久しぶりに訪れた歴史保全省。その一角にある『特別保守指揮官養成所』通称審神者研修所に、護衛の薬研と
先輩たちがそれぞれ1人ずつ順番に面談室へと入っていく。担当官が付き添うことが原則なんで、まぁ、ちょっと時間かかるよね。大体1人当たり30分程度掛かるから、最後の私は約2時間の待ち時間。待合室にはテレビもあるし、お茶やコーヒー、軽食にお菓子なんかも用意されてて、そこで今日知り合った先輩たちとお喋り。因みにきぃちゃんは『おいしゅうございます、はぐー』とこんのすけみたいなことを言いながら、鳴君にとってもらったお菓子をぱくついてる。
それぞれの先輩たちも護衛の刀剣男士2振をつれてきてるから、薬研たちも刀剣同士で交流してる。喜撰さんの護衛は今剣と岩融、
おばあさま審神者な大輔さんは私が(この中では)新人で唯一の同性ということもあって、色々と話しかけてくださった。濃い灰色の留袖に黒の帯、帯締めと半襟だけが濃緋という装いはとっても粋な着こなしで、こういうふうに和装を着こなせればいいなぁなんて憧れる。なんてことをお話してたら、今度着物を見立てていただけることになった。更に着付けも教えていただけると!
「初期刀が歌仙兼定なのであれば、和装を勧められているのではなくて?」
「そうなんです。和服は慣れていなくて動きにくいから却下とは言ってるんですけど。2週間に1回、和装の日を作られてはいるんですけど、まだ着付けも自分では出来なくて、次郎太刀のお世話になってます」
「ああ、あの子は意外と面倒見がいいのよねぇ」
穏やかな口調の大輔さんとお話したり、喜撰さんや猿丸さんとお話しているうちに、あっという間に2時間が過ぎた。まぁ、ラスト30分は既に先輩たちが本丸に戻っちゃったんで、薬研と鳴君ときぃちゃんとお喋りだったけど。
「ふふ、久しぶりに主独占」
なんて、可愛いことを鳴君が言うんで、思わず抱きしめた私は悪くない。薬研も『叔父貴可愛すぎんだろ』とか言って抱きついてた。うん、研修終わったら、他の刀剣たちとももっと交流時間増やそう。序でに近侍の不平等をなくそう。今まで事務仕事が得意な長谷部や初期刀組に多く割り振ってたからな。長谷部が悲しそうな顔をするのが目に浮かぶけど。
「お待たせいたしました。では右近様、こちらへ」
丙之五さんに呼ばれて面談室へ入る。室内にはまだ誰もいない。
「これが右近様に担当していただく予定の研修生です」
そう言って渡された書類に添付されている写真を見て、なんとなく見覚えがある気がした。個人情報は政府に全く登録されていないんで、名前や出身地の記載はない。研修生番号221107183という無機質な番号だけ。ただ、そこには『2013年よりスカウト』とあった。年齢は31歳。一応、同年齢だけど、私より10年後からスカウトされて同年齢ってことは本当は10歳年少。
10歳年少、見覚えのある顔。それに記憶が刺激される。
「失礼します。研修生番号221107183、入室します」
そう言って、30代の中々に逞しい体つきの男性が入ってくる。そして、その声を聞き、姿を見た瞬間、記憶が呼び起こされる。それは目の前に立つ研修生も同様だったらしい。
「聡志君!?」
「先生!?」
ほぼ同時に私と彼は叫ぶように口を開いていた。当然、そんな私たちに丙之五さんも薬研も鳴君も驚いてる。彼の付き添いらしい研修所の講師も同じく。って、やべぇ、本名、ぽろっと口にしてしまった。
「取り敢えず、研修生と講師の方はご着席を。審神者様もお座りください」
落ち着きを取り戻したらしい丙之五さんに言われて、思わず立ち上がっていた私も着座する。
「お知り合いだったんですか?」
全員がちゃんと座ったのを確認して、丙之五さんが尋ねてくる。
「ええ、写真を見たときに見覚えがあるなと思ったんですけど……約8年前から3年間受け持ってた元教え子です」
「私にとっては18年前から3年間ですが。お久しぶりです、先生。まさか、200年後の世界でお会いすることになるとは思いませんでした」
