Episode:26 審神者一周年と色々な変化

 あたーらしいあーさがきたーきーぼーぉのあーさーだ……

 庭からラジオの音楽が流れる。うん、夏休みの恒例、ラジオ体操の音楽だ。今は夏休みじゃないけど。

 午前6時。厨房は戦場だ。他にもすでに洗濯班と掃除班も活動開始してる。ラジオ体操しているのは、その不器用さゆえに何処の班からも引き取り拒否されて現状『給湯班』という閑職? となったみか爺と髭爺。それから今日の当番ではない、調理班や洗濯班・掃除班の面々。

 しかし……うん、確かにある意味『新しい朝』かな。本日、4月2日。審神者2年目スタートです。

「きみが歩んできた道のりもこれで一年だ。 どうだい? 見えるものも違ってきたのではないかな?」

「はは、大将、就任一周年か! めでたいな!」

 今朝、会うなり歌仙と薬研にそう言われた。そのときになって漸く今日が一周年なのだと気付いた。ああ、そうか、新年度になって、ちょうど私が審神者になって1年経ったのかって。

「今夜はお祝いのご馳走だよ」

 朝食を作りながら光忠にそう言われたし、皆がおはようとともにお祝いの言葉をくれた。

 朝食後の朝礼(各業務の指示&確認)のときにも歌仙が一言言ってたし、午前中の出陣でも『大将の1周年の記念だ! 武勲を捧げるぜ!!』とか厚が超張り切ってくれてた。いや、張り切ってくれてたのは皆なんだけどね。遠征も誰も桜舞ってない状態なのに大成功連発してくれたし。

 でも、正直なところ、この就任1周年って喜んでいいことなのかが判らない。だって、1年も戦争が終わってないってことなんだから。

 まぁ、これまでの国家間の戦争と違って、国民の生活にはそれほど大きな影響はない戦争ではある。物価が上がるとか生活物資が不足するってこともないし、少なくとも現時点では一般国民が歴史修正主義者に殺されたこともない。一般国民が兵士として徴用されることもないし。あ、審神者は一般国民だけど、自分で志望して任官してるからやっぱり『戦時徴用』とは違うから。実際のところ、現世で生活してる国民には殆ど悪影響は出ていない内戦なんだよね、『歴史保全戦争』って。

 でも、それでも。戦争指揮官として周年を迎えたことを祝われるのはなんか複雑だ。

 それをちょうど連絡をしてきた丙之五へのごさんに言えば『右近様は相変わらず生真面目ですねぇ』と苦笑された。

 そして丙之五さん曰く、戦争継続や終結の責任は為政者にあるんだから、一前線指揮官である私が気にする必要は全くないとのこと。寧ろ、この戦争によって現世は経済活動が活発化し、近年稀に見る好景気になっているのだとか。だから、国民生活は豊かになってるし、相手がテロリストってことで国民の政府(というかこの内戦に関する政策)の支持率は90%を超えているんだそうだ。

 あー、今本丸数も2000を越えてるし、そこに平均40の刀剣男士がいるし、人口が8万人増えたようなもんか。2210年の日本の人口は約9800万人(随分減ったなぁ……)だから、それほど大きな人口増加ではないだろうけど、消費は大きく増えるよなぁ。食料品や生活必需品だけでもかなりの額が審神者と刀剣男士によって動いてるし、その分生産量も増えて農家も企業も潤ってる。

 それに審神者も刀剣男士も金を持ってる。しかも、生活費は基本的に政府持ちだからその収入は殆ど全て自由に使える。一応、終戦後や退官後のために貯蓄する人もいるらしいけど、大抵の審神者は割りと散在する。趣味の分野だったり、色々。刀剣男士は刀剣男士で戦争が終わればお金の使い道なんてなくなるから、宵越しの金は持たねぇぜとばかりにもらった給料はほぼ全額使っているらしいし。そりゃ消費伸びるよね。しかも刀剣男士って何気に目が肥えてる(歌仙や蜂須賀、三日月に限らず)から高級品を買うことのほうが多いし。

