約2ヶ月半ぶりに後輩である佐登君と再会して、色んな話をした。そして、最後に話題になったのは彼の研修所の同期の少女のこと。
「研修から帰った日、ホームルームがありましてね。クラスの25名全員が揃ったんですけど……」
今期の研修生は200人。その200人は25名ずつの8クラスに分かれて講義を受けていたらしい。そして全員が実地研修を終えて講義室に揃った。当然のように彼らの話題はつい先ほどまで居た研修先についてのことだったという。まぁ、そうなるだろうね。私も教育実習終わって最初に大学に戻ったときは皆からその話聞かれたし。
その中の1人の少女Aは憤慨しつつも何処か自慢げな様子をしていたという。因みにAといった佐登君は『アホのAです』と辛辣なことを言ってた。最初は驚いたけど、話を聞くうちに私も歌仙も納得した。確かにアホやと。
Aが研修に行った本丸は稼動4年目の本丸。30代の男性審神者が運営していて、戦績は優良でSSランクだという。刀剣は太鼓鐘貞宗を除いて揃っていたし、初期実装組の短刀全員が極になっていた。うん、紛うことなき優良本丸だ。
その本丸は全ての戦場が解放済みで、来て2週間ほどの大包平と極短刀のレベリングで延享の白金台を周回していたらしい。……2週間じゃまだ大包平カンストまでは行ってないよね? 結構大包平にはハードなんじゃなかろうか。でもまぁ、極5振が金弓兵2装備してればそれほどでもないかな?
まぁ、延享周回となれば、重傷必須だよね。極っ子たちは中傷かもしれないけど。
んで、そんな研修先審神者の部隊運用や出陣状況を見て、Aは先輩を非難したらしい。
『俺も先生の運用に一度は口出しした身ですから、言えた義理じゃないんですけどね』
そう言いながらも佐登君は呆れた様子を隠さなかった。
『ここはブラック本丸ですよね!! 中傷の刀剣様たちを帰還させずに戦わせるなんて!』
ここまでは、まぁ、その主張も判らんではない。延享実装までかなりの割合の審神者が中傷帰還をさせてたらしいし。うちもそうだったけど、延享進軍してると中傷で帰還するとマジでマップが進まない。だから、重傷になるまではひたすら進軍してもらうようになる。太鼓鐘貞宗がまだ来てないんだったら、白金台周回でとにかく本陣目指してただろうしなぁ。これもうちと一緒だ。
『それに、幼い短刀様を戦わせるなんて何を考えてるんですか!?』
ピュアホワイト()だったらしいです、A。別名脳内お花畑。
『大体、いつも執務室に篭りきりでどうして刀剣様たちと交流を図らないんですか!? 短刀様たちと遊んで差し上げてもいないし、掃除洗濯炊事、全て刀剣様たちにやらせるなんて!!』
うん? 意味判らない。業務時間内ずっと出陣してもらってたら、執務室から出る余裕なんてないし、戦場の情報纏めたり出陣記録確認したりしてれば夜だって仕事漬けだ。うちは祐筆課と戦況分析課のおかげでだいぶ負担は軽減しているけど、それでも時間外に2時間は当日の戦歴記録と睨めっこになる。とてもじゃないけど平日に刀剣たちと遊ぶ時間なんて取れないし、家事も任せっぱなし状態になる。刀剣たちはそれを了承して自ら率先して家事を担当してくれているから感謝しかない。
Aはそう言って先輩審神者を非難して、監査に通報したらしい。この本丸は刀剣を虐待している、と。
『監査からは調査するって返事があったわ。私の研修中は監査が入ることはなかったけど、今頃あの審神者は大慌てね。きっと逮捕されてるわ』
どうだ、私は素晴らしいことをしたでしょう! と言わんばかりにAは鼻息が荒かったらしい。
『あの素晴らしい刀剣様たちはきっと私に感謝してくださるわ。そして、私はあの方たちに望まれて刀剣様たちを引き取ることになるでしょうね。傷ついた刀剣様たちをお慰めしなきゃ!』
