Episode:33 師弟対決

 その通信は金曜の夜にやってきた。金曜、つまり翌日の土曜日はうちの本丸の演練参加日だ。

「指定刀剣で部隊編成してほしい、ですか?」

 担当官丙之五へのご氏の言葉に首を傾げる。今まで丙之五さんが部隊編成に口を出したことなんてなかったから。

『ええ。明日、右近様が高レベル枠として対戦する審神者の編成に合わせてほしいんです。相手の審神者、右近様のお弟子さんですよ。佐登さと殿です』

 私の疑問に丙之五さんはそう応じた。おお、佐登君と対戦か。

『佐登殿、これが初演練らしくてですね。彼の担当官から相談されたんです。丁度右近様も演練参加日ですし、高レベル枠は師弟対決とかいいんじゃないかと思いましてね』

 ふむ。佐登君の初演練か。けど、既に11月。随分、演練参加遅いな、佐登君。本丸運営開始から2ヵ月半くらい経ってるよね。

「あー、確かに、うちも最初に当たった高レベル枠、全く同じ編成でしたねぇ」

『そういえば、右近様は左近様と対戦したんでしたっけ。後から報告書見て驚きましたよ』

 うん、あのときは左近先輩も私も互いに担当官が同じ人だなんて知らなかったもんね。左近先輩の部隊はうちと全く同じ編成で、それは結果的にうちの部隊のモチベーションアップに繋がった。遥かに上の錬度の同位体と対戦することによって、歌仙たちは自分たちの未来の姿をより具体的にイメージすることが出来るようになって、それが励みになったらしい。

「判りました。誰連れて行けばいいんですか?」

『驚きますよ、きっと。っていうか、複雑な気持ちになると思います。えっと、まず、短刀が愛染国俊様、脇差が堀川国広様、打刀が陸奥守吉行様』

 あー、佐登君、陸奥守吉行を初期刀にするって言ってたもんな。それに初鍛刀は愛染だったって言ってたし。

『太刀が三日月宗近様、大太刀が蛍丸様、薙刀の岩融様です』

 ……はい?

「みか爺と蛍君と岩融がんさん?」

『はい』

「……2ヵ月半ですよね? 何処まで進んでるんですか?」

『えーと、右近様と比べるとかなりスローペースですね』

「まだ阿津賀志山には行ってないんですね。ってことはほぼ鍛刀ですかー。すごいですね、蛍君と岩融いるのかー」

 うちにはなっかなか来てくれなかったんだけど。ううっ……羨ましくなんかッ!! まぁ、まだうちに来てくれてなかったら、めっちゃ嫉妬しただろうなぁ……。

 でも、運営2ヵ月半でみか爺と蛍君いたら、結構資源大変じゃないかなぁ。

「おっけー、判りました。明日はその6振で行きます。最高錬度の薙刀と演練の悪魔の恐ろしさ、見せてやりましょうか」

 岩さんと蛍君は小雲雀と望月に騎乗させて、蛍君には金軽騎兵と金精鋭兵、岩さんには金軽歩兵つけよう。愛染あい君には金銃兵2、陸奥と国広くに君には金投石2だ。真っ先に蛍丸と岩融攻撃するように指示しとこう。苛めじゃないよ! 意地悪でもないよ! 師匠としての愛の鞭だよ! ……若干のやっかみは入ってるけど。

