Episode:24 江雪左文字難民です。

 つい先日、演練で脳内お花畑な阿呆審神者に絡まれ、担当官さんたちの苦労が感じられた。翌日丙之五へのごさんとともにわざわざお詫びに来てくれた丙之二へのじさんは胃痛持ちらしい。ああいうピュアホワイトを自認してるおバカさんたちは自分たちが正しいと信じ切ってるから、中々改善しないそうだ。

 でもさ、本来戦うことを本分としてる刀剣男士が戦場に出たがらないって、それ、本質を歪めちゃってるわけだよね。審神者が刀剣男士の人格改造して洗脳しちゃってるってことだよね。それって、過剰労働よりも余程ヤバいと思うんですケド。それに本当は戦いたいのに審神者の言うことだからって我慢してるとしたら、刀剣男士の意思を丸無視した超極悪審神者じゃないですか、ヤダー。

 丙之五さんや左近先輩が『ピュアホワイトこそが刀剣虐待だ』って常々言ってたのがよく判る。そりゃ見た目愛らしい短刀たちを、見目麗しく線の細い(一部は線が太いけど)刀剣男士たちを戦場で戦わせるのを躊躇う気持ちは判らんでもないけどさー。見た目だけなら虫も殺せないような男士も多いし。けど、そこで本質を間違っちゃダメだよね。彼らは正しく『刀剣』であり、人を守り斬る武器としての意識を強く持ってるんだから。

 何でも4月から審神者任官から本丸着任までの流れが変わるらしくて、2ヶ月みっちり研修を受けることになるらしい。うん、頑張ってください、歴史保全省のお役人さんたち!

 因みに件のお花畑は万年青おもとさんが指導員という名の監視員になるそうだ。万年青さんは演練で何度かお会いしたことあるけど、60代の見た目は超怖いオジサマである。官報(月1回発行)の戦績ランキング(上位10位まで発表)の常連だ。元々陸軍に在籍していたそうで、当時の渾名は『鬼教官』。滅茶苦茶厳しかったらしい。一方で『朋友』認識した相手にはとても気さくで寛大、気の好いオジサマになる。私も新人の中では戦績がそこそこ良いらしく、万年青さんも気安く接してくださる。が……あのお花畑にはすっげぇ厳しい指導しそうだな。ご愁傷様。

 なお、この日の演練での出来事は直ぐに本丸内で情報共有された。乱ちゃんは怒りまくって丙之五さんに電話してたし(いつの間に電話番号聞いてたの……)、薬研はいつもの彼らしくなくなんか放電してるような怒り具合だったし。で、2人の様子を訝しんだ粟田口保護者組が代表で厚と後藤と信濃しぃ君に事情聴取した結果。まぁ、一期がぶち切れたよね。よりにもよって粟田口長兄が弟たちを否定するような言動してるわけだもん。『そこの私は本当に私なのですかな? 嘆かわしい!! 苺一房とでも改名すればよろしい!!』って憤ってた。

 うちの刀剣男士はまぁ、短刀には甘い。本丸では一緒に遊んであげるし何かとお菓子あげてるし。でも、一旦刀を握れば、一切子供扱いはしない。同格の刀剣として、剣士として接する。寧ろ短刀の方が先に顕現してる分、先輩として立ててる部分もあるし、夜戦・室内戦に関してはアドバイス求めたりもしてる。それに、短刀相手の手合わせとかお互い容赦ないよね。普段の溺愛っぷり何処行ったって感じだし。






 さて、そんなトラブル未満があった翌々日。政府から業務連絡メールが来た。明日午前10時からまた『戦力拡充計画』が始まるらしい。期間は1週間。

 ふむ、今回のドロップ率上昇刀剣は数珠丸恒次、不動行光、長曽祢虎徹、浦島虎徹か。──長曽祢虎徹!?