ですよねー。私だってまさかあの時代の知り合いとこの時代で会うなんて思わなかった。しかも、再び『先生』と『教え子』に準ずる関係で出会うとは。
彼は前職で1年目に受け持った塾の生徒だった。当時私は新入社員、彼はまだ中学1年生。それから3年間、彼が高校に合格して中学を卒業するまでの間、通信添削と週に2回の電話指導で交流していた。私が受け持っていた50名の生徒の中で、成績は中くらいだったけど、とても真面目に勉強する好い子だった。おまけに彼はクラブチームで競泳をやっていて、専門はバタフライ。実は私も小学校3年から中学卒業まで競泳をやっていた。部活ではなくクラブチーム所属、専門はバタフライという共通項があったこともあって、当時の生徒の中では親しい部類だったし、彼も私を慕ってくれた。
そんな懐かしい生徒が、今目の前に同年代の研修生として、居る。
「あー、イレギュラーですけど、仮の審神者号決めましょう。このままだとうっかり右近様が名前呼んじゃいそうです。っていうか呼んでますしね。あとから始末書提出していただきます」
はい。申し訳ありません。始末書で済んだのは軽い処分だよね。
「では、先生が俺の号決めてくれませんか?」
約10年前と変わらない笑顔で彼が言ってくれる。うん、どうしよう。彼の出身地や性格や、色々を思い出す。そして、私がうっかり名前呼びそうになってもフォローできる号。音は『さと』だな。じゃあ、文字は……。
「
本当は『昇る』だし『援ける』だけど、音ありきでの名付けだからこうなった。意味は通じるからいいよね。
「いいですね。じゃあ、仮の号はそれで。あ、先生、これを本当の号にしてもいいんですよね?」
後半は講師に尋ねる、聡志君改め佐登君。
「君が無事に審神者になれたら構わないよ。仮の号といっているのは君がまだ正式な審神者ではなく審神者候補生だからだ」
講師は中々に真面目らしく、そう返事をしている。
「呼び名がクリアされたところで、面談を始めます……というところなんですけど、これ、必要ですか? 既に先生と生徒として3年の実績あるわけですよね。お互いの性格とか判ってるわけだし」
先に進めようとした丙之五さんではあるけど、既に私と佐登君のコミュニケーションは成立しているわけで。薬研と鳴君も彼が私の『元教え子』と判ったことで警戒心を半分以下に減らしている。
「丙之五の旦那。手順省略とかいけねぇぜ? 大将と見習いは知り合いだが、俺たちはそうじゃねぇ。一応、俺っちは刀剣の代表として見習いを見定めに来てるんでな。面談が本当に顔合わせただけで終わったなんて、歌仙の旦那や長谷部に報告できねぇよ」
「そうだね。それに次もあるんなら、初回の今回、ちゃんと面談しておかないと」
丙之五さんに対して、薬研と鳴君が言う。鳴君の言葉は穏やかだけど、『ちゃんとやらないんなら、次回からは受け入れ反対するよ』と言外に脅してる。
「それもそうですね。では改めまして。研修生佐登さん、こちらがあなたの研修をしてくださる肥後国の右近様です。まだ2年目の審神者様ではありますが、前年度戦績ランキング29位、昨年就任した審神者様の中ではトップの成績を修められた非常に優秀な審神者様です」
なんか、照れるというか面映いというか、居た堪れないというか。確かに戦績は言われたとおりなんだけど、それは刀剣男士が頑張ってくれたからで、私だけの力じゃないから『優秀な審神者』って言われてもなぁ。『優秀な本丸』って言われるなら、刀剣たちも含まれるから『うん、そうだぞ!』って胸張れるんだけど。
が、私が褒められると私以上に喜ぶのが刀剣男士。2振揃って誉桜咲かせてます。初めて見るだろう誉桜に佐登君は目を丸くしてた。
その後、佐登君の研修所での大体の成績、実地研修の大まかな流れ、そういったことを確認して顔合わせは終わった。
「では、8月1日午前9時から研修が始まります。それまでには研修開始できるよう準備しておくようにね」