『あはははは。まぁ、愛染様以外はカンストですし、そうなりますよねー。愛染様も極ですし。右近様の刀剣の強さは佐登殿もご存知のはずですしねー』

 そうそう。佐登君はうちに研修に来てたんだから、既知のことだよね。飽くまでも佐登君の刀剣に未来の自分の姿を見せるだけさー。

 ってことで、指定された6振を執務室に呼んで事情を説明する。

「ほほう。見習いと対戦か。しかし、見習いは既に俺も岩融もいるのか。三条と相性が良いのかも知れぬな」

 佐登君の陣容を聞いて、みか爺が言う。確かに霊力と刀派の相性って話はよく聞くからなぁ。本当かどうかは判らないけど。

「かもしれないねー。私の場合だと多分粟田口と相性がいいのかな。包丁以外いるし、一期一振も厚藤四郎も平野藤四郎も結構来るしね」

「主と一番相性いいのって絶対長船だよね! 光忠来まくるもん。多分、長船ってあと2振実装されるだろうし、そしたらそいつらも一杯来たりして!」

 私の言葉に応じた蛍君に苦笑が漏れる。

 レア4はやたらと一期一振が出まくってたし、短刀の中では鍛刀しにくくドロップしにくい厚藤四郎や平野藤四郎も結構出てくる。短刀レシピを回すことはないからドロップだけどさ。それに長船というか光忠はね……。今日の鍛刀も1振来てたな。というか、燭台切光忠を見ない日はないね! ってくらい来るよね。

「今回は高レベル枠での対戦だから、遠慮なく叩きのめしてやって。それが後輩の同位体のためになるから」

「ああ、そうですね。僕もそうでしたっけ」

 最初期1軍にいた国君が懐かしそうに言う。そうだよね、国君初演練に参加してたからね。あのころ国君は丁度錬度50で、左近先輩の堀川国広はカンストしてたもんなぁ。瞬殺に近い感じであっという間に勝負ついて、結構落ち込んでたよね。でも、その後はすごくモチベーションアップしてた。

「佐登君は主さんのことすごく慕ってますし、だとしたらその刀剣も僕たちに他の同位体よりも親近感を持ってると思うんですよね。そうなると、向こうの僕たちにとって僕たちって身近な目標になると思います」

 同位体のことも『僕』だから、聞いてて混乱しそうになる。僕たちがゲシュタルト崩壊だなぁ。

「なるほど。ではこれも見習いへの指南の1つとなるわけだな。ならば、遠慮なく叩きのめすとするか。俺たちが強ければ強いほど、彼奴らのもちべぇしょんもあっぷしようて」

 国君の言葉に岩さんも頷く。

「特に愛君はすごく影響与えそうだね。カンストした上に極だし。愛染国俊って刀剣は強くなることにもすごく貪欲だしね」

「おー! 任せろ、主さん! あっちのオレに忘れられない祭りにしてやるぜ! なんつってもあっちのオレは初鍛刀なんだろ? だったら佐登の第一の懐刀だからな! オレよりも確りしねぇといけないだろ!」

 短刀たちにとって『初鍛刀』というのはとても重要なポジションらしい。まぁ、うちの薬研の扱い見てればそう認識するよね。私もだけど他の幹部刀剣たちも初期刀の歌仙とともに薬研を別格扱いしてるし。短刀たちにしてみると、粟田口じゃなくても薬研は一目を置く存在で、短刀のトップという認識らしい。

 そんな薬研を見ているせいか、愛君は佐登君の初鍛刀が自分だったことを知ってすごく喜んでた。そんでもって、『あっちの俺は薬研みたいにちゃんとやれるかなぁ』って心配してたな。なんか可愛い。

「うん、先輩愛染国俊として、佐登君の愛染国俊に『愛染国俊の強さ』を確り見せてやってね」

「任せろ! 主さん!!」






 そんなこんなでやって来た演練。

 佐登君との対戦は最終戦で、14時からだった。指定されたH-3の対戦室に入ると、既に佐登君とその刀剣たちは来ていた。

「えっ! 高レベル枠の相手って先生だったんですか?」

 どうやら佐登君は聞いてなかったみたいで驚いてる。

「直接会うのは2ヵ月半ぶりだね。元気そうで何より、佐登君」

 取り敢えず挨拶して、佐登君の様子、佐登君の刀剣の様子を見る。うん、佐登君も元気そうだし、刀剣たちの様子も落ち着いてるし穏やか。まぁ、好奇心旺盛な陸奥守吉行や愛染国俊は主の師匠だった私に興味津々な様子が見て取れるけど。

「主、わしらにも紹介しとうせ」

「あ……ああ。先生、うちの刀剣たち、現第一部隊のメンバーです。初期刀の陸奥守吉行、初鍛刀の愛染国俊、初脇差の堀川国広、初太刀の三日月宗近、初大太刀の蛍丸、初薙刀の岩融」

「よろしく。まぁ、うちにも同位体がいるから判るけどね。佐登君の研修先の審神者だった右近です」

 後半は佐登君の刀剣に向かって自己紹介。佐登君の刀剣たちは非極の愛染国俊は勿論のこと、全振りが何処かうちの刀剣に比べると幼く見える。思い込みかな?