えーと。研修所で教えられてるはずだよね。刀剣男士の引継ぎは出来ないって。顕現した審神者の霊力で刀剣男士の肉体は形作られる。だから、刀剣男士は顕現した審神者の霊力しか受け付けないんだって。
当然、話を聞いていた同級生はそれは可笑しいと注意したらしい。刀剣男士の引継ぎなんて有り得ない。仮にその研修先の審神者が利敵行為該当審神者(外部サイト・外部ちゃんねるでいうブラック審神者)でその本丸が解体されるとしたら、刀剣様たちは全て刀解され本御霊にお還りになるだろうと。
でも、Aはそんなことはないと言い張ったらしい。刀剣様たちは自分たちを地獄から救い出した私に感謝しているし、私に主になってほしいと願っているはずだ。政府とてそんな神様たちの願いを無碍には出来ないはずだし、特例措置が取られるに違いないと。
全く話を聞かないAを同級生たちはこれ以上何を言っても無駄と放置することにした。Aをスルーして互いの研修の情報交換やこれからの本丸運営について話したりしていたそうだ。
そして、そのクラスの講師は教室の外から話を聞いていた。その結果、Aは実地研修不合格となり、現在2度目の研修を受けているらしい。当然、今の時期だと2度目の実地研修なんだろうけど……たった2ヶ月で認識変わってるんだろうか。
あ、因みに今回はうちの本丸は研修先じゃない。丙之五さんには上から打診あったらしいけど、まだ2年目の本丸に負担はかけられないと、今回は断ってくれたそうだ。来年2月の4期生研修は受け持ってもらうことになりそうだとも言ってたけど。
で……佐登君から聞いた、その研修先審神者。30代男性、聞いた容姿情報と刀剣の状況……うん、何やら知り合いの可能性がある。まぁ、似たような状況の審神者は結構いるだろうけど。でも、私のごくごく親しい先輩にも該当するんだよな。どうせ今夜丙之五さんグループ(丙之五さんが担当してる審神者5人)で通信するし、聞いてみよう。
『ちょ、聞いて聞いてwww 今度うちに監査入ることになったwww』
文字にすれば草(w)が生えまくってそうな調子で左近先輩は言った。
午後10時、毎週恒例の丙之五グループスカイプだ。7月に丙之五さんの担当する審神者が顔を合わせて、その後猿丸さんの提案で同時代出身でもあるし同じ担当官という共通点もあるし、交流深めない? ということで、こうしてスカイプをすることになった。あんまりこういう交流に加わりそうにないなと思ってたオジサマな喜撰さんも穏やかおばあさまな
『監査って、何やったんすか、左近さん』
笑いながら応じるお猿くん。先輩審神者だし『猿丸さん』って呼んでたんだけど『オレのほうがリアル年下なんで猿でいいっすよー』なんて言われたんで、今は『お猿くん』と呼んでる。
「先輩、今日、元見習い研修生から御馬鹿な同期の話を聞いたんだけどね。その同期、研修先審神者をブラック通報したんだって。まぁ、2ヵ月半も前のことだけど。まさか、それ先輩だったりする?」
佐登君から話を聞いてからもしかしたらと思ってたことを聞いてみる。
『お、知ってたか。そうそう。この前の8月の研修でなー。めっちゃお花畑な小娘が来てな。そいつが通報したらしい』
ケラケラと笑いながら先輩は言う。
『政府主催のイベント時の脳死周回以外でブラック運用などあるか? 何故それで通報されるんだ』
眉間に皺を寄せて言うのは堅物な面もある喜撰さん。元の時代では公務員だったらしい。何処にお勤めだったのかは教えていただいてないけどご本人曰く『堅苦しい職場だよ。旧態依然とした学歴と年功序列が全ての』なんて仰ってた。