『重大な戦いではありますけど、一前線指揮官に戦局を左右することは出来ませんし、そもそもそれは我々政府の役割です。右近様は新たな家族や仲間と出会えたこと、1年を誰も欠けることなく過ごせたことを祝えばいいんじゃないですかね。1年間頑張った刀剣様とご自分を労う日、そう思ってはいかがですか?』

 なるほど。それもそうか。現実世界の和平交渉やらなんやらが望める戦争とは違うもんなぁ……。どちらかが全滅するか或いは政府が諦めるかしないと終わらない戦争だし。逆にある意味この戦争が続いているのは、歴史改変が阻止できていて且つ政府が改変を絶対に許さないと諦めていないからこそのことなんだ。

「そうですね。光忠が今日はお祝いだって言ってたけど、祝宴というより1年間の慰労会って考えます」

『はい、そうしてください。んで、政府から1年間頑張ってくださってる審神者様、刀剣男士様にささやかなお礼があります。本丸リフォーム無料!』

 は? 本丸リフォーム?

 私の不審そうな視線に気付いた丙之五さんが苦笑混じりに解説してくれた。

『基本的に本丸のリフォームは有料ですけど、1年も経つと刀剣男士の数も増えて、更にそれぞれの人間関係も出来てきます。そうすると色々施設を増やしたいって思うこともあるじゃないですか。なので、成績優秀且つ1周年を迎えた審神者様の本丸を政府全額出資でリフォームします』

 あー、そういえば非公式ながら昨日メールで2210年度の戦績の暫定ランキングが送られてきてたな。うちの本丸、なんと29位だった。2210年度運営開始本丸のトップだったらしい。因みに左近先輩は4位だった。すげぇ。

『プランの図面をメールで送っておきますねー。いくつかのパターンがあるんで、そこから選ぶことも出来ますし、変更も可能です。前に右近様仰ってたでしょ。刀種ごとに集まる部屋作ってもいいかなぁって』

 ああ、確かに言ったっけ。刀種ごとに遊んだり話し合ったりする部屋あってもいいんじゃないかなって。短刀たちだと薬研や厚の部屋に集まったりしてるし、打刀だと歌仙の部屋だったりするらしい。でも個室は6畳だから狭いって言ってたしなぁ。あと物持ち連中。歌仙とか蜂須賀とか清光キヨとか乱ちゃんとかは部屋が狭くなってきたって言ってたし。

 刀剣男士の数も当初より増えてる。刀帳番号から考えれば最低67振になる。一応部屋数は足りるけど、そうすると各刀種部屋は作るのが難しい。

「じゃあ、図面を元に皆で話し合ってリフォームします。申請とかどうすれば?」

『こんのすけに言えば一瞬で済みますよ。なんで、リフォーム前に全員の部屋配置とか決めておいてくださいね』

 ここでも便利機能発動するのか。楽でいいな。そんなことを考えていたら、不自然に丙之五さんが沈黙を作った。どうしたんだろうと画面に目をやると。

『そして、ここから、大変重要な話です。出来れば刀剣男士様には今は聞かれないほうが良い話ですので、音声遮断結界を張った上で入室不可にしていただけますか』

 急に真面目な顔になって丙之五さんが言う。刀剣男士に聞かれたら拙い話なんて、これまではなかったことだから少しばかり緊張する。

「乱ちゃん、前田まぁ君、私が呼ぶまで下がっててくれるかな。刀剣男士に内緒の話があるらしいから」

 本日の近侍である乱ちゃんと祐筆のまぁ君に伝え、2人が出て行った後、執務室の設定を刀剣男士入室不可にして、音声遮断結界を起動する。どちらも端末から起動できるから、一々札を貼ったり呪を唱えたりしなくていいのが楽だ。

『ありがとうございます。──先日の健康診断の結果が出ました』

 真剣な表情を崩さぬまま、丙之五さんは続ける。こんな顔した丙之五さん、見るの初めてかもしれない。

 1週間ほど前、もう直ぐ審神者就任から1年経つということで定期健康診断があった。私たちの時代の一般的な健康診断に加えて癌検診やMRI、カウンセリングもあり、さらに霊力測定もあった。その結果が何か思わしくなかったのだろう。こんな顔をしているということは命に関わるような病気でも見つかったのだろうか。