「ああ、主の先生じゃな。話は聞いておるぜよ」

「っていうか、先生! うちにも同位体がいるっていうか、その同位体が部隊じゃないですか!」

「うん、そうだね。うちの担当官経由で君の担当官から同じ編成にしてほしいって要望あったから」

「だから丙二十九さん、うちの部隊編成確認してたのか!」

「佐登君の初演練の高レベル枠にご指名いただきました」

「先生、うちの刀剣ヤる気満々ですね。全員カンスト済みじゃないですか! しかも愛染国俊様、極ってるし」

 今にもOTZとしそうな佐登君に彼の刀剣たちは苦笑している。でも、全員カンストと聞いて目の色が変わった。うんうん、いい感じ。

「そりゃうち、カンストか極しかいないし。何? 延享部隊のほうが良かった?」

「余計に無理ですよー。延享部隊って極3振に大太刀2振に3スロ太刀でしょう!? 全員カンストなのは変わりませんよね! しかも統率縛りあるから、最低でも統率値420超えてますよね! めっちゃ固いですよね!!」

「今は極2振と大太刀・太刀2振編成だねー。流石に教え子には負けられないでしょ」

 佐登君のレベルだったら、まぁ力押しで勝てる差が余裕であるからなぁ。同レベルの審神者とだとそうもいかないけど。編成やら作戦やら刀剣個刃のスキル・経験やらに左右される。

 未だにOTZしてる佐登君に苦笑していると、助け舟(?)をうちの国君が出してきた。

「うちも最初そうでしたよねー。左近さんのとこの完全同位体。僕たちは漸く50を超えたあたりで、相手はほぼカンスト」

 だったねー。ほぼ瞬殺されたよねぇ。

「うち、全員40未満なんですけど! 先生のところ全員カンストなんですけど!」

 国君の言葉は慰めにならなかったみたいで、佐登君は叫ぶ。それに佐登君の刀剣たちは苦笑してる。まぁ、騒いでるの佐登君だけで、佐登君の刀剣たちはやる気漲ってるけどね。因みにうちの刀剣たちはる気が漲ってる。自分たちが全力で当たることが後輩同位体のためになるって判ってるから。

「うん、あのときは僕たちもうわーと思ったんですよね。でも主さんが仰ったから。相手は自分たちの未来の姿。いずれ自分たちが持つ強さを持ってるんだ。自分たちの強さを味わっておいでって。そう言われたら、頑張るしかありませんよね」

 当時を思い出しながら言う国君。そういえばそういうこと言ったな。よく覚えてるなぁ、国君。

「それはあるな。万年青おもと殿の同位体と戦うと己などまだまだ精進が足りぬと思うことも多い」

 そう言ったのはみか爺。確かに大ベテラン万年青さんのところの刀剣たちは錬度だけでいえば同じ99。でも、積み重ねた実戦経験が違うから、やはり対戦すると学ぶことは多いもんね。

 国君とみか爺の言葉を聴いた佐登君はピタリと騒ぐのを止めた。うんうん、いいね。2振の言葉から、審神者としての役目を思い出したんだろう。

「先生の堀川国広様の仰るとおりだ。先生の刀剣男士様はとてもお強い。俺はその強さをこの目で見てきてる。お前ら、超強い先輩同位体の胸を借りて、その身で学んで来い!」

 佐登君はくるりと自分の刀剣に向き直り、そう力強く言った。とっても審神者らしい態度と言葉だ。そしてその佐登君を見る刀剣たちの眼も真剣で、かつ佐登君への信頼も見える。佐登君は刀剣たちといい関係を築いていってるみたいで安心する。

「さて、陸奥守、愛染、堀川、三日月、岩融、蛍丸。相手は錬度が君らの半分以下の同位体だ。手加減無用。たっぷりとその強さを見せ付けておいで。彼らの参考になるようにね」