『あらあら、喜撰さん、そのお嬢さんが言うブラックは脳死周回の疲労中傷ガン無視出陣のことじゃありませんよ。所謂利敵行為該当のことでしょう』
穏やかな笑みを浮かべて大輔さん。見た感じも雰囲気も古き良き日本の良妻なおばあさまといった風情の大輔さん。喩えるならそう、八千草薫さんといった感じ。でも、実は彼女、素晴らしいほどのちゃねらーだ。勿論、ちゃんねるは便所の落書きという認識をお持ちで、ご自身で情報を精査して把握している中々の情報通でもある。
『はぁ? この歴史保全省と宮内庁監察局の目が隅々まで行き届いてる環境でそれは有り得んだろう』
『いや、隅々までとは言い難いんじゃないですかね。ほら、源氏兄弟の本霊、検非違使に捕まってますし。絶対に内通者いるっしょ』
目を剥いた喜撰さんにお猿くんが突っ込みを入れる。先輩たちも丙之五さんから内密の内部捜査については聞いているらしい。因みにまだ犯人とか見つかってない。怪しい素振りの幾人かを集中捜査中らしいけど、中々尻尾を出さないそうだ。まぁ、敵の中枢に潜り込んでるんだからそれなりに優秀なスパイだろうから、確かに簡単には行かないだろうな。
『そうなんっすよねー。うち、逆賊本丸って言われちゃったんすよ』
顔は笑顔だけど、目は笑ってない左近先輩。そうなるよね。先輩がどんだけこの戦争に貢献してるんだか。先輩、戦績ランキングトップ5に常駐してるんだよ。神薦・寺社薦の黎明期審神者以外ではナンバー1の戦績叩きだして、戦況を引っ張ってる1人なんだよ。その先輩を寄りにもよって逆賊扱いとか。
『まぁ、監査もうちの状況知ってますし? 御馬鹿見習いの通報が見当外れだってのも判ってるんっすよ。ただねー。見習いのバックに政府のお偉いさんがいるらしくて。その方は何も言ってないみたいっすけど、虎の威を借る狐がいるみたいで。序でに歴保省内部にいるピュアホワイトな役人も五月蝿いみたいで。一応形だけでも監査しにいきまーすって連絡ありました』
軽いな、監査部。そして、やっぱり歴保省にもいるのか、ピュアホワイト役人。うん、その名称? だけなら、善良な素晴らしい役人に思えるけどね。この戦争に関わるピュアホワイトは蔑称だからね。ルビは『脳内お花畑』だからね。
『だから、処罰とか処分とかの心配はないんですけどー愚痴りたい!! だから聞いて!!』
うわー。左近先輩ストレス溜まってそう。
『右近~。お前、どういうふうに聞いた?』
そこで私に振るんかい。自分でストレス発散に撒くし立てるんじゃないのか。
「んー、うちの元見習いが言うには、その御馬鹿は先輩のところが刀剣虐待してるって通報したらしいね。短刀戦わせるのは酷いとか、中傷進軍なんて酷いとか、軽傷で帰還させろ寧ろ刀装減ったら帰還すべきだとか。あとはー……執務室に篭ってないでもっと刀剣と遊べだったかな。同期たちもそのあたりで無視することにしたらしい。あ、あと、先輩がお縄になったら、先輩の刀剣を引き取るって言ってたって」
私の発言に喜撰さんも大輔さんもお猿くんも呆れた表情だ。そうなるよねー。佐登君から話を聞いたときは私も歌仙もそうなってたもん。
「因みにそれを聞いたうちの歌仙が、『主の先輩を侮辱するなど、余程首を差し出したいらしい。あちらの僕が黙っていないだろうね』とも言ってた」
僕だったら確実に首を差し出せと言っていただろうねとも言ってたな。もしその研修生がうちに来てたら、多分同じようにブラック通報されてただろうし。運営状況殆ど変わらないからねー。
『あー、言ってたな。やっさだは首落ちて死ねって毎日毎時間のように呟いてたし』
物騒だな、先輩の大和守安定。でも大事な主を侮辱されたらそうなるよね。結構怒り狂ってた刀剣たちを宥めたのは、先輩本丸の保護者枠な鶯丸だったらしい。
