Episode:37 時を越えて帰省

「大将、就任二周年だな。これからも、大将のことは俺が守ってみせるぜ」

 おはようよりも先にそう言われて、朝っぱらから柄まで通された就任2周年の審神者です。

 多分、今日も去年と同じような流れになるんだろうなーってことで、今日は午後の出陣を取り止めにしてる。うん、午前中だけでも充分ノルマ(笑)はクリア出来るしね。あのノルマって新人審神者(刀剣数2部隊未満)用の最低限の数値だから、1時間もあれば終わるんだ。

 しかし、1年があっという間だなぁ。1周年を迎えて、祝われることに戸惑いを感じたのがついこの前のように感じるのに。子供のころって1日が短くて1年が長いのに、歳取ると1日が長くて1年が短く感じる。まぁ、日々の生活がある程度ルーティンになってるから、かな?

 そんなことを思いつつ、朝食、日課任務、出陣と午前中の業務を終わらせる。昼食を食べて、届いた2周年就任記念の政府からの記念品を確認していたときに、丙之五へのごさんからの通信が入った。うん、大体去年と同じくらいの時間だな。

 流れはほぼほぼ去年と同じ。まぁ、去年はちょっと悩んでたからその相談もあったんだけどね。

 で、今回も健康診断の結果から伝えられた。去年は防音結界と人払いをお願いされたから、今年は既に近侍の今剣いまちゃんと祐筆の骨喰ばみ君には一旦退室してもらって、防音結界も展開済み。

『健康診断の結果は問題なしですね。健康状態は更に良くなってます』

 健康状態はまぁそうだろうねー。何しろ食事は厨房班が、その他は短刀たちがすごーく気を遣って注意してくれてるから! 健康にならなきゃ嘘だよね。

『精神状態も問題なし。寧ろ江雪左文字様の難民解消されて改善してますかね』

「今は太鼓鐘貞宗難民ですけどね!」

 とはいえ、太鼓鐘貞宗はドロップ限定だから、江雪左文字や岩融のときよりは気楽。寧ろ白金台出陣してるメンバーのほうが難民拗らせてる感じ? でも、当の伊達組が『こればっかりは運だから仕方ないよねー。物欲センサー切れたら貞ちゃんも出てくるでしょ』とある意味吹っ切れて達観してるから、だんだんそれが他の延享組にも伝染して、『時が来れば来るさ』とのんびり構えるようになってきてる。うんうん、良かった。

『それから、所有限界ですけど、今回は4振増えて56振まで可能になりました。千子村正様と鶯丸様顕現予定でしたっけ?』

「お、2振分余裕出たんですね。じゃあ、予定にないメンツでも来れば呼べますねー」

 今年は54振になるのかなと予想してたけど、ラッキー。別に気にしなくてもいいのに、蜻蛉切とんさんが千子村正の顕現に申し訳なさを感じてたみたいだからなぁ。本丸非実装の粟田口が2振いるから。でも、正直なところうちにいない粟田口2振は呼ぶ気ないんだよねー。さにわちゃんねるでの情報とか、演練で見かけた様子とか。全く可愛いとも思えないし、うちに来てほしいとか微塵も思わない。正直来ないでほしいと思う性格や言動してるからな、あの2振は。とはいえ、可愛いと思ってなくても実際呼んだら可愛くて抱きしめちゃった蛍君パターンもあるから、顕現したらやっぱり『大事なうちの子』になるんだろうけど。

『そうですね。因みに来週、限定鍛刀で長船の短刀が来ます。景光の短刀ですね。あと、明日から浦島虎徹様と物吉貞宗様の極実装です』

 長船の短刀かー。光忠が会いたがるなら頑張ってみるかな。ただ、前回の小竜景光で『私と一番相性いいのは長船説』が覆ったんよね。博多藤四郎鍛刀と同じで、光忠に依頼札管理されて日課の3鍛刀以上はしなかったんだけど。うん、まぁ、長船は来たよ。全部光忠だったけど。結果、光忠は『旦那、どんだけ大将のこと好きなんだよ。ちょっと退くぜ……』なんて薬研に言われてリアルOTZしてたけど。だから、今回の限定鍛刀でも呼べる気はしないけどねー。