「しかし、主。俺が本気を出したら三日月と蛍には攻撃が回らんぞ?」

 確かに素の機動で考えればそうだけど、そこはちゃんと調整済み。

「大丈夫、ちゃんと岩融が攻撃順最後になるように調整済み。ま、岩融が残ってれば、仮に打ち漏らしがあっても全部片付けてくれるでしょ」

 なんと言っても全体攻撃だからねー。因みにみか爺には軽騎兵特上3と望月、蛍君には精鋭兵特上と小雲雀、岩さんには重歩兵2と祝一号。遠戦が可能な愛君・国君・陸奥は遠戦装備なしにしてる。いや、この3振に遠戦させたら最低でも2振はその場で戦線崩壊するからね。

「よし、じゃあ、行っておいで!」

「応!」

 力強く応じた6振を模擬戦場へと送り出したのだった。






「まっこと同位体とはいえ、かんすと勢はおっかないぜよ」

 溜息混じりに言うのは、佐登君の陸奥守吉行。その横では同じく佐登君の愛染国俊が頷いてる。因みに対戦結果はうちの勝利A。佐登君のところの遠戦で国君の刀装が1削られちゃったから。

「オレなんてカンストの上に極だぜー。あっという間にやられちまった」

「極だからな、当然だろ! でも、うちの本丸の中じゃ、オレなんてまだまだだぜ」

 能力値だけなら、愛染国俊の極は短刀でもトップクラス。でもそこは過去刀剣時代の経験やこの本丸に来てからの経験で変わってくる部分もある。あとは自覚というか。うちの短刀最強は能力値でいえば決して高いとは言いがたい薬研なのだ。薬研は自分こそが懐刀であるという意識が強くて、そこから普段の鍛錬がかなり凄いことになってる。兼さんや陸奥から型にはまらない戦闘を学んだり、長谷部や厚、小夜ちゃんといった軍略に詳しい刀から学んだり。まぁ、他から学ぶっていうのはどの刀剣も同じなんだけど、やっぱり意識の違いなのかな。それは初期刀の歌仙も同じで、決して打刀の中ではステータス高いわけでもないのに打刀最強だったりする。

「マジかー。なぁなぁ、主さん! オレ、センセーのとこの刀剣たちと手合せしたい!」

「こら、愛染。我侭言うな」

「いいよ、うちの子たちがいいって言ったらだけど」

「すみません、先生。我侭言って」

「ヤッター! 楽しみだぜ!!」

 今現在、演練終わって我が本丸に戻ったところ。久しぶりに佐登君と会ったし積もる話もあるし、佐登君も色々聞きたいこともあるみたいなんで、うちの本丸に招待した。ただ、何処の本丸でも気遣いの出来る堀川国広の『突然1部隊全員押しかけるのもご迷惑ですよ!』という言葉によって、佐登君と初期刀・初鍛刀がうちに来ることになって、他の4振は先に佐登君の本丸に戻ってる。

「そういや、そっちの本丸にはまだ国行いねーだろ? 会うか? ま、うちの国行はニートじゃねーからちょっと亜種ってヤツだけどさ!」

「国行いるのかー! 会ってみたい!」

 二振の愛君たちはどうやら仲良くなったらしい。楽しそうに話してる。若干、うちの愛君がお兄ちゃん風吹かせてるかな?