『細かいことは気にするな……といつも言っているが、細かくはないが気にするな。気にしてやる価値もないだろう? 小者を相手にする必要はないと大包平なら言うだろうな』
『ああ、実際言ったな』
いつものオーカネヒラァに隣にいた大包平から突っ込みもどきが入ったそうだ。まぁ、穏やかに諭す鶯丸に刀剣たちも主に迷惑をかけるわけにもいかないと我慢していた。その分、戦場とか手合せで発散してたみたいだけど。
「序でに、その研修生、最終判断不合格で再研修になって、現在2回目の実地研修中だそうですけどねー。2ヶ月くらいじゃ変わらないよね」
『だな。俺も不合格で書類出したし。つーか、俺の講義聞かなかったし、出陣指揮の見学も殆どしねぇで内番の手伝いという名の邪魔ばっかりしてたな。そんな農作業なんて必要ないから遊びましょうとか言われたって愛染や今剣が報告してきたし』
そんなこともあったのか。それから出るは出るは、御馬鹿見習いのアホ行動の数々。料理手伝おうとするは、畑当番手伝おうとするは、一体研修所で何勉強してたんだという状態。この調子じゃ手入もしようとしたんじゃないかと思ったけど、血が怖いとそれはなかったらしい。軽傷でもぎゃんぎゃん騒いだそうだ。まぁ、刀剣の軽傷って、人間から見れば結構な大怪我だしね。無理もないとは思うけど、手入って日常の重要な仕事なのに、それで出来るんだろうか。
『まぁ、中傷進軍については今いる審神者でも意見分かれるところだから、仕方ねぇとは思うんだけどな。手入部屋一杯で一見怪我放置に見えてただろうってのも判るし』
「ああ、先輩のところの博多藤四郎、うちに比べると超シビアで倹約家ですもんねー」
中傷進軍は確かに現行の審神者の間でも意見が割れる。でも中傷即帰還の審神者たちも別に中傷進軍を非難しているわけじゃないんだよね。そういう運用もあるってのは理解した上で、中傷手入のほうが効率いいんじゃないかって言ってるだけ。
左近先輩の本丸はうちよりも刀剣たちによる手伝い札使用制限が強い。うちの場合は3時間以上掛かる手入への使用は刀剣もOK出してる(尤もそのOKを得るために結構言い合ったけど)。でも、左近先輩のところは6時間を超える場合に使用OKという条件、且つ1日に使用する手伝い札は5枚までと制限がついてる。脳死周回必至な特殊戦場に限りその使用制限はなくなるらしいけど。今も日常的に『充分な数の手伝い札あるんだから使わせろ!』『何があっか判らんけん、いかん!!』と博多藤四郎とバトルしてるらしい。
そんな状態だから、延享部隊のうち重傷になりやすい錬度の低い大包平、手入に時間の掛かる大太刀や太刀(何しろ重傷だと3日とか掛かるし)にしか手伝い札は使えない。そうなると、メイン戦力の極っ子たちは手入の順番待ちになる。まぁ、4部屋あるうちの1部屋は短時間手入用に空けてるそうだけど。そのせいで重傷でも暫く放置なんてことにもなるから、余計に見習いは『虐待!!』って叫んだらしい。
『でもなーなんで部外者に運営方針に口出しされなきゃいけないんだよー』
先輩のストレスの一番の原因はそこだった。まぁ、判る。
『それよねぇ。実情を理解していない部外者ほど、ピュアホワイト()を強要してくるのよね。見習いは大抵最初はそう。でも、時間が経って状況を理解すれば口出ししなくなるものよ』
『そうさなぁ。うちの見習いの初めは中傷で進むのは如何なものかとって言っておった』
『何処でもそうなんっすね。うちは言われたときにじゃあ、って軽傷帰還を実践して見せたんですよ。そしたら全然マップ進めないでしょ。序でに帰還した刀剣たちがまだ戦えるのにって不満ブーブー言うもんで、それで理解したっぽいっすね』