 そして浦島うら君と物吉貞宗の極かぁ。

「修行道具の万屋販売まだですかー?」

 うちは政府主催のイベントには積極的ではない。呼びたい刀剣がいるときには頑張るけど、でも昔みたいな業務時間を越える出陣はしなくなってる。これは刀剣たちの強い希望によってそうなった。大坂城とか必死で潜ってたときは終わった途端ぶっ倒れかけてたから、刀剣たちも心配になったんだろうなぁ。

 で、その結果どうなるかというと、政府の報酬での修行道具入手が出来ないわけだ。修行道具入手のために! って出陣してもらおうとすると、極スタンバイな短刀ちゃんたちからストップが掛かる。

 それと、結構これは深刻な問題なんだけど、政府主催イベントが始まると、途端に時間遡行軍撃退数が激減する。殆どの本丸がイベントに集中するからね。検非違使出なかったり、入手困難刀剣が手に入り易かったり、本丸に帰れば負傷も刀装も回復したりと、錬度上げもし易いから、それも当然だよね。

 この戦いが時間を越えて行なわれるものだから、っていうのもあるんだろうね。本丸の日時がいつだろうが、出陣先の日時は全部同じだ。だから大丈夫って。でも、本当にそうなのかなとも思う。だって、現在、本丸数は2730。その全てが同時代同戦場に出ているわけではないとはいえ、28戦場に2730部隊が出陣するんだから、単純に考えて1戦場に97~98部隊が赴くことになる。でも、それぞれの部隊が鉢合わせるなんてこともないわけで、そうすると、もしかしてパラレルワールド的に別の時空の同時間に出陣してることになるのかなぁなんて思うわけだ。例えば1本丸ごとに1つの時空が割り振られていて、本丸の数だけ同じ戦場があるのかな、みたいな。

 実際のところはどうかは判らないけど、でも単純に殆どの本丸が政府主催のイベントに係りきりなのはよろしくないと思うわけで。左近先輩や万年青おもとさん、万年青さん経由で知り合った白木蓮さんなんかともそんな話をした結果、出来るだけイベント期間は通常業務を回すことにした。

『上申してはいるんですけどねー……。総務の上のほうが言うには「イベントこなせば手に入るんだから、こなしてないほうが悪い」だそうでして。現場を知らない総務は何も判ってないのが多くてですね……』

 丙之五さんはげんなりした表情で言う。確かにイベントこなしてれば、修行道具手に入るんだよね。でも、うちみたいな本丸、少なくないでしょうに。総務部はきっちり本丸の構成刀剣見たほうがいい。戦績上位の本丸ほど極率低いからな! 左近先輩のところは初期実装短刀は全員極ってるけど、博多藤四郎以降は無印状態だし、万年青さんも白木蓮さんも他の上位本丸も大体1部隊分極てるかどうかだからな! 池田屋の記憶踏破報酬と政府からの配布分くらいの数しか極てないからな!

『情報部の分析課も口添えしてくれてるんですよ。ランクSSとランクSの100に満たない本丸がイベント期の通常戦線を支えて「敵の討伐」をしてくれてるんだぞと。なので、今暫くお待ちください』

 うん、待つけどねー。既に11振が修行道具待ちなんだよねぇ。明日になればそこに浦君も加わるから12振スタンバイOK状態になるし。

『なんとか上位本丸に配布できないもんかと、審神者部うちの上も色々考えてます』

 審神者部内では通常業務をきちんとこなしている本丸が極化においては不利益を被っている現状をなんとかしようとしてくれているらしい。有り難いけど、無理はしないでほしいなぁ。

「うちの子たちもまだ待てると言ってるんで、無理はしないでくださいね。万屋での販売要望は審神者のほうからも出し続けますんで。上位本丸だけじゃなくて、何処の本丸でも修行道具不足はあるでしょうから」