「主さん、国行のところに佐登のオレ連れてってもいいか?」

「ここは私じゃなくて佐登君に許可得ないと」

 連れて行く刀剣男士は佐登君の愛染なんだから、私じゃなくて彼の主である佐登君に許可を求めないと。そう注意すれば、愛君は改めて佐登君に許可を求める。

「愛染様、うちの愛染をよろしくお願いしますね」

 佐登君も快く了承してくれて、二振の愛染は連れ立って楽しそうに自分たちの部屋のある西の対屋へと走っていく。あーあ、走ってたら保護者組に怒られるぞー。

「おや、佐登殿、久しぶりだね」

 執務室に入ると、書類整理をしてくれていたらしい歌仙が出迎えてくれる。

「御無沙汰しております、歌仙様」

 佐登君と陸奥守吉行が歌仙に挨拶を返す。因みにうちの演練参加部隊は既に解散してる。愛君は愛染の案内もあって一緒にいたけど。

 ソファに腰掛け、佐登君たちにも座るように勧めたところで、光忠がお茶とお茶菓子を持ってやってきた。どうやら国君から佐登君たちが来たことを聞いたらしい。

「佐登君、久しぶりだね。元気そうで良かったよ」

 と、その光忠を皮切りに色んな刀剣たちが入れ替わり立ち代り佐登君の顔を見にやって来た。でも気を遣ってくれたのか、殆どが挨拶して直ぐ立ち去るという慌しさだった。

「江雪左文字もいらしたんですね」

 そんな刀剣たちの顔見世が終わったところで、佐登君が呟くように言う。江雪は佐登君とは面識ないけど、弟たちと一緒に顔を見せてくれた。佐登君も私が江雪難民拗らせてたことはよく知ってるから感慨深げだ。

「うん、1ヶ月ちょっと前かな。漸く来てくれてね。小夜ちゃんと宗三がすっごく喜んでたよ」

「本当にお待ちになってましたからねぇ……小夜様」

 しみじみと佐登君が応じる。だよねぇ……。江雪が来たときは弟2振の誉桜が凄いことになってたもんな。

「先生は江雪難民とやらじゃったんか。だから、江雪来たとき主は頭抱えちょったがか?」

 なんと、チュートリアル後の鍛刀でやって来たのは江雪左文字だったらしい、佐登君。ということはうちより1ヵ月半早く来たことになるのか。とはいえ、うちはカンスト、佐登君のところは30台後半らしくて錬度は逆転してるけど。因みに初太刀は三日月宗近だって紹介されたけど、佐登君たち2期生までは三日月宗近と小狐丸が初期刀と共に配布された時期に重なってるらしい。そういえばなんか歴保省がアナウンスしてたな。うちは関係ないから忘れてた。

 確かに研修のときに、短刀・脇差・打刀は初期戦場でも入手できるから、それ以外を積極的に鍛刀するのもいいかもしれないとは言ったけどそれ実践してたのか。但し、初期は資源が不足するから手入で資源を多く使う太刀以上は要注意とも言っておいたけど、そこのところはどうなんだろう。

 それから、佐登君から実際の今の彼の本丸の状況を聞いた。うちと違って育成は第一部隊集中ではなく、全刀剣平等なんだとか。現在の刀剣男士は30振を顕現していて、それ以上の刀剣は未顕現で依代を保管、一旦現在顕現している刀剣が錬度50を超えたら次の刀剣を6の倍数で顕現する予定らしい。成る程、そういう方法もあるな。それであればうちの陸奥や山伏ぶしさん・獅子君みたいに待ち時間が長すぎる刀剣も出ないし。錬度はほぼ横並びで30台後半だそうだ。

 佐登君は刀剣運も中々いいらしく、既にレア4刀剣も演練に出ていた蛍丸や前述の江雪左文字の他、鶯丸と鶴丸国永もいるらしい。レア5太刀にレア4太刀3振、大太刀・薙刀って、手入のときの資源大変そうだな。

「レア4に三日月宗近、岩融がいるとなると、資源は大丈夫? 彼らは結構手入で資源食うでしょ」

「そうですね。でも戦場はほぼギリギリまで先に進まずに錬度上げしてるんで、そこまで傷を負うことはないですね。まだ安土攻略中ですから」

 はい? 安土? えーと……

 その進軍に『ん?』となっていると同じことを思ったのか、歌仙がタブレットを操作して運営記録を出してきた。各戦場に到達した日とクリアした日を纏めてあるものだ。

 佐登君は9月2日着任だから、今日が76日目。うちだと既に当時の全マップクリアしてるな。安土だとうちは……5日目やん! 平均錬度が30台後半なら、もっと難易度高いところでも大丈夫だよね。うちの子たち、池田屋部隊育成のために短刀君が錬度20台後半で京都の椿寺行ってたし。一応保護者に錬度60台の光忠と骨喰ばみ君と太郎たろさんと一期、50台の歌仙と兼さん付けてはいたけど。