「歌仙、明日からまた戦力拡充計画だって」

 本日の祐筆・歌仙に声を掛ける。因みに近侍は後藤で、今は必死にタイピング練習中。入力文字をユーザーが設定できるタイピングソフトを使用してて、入力文章や単語は刀剣男士名や顕現時の台詞、口癖にしてあるから、結構皆楽しみながらタイピング練習してる。おかげでうちの刀剣たちは基本的に全員ブラインドタッチが出来る程度には文字入力スキルが高い。私は大体文字入力速度が1分間に300文字程度なんだけど、刀剣男士たちも概ね200は超えてる(長谷部と博多は私より速い)。

「おや、今回は参加するのかい?」

 前回は新人育成も兼ねて参加したけど、それまでは参加したことなかったから、そう歌仙が確認してくる。

「うん、参加。第2ステージの夜戦マップ本陣で長曽祢虎徹がドロップするらしいからね」

 検非違使ドロップ時代も鍛刀可になっても一向に来てくれない虎徹長男!! 源氏長男なんてホイホイと4振来たんだけどなぁ。ああ、物欲センサーめ!!

「なるほど、長曽祢虎徹か。蜂須賀と浦島うらを呼ぶかい?」

 歌仙の問いに頷くと、歌仙はマイクに向かい2人を呼ぶ。すっかり機械類の扱いに慣れたよなぁ、歌仙。そういえば陸奥や長谷部はパソコン、私以上に使いこなしてるよね。今じゃちょっとしたプログラムなら組めるようになってるし。陸奥は短刀たちが楽しめるようなゲーム作ろうとしてるし、長谷部は私の仕事が楽になるようなものが作れないかと試行錯誤中だ。

「主さん、呼んだー?」

 パタパタと駆けてきた浦君が勢いのまま抱き付いてくる。無邪気で天真爛漫な浦君、可愛い。いかにも末っ子って感じ。

「こら、浦島。主の執務室に許可も得ずに入るのは失礼だろう」

 後ろからやってきた確り者の次男が窘めてる。

「あ、ごめんなさい、主さん。近侍でも出陣でもないのに呼ばれるなんて滅多にないから嬉しくて」

 しょぼん(´・ω・`)とする浦君、激カワ。

「うん、次から気を付けようね。蜂須賀も入って」

 蜂須賀にも入室を促し、後藤が2人に座布団を用意する。後藤も気が利くね! 流石にこういうところは短刀だな。

「明日からまた戦力拡充計画が始まるの。で、今回第2ステージ夜戦マップでは長曽祢虎徹のドロップ率が上昇する。ってことで明日から2人には長曽祢虎徹奪回部隊に入ってもらおうと思う」

 2人が腰を落ち着けたのを確認して用件を切り出す。

「ホント!? 長曽祢にーちゃん来る!? 俺頑張るよ、主さん!!」

 浦君、超嬉しそう。でも蜂須賀はどうだろう。素直じゃないからなぁ……。

「贋作とはいえ兄だ。俺たち弟が迎えに行かないとね。浦島も新撰組連中も待ってるし。拝命するよ」

「おや、素直。もう少しゴネるかと思った」

「どうせ主にはバレバレだろう? 俺も実は長曽祢を待ってるって。まぁ、複雑ではある。長曽祢は贋作説が有力だし、俺も浦島も贋作には散々苦い思いをさせられたからね。でも長曽祢が自ら望んで贋作になったわけではないし、彼自身は立派な武士もののふの刀だ。彼に非はないよ」

 うちの蜂須賀はさにわちゃんねる(通称さにちゃん)で見るほどには長曽祢を忌避してないなってのは以前から感じてた。でもはっきりと自分も長曽祢を待ってるって明言したのはこれが初めてだ。

 実は新撰組刀たちが色々と蜂須賀に話をしていたらしい。まぁ、沖田組とは検非違使対策打刀投石部隊で長いこと一緒だったしね。そこで蜂須賀は自分の知らない『兄』についてたくさんのことを知った。近藤勇は本物の虎徹だと信じていたこと、その近藤の想いに応えるように100年を経ていないのに付喪神となっていたこと、どれだけ近藤のために頑張っていたのか。

「俺は真作という以外、これといった誇れる逸話も経歴もない。正直にいえば長曽祢が羨ましかったんだ。贋作と疑われながらも刀としての本分を果たし名を残した彼がね。だが、刀剣男士となって様々な刀に出会った。消失してしまった刀もいる。実在が疑われている刀もいる。それでも皆、ここにいる。それは人に愛されたからだ。俺も長曽祢も、それは変わらない」