『健康状態についてはなんら問題ありません。燭台切様や歌仙様の健康メニューが効いてるみたいですね。就任前より体脂肪率も減ってますし、血糖値・コレステロール値も改善して、完全な健康体です』

 私のドキドキを返せ。そっか、健康か。うん、だろうとは思った。なにしろ審神者になる前は『かなりぽっちゃり』だったのが、現在は標準体重まであとちょっとまで痩せてきたからね!

『心理状態も問題ありませんでした。至って健やかな成人女性の精神状態でしたし、思想や性向にも問題なしだそうです。若干、お母さん的思考が増えているとの結果も出てますが、まぁ、それは無理もないでしょうね』

 精神状態も問題なしか。最前線にいて問題なしって、私の精神はワイヤーザイルか何かかな? 多分、刀剣たちが一緒にいるからだとは思うけどね。彼らが癒しでもあるし。お母さん的思考が増えてるっていうのも頷けるよね。短刀・脇差は我が子認識しちゃってるからなー。ああ、まぁ君や五虎ちゃんや小夜ちゃんに『お母さん』って呼ばれたい。

 健康状態・精神状態ともに問題なし。だとすれば、丙之五さんがこんな真剣な顔をしてるのは霊力に何らかの問題があったということ。『審神者』であるためには一番重要なことに、何かの問題が発生してるのか……。

『霊力に関してですが、現状を維持するのであればなんら問題はありません。ですが、刀剣男士の顕現数に制限がかかることになりました』

 そして、丙之五さんは続けた。私の霊力は現在政府が契約している58振全てを顕現するには足りないのだそうだ。私が顕現し、審神者業務を問題なく回せるのは52振までだと言われた。

「今、うちの本丸にいるのは47振ですから、あと5振ってことですね」

 あー、びっくりした。直ぐに審神者辞めなきゃいけないような霊力枯渇とか、そういうことかと思った。現状維持なら全く問題ないし、あと5振までなら増やせるってことか。

『ええ、そうなります。江雪左文字様、太鼓鐘貞宗様、鶴丸国永様は絶対に招きたいと仰ってましたから、あと2振ですね。因みに、政府が契約交渉中の粟田口はあと2振です』

「粟田口なら短刀ですよね? 正直短刀はもう戦力的に充分かな。少なくとも短刀・打刀・太刀は戦力的にもうこれ以上うちの本丸には必要ないんで、槍・脇差あたりで狙います」

 ああ、でも、ちゃんと刀剣たちには説明したほうがいいな。取り敢えず、祐筆課呼んで説明して、了解得て、その後皆にも説明だな。粟田口は別個に説明したほうがいいかな。

『おや、粟田口にお甘い右近様ですから、鳴狐様や一期一振様にご相談なさるかと思いましたが』

「本丸の戦力をどう構成するかは審神者の裁量ですからね。ブラコン一期には申し訳ないけど、新たに参戦する弟は諦めてもらいます。因みに、52振を超えて所持した場合、どうなります?」

『死にます』

 答えによっては制限越えてでも……と思っていたら、思いのほか厳しい声で丙之五さんは即答した。

「マジですか」

『掛け値なしのマジです。短刀様方可愛さに53振目顕現しようとかしないでくださいね』

 マジで真剣って表情で言う丙之五さんに、私は頷くしかなかった。

 というか、能力の限界を知らされたにしては私、冷静だな。まー、なんとなく判ってたからなぁ。厚が極になって、厚の手入のときに『あ、霊力吸われてる』って今までだったら感じないことを感じるようになってたから。もしかしたら、という予測はあったんだよね。だから、あと5振OKっていうのは意外と余裕あるんだなーって感じ。