 気に病む丙之五さんにこれ以上気にしないように言う。まぁ、きっかけは私の言葉だから、申し訳ないんだけど。

『そうですね。これに限らず、要望はどんどん出してください。現場から遠い部署は審神者様や刀剣男士様の現状判ってないですから、それを知らせるためにも要望はどんどん出していただいたほうがいいです。さて、話を変えますね』

 そう言って丙之五さんが口にしたのは、今年の周年記念報酬。去年は本丸リフォーム無料だったけど、今年は。

「里帰り?」

『はい』

 なんと、過去の実家への帰省許可だった。

「え? 過去から来た審神者が未来から戻るのは歴史修正に繋がる可能性が高いから禁止だったんじゃないんですか?」

 だからこそ、私はこの戦争が終わっても元の時代には戻れないと言われたし、それで納得したんだけど。

『ええ。その可能性があるので「戻れません」と申し上げ、ご了承いただいている方にのみ任官していただいています。ただ、理由として一番大きいのは「審神者の能力」を持った方の安全対策ですね。23世紀現在ほどの安全対策を取ることが出来ませんからね、2205年以前は』

 確かにこの時代は審神者制度が広く周知されているから、その分、安全対策も取られている。でも、私が生まれ育った時代はまだ『審神者制度』なんて影も形もない。一応皇室及び政府(内閣)には話が通ってるらしいけど、でも国民は審神者になった者の家族しか知らないことだ。その家族も全てを知ってるわけじゃない。未来の日本でSFじみた戦いが起こっていて、その指揮官として特別国家公務員となる、その程度しか知らされていない。そんな状況だから、今の時代ほど過去では審神者の安全対策は取られていないわけだ。

『ただ、クリーンな運営を心掛けている政府としては、福利厚生的な面で乙種過去出身審神者様への不公平を何とかしたいと思っていたわけなんです』

 福利厚生? いや、前線指揮官と福利厚生ってすごーく違和感のある組み合わせじゃない? 非常事態だからこそのこの審神者制度なのに、福利厚生? ……政府、この戦争が長引くって考えてるんじゃない? だから、半恒久的なシステムとして審神者制度を整えようとしてるのかな。だから、『福利厚生』なんてもんが出てくるんじゃないか。

 ああ、いつの時代もいる『人権派(笑)』のせいかも。正直なところ、非常事態に人権って……と思わなくもない。いや、一般市民の人権は守られるべきだと思う。でも、軍人の人権ってそれは戦争の勝利よりも優先すべきことじゃないと思うんだよね。非難されそうな考えだけど。でもこの戦争、ぶっちゃけ歴史が変わったらそれって日本だけの問題じゃないからね。世界の歴史は何処かで繋がってるんだから、日本の歴史が変われば世界に影響が出る。下手をすれば地球滅亡規模になるからね。そんなときに国家に奉職し国民に仕える軍人の人権は二の次になると思うんだ。

 だから、福利厚生なんて言われても違和感しかない。

 素直にそう言えば、画面の向こうで丙之五さんは苦笑した。

『もー、右近様は歯に衣着せませんねぇ。非常時下において国家公務員に人権は適用すべきではないと私も思ってます。個人的な考えですけどね。だから私はこの戦いが終わるまでは家庭を持つ気にはならないし、結婚したとしても子供を持つ気はありません』

 結構な覚悟を以って役人してると思った丙之五さん、中々凄い覚悟してたな。……単に縁がなくて結婚できない言い訳じゃないよね?