態々講師が念押ししたのは、前回の研修のときに9時に本丸到着した研修生が少なからずいたからだそうだ。9時スタートならそこから講義を受けられるように準備して審神者の目の前にいないといけない。でも、高校卒業直後に研修所入りした研修生の中には社会人にとっては当たり前の5分前にはスタンバイってのが出来てない人もいたらしい。それを佐登君も聞いていたらしく苦笑してる。まぁ、31歳なら会社勤め経験も当然あるだろうし、苦笑するしかないだろうなぁ。丙之五さんも『なんでそんな社会常識を教えないといけないんでしょうねぇ』とか遠い目をしてた。
そうして、3日後の再会を楽しみにしつつ、薬研・鳴君とともに本丸へと戻ったのであった。
8月1日、研修開始日。
前日にメールで知らせてきたとおり、研修生の佐登君は午前8時半に本丸に現れた。出迎えはこんのすけに任せ、私や刀剣たちは通常どおり。私は本日の近侍である
「審神者様、研修生を連れてまいりました」
こんのすけはまず、私の許(刀装部屋)に佐登君をつれて来た。佐登君は1か月分の荷物が入ってるらしいトランクを持ってる。まずはこの大荷物を部屋に置いてこさせるところからか。
「ご苦労様、こんのすけ。佐登君、おはよう」
「おはようございます、先生。今日からよろしくお願いします」
礼儀正しく挨拶をする佐登君をキヨが興味深そうに見てる。先日の顔合わせの後、刀剣たちは今回やってくる研修生が私の嘗ての教え子であることを薬研たちから聞いていて、元々『研修生』に持っていた興味を更に強くしている。薬研たちが佐登君が私を慕ってると感じたと告げたことによって、刀剣たちの好感度は会う前から高めでもあったし。
「はい、よろしく。じゃあ、こんのすけ、まず佐登君を離れに案内して。それから、15分後に広間に。佐登君、広間に来るときにはそのまま研修始められるように準備しておいて」
「はい、先生!」
「うん、その、『先生』は止めようか。今は先生じゃないから」
受け入れ本丸は確かに研修生の指導はするけど『先生』というよりは『先輩』だしなぁ。ここで先生と呼ばれるのはなんか違和感ある。
「でも、俺にとって先生は先生ですし……。3年間そう呼んでましたし、なんかの折に思い出すときも先生でしたし」
なんと、卒業した後も時々思い出してくれてたのか。それは教師(正確には塾講師)冥利に尽きるな。
「主、いいじゃん。研修生の好きに呼ばせれば。失礼な呼び方ならともかく、主を慕ってて敬ってるっての判るし」
そこに意外な助け舟を出したのがキヨだった。まぁ、ここで言い合ってても時間の無駄か。
「まぁ、お師匠様とか呼ばれるよりはマシか。んじゃ、もうそれでいいよ」
結局私が折れる形で了承して、取り敢えず佐登君に荷物を置きに行かせる。本丸無駄に広いし、離れは北西の対屋の奥だし若干時間掛かるだろうから。
佐登君が出て行った後、キヨと刀装作りを再開して、刀解・鍛刀の日課を済ませて、15分後に広間へ行くと、既に全刀剣と佐登君が揃ってた。
いつものとおり上座に立ち、今日の予定を伝達する。けど、その前に佐登君を呼び、紹介する。
「今日から1ヶ月間、この葉月の間、当本丸で審神者業務についての研修を受ける佐登だ。皆、何らかの形で関わることになるだろうから、よろしく頼むね。佐登君、挨拶を」
「本日よりお世話になります研修生でございます。こちらの審神者様より佐登という号を頂戴いたしました。短い間ではございますが、確り学ばせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします」
促した佐登君はシンプルながらも礼を弁えた挨拶をし、刀剣たちに深く頭を下げた。
「各刀剣の紹介は折に触れて。休憩時間や食事のときにでもそれぞれ挨拶してやって。では、本日の任務についての伝達に移る。今日から1週間から10日程度は通常出陣とは編成・出陣先ともに異なる。本日は午後1時より出陣、当分遠征は休止する。午後1時前に歌仙兼定と愛染国俊は執務室へ出陣準備を整えて集合。それ以降の部隊は予定の10分前までに執務室へ」