「了解です。52振まででストップします。ああ、52振って上限が決まったから、リフォームもそれに合わせられますね」

 一応命かけて戦争の前線指揮官してるけど、積極的に命を危険に晒すなんてマゾヒスト極まれりなことをするつもりもない。丙之五さんに了解の返事をして、そろそろ昼休憩も終わりなんで挨拶をして通信を終える。

 モニターを通常画面に戻し、結界と入室制限を解除して、戻ってきた乱ちゃんに祐筆課全員を呼ぶように伝える。今は昼休憩だったから、出陣に影響はなかったんだけど、これからの話し合いは時間がかかるかもしれないから、今日の出陣は一旦停止。

「皆、急に予定変更してごめんね。緊急で相談したいことがあって、来てもらった」

 執務室には祐筆課勢ぞろい。初期刀の歌仙、初鍛刀の薬研、まぁ君、鳴狐なき君、骨喰ばみ君、国広くに君、光忠、太郎たろさん、一期。これが我が本丸の首脳部・祐筆課のメンバーだ。

「一体何事だい? 主がこんな急な予定変更だなんて……先ほどは担当官殿との通信で人払いをしたとまぁから聞いたけど、そんなに重要なことなのかい?」

 歌仙が不安げな面持ちで尋ねてくる。うん、無理もない。これまでに出陣を途中で取り止めたことは1回しかない。運営初期に検非違使に遭遇したとき。手入のためにその後の出陣を取り止めたんだよね。ああ、あのころはまだ太郎さんと一期はいなかったな。つまり、それくらいイレギュラーなことで、歌仙たちが不安に思うのも無理はない。

「重要といえば重要だね。さっき、丙之五さんから健康診断の結果が伝えられた。健康状態・精神状態・霊力ともに問題なし。健康については審神者になる前よりも寧ろ良好。これは光忠はじめ調理班のおかげだね。光忠、歌仙、薬研ありがとう」

 そう告げると3振は少し嬉しそうな顔をしたものの、私の話が気になって仕方ないといった感じだった。

「霊力はこのまま審神者を続けるには何の問題もないんだけど、1つ新たに判ったことがあった。私は52振までしか刀剣男士を顕現できないそうなんだ」

 ここで一呼吸置く。皆が言葉の意味を理解するまで。

「……今のまま運営するには問題ない。今本丸にいるのは47振だから、あと5振までなら顕現できる。けれどそれ以上顕現すると、主の霊力に何らかの影響が出る──そういうことでいいのかな」

 どうやら刀剣たちは私との会話を歌仙に任せる気らしい。うん、大抵そうだね。歌仙は初期刀であり、本丸の刀剣男士のまとめ役でありリーダーとして一目置かれてるし。

「そういうこと。この本丸に刀剣男士はあと5振しか増えない。そして、その5振は誰を招くか、決めている。短刀の太鼓鐘貞宗、脇差の物吉貞宗、太刀の江雪左文字と鶴丸国永、槍の日本号だ」

 ずっと左文字兄弟が待ってる江雪左文字、光忠と伽羅の希望があった太鼓鐘貞宗と鶴丸国永、この3振は絶対に外せない。そして、刀種的に数の少ない脇差と槍。そう決めた。

「一期、鳴君、ばみ君、薬研、まぁ君、ごめんね。粟田口はあと2振増える予定らしいけど、彼らはこの本丸には来ない」

 刀剣男士の中で最も『家族』の結びつきの強い粟田口だけど、もう彼らの新たな家族は増えない。それが申し訳ない。

「光忠も、恐らく2振、長船派が増えるはずだった。国君も、もしかしたら新撰組刀剣仲間が増えたかもしれないけど、彼らが参陣してもこの本丸に来ることはない」

 刀帳番号からして、多分長船派はあと2振増える予定だったんじゃないかと思う。他にも村正と古備前は1振りずつ、粟田口が2振(これは丙之五さんからも言われてる)、それから無刀派が3振、計67振になるはずだったんだと思われる。その中には兄弟でこそないものの同じ主に所有されていた仲間がいたかもしれない。けれど、その刀剣には私のせいで会えなくなる。