「かなり進軍ペースゆっくりだね」

「ええ。全員平等に錬度上げしてるんで……。それにボスマスは最初の1回以外は避けてますし」

 予想外のスローペースな進軍にちょっとばかり、これでいいものかと頭痛がする。30振の特付けって、うちは20日目には終わってたし。76日目だと来て1ヶ月未満だった石切丸いしさんと蜻蛉切とんさん以外は一番錬度低い面子でも50越えてたし、石さんととんさんも40にはなってた。うちは第一部隊にガンガン戦場解放させて、経験値効率がいい戦場の周回したから、特付けは3日で終わったんだけど。その分、中傷になることも多かったし、そこそこハードモードだった気もする。刀剣たちから不満は出なかったから、間違った運用ではなかったと思うけど。

 安土の上限錬度は51だから、決して容易な戦場ではないだろうけど、それでもこのペースは遅いんじゃないだろうか。でも、これは佐登君の運営方針だから、余所の審神者が口を出すことじゃないよね。

 佐登君には佐登君の考えがあるし、刀剣たちも納得してるなら問題はない。陸奥守吉行初期刀だって佐登君の運営方針が間違ってる、或いは刀剣たちに不満があればちゃんと諫言してくれる刀剣だし。それに話を聞く限り、1日の戦闘数は80~90で、政府が推奨している1日50戦以上は達成してる。とにかく刀剣たちの安全を最優先してるって感じなのかな。

「どうも俺は粟田口と相性がよくないみたいで。粟田口でいるのは五虎退と前田と平野と秋田だけなんですよね……。短刀最大勢力と脇差の3分の1がいないのは結構痛いです」

 あー。そりゃ確かに痛い。粟田口は短刀の最大勢力。非粟田口は5振しかいないし、そのうち2振りは今の佐登君じゃどうやっても入手できないしなぁ。何よりお兄ちゃんがいない状況だと前田と平野がすっごく気を張ってそうだ。

 でもこればっかりはご縁だからなぁ……。とはいえ、短刀と脇差が少ないんじゃ、池田屋に進軍したときが大変だ。尤も佐登君のペースだと、池田屋に到達するにはあと半年くらいは掛かりそうな気もするけど。まぁ、脇差と打刀でも進軍は出来るけどね。

「うちの主は粟田口とは相性がいいからねぇ……。博多藤四郎以降の大阪城組短刀以外は3日目には揃っていたよね」

 思わぬ難民ぶりに歌仙が苦笑混じりに言う。そうそう。うちは初日から粟田口乱舞だったよねー。初日6振のうち4振が粟田口でしかも粟田口短刀兄貴2振とも来てくれたし。それに2日目には鳴狐なき君、3日目にはばみ君と保護者枠も早々に来てくれたもんな。

「そうだね。8日目には鯰尾ずおも来て、一期も21日目だっけ。博多藤四郎は中々来なかったけど、後藤藤四郎と信濃藤四郎も確定報酬だったからスムーズだったし」

「鶴爺が来るまでレア4は一期一振しか来なかったくらいだしねぇ……」

 うちの粟田口事情を振り返れば、佐登君と陸奥守が何処か羨ましそうな表情だ。一期一振が来まくってたときは『私ではなく! 江雪殿を!! 私の分霊、自重しなさい!!』って一期叫んでたし。厚が近侍で江雪呼べたときは、後から一期が厚を滅茶苦茶褒めまくって頭撫でまくってたよね。

「やっぱり相性というのはあるよね。主の場合、多分一番相性がいいのは長船だろうし。太刀の光忠率が恐ろしいくらいだ」

 深々と溜息をつく歌仙。うん、鍛刀すると太刀の6割は燭台切光忠だし、ドロップも4割は光忠だし。実装済みの太刀は17振、うち通常マップでドロップするor鍛刀可能なのは9振。燭台切光忠のやってくる割合、異常だよね。