一応の出陣スケジュールとメンバーは昨日のミーティングでプリントにして配布してある。今日は【維新の記憶】の函館から始めるから、1回の出陣に掛かる時間は5分から15分。うわー、執務室混雑しそう。
「本日の近侍は加州清光、祐筆は薬研藤四郎。内番は掲示板を確認するように。では、解散」
いつもどおりの簡易なミーティングを終えて、祐筆の薬研、近侍のキヨ、それから佐登君を連れて執務室へ移動する。本丸施設の案内も兼ねてるんで、北の対屋→北西の対屋→道場→寝殿(厨房・居間・手入部屋・鍛錬所・刀装部屋・帰還用ゲート)→北東の対屋→北の対屋と本丸を一周。外にある厩や畑についてはまた後で内番について説明するときに案内することにしている。因みに東の対屋と西の対屋は刀剣たちのプライベートスペースなんで必要ないだろうと案内してない。
一通り本丸を案内して、執務室へ入り早速研修開始。
「研修所でも色々学んでいるとは思うけど、ここでは実際の前線基地・生活拠点としての本丸運営を体験してもらう。それと、こちらでも研修マニュアル作ってあるから渡しておくね。これに今後の大まかな予定や1日の基本的なタイムテーブルも記載してる。実地研修とはいえ、最初の1週間程度以外は通常の運営スタイルを変える気はない。丁寧に手取り足取り教えるわけじゃないから、見て考えて自分で学んでほしい」
研修生受け入れに当たって、研修所ではどんなことを学ぶのかは確認してる。羨ましいくらいに濃い内容を学んでるよね。私なんて歌仙と一緒にいきなり本丸着任からのトラウマものな単騎出陣・重傷帰還だったのに。
「基本的に佐登君には私と一緒に行動してもらって、見て学んで。勿論、判らないことがあれば質問も受け付ける。刀剣男士たちも聞けば教えてくれる。つまり、私も刀剣も君から聞かれない限りは懇切丁寧に教えることは基本的にないと思って」
まぁ、今からの約2時間は基本的な内容の確認を含めての唯一の『講義』だけど。
「学校ではなく職場と思えば妥当ですね。研修所が『机上研修』、実地研修はOJTという認識でいいんですよね」
流石社会人、話が早い。まぁ、実際に指揮を執らせたりするのは終盤になってからの予定ではあるけど、概ね間違いではない。
「そうだね。最終週にはうちの刀剣たちで君が部隊編成して、戦場を選択して実際に指揮を執ってもらう。これは刀剣たちも納得してるから安心して」
「はい。それまでに先生の指揮や編成を見て学びます」
確りと佐登君は頷く。どういう経緯で佐登君が審神者になったのかは判らないけど、ちゃんと『戦争指揮官』としての覚悟は出来ているみたいだ。それにホッとする。
「じゃあ、テキストを開いて。まず、禁止事項から確認するね」
研修生には幾つかの禁止事項がある。『審神者』としての禁止事項(守秘義務関連)とは別に、『主である審神者以外で本丸に滞在する者』としての禁止事項だ。
「1つ、手入の禁止。2つ、調理補助の禁止、3つ、内番のうち畑仕事の禁止。さて、これらが禁止されている理由は?」
講義が開始されたのを見て、薬研とキヨはそれぞれのデスクにつき、近侍用と祐筆用の端末を立ち上げる。ここで彼らも『研修生』を評価する。加えて祐筆は研修内容の記録も取ってくれる。記録取っておいてくれれば後から私が報告書を作るときも楽になるし。
「審神者以外の霊力が刀剣男士や本丸に浸透するのを防ぐため、です。本丸にしろ刀剣男士にしろ本丸の主である審神者以外の霊力が混じると不具合を起こす可能性があります。私たち研修生が霊力封じの
うん、完璧な回答。ちゃんとそれを理解しているならいい。
「正解。結構これを理解していない研修生や審神者もいるから気をつけて。刀剣男士は顕現した審神者以外の霊力を受け付けない。下手をすると刀剣破壊が起きる」