「大将、気に病む必要はないぞ。そりゃ、あと2振いるっていう粟田口に会えないのは寂しいが、兄弟が来たせいで大将の身に何かあるほうが俺っちたちにとっちゃ大問題だ」

「然様。恐らく残り2振は大叔父たる鬼丸国綱と藤四郎の誰かでしょうが、何、余所の本丸の彼らに会えばよいことです」

「うん、叔父上や甥っ子より、今は主が大事」

「ああ。問題ない」

「僕も叔父上や兄たちと同じ気持ちです、主君。主君の御身こそが大事です」

「うん。僕も親族に会えないのはちょっと寂しいけど、伽羅ちゃんに会えただけでも充分だよ。その上、貞ちゃんや鶴さんに会わせようとしてくれる主の気持ちだけで本当にありがたいって思ってる」

「そうですよ、主さん」

 薬研、一期、鳴君、ばみ君、まぁ君、光忠、国君が口々にそう言って理解を示してくれる。家族よりも私のほうが大切だって、とてもありがたい言葉までくれる。

「主、これだけは確かめておきたい。今後のために、主が無理をしないために必要なことだ。決して嘘や誤魔化しはしないでほしい」

 歌仙が真剣な顔をしてじっと私を見つめる。何を聞かれるのか、大体想像はつく。うん、それ、ここで聞くの? 歌仙には元々ちゃんと話しておくつもりだったけど、祐筆課で共有しちゃうの?

「もし、主が53振目を顕現した場合、どうなるんだい?」

 やっぱりそれだよね。聞くよね、聞いちゃうよね。しかも、嘘も誤魔化しもダメって、確り先に釘刺してくれちゃってるよね。

「あー……丙之五さん曰く、死んじゃうらしい、です」

 きっぱり言われたもんなぁ。うう、皆の顔、見れない。きっとすごい顔してそうだ。

「いや、多分、私が無理をしないように、丙之五さんが大袈裟に言ったんだと思うんだけどね? でもまぁ、健康を多少損なうことはあるかなーって感じじゃないかな」

 慌てて付け加える。だって、皆の雰囲気怖い。

「鍛刀は江雪左文字と鶴丸国永を狙っている以上仕方ないが、この2振が来たら、いっそ鍛錬所は閉鎖してしまおうか」

「そうだな、それがいい。江雪左文字と鶴丸国永が来たら物理的に鍛刀部屋潰しちまおう」

「ドロップも江雪さん、鶴さん、貞ちゃん、日本号さん、物吉貞宗以外は拾わないようにしようか」

「それはどうでしょうか。極になった短刀の錬結には相当な刀剣を要します。これまでの備蓄分の半分近くを厚が使い切っていますし。新たに江雪殿たちが顕現すれば彼らの錬結にも必要になります」

「では、刀剣保管庫の鍵を歌仙殿が保管してはいかがですか。間違って主が顕現なさらぬよう」

 歌仙が中々過激というかなんというか、そんなことを言ったかと思えば、それにあっさり薬研が同意して、光忠が更に余計な提案して、それに一期が異議を唱えて、妥協案?を太郎たろさんが提示して……。一体この連携はなんなんだ、祐筆課。

「主君、決してご無理はなさらないでください」

 うるっと瞳を潤ませたまぁ君に見つめられたら頷くしかないよね。審神者完敗だよね。

 ちょっとは揉めたり悲しまれたりするかなーと思った今後の顕現計画は予想外の方向ですんなり受け入れられた。うん、甘く見てたわ、刀剣男士の『忠誠心』。

 祐筆課への事前通達を終えて、それから粟田口に集まってもらって、同じく話をしたんだけど、ここでの反応は祐筆課粟田口とほぼ同じだった。まだいない家族よりも主である私のほうが大事と、乱ちゃんや五虎ちゃん、平野ひぃ君、秋田あき君に涙目で言われて、ブラコン一期から『お覚悟!』されるかと思った。

 更にその後、全刀剣男士に集まってもらって、同じく周知。ここでもほぼ無問題で受け入れられた。ただ、予想外の反応を示した刀剣が数振りいた。正確には周知の後。彼らはこっそりと執務室にやってきた。やってきたのは獅子王と同田貫正国。

「なぁ、主、霊力が足りねぇんなら、俺たちのこと刀解してくれ」

「ああ、俺も獅子王も家族や主家の関係者がいないからな。あんたの元で戦うのは楽しいけどよ、仲間や家族がいるやつが寂しがるんじゃねぇか」

 まさかの申し出だった。彼らの優しい気持ちはよく判る。判るけど!