『まぁ、したくても相手もいませんけどね! それはさておき、正直に申し上げて、この戦争は終わりが見えていません。賊軍が諦めない限り、この戦争は終わりませんし、時間遡行装置が出来てしまった以上、歴史を変えたいと思う人間は決して消えることはないでしょうから』

 確かになぁ……。今いる歴史修正主義者を殲滅したとしても、時間を遡れる以上、何かを変えたいと思う人間は必ず現れるだろう。もしかしたら、1年前に倒した時間遡行軍のトップと昨日倒した時間遡行軍のトップは全く違う時代の存在かもしれない。昨日倒した時間遡行軍の組織は既に壊滅していて、今日倒したのはそれから数百年後に出来た新たな組織の時間遡行軍かもしれない。そう考えると、この戦いに果てはない。

『ええ、そうなんですよ。顧問機関が右近様が仰ったようなことをもっと詳細に小難しく奏上したり首相に報告したりしたんで、政府としてもその可能性を視野に入れて、半恒久的組織として本丸システムを強固なものにしようとしてます。刀帳番号140以降の刀剣男士の出現もそのためですね。一度お断りになった付喪神にも再度お願いしている状態です』

 なるほど、そういう背景があったわけか。確かに敵は8億とかいわれてるんだから、審神者の数も刀剣男士の数も少ないよね。

「でしたら、審神者の福利厚生よりも先に同時出陣を4部隊、同時遠征4部隊の8部隊システム作ったら如何ですか?」

 一度に出陣できるのは1部隊だけだから、複数出陣できれば、一気に戦果は2倍以上になるし。まぁ、そうなったら各部隊を審神者が指揮するのは難しくなるから、審神者は部隊編成と出陣・撤退の指示くらいしか出来なくなるだろうけど。でも、今だって審神者は陣形選択くらいしかしてないしなぁ。尤もちゃんと責任を取るために戦場を見守ってはいるんだけど。とはいえ、現実の戦争でも指揮官が1部隊にのみ掛かりきりということはない。目的の提示をして、実際の戦闘は部隊に任せるわけだし、審神者もそうすればいいんじゃないんだろうか。

『その案も出てまして。技術局がそれに対応するシステム開発中ですが、一つのゲートから一度に沢山の時間遡行を行なうとゲート不具合が起きる可能性が高いらしく、実用化の目処が全く立たないそうです。あと、神祇局からも慎重論がありますね。仮に4部隊出陣可能になった場合、最悪の可能性としては24振が同時に重傷帰還なんてこともあるわけです。現状、そんな状態で直ぐに重傷者全員を問題なく手入出来るのって、三貴子推薦の審神者様3人しかいません』

 あー、そうか。手入! うん、確かに重傷者24振連続手入とか無理そう。私の場合、こんのすけからは『丸1日かけて10振ならいけるかもしれませんが、6振終わったら少なくとも8時間は寝てください』って言われたからねぇ。それ、実質は1日に連続手入は6振までじゃね?

『って! 話が逸れてますよ、右近様!! 有意義な話ではありますがね! 今は、貴女の帰省についてです』

 随分真面目な話になってたな。でもまぁ、政府が戦争が長期化することを見越して色々考えてるのは判った。んで、長期化するんであれば、確かに審神者の精神安定のためにも審神者という『職業』を定着させるためにも一般の公務員程度の福利厚生は必要だろうな。

「福利厚生が必要な理由はまぁ、とりあえず判りました。でもなんで、帰省なんですか?」

『簡単です。審神者制度成立以降の年代出身の審神者は簡単に家族に会えます。実家帰省も年に数回してますからね。でも、乙種審神者様はそうじゃありません。長い方で5年以上、ご家族にお会いになってません。それは不公平じゃないかってのが乙種審神者担当官の間から出ましてねぇ』

 言い出したの、あんたらかい!

『かといって公平にするために甲種審神者に実家帰省を禁じるってわけにもいきませんし。どんな極悪政府ですかって話になっちゃいますからね。なので、ここは乙種審神者にも実家帰省を認めようとなったわけなんです』

 私の実家帰省打診にはそういう背景があったらしい。因みにこれはまだ実験的な段階で、乙種審神者が自由に全員帰省できるという段階ではないそうだ。初めに昨年度の戦績上位50位に入ってる乙種審神者5名を帰省させる。その経過を観察後、更に5名、と試し、問題がなければ乙種審神者全員に希望を取ってとりあえず年に数回の帰省を認める方針らしい。