理解してない馬鹿がいたなぁ。演練で会ったことある。うちをブラックだとか言いやがって後藤と
「では次に本丸のスケジュール……」
その後、刀種の特性や戦場の確認、陣形についてなど、午前中は全て基本内容の確認の講義に充て、佐登君が研修所で確りと学んできたことを確認できた。ならば、午後からは予定どおり実戦をみせていくことにしよう。
昼食は光忠と国君が中心に腕を振るっての天むすと味噌カツだった。佐登君が名古屋出身だって知ってたから、名古屋グルメ(?)にしたらしい。その心遣いに佐登君もお礼を言って、まずまず刀剣との関係の滑り出しはいい感じ。昼食の間に席が近かった面々とは挨拶もしてた。
午後からは愈々出陣。まずは【維新の記憶】の函館から。うわー、着任初日以来、行ってない戦場かもしれない。【維新の記憶】は短刀・脇差・打刀のみの編成。なお、函館は敵さんが2体なんで打刀と短刀のペア。
「歌仙、愛染、準備はいい?」
「ああ、問題ない」
「バッチリだぜ、主さん!」
各刀種顕現順で隊を組んでるから、この組み合わせ。短刀は薬研・
「じゃあ、行ってらっしゃい。楽な戦場だけど、油断せずに行こう」
「応!」
刀装もちゃんと持たせてるし、どんな戦場であれ必ずお守り(極)は持たせてる。だから心配は要らないと思うけど、油断は大敵。
「手塚○光……」
私の台詞にボソっと呟いた佐登君に苦笑。そうか、一応その世代になるのかな。
佐登君にもインカムの予備を渡して、いざ出陣。因みに佐登君のインカムはあちらの声を聞くだけのもの。
『なんとも懐かしい戦場だねぇ』
『初日以来だよなー』
初日顕現の2振も何処か懐かしそうに戦場を見渡しているらしい。
『オレが先陣だぁ! え、作戦? 適当適当!』
隊長の
「歌仙、愛君!? なんで遠戦金玉使ってんの!?」
白兵戦に至らず、戦闘終了。何故って、愛君の刀装=金銃兵、歌仙の刀装=金投石兵×2。錬度99男士の金遠戦装備って……。意味なくね!? 白兵戦見せられないじゃん。
『主ッ、雅じゃない!!』
歌仙からの突っ込み入るけど、それは無視。しまった、いつもの刀装つけてたんだ。愛君は【池田屋の記憶】に出陣が多いから銃兵装備だし、歌仙も出陣のときは基本投石兵だし。確認し忘れた私が悪いんですね。
「仕方ない。白兵戦は次の部隊に任せる。2振は遠戦刀装の威力見せてやって」
『判ったぜ主さん! 次はぜってー俺が誉取る!!』
明るい返事の愛君にこっそり溜息。
「あー……遠戦だけで終了とか、あるんですね」
「ここは敵が2体しかいないからね。まぁ、打刀投石部隊とか編成すると、敵6体のうち半分が白兵戦前に戦線崩壊とか、普通にあるね。刀剣がカンストしてなくても」
佐登君の呟きに投石マスターのキヨが応じてる。白兵戦で攻撃順回ってこなくても遠戦結果で誉取るからなぁ、キヨは。
結局、歌仙・愛君ペアは2戦とも遠戦のみでの完全勝利Sで帰ってきたのでした。
歌仙たちが出陣すると同時に第2陣である乱ちゃん、
「はい、第2陣。ここも楽勝だけど、気をつけて行ってらっしゃい」
「ボクにお任せ! あるじさん」
明るくコケティッシュに笑って隊長の乱ちゃんが応じる。久々のお兄ちゃん&叔父さんとの出陣が嬉しそう。
「ホントに男の娘なんですね」
「だが、中身は男前だぜ? 俺っちの弟は」
誰もが一度は思うことをポロッと口にした佐登君に薬研が応じる。実は本刃も初めて会ったとき(本霊同士)には『あれ、俺に妹いたっけ?』と思ったらしい。
「乱ちゃんも頼りになる子だよねぇ。短刀の中では打撃強いし」
見た目で侮ると痛い目見るの代表だよね、乱ちゃん。まぁ、短刀全員にいえるんだけど。
会津の2戦はちゃんと白兵戦やって、でもあっさりと完全勝利S。帰ってきた乱ちゃんは『物足りないー』と膨れてた。まぁ、普段は池田屋(検非違使狩りで市中)行ってるわけだしね。
その後の宇都宮は五虎ちゃん・