「はぁ!? 馬鹿は休み休み言わんね! 寝言は寝て言え!! なんでまだ来てもおらんヤツのために、あんたたちば刀解せんといかんとね!!」

 獅子君もタヌキもこの本丸の仲間で、私にとっては家族同然だ。大事な大事な部下であり、家族であり、仲間なんだ。それは他の刀剣男士たちにとっても同様だろう。

「あんたたちよりも大事なもんはなか!! まだおらんヤツより、今おるあんたたちのほうが大事かとぞ!!」

 この本丸に来て初めてだろう怒髪天を衝く状態の私に、獅子君もタヌキも目を丸くしている。

「す…すまねぇ、主」

「悪かったよ……だから、泣くんじゃねぇよ」

 どうやら怒りと悲しさで私は泣いていたらしい。タヌキに言われて初めて、涙を流していたことに気付いた。

「二度とそぎゃんこつ言わんでよ」

「うん」

「ああ。……だがよ、俺はともかく獅子王は肥後弁よく判ってねぇかもしれねぇぞ」

「いや、流石にニュアンスってやつで判ったぞ」

 あ、熊本弁丸出しだった。肥後の刀工に打たれてる同田貫はちゃんと通じてるみたいだけど、獅子君には微妙だったみたい。

「主、もう言わねぇ! 主のために俺、これからも頑張るからよ。どんどん使ってくれよな!」

「俺もだぞ。アンタの下で存分に戦わせてくれ」

 2振はそう言ってカラリと笑った。うん、戦わせたる! でも、2振の申し出は結構ショックだったんで、お仕置きさせてもらう。

『通達、通達~。今日から1週間、獅子君と同田貫はペナルティで特別渾名で呼びます。獅子君はライオンキング略してライキンたん、同田貫はぽんちゃんでよろしく』

「主!?」

 本丸内放送でそう告げた私に、獅子君と同田貫は野太い悲鳴をあげたのだった。






 ということでその夜、審神者1周年祝宴改め1年間皆ご苦労様慰労の宴が開かれた。1年前の今日は6振の刀剣とともにした夕食が、今は47振の刀剣と一緒だ。なんか感慨深いものがあるなぁ。出来ればここにもう一振、江雪左文字を加えておきたかったけど……うん、物欲センサーに負けないで頑張る。

 で、その席で本丸リフォームについて説明して、希望の部屋を言うように伝えた。本丸そのもの配置については既に祐筆課班と相談して決定済み。

 リフォームで本丸は結構広くなる。今まで寝殿が一番広くて他の対屋は寝殿よりふた周りくらい小さかったんだけど、今回のリフォームで全部同じ大きさになる。で、個人の部屋も6畳から8畳に変更。

 北の対屋は私の私室、執務室、各運営チームの執務室、これまで寝殿にあった全体軍議用の大広間、それから刀剣男士の個室が7つ。そこには祐筆課のうち歌仙・薬研・光忠・鳴君・ばみ君・まぁ君・太郎さんが入ることになってる。

 東と西の対屋は刀剣男士の個室オンリーで各24室、北の対屋にも7室あるから、計55室で私が顕現可能な刀剣男士が全部(52振)揃っても部屋数は充分。

 北東の対屋には祈祷所(128畳大)を作った。ここで石切丸いしさんや太郎さんの日々の祈祷も出来るし、これまで中々出来なかった神事にも対応可能だ。

 北西の対屋は各刀種の刀種別部屋。20畳の広さがあるから人数の多い短刀、打刀、太刀も充分だろう。因みに人数の少ない槍と薙刀は一まとめにさせてもらった。ここで刀種別のミーティングしたり、遊んだり出来る。