 蜂須賀なりにずっと考えていたんだろう。きっとうちの蜂須賀だけではなく、色々な本丸の蜂須賀も、本霊だって、ただ『贋作だから忌避する』というだけではなかったのだろうと思う。蜂須賀の言うように真作としてのプライドとか、刀として活躍した長曽祢への羨望とか、色々複雑に絡み合っていたに違いない。そして、うちの蜂須賀は直接長曽祢を知る刀剣たちから話を聞くことによって、自分なりの折り合いをつけられたというわけだ。

「本御霊や他の分霊がどう考えているのかは知らないけど、俺は長曽祢を兄と認めているよ。だから、検非違使部隊にもいたし、今回も浦島と一緒に迎えに行く」

 にっこりと蜂須賀は笑う。迷いのない笑顔だ。

「尤も、本人を前にしたら素直にはなれないかもしれないけどね。長曽祢が作られて300年以上『贋作め』って嫌ってたわけだし。まぁ、次男組のツンデレだとでも思ってくれればいいよ」

 次男組のツンデレ……ああ、宗三とか膝丸とかね。うん、あの子たち若干ツンツンデレだよね。特に宗三。もう1人の次男の国広くに君はあんなに爽やか好青年(但し戦場では超物騒)なのに。でも虎徹次男と他次男が違うのは、ツンの向く相手。蜂須賀は兄にツンで宗三と膝丸は外部にツンだ。

「判った。打刀勢が面倒くさいヤツ多いのは慣れてるから、それくらいのツンデレなら笑って許せるよ。ともかく全てはお兄ちゃんをお迎えしてからだしね」

「ああ。主の物欲センサーと勝負だね」

 是非勝ってください、真作様。






 とまぁ、こんな経緯で始まった戦力拡充計画。『長曽祢ゲットするぜ!』を合言葉に全員一丸となって突き進みましたよ。まずは全マップクリアしてからの、夜戦マップ集中。

「主さん! 俺、頑張るぜ!! 浦兄も兼さんも国広くに兄も国行探しすんげー頑張ってくれてたからな! 今度は俺の番だ!!」

 そう力強く宣言したのは愛染あい君。浦君、兼さん、国君は三条大橋部隊でずっと明石探してくれてたからその恩返しがしたいそうだ。いい子だー、愛君。

 夜戦マップ攻略部隊はメインは短刀・脇差。それにプラス打刀4振。打刀は弟の蜂須賀と新撰組刀の兼さん、清光キヨ安定ヤス君。但し、現在育成班(未カンスト刀剣)にいる博多としぃ君は今回はお休みにしてる。育成班以外は出陣がほぼなくてフラストレーション溜まってるだろうから、その解消も兼ねてるしね。ってことで合計19振で、本人たちの希望により虎徹兄弟は常に部隊に入ってる。他は1時間交代。

「じゃあ、今回はひたすら本陣目指すから、本陣に行かないルートに行っちゃったら帰還ってことでいいね?」

 本陣ルートから逸れたらその戦闘で終了・帰還して再出発。これを繰り返す。そう決めて出陣を繰り返した。

 まぁ、このマップの上限錬度超えてるパーティなんで戦闘自体は楽勝だよね。上限超えてるから経験値は入らないけど、皆それでもいい! って言ってくれた。

 道を逸れたら帰還し、本陣潰しては『違ーう!!』と叫び。そんなことを繰り返して幾星霜。いや、何年も経ったわけではないけど。

 そんな中、特に心を抉るのは浦君の悲痛な叫び。

「俺じゃないんだってばー!!」

 虎徹兄弟の本霊が護歴神社に戻るまで、検非違使ドロップは虎徹兄弟(と数多の短刀&脇差)だった。うちでも毎日検非違使5戦してたけど、36日目に浦君が来てくれて以降、長曽祢はおろか2振目の浦君すら来なかった。源氏兄弟はほいほい来るのにねぇ……。 が、このマップ本陣で浦君2振目。と思ったら、連続で3振来た。で、この浦君の叫びである。

「まさか俺がこの台詞言うことになるとは思わなかったよ!!」

 だよねー。浦君いるから鍛刀で浦島レシピ回してないし。博多レシピは若干被ってたけど、そこでも全く出なかったし。散々鯰尾ずお骨喰ばみツインズが『俺じゃないんですよー!!』って叫んでたの聞いてたからなぁ、浦君。ずおばみに限らず普段から光忠はじめコモン太刀3振に打刀勢が『僕じゃない』『俺じゃない』『拙僧ではござらん』とリアルOTZしてるの見てたし。私だって『浦君じゃなくて……』なんて思う日が来るとは思ってませんでした。