「そがな燭台切光忠が来るがか。羨ましいのう」

 が、そんな歌仙の言葉にしみじみといった風情で陸奥守が呟く。光忠は決して珍しい刀剣じゃない。太刀の中では一番最初にドロップ出来るようになるくらいだし。

「うち……多分、先生とは真逆ですね。燭台切光忠難民ですから」

 ……光忠難民って相当珍しくないか? 光忠って割と何処の本丸でも早めに来てその後も出まくるって感じなんだけど。

「先生のところの食事が懐かしいです……」

 切実な声音で佐登君が言う。余りの切実さに歌仙とともに唖然。

「因みに、佐登君料理は?」

「ずっと実家暮らしだったんで……殆どしたことがありません」

 三十路過ぎても実家暮らしか! 普通は独立しない? まぁ、勤めた会社が実家に近いなら態々独立することもないか。

「主の料理の腕が壊滅的やき、わしらがなんとか料理するんじゃが……得意なヤツがおらんのじゃ」

「そちらにはまだ僕もいないのかい?」

 燭台切光忠と共に厨房の番人になることの多い歌仙兼定。大半の本丸でこの2振が中心になってると聞くけど……。

「歌仙兼定もいませんね。こちらでは厨の中心メンバーだった堀川国広も、うちは余り得意ではないみたいで」

 成る程。佐登君が料理が苦手だから、元々の来歴に料理の関わらない堀川国広はうちみたいに料理が出来るわけじゃない、と。私は特別料理上手というわけではないけど、一般的な同年代の女性並には出来る。だから、私の霊力で顕現している刀剣たちは(一部を除き)そこそこ皆料理できるもんなぁ。特に料理に所縁のある光忠と歌仙は一流シェフと一流板前って感じだし、手先が器用な脇差や打刀メンバーも割りと上手い。短刀たちはほぼ初日からお手伝いをしてくれてる関係もあって経験値を積んで上手くなってるし。

「……刀剣の依代譲渡ってNGだったよね」

 思わず呟いてしまう。連結用刀剣保管庫には依代が結構な数保管されてる。何しろ極っ子たちの錬結に相当な数必要だから。そして、太刀の半数は燭台切光忠だ。というかさ。刀剣の依代って余剰分は政府が回収して必要な審神者に配布すればいいと思うんだけどなぁ。まぁ、霊力の熟練度によって最大所持数も違ってくるし、少しずつ馴染ませる必要があるのは判るから、いきなり初任時に数十振与えるってわけにもいかないだろうけどね。

「そうですね……。運営に問題があるわけでもありませんし、料理が壊滅的に苦手な審神者用に宅食サービスもありますし、料理式神もいますし……」

 ああ、そういうサービスあったな。宅食サービス頼んでみたことあるけど(光忠と歌仙を休ませるために)、まぁ、光忠や歌仙の料理に慣れてると物足りないんだよね。和洋中華エスニックと何でも揃ってるし、美味しくはあるんだけど……なんか、違うって感じ。料理式神もレシピどおりに作ってくれるから不味くはないんだけど、式神の場合はメニュー決めて材料揃えるまでは審神者や刀剣男士がやらなくちゃいけないんだよね。

「っていうか、光忠や歌仙呼びたい理由が料理っていうのもどうなの」

 そう。そもそもそこが違うじゃん。光忠も歌仙も本業は飽くまでも戦うことだよ。料理というモチベーションに関わる部分でもあるから重要な後方支援ではあるんだけどさ。

「ええ、そうなんですよね。飽くまでも刀剣男士の皆様は戦うために来ていただいてるわけですし」

 でも、それでもやっぱり厨房の戦力になる刀剣に来てほしいんだろうなぁ。うちも基本的に光忠たち調理班にまかせっきりだから偉そうなことは言えないんだけど。

「こればっかりはご縁ですし、俺が何とか頑張るしかないですね」

 佐登君は苦笑した。






 その後、色々な話をして、約1時間後に愛染が戻ってきたのを機に佐登君たちは自分の本丸へと帰っていった。

 そして、そのときに言っていたこと。それが気に掛かった。

『同期が研修先がブラック本丸だとか騒いでたんですよね。さにわちゃんねるの見すぎですよ』

 呆れたように言っていた佐登君。どうやらその同期はピュアホワイト傾向にある少女らしく、同期の中でも浮いていたそうだ。

 でも……話に出てきた本丸と審神者。ちょっとばかり心当たりがあるんだよなぁ。今夜にでも連絡してみるかな。