うちでも佐登君、最初は言ったもんなぁ。何処の研修生も同じらしい。でも、普通は研修が進むにつれてそういった運用もあるんだって理解する。自分がそうするかは別として。
「それが理解できないからお花畑とか言われるんでしょうね。その研修生、同期からも思いっきり呆れられてたそうだし」
このグループの先輩たちは戦績も運用状況も皆似たような状態だから、話が変に揉めることもない。他の運用を否定するわけじゃないけど、うちはこうだから、と割り切って話が出来る人たちだ。怠惰本丸といわれるピュアホワイトに関しては皆厳しい意見を持ってるけど、それ以外の運用に関しては『皆違って皆いい』というスタンスでいるし。
『監査も担当官課もそれを理解してるし、見習いの通報が見当違い甚だしいってのも判ってくれてるのが救いだよ。だけどよー……何故か直接関わりのないはずの他部署のピュアホワイト役人からメール来るんだけど? 運営状況の見直し・改善を求めますとかさー。それって越権行為だろ。おまけに何でか元見習いがガンガンメール寄越すんですけど? そりゃ本丸ID知ってるから送れるだろうけどさ。研修所のPCからメールしてるんだろうけど、研修所のPC管理どうなってんだよ……。なんで一研修生が審神者に直接メールできるんだよ。しかも毎回メールに「さっさと己の罪を認めて辞任しなさい。刀剣様にお詫びしなさい。お前の刀剣様は私が責任を持って癒し、お助けします」だとさ。もう呆れて笑うしかねーよな』
これ、先輩のところよりも研修所と他部署の監査のほうが必要じゃない?
『左近、そのメールに関しては丙之五や監査には伝えたのか?』
同じことを思ったらしい喜撰さんが先輩に尋ねる。
『勿論、伝えてますよー。既に何人か処分受けてます。厳重注意で済んだヤツもいれば懲戒免職になってるやつもいますね』
それならいいけど。っていうか、ちゃんと情報管理とか安全対策とか考えて雇おうよ……。審神者の情報が歴史修正主義者側に漏れたらどうすんの。審神者には手出しできなくても、審神者を殺すことは簡単じゃん。ちょっと時間遡って子供の頃とか親とか祖父母とか殺してしまえばいいんだし。尤もそれを防ぐために、審神者の個人情報は政府の何処にも記録されてないんだけどさ。
『本当にお疲れ様ね、左近さん。監査が終わったら皆でうちに集まって飲み会でもしましょうか。丙之五さんもお招きして』
心底同情したように、労わるような笑みで大輔さんが提案する。
『ありがとう、ババ様。んでな、右近。お前うちに遊びに来い』
ん? 突然の話題転換。何故、私が先輩の本丸に行くことになるんだ?
『うちの悪乗りーズが切れてな。ブラック通報されたってんなら、ぶらっく本丸作ってやるーって言ってんだ』
はい? 刀剣がブラック本丸作るの? 先輩を虐待するの?
先輩本丸の悪乗りーズは、結構な愉快犯の悪戯常習者。安心安定の鶴丸国永、鯰尾藤四郎に、ノリのいい和泉守兼定と陸奥守吉行。それから亜種らしい日本号とソハヤノツルキと亀甲貞宗。その3振はうちにはいないから本来がどういう性格なのかはよく判ってないんだけど、先輩曰く『完全に亜種』らしい。
『左近さん、何で右近女史だけなんすか。俺たちダメなの?』
『うちの刀剣と交流あるの右近だけだからなー。お前はまた今度な。監査は月曜に入るから、右近は明日の午後1時なー』
先輩の本丸に行くこと決定かい! まぁ、先輩もストレスフルみたいだし、心配だから行くとするか……。
『右近さん、左近さんのことよろしくね』
『頼むぞ、右近女史』
同じくストレス満杯で躁状態な左近さんを心配した大輔さんと喜撰さんにも頼まれたし、行きますけどね。
翌朝、朝食の席で左近さんの本丸を訪問する旨を皆に伝えて、一緒に行く刀剣を指名した。ちょっと心配なところもあるし、とある不安もあるんで、指名したのは歌仙・光忠・一期・
