頭参謀である長谷部も応じる。

「御上の建物での戦いとなれば室内戦ですな。ならば、隊は打刀以下で組むほうがよろしいかと」

「でも、確か庭や広場もあったよね? 遡行軍がそこから現世の他の役所を襲わないとも限らないから、室内戦特化の部隊だけってわけにもいかないかな」

「極部隊以外では破壊力も弱いですな。破壊力のある太刀・大太刀を含む部隊も1部隊はいたほうが良いのではありませんかな」

 とんさん、光忠、一期も意見を出す。

「ならば、極短刀部隊1つと太刀・大太刀を含む部隊1つ、後は脇差打刀部隊を2つだね」

 そこからは長谷部を中心にどんどん部隊を組む。とにかく戦闘力の高いメンバーで、という前提の下、3スロ組は優先的に歴保省部隊に組み込まれることになった。

 そして、出来上がったのが

 歴史保全省部隊

  第一部隊(審神者護衛) 隊長:薬研藤四郎、隊員:前田藤四郎・愛染国俊・厚藤四郎・乱藤四郎・五虎退

  第二部隊(室内戦対応) 隊長:鳴狐、隊員:山姥切国広・堀川国広・陸奥守吉行・加州清光・長曽祢虎徹

  第三部隊(室内戦対応) 隊長:骨喰藤四郎、隊員:同田貫正国・和泉守兼定・大倶利伽羅・鯰尾藤四郎・蜂須賀虎徹

  第四部隊(屋外戦対応) 隊長:三日月宗近、隊員:にっかり青江・へし切長谷部・太郎太刀・蛍丸・膝丸

 本丸防衛

  司令部 総指令:歌仙兼定、伝令:今剣・博多藤四郎

  金鳳花隊(寝殿) 隊長:後藤藤四郎、隊員:平野藤四郎・小夜左文字・秋田藤四郎・浦島虎徹・信濃藤四郎

  棕櫚隊(大手門周辺) 隊長:江雪左文字、隊員:宗三左文字・大和守安定・蜻蛉切・御手杵・千子村正

  沈丁花隊(庭) 隊長:燭台切光忠、隊員:石切丸・次郎太刀・小狐丸・明石国行・鶴丸国永

  竜髭菜隊(庭) 隊長:一期一振、隊員:山伏国広・獅子王・髭切・岩融・鶯丸

 という編成。通常の部隊とは違っているんだけど、とにかくトータルの能力値で刀種別に高い順で人数を選んで部隊を組んだ。だからかいつもなら打刀部隊のうち1部隊は幕末組で組むんだけど、今回は安定ヤス君が本丸防衛に回ることになった。けど、数値だけでみれば本丸最強短刀の薬研も本丸最強打刀の歌仙も下から数えたほうが早いんだよね。うん、意識の持ちようって大事なんだなぁ。

「普段組まないメンバーでの部隊編成っていうものあるから、連携を図るために毎日の演練はこの部隊で出ることにしよう。あ、極っ子は普段から組んでるし、午後は毎日出陣だから演練なしね」

 それには薬研・厚・まぁ君からブーイングが起きた。あー、演練だとお昼ご飯まで演練場にいるから、それが出来ないのが不満か。本丸では食べられないものが食べられるしねぇ。全部無事終わったら、極っ子で演練行くからってことで宥めておいた。

「時間は1ヶ月しかない。その間に出来るだけ余所の審神者との交流を深めたいし、極っ子たちの錬度も上げたい。だから、会議までの1ヶ月は土日返上の休日なしで出陣を行なう。演練参加部隊と極っ子以外は資材集めの遠征もどんどん行ってもらう。当日までの資材ストック状況によっては本丸運営費から資材を購入するから、長谷部、博多に指示しといて。余裕ないなら私費から出す」

 私が自腹切るのは皆嫌がるけど、この場合は仕方ない。それに本丸運営費は博多と後藤を中心とした経理課がきっちり管理してくれてるから割と余裕あるし、多分大丈夫だろう。なお、1ヶ月休み返上にも刀剣たちは苦言を呈したけど、非常事態に備えるってことで納得してもらった。事が終わった後に返上分の休日を取るってことで了承してくれた。