ここで1つの時代が終わったんで、解説&質疑応答の時間を設けた。尤も、あっさり片付いたんでそれほど解説することはなかったんだけど。佐登君からは攻撃順についての確認と誉の判定についての質問があった。
続いての【江戸の記憶】鳥羽からは太刀も参加で、
それから、【織豊の記憶】関が原はしぃ君・青江・鳴君・伏さん・
その次の本能寺は博多・ずお・切国・膝丸・太郎さん・
本日最後の時代となったのは【戦国の記憶】で、長篠には五虎ちゃん・国君・陸奥・伏さん・蛍君・岩さん、三方ヶ原はひぃ君・青江・キヨ・膝丸・次郎ちゃん・とんさん、桶狭間は今ちゃん・ずお・同田貫・こぎ・太郎さん・杵君、椿寺は小夜ちゃん・浦君・兼さん・明石・石さん・岩さんの部隊で出陣。椿寺から戻ったら丁度いい時間だったんで、本日の出陣はここで終了して、戦国の記憶の質疑応答で戦闘に関する研修は終了。
夕食までは自由に過ごしていいと佐登君を部屋に戻し、私たちも一旦解散。薬研と一緒に厨房の手伝いに行った。佐登君は慣れない戦闘の見学ってことで相当気を張ってたらしく、かなりお疲れの様子だった。
夕食の際には佐登君の周りに初期刀組が集まってて、早速交流を図ってた。研修前にお願いしておいたことではあるけど、早速実践してくれていてありがたい。なお、刀剣たちは出陣の前にそれぞれ自己紹介してた。延享組以外は全員執務室に顔出したからね。
因みに佐登君は一番の下座に座ってた。特段、食事の際の席次というのは決まってなくて皆思い思いに座ってるんだけど、私が一番の上座というのは固定。主だからということらしい。で、私の両隣は短刀たち+蛍君のローテーション。今日は
夕食後、佐登君には9時に執務室に来るように言う。一応、毎日の幹部ミーティングにも参加というか見学してもらうことにしたから。
幹部ミーティングでは今日の出陣に関しての反省や問題点の把握をしたりするんだけど、今日は全員にとって生温すぎる戦場ばっかりだったせいか、特別何もなかった。尤も、だからといって油断したり戦場を嘗めて掛かるような阿呆は一振もいない。どんな戦場であれ嘗めていれば命に関わるというのは、戦神である刀剣たちには自明のことだったからね。更に明日の予定の確認をする。明日は【武家の記憶】から進軍だけど、阿津賀志山は全刀種の出撃を一通りやったら、その後は短刀・脇差を除いた部隊で周回することにしている。打刀以上の部隊は、未カンスト刀剣しかいない場合の推奨編成ってことで。まぁ、錬度が80未満くらいの推奨編成かな。短刀・脇差は不満を持ちそうだけど、【池田屋の記憶】では短刀・脇差部隊も編成するから納得してくれている。
明日の出陣予定の確認を終えたところで、佐登君には本日の研修終了と明日の朝食時間を伝えて、部屋に返した。
「おつかれさまでした。本日はありがとうございました。また明日もよろしくお願いします」
丁寧に頭を下げて私を含めて刀剣たちにも挨拶をしてから佐登君は退室していった。
「中々に礼儀を弁えた見習いだな」
佐登君の足音が完全に消えてから口を開いたのは太刀代表で会議に参加しているみか爺。みか爺は今日、近侍でもないのに執務室に何度も顔を出していた。佐登君を観察するためらしい。
「いやはや、暇でなぁ」
なんて、ほけほけと笑いながら、時には髭爺や獅子君を伴って。太郎さん・蛍君・次郎ちゃんの大太刀延享組は大太刀が4振りしかいないこともあって普通に編成に組み込まれてたし、残りの延享組は祐筆でもあるから個別に接することもあるだろうってことらしい。厚、祐筆じゃないんだけどな。
「そうだね。それに非常に勤勉だと薬研から報告を受けているよ」
祐筆課はその日のミーティングまでに筆頭祐筆である歌仙に報告を上げることになっているらしく、歌仙は既に薬研から今日の佐登君の様子を把握しているようだった。まぁ、薬研は短刀代表でこの席にいるんだけど。
「そうねー。すっごく真剣にモニター見てたし、よく質問もしてたよ。持ってた