 寝殿に関しては逆にちょっと小さくなった。これまでデカ過ぎた感じあったし。まず、軍議用の大広間を北の対屋に移動。それから手入部屋の隣に帰陣用ゲートとなる和室を設置。これまで帰陣用ゲートは大広間に設定してたんだけど、微妙に手入部屋まで遠いからね。延享に出陣するようになって誰かしら重傷帰還当たり前になっちゃってるし……。即手入できるようにってことでゲート専用部屋を設置した。因みに出発ゲートはこれまでどおり執務室。見送りはしたいしね。うん、本当は出迎えもしたほうがいいんだよね。でも現状は怪我がなければ、大広間に帰還した部隊が執務室に戻ってきて即出陣という『おかえりなさい&いってらっしゃい』状態。怪我人がいれば、帰還指示した後直ぐに手入部屋に行くからそこでお出迎え状態だし。効率優先で申し訳ないな。

 それから道場。これは位置は変わってない。でもここも広くなった。そのうえ、高性能な機能が追加された。これまでの道場はまさに『道場』でただ打ち合いをするだけの場所だったんだけど、より実践的な鍛錬も出来るようになったのだ。なんとパネル操作1つで仮想戦場に変更可能。野戦(昼・夕方・夜・晴天・雨天)、市街戦(昼・夕方・夜・晴天・雨天)、室内戦(昼・夜)と3パターンの戦場で12の状況に分けての戦闘が出来るようになっている。刀剣男士同士で戦うことも出来るし、実際の戦場と同じような仮想敵と戦うことも出来る。その仮想敵は野戦だと阿津賀志山、市街戦だと延享、室内戦なら池田屋に出てくる敵を模したものだから、それなりの強さもある。おまけに演練と同じで、戦闘が終われば怪我も刀装も自動回復する。うん、政府の技術すごい。歴史保全省技術局、マジすごい。因みにこの機能の技術はつい最近実用化されたそうで、戦績上位50位以内の本丸は希望すれば無料で設置、それ以外は有料らしい。

 翌日には全員が部屋割りの希望も提出したんで、それを登録してこんのすけに頼んでさくっとリフォームした。

 真新しい木の香りのする本丸に皆テンション上がりまくってたな。私もだけど。この機会に家具を買い換える刀剣もいて、私もベッドを買い換えた。これまではセミダブルだったんだけど、短刀ちゃんたちのお泊りに備えてクイーンサイズにしちゃった。それが出来るだけの部屋の広さもあったし。

 特に好評だったのは高性能高機能な道場。流石に刀剣男士の数が47振いると中々出陣の順番が回って来ないからね、闘争欲が欲求不満なメンツもそれなりにいたわけで。リフォーム初日からフル稼働状態ですよ。因みに刀剣男士の受傷はどうやら演練と同じく実際に傷を負っているわけではなく幻覚みたいなものらしくて、道場にはかなり高度な術式が組み込まれてるらしい。フル稼働で市街戦(仮想敵延享レベル)やられたら重傷必至なんで、手入れに使われる霊力が心配だったんだけど、無用の心配だった。なんか、宮内庁神祇局陰陽部、本気の出しどころ間違ってる気がしないでもないけど、研究者気質の術者たちだから仕方ないことなのかなぁ……。

 部屋割りそのものは割りと予想通りだった。粟田口、左文字、来、三条と刀派ごとに集まってたし、虎徹と新撰組も固まってた。兄弟で部屋が離れてるのは太郎たろさんと次郎じろちゃんくらい。

 道場と直通の西の対屋に同田貫や御手杵、新撰組が集まったのは、うん、予想の範囲内。出陣や内番、遠征がないときにはほぼ道場にいるからね、彼らは……。

 それから、馴れ合わないが信条のはずの伽羅は自分の隣2部屋をキープしてた。鶴さんと貞ちゃんが来たときのためなんだよってこっそりと光忠が教えてくれたけど、可愛いやん、伽羅ちゃん!






 さて、本丸1周年も過ぎたし、ド新人ではなくなったし、これからも精進しますか。