「今日の夕食後の全体ミーティングでこの話をする。1ヶ月間かなり忙しくなるし、ここにいるメンバーには色々戦闘以外の仕事も増えることになると思うけど、よろしく頼むね」

 そう告げて、ミーティングを終える。退室していく刀剣たちは、これまでで一番厳しく険しい表情をしてる。まぁ、無理もない。これまでにはなかった『審神者』が狙われるような作戦なんだから。

 でもね、なんか大丈夫な気がするんだ。歴保省の役人さんだって頑張ってくれてるし、何よりも信頼する刀剣たちがいるんだから。






 夕食のあとの全体ミーティングで決まったことを伝えると、既にある程度は皆幹部たちから話を聞いていたようで、動揺するものはいなかった。予定確認と意思統一って感じだったな。

 その後はそれぞれの部隊に分かれて早速作戦会議をしてた。それに遠征に出ない部隊は道場の擬似遡行軍を相手に連携確認の訓練をするってことで、長谷部や実はスケジュール管理の上手い宗三を中心に道場使用スケジュールを作っていた。直ぐに動き出してくれる皆が頼もしいことこの上もない。

 そうして始まった非常事態に備えた1ヶ月。私は空いてる時間にせっせと術符と霊珠を作った。術符は御神刀勢と仏教に所縁の深い岩さん・山伏ぶしさん・江雪に指導をお願いし、霊珠作りは御神刀勢の石切丸いしさん・太郎さん・次郎じろちゃん・蛍君に協力を頼んだ。

 元々私たち審神者の霊力は睡眠によってMAXまで回復する(最低4時間の睡眠という条件はあるけど)。というわけで、1日の終わりに霊力すっからかんになるまで霊珠に霊力を篭めることにした。自分だけでやったときには1個に霊力篭めるのにも結構手間取って時間掛かったんだけど、刀剣たちが上手く霊力を誘導してくれたお蔭で、これもスムーズにいった。初大太刀の太郎さんや相性がいいらしい蛍君が補助についてくれるときには複数の霊珠の上に1分程度掌を翳すだけで一度に50個ほどに霊力を篭めることが出来た。だもんで、霊珠作りのときには蛍君が私の膝の上に座るのがデフォになった。うん、癒し。

 大体1日に作れる霊珠は250~300個程度。うちの刀剣たちの生存値合計が2705だから、全員が生存1の重傷だった場合に回復に必要なのは531個になる。つまり2日で全刀剣分を作れる計算。

「この霊珠作りって普段からやっておけば、いざという時の備えにもなるし、手伝い札不足してるときにも対応可能だよね」

 作った霊珠を箱に入れて手入部屋に運びつつそう言えば、荷物持ちしてくれてる次郎ちゃんも頷いてた。

「けど、この元になる水晶の数の確保が大変だねぇ。今回は陰陽部が万単位で用意してくれたから可能なだけだしさ」

 あ、それもそうか。ただビー玉に霊力篭めりゃいいってわけでもないもんね。篭めるための石にもある程度の力は必要なんだし。

「けれど、余剰分の霊力を保存できるのであれば、役には立つね。今回の霊珠の水晶ほどのものは無理でも、何か代用できるものがあるかもしれない。この危難が去ったら、私たちで探してみよう」

 石さんがそう言ってくれる。水晶は現世ではパワーストーンって言われるしなぁ。うん、現代にいた頃も色々あったよね。私はムーンストーンが好きでそのピアスや指輪買ってたな。あれ、昔買ったオレンジムーンストーンの指輪、何処やったっけ。

 ともあれ、審神者会議当日までには全員の重傷を15回は全回復できるだけの霊珠を作ることが出来た。うん、良かった良かった。






 こうして、着々と本丸は来たるべきX-DAYに向けての準備を進めていったのだった。