本日の近侍ということでミーティングに参加していたキヨもそう報告してくる。うん、今日のキヨは私の補佐というよりも佐登君の観察をメインにしてたからね。まぁ、それが私の補佐にもなる。
「主、俺と薬研の報告は主の端末に送ってあるから、詳しくはそれを見てね」
キヨも薬研も仕事速いなぁ。助かる。
「ずっと見ていたわけではないが、真面目な青年だと思う。好い研修生ではないか」
打刀投石部隊隊長の曽祢さんも佐登君には好意的な評価を下す。
「初日ということもあって気を張りすぎているきらいはありましたがな」
「がはは。確かにのう。あれでは一月もたぬぞ」
とんさんが苦笑混じりに言えば、それに岩さんが同意する。あー、確かにそんな感じはあったなぁ。
「昔から真面目な子だからねぇ。幸い、明後日は土曜日で半休だし、日曜は完全休日にするから、そこで気を緩めることも出来るでしょ。薬研、短刀たちで遊びに誘ったりしてみてくれる? 息抜きさせたいし。ああ、一緒にお酒飲むのもいいかもね。太郎さん、次郎ちゃんに土曜日に飲むからお酒見繕っといてって伝えてもらえるかな」
佐登君も既に成人済みだし、いいよね。教え子と飲むっていうのは教師(塾講師だけど)にとっては夢の1つみたいなもんだし。
「畏まりました」
「了解、大将」
2人の了承を得て頷くと、途端にみか爺が態とらしく拗ねた。
「主と酒を酌み交わすのは次郎と研修生だけか? それはつれない」
「来たいなら来ればいいじゃない。佐登君の息抜きと皆との交流が目的なんだし」
まぁ、私は早めに抜ける気ではいるけどね。旧知の仲とはいえ、一応ここでは指導官だから、佐登君の息抜きにはならないかなって。
「あ、でも息抜きだから、堅苦しくないメンバーがいいな。だとすると、兼さんとか同田貫とかずおとかそのあたりがいいかなぁ。勿論次郎ちゃんも。今回短刀は遠慮してもらえると助かるか。判ってはいるけど、小学生の見た目で酒豪っぷり発揮されるとすっごい戸惑うから、初めは」
もうね、最初はショックだったよ。五虎ちゃんとか秋君とかまぁ君の酒豪っぷりには。見た目が幼いからね……。寧ろ薬研や厚の場合はなんとも思わなかったんだけど。
「それならば、初期刀組からは陸奥とキヨに行ってもらおうか。俺や歌仙では堅苦しくなりそうだ」
「どういう意味だい、蜂須賀」
蜂須賀の言葉に歌仙が突っ込むけど、顔は笑ってる。当刃も判ってるんだろう。まぁ、歌仙の性格以前に『
ということで、土曜日に佐登君を飲みに誘うメンバーは陸奥、キヨ、同田貫、兼さん、獅子君、次郎ちゃん、杵君になった。佐登君の息抜き作戦、よろしくね!
「さて、皆のおかげもあって研修初日無事終了。まだまだ先は長いから、引き続きよろしく頼むね。じゃあ、解散」
「おつかれさま、主。早く休むんだよ」
「日付が変わる前には休めよ、大将。いや、亥の刻にお小夜と博多を寝所に送り込むから一緒に寝ろ」
わぉ、
「ああ、いいね。きぃも行かせようか?」
会議中は無言だった絶対的第一部隊隊長鳴君。ここで喋るか。
「よろしゅうございますなぁ! このわたくしめのもふもふで主殿を眠りに
と、きぃちゃんまで。しかもきぃちゃん、既に鳴君の肩から降りて、私の膝の上に来たんだけど。
「主がおーばーわーくなさることは目に見えておりますからな。これは薬研のぐっじょぶというものですな」
穏やか刀剣代表のとんさんにまで言われた。
「判った判った。報告書仕上げたら直ぐに寝るから。小夜ちゃんと博多はもう無理に送り込まなくていいよ」
亥の刻(午後11時)だと、短刀たちは既に寝てることが多いし、それを起こしてまで私の睡眠導入剤にしなくていいから。
「じゃあ、眠そうにしてたらその場で送り込む」
送り込むことはどうあっても決定なんですね……。まぁ、可愛らしい抱き枕な短刀ちゃんたちはウェルカム! なんですけどねー。
苦笑しつつ出て行く刀剣たちを見送り、早速報告書作成に取り掛かったのでした。
ってことで、研修初日終了!