 今回の試行はランキング上位の乙種審神者だけど、単にそれだけで選ばれたわけではないらしい。審神者の選定基準の第一は守秘義務を守れること、不用意に未来の歴史を漏らしたりしないこと。まぁ、当然だよね。つーか、これ、2周年報酬じゃなくて、実験への協力要請じゃねーか。

『いやー、笑いました。今回帰省する5名、全部私の担当する審神者様でした。仕事めっちゃ増えました!!』

 すまんかった。って、あー、そうだ。3位だった左近先輩のほかにも、喜撰さんもお猿くんも大輔おおすけさんもランキング入ってたなぁ。昨日昨年度のランキングが発表されて、私は去年より4位アップの25位だった。刀剣たちは20位以内に入りたかったみたいでがっかりしてたけど、でも審神者の数が去年よりも800人ばかり増えてるんだから、悪い結果ではないと納得してたな。

 私は2003年から来て3年目なので、2006年の同月同日(本丸と)に帰省することになるらしい。因みに左近先輩は2003年から来て5年目だから2008年に帰省、喜撰さんは1997年から来て5年目になるので、2002年に帰省、大輔さんは2006年から来て4年目になるので、2010年に帰省、お猿くんは2002年から来て4年目になるので、私と同じく2006年に帰省するそうだ。

『政府の守りがない状態ですから、刀剣男士様1部隊を必ずお連れください。極も1振は必ずお連れくださいね。予定としては2泊3日。余り本丸を長く空けても刀剣男士様もご不安でしょうし、初回としてはそれくらいが妥当でしょう』

 詳しい注意事項とかはメールで送りますねーと言って、丙之五さんは通信を終えた。つーか、私まだ帰省するとか返事してませんけど? ほぼ強制で帰省ですか!

 中々に複雑な気分。ぶっちゃけ、2003年3月31日にあの時代を離れたとき、ニ度と戻れないって覚悟を決めて出発したんだよね。家族にはニ度と戻れないってことは内緒にしてたけどさー。戦争終わるまでは戻れないっては言っといたけど。

 色々複雑ではあるけど、政府の審神者政策の一環での試行だから、ほぼ特殊任務みたいなものだよね。受けるしかないか。

 丙之五さんからのメールには帰省する2週間前までに日程を知らせることと帰省申請書について書かれていた。帰省については日程が決まり次第この時代の役人から過去の政府経由で実家へと連絡が行くそうだ。更に、私があちらにいるとき限定で本丸とライブチャット通信も可能になるらしい。まぁ、本丸と連絡つくのは安心だな。極修行以外で刀剣たちと24時間以上離れたことないしね。

 さて、6振は誰を連れて行くかな。






 丙之五さんとの通信を終え、結界解除したところで、鳴君がやって来た。

「話、あるんでしょ? 皆、広間に集まってるよ」

 こてんと首を傾げて言う鳴君めっちゃ可愛い。ていうか、刀剣たち準備いいな! これは歌仙が指示したんだろうなぁ。

「うん、じゃあ、行こうか」

 お迎えに来てくれた鳴君とともに北の対屋にある広間へと向かう。

 広間に入れば、いつもの軍議とは違って、皆寛いでいる様子。でも私がいつものように上座に立てば居住まいを正す。鳴君も粟田口が集まっている一角へと移動する。

「さっき丙之五さんから2周年を迎えたことについての通信があったのは、既にばみ君や今ちゃんから聞いてると思う。去年と流れは同じだったよ。健康診断の結果と所有限界数を教えてもらった。健康診断の結果は何の問題もなし。去年より更に健康になってました。厨房班と体調管理班のおかげだね、ありがとう。それから、所有限界数は56振になったから、早速後で千子村正と鶯丸を顕現する。残りは5振のうち3振は以前から言ってるように物吉貞宗・太鼓鐘貞宗・日本号枠で、残りの2振は実装状況と依代入手状況で決める」