5振に事情を説明すれば、元見習いによる『利敵行為該当本丸通報』に憤り、元見習いの脳内お花畑っぷりに呆れ果て、ストレスMAXな先輩の心配をしていた。
「うちの見習いは佐登君で良かったね」
「まことに。もしその見習いが来ていたらお覚悟案件でしたな」
「穢れをハラキヨしないといけないねぇ」
「我が本丸でそのようなことになれば黙って両断されてもらうしかありませんな」
わお、穏やか系刀剣の代表でもある4振が過激だ。光忠は言葉は穏やかだけど目が怖いし。なお、歌仙は元々穏やか枠じゃない、過激枠だ。
「ま……まぁ、先輩もストレスが凄くてちょっと可笑しいことになってるみたいだから、あなたたちに同行してもらうことにしたんだ。刀剣も暴走してるみたいだし。悪戯方面だとは思うけどね」
そう告げて苦笑する。刀剣たちの忠誠心というか、私を思ってくれる気持ちは嬉しいんだけど。
そうして、約束の時間に左近先輩の本丸を訪問したのだった。
訪れた先輩の本丸はうちとは違って城郭パターンだった。基本的に城郭は世界に誇る文化遺産である姫路城を模している。姫路城は通称白鷺城。真っ白な城だ。しかし……
「……先輩のところって、城郭パターンだったんだね」
「おう! ウチの地元の松本城にちなんで鴉城だ!」
真っ白なはずの城の外壁は真っ黒に染まっていた。……これがブラック本丸か。うん、確かに黒い。そして、頭痛が痛い状態になる。
先輩の様子を見れば、にこやかな笑顔。でも目の下のクマが凄い。若干やつれているようにも見える。相当ストレスが掛かっていたみたいだ。
「……先輩、寝たら? てか、先輩の鶴丸国永も和泉守兼定も陸奥守吉行も鯰尾藤四郎も日本号もソハヤも亀甲貞宗も寝ろ。何で長谷部も一期一振も蜻蛉切も石切パッパも、特に初期刀歌仙兼定もこうなる前に止めない」
一体この広大な本丸の全ての外壁を黒く染めるのにどれだけの労力が掛かったんだか。そんな馬鹿なことをする前に止めろ、真面目組! 特に初期刀!!
まぁ、初期刀の歌仙はそれが少しでも先輩のストレス発散になると思ったのかもしれないな。
「ははは。面目ない。いや、城壁が黒いと肥後の城を思い出してねぇ」
肥後の城、熊本城。熊本城も黒い外壁から鴉城といわれてるもんね。確かに懐かしいかもしれないねぇ。でも、そうじゃないだろ。
「うん、熊本城も別名鴉城ではあるけどね。とりあえず、うちのお説教部隊、先輩本丸全員物理で沈めろ。こいつら強制休養とらせんとダメだ」
先輩だけじゃない。悪乗りーズだけじゃない。ここの刀剣、全員精神的にキてる。こりゃ強制休養が必要だ。
「何気に打撃強いメンバーが揃っていたねぇ。か弱い文系の僕は大人しくしているから、光忠、石さん頼むよ」
「歌仙君、4振で60振沈めるのは無理だよ。君も頼むね」
「長谷部殿ではありませんが、怠慢は許されませんぞ、歌仙殿」
サボろうとした歌仙の両腕を光忠と一期が掴み連行していった。
結局、物理ではなく諭して皆を眠らせてたけど。先輩には薬研特製睡眠誘導剤入りのお茶を飲ませて眠りについてもらいました。
それから、先輩本丸のこんのすけに頼んで自宅へと帰還したのでした、まる。
先輩の通報は結構な影響があった。というか、通報されたの先輩だけじゃなかった。3回の研修で15件ものお花畑による通報があったらしい。その結果、脳内お花畑を鍛え直すための厳しい指導を行なう、『特殊研修本丸』が指定されることになったそうだ。うん、そこは研修所で確り教育してほしいんだけどなぁ。知り合いの中では
……まさか数年後に左近先輩と共にうちまで指定されることになるなんて、思いもしなかった。