 この集まりの後、蜻蛉切とんさんと平野ひぃ君にそれぞれの依代を執務室まで持ってくるように頼む。

「で、去年は本丸リフォームというご褒美があったわけなんだけど、今回はご褒美というより特殊任務っぽいことを言われた。これまで私みたいな過去から来た審神者は実家への里帰りが出来なかったんだけど、今年から実験的に実施することになったそうなんだ。で、最初の里帰り許可審神者に私も選ばれた。今月か来月に2泊3日で2006年の実家に里帰りすることになった」

 その言葉に刀剣たちがどよめく。刀剣たちは皆私が戦争終結後も生まれ育った時代には帰れないことを知っている。戦争終結しても帰れない以上、戦争中に里帰りが許されないことも当然知っていた。それを痛ましく思っていた。私本人はそれほど気にしてなかったんだけどね。だから、実験的とはいえ、帰省が許されたことを我がことのように喜んでくれた。

「通常現世に行くときは1振護衛をつければいいんだけど、今回は過去への帰省だからね。政府による審神者を守るシステムがない。だから、刀剣男士を必ず1部隊6振連れて行くようにと言われてる。それから極っ子も1振は入れるようにってね。で、誰を連れて行くか、だけど……」

 そこで言葉を切って刀剣たちを見回す。すると、どんな会議でも先陣を切って発言してくれる長谷部が例によって挙手。頷いて発言を促す。

「今回は主の初めてのお宿下がりです。ならば、初期刀・初鍛刀はお連れになるべきかと存じます」

 自薦かと思いきやまさかの他薦。長谷部が推薦したのは歌仙と薬研。

「いや、長谷部。主が不在なのであれば、初期刀の僕が本丸を離れるわけにはいかないよ」

 歌仙は反論する。歌仙の言うことも判らなくはない。私と歌仙が同時に本丸を空けることは演練以外ではないからね。演練も基本的に殆ど歌仙は参加しないし。

「歌仙君の気持ちも判るよ。君は実質この本丸のナンバー2なわけだし。でも君は主の初期刀なんだから、君が最初に主のご両親にご挨拶しないでどうするんだい?」

 歌仙の反論に更に光忠が反論する。

「大丈夫です、歌仙さん。歌仙さんと薬研兄がいない分は他の祐筆課で補います。光忠さんと鳴叔父上といち兄がいます」

「保護者なら俺と髭爺と鶯丸もおるぞ」

「爺さんは黙ってな。その組み合わせは不安しかねぇよ」

 光忠の後押しをするように、本丸3番目の刀剣である前田まぁ君が言い、絶対的保護者枠見守り担当のみか爺の言葉に兼さんが突っ込みを入れる。

「2泊3日であれば、実質主ご不在なのは1日のみ。その程度であれば、お前がいなくとも問題はないぞ、歌仙」

 戦況分析課筆頭であり、祐筆課補佐でもある長谷部の言葉に歌仙は考え込む。

「歌仙の旦那、ここは皆の厚意に甘えようぜ。本当は行きたいんだろ? 俺っちだって、やっぱり初回に行きたいって思うぜ。初鍛刀だからな」

 迷ってる歌仙の背中を押したのは相棒のような存在である初鍛刀の薬研。それに歌仙はふぅと息を吐いた。

「皆の厚意に甘え推薦を受け入れよう。主、僕と薬研が同行する許可をくれるかい?」

 仄かに苦笑しつつ歌仙が言う。勿論、私に否やはない。初帰省だからこそ歌仙と薬研は連れて行くつもりだったんだ。でも歌仙は素直に首を縦には振らないだろうからどうしようかなと思ってたくらいだし。だけど、長谷部のナイスプレイと光忠・まぁ君・薬研のナイスコンビネーション(みか爺は除外。理由は兼さんが言ったとおり)のお蔭ですんなりと同行してくれることになってラッキー。

「あとの4振なんだけどね。実家は熊本──肥後なんだ。だから、肥後に所縁ゆかりのある、小夜ちゃんと蛍君と同田貫に来てもらおうと思ってる」

 小夜ちゃんは細川幽斎の刀だし、蛍君は阿蘇氏が所有し阿蘇神社に祀られていた。同田貫は清正公せいしょうこさんお抱えの刀工集団の打った刀だ。

「なるほど、初回だから、所縁のある刀剣を連れて行くのか。それなら主のご家族も親しみが持てるかもしれないな」

 普段から『先陣切って空気を掴むぜ』なんて言うだけあって、鶴爺がそう言ってくれる。小夜ちゃんや蛍君はともかく、同田貫は拒否するかもしれないと思ったから助かった。

「まぁ、そうだね。全く馴染みのない刀剣よりも何処かで繋がりを感じられるほうがいいかなって。3振ともいいよね?」

 3振を見てそう聞けば、全員が頷いてくれた。同田貫も全く嫌そうな気配もなく、どっちかというと機嫌よさそう。

「で……残りの1振はどうしよう?」

 極っ子は薬研がいるからクリアしてるし。刀種的にも短刀2に打刀2、大太刀1だから戦力的な問題はない。あ、因みに歌仙や小夜ちゃんの人間には有り得ないカラーリングの髪の毛も全員の瞳の色も、現世に赴く際は人間として不自然じゃない色合いに見えるようになってるから、問題ない。

 誰に来てもらおうかと考えつつ、刀剣たちを見渡せば、保護者組はじめ、皆が期待した目で見返してくる。それに留守居を預かると宣言した祐筆課と長谷部、みか爺(とそれに巻き込まれた髭爺)は苦笑してる。

「主よ、中々決まらぬのであれば、ここは公平にじゃんけん大会でよいのではないか?」

 どうしようかと悩んでいれば、袂で口を覆って可笑しそうにみか爺が言う。もうそれが手っ取り早いか。

「うん。戦力や刀種バランス的には既に今決まってる5振で問題ないからね。誰が来ることになっても大丈夫だし」

 そうして、第○回本丸大ジャンケン大会が始まったのだった。






 ジャンケン大会は凄かった。結局午後早い時間から初めて、決着がついて勝者が報告に来たのは夕食の前だった。ジャンケン大会に参加しなかったのは祐筆課と長谷部だけだったらしい。おいこら、見守り宣言してたみか爺も参加したのか。

 その間に負けちゃったひぃ君ととんさんがそれぞれ鶯丸と千子村正の依代を持って執務室に来たから顕現した。いつものように本丸のルールや出陣の決まりごとなんかを説明して、その後、ひぃ君ととんさんにお世話をお願いした。

 そしてやって来た勝者は愛染あい君。お、来派2振か。被保護者2振が行くことになった明石国行は寂しそうにしてたけど、出発前には保護者らしく色々2振に注意事項を言い聞かせてたな。

 帰省はゴールデンウィークを避けて、4月の第3週の金曜から日曜。この時代はゴールデンウィークはなくなってるけど、帰省する2006年にはあるからねー。

「主、ご両親への手土産は何にすればいいかな!? 万屋へ行こうか?」

「待てこら。この時代の物を過去には持ち込めないぞ」

「ああ、そうだったね! だったら、主の時代についたら何処ぞの土産物屋にでも……」

「落ち着け、歌仙の旦那!」

 準備をする中、珍しく歌仙がテンパってた。いやぁ、珍しいもの見たな。

 帰省当日は午前9時に本丸を出て、歴史保全省から2006年の東京に飛んで、そこから飛行機で熊本へ戻ることになった。一応この時代の政府と連携を取ってる時代には防衛省の一角にゲートが設置されているから、そこを使っての帰省になる。但し、23世紀以降の政府職員のIDか審神者IDがないと起動できないけど。






 その後、戦争終結までの間、年に2~3回のペースで帰省することとなった。毎回違う刀剣男士を連れて行き、時代劇の好きな父・新撰組の好きな妹と刀剣たちがそれなりに仲良くなったり、両親が短刀たちを孫扱いしたり、短刀たちに『叔母君』と呼ばれた妹が可愛さに悶えたりと、本丸では出来ない体験をすることになった。

 この帰省をきっかけに、21世紀と23世紀の私の2つの家族が、一つの大家族となったのだった。