 意地でもお兄ちゃんをゲットしたい虎徹兄弟は疲労状態になると仙人団子食べてた。絶対に隊からは外れない!! って言って。でもね、やっぱり精神的疲労は溜まるのよ。なので、滅多に使わない主命で以って2振を強制的に休ませて。

「江雪兄様への物欲が強い僕がいれば、対長曽祢物欲センサー切れると思う」

 小夜ちゃんがそんなことを言い出した。至極真面目な、いや真面目というより真剣な表情で言う小夜ちゃん。そうだよね、江雪兄様に会いたいよね、ごめんね小夜ちゃん。

「ボクたち粟田口は物欲センサー切れてるから、無欲の勝利になるよ!」

「そうだな、俺っちたちは恵まれてるからな。きっとその恩恵があるはずだぜ」

「おうよ! 大将、俺たちに任せな!」

「お任せください、主君」

 力強く言ってくれたのは初日顕現の乱ちゃん、薬研、厚、前田まぁ君。ずっと愛君のことを気に掛けてて、その愛君のために頑張ってくれてた三条大橋部隊には感謝してたらしい。だからその感謝を表す1つとして今回の浦君のお兄ちゃん奪還に燃えてる。

 というわけで、小夜ちゃん、乱ちゃん、薬研、厚、まぁ君の短刀5振と宗三で隊を組んで本陣に向かい。

「主! 見たことない打刀!! きっとこれだよね」

 珍しくも興奮を露わにした小夜ちゃんが一振の打刀を持って帰ってきた。直ぐに疲労困憊で寝てた虎徹兄弟を叩き起こし(済まん)、新撰組も叩き起こし。

「長曽祢虎徹という。贋作だが、本物以上に働くつもりだ。よろしく頼む」

 名乗った瞬間、浦君が抱き付いてた。

「やっと長曽祢兄ちゃんに会えたーーーー」

「遅いよ、贋作!! どれだけ浦島や主を待たせたと思ってるんだ!」

 素直に喜びを表す三男と、相変わらずツンとしてる次男。でもね、君たち2振とも確り桜舞ってるからね。虎徹3振の桜で顕現した執務室、結構大変なことになってるからね?

 尤も、長曽祢は若干、戸惑ってる様子。うん、それはそうかー。本霊同士の関係でも蜂須賀は割りと長曽祢のこと避けてるっていうし。その認識でいたらうちのツンツンしてるとはいえ嬉しそうに側にいる蜂須賀には戸惑うよねー。

「よし、まずは虎徹兄弟で恒例30分遠征だね。その後は新撰組で30分遠征しようか」

 まぁ、短刀いないから遠征結果は失敗になるんですけどね! でも気にしなーい。

「それから、北と西の対屋は部屋換えだね。該当者で相談して決めてね。仕切りは光忠よろしく」

「了解」

 北の対屋の西側と西の対屋にいる中で祐筆班なのは光忠と国君だけだし、国君は新撰組遠征行くから仕切りは光忠にお任せ。

 遠征に行く虎徹3振を見送り、それぞれが持ち場に散っていく。長曽祢来たから今度は江雪狙ってラストマップ。普段の育成組を出陣させる。

「小夜ちゃん、ありがとう」

 実は本日の近侍だった夜戦マップ最終班隊長の小夜ちゃん。感謝を込めて頭撫で撫で。

「別に、僕は何も……」

 赤くなって照れてる小夜ちゃん滅茶可愛い。

「隊長として頑張ってくれたでしょ。浦君と蜂須賀のためにって」

 兄弟が中々来ない寂しさは今は一番小夜ちゃんが感じてるはず。でも大事な仲間のためにってすごく頑張ってくれた。表には出にくいけど、小夜ちゃんもすごく優しい子だ。

「次は江雪だね。絶対お兄ちゃん呼ぼうね」

「……無理はしないでね」

 飽くまでも私を気遣ってくれる小夜ちゃんの可愛さ、プライスレス! 抱き締めた私は悪くない。

『あー、主はん、さっさとサイコロ振ってくれへんかなー』

 無粋だぞ、明石!!






 無事長曽祢をお迎えし、江雪難民となった我が本丸。そんな中、政府から2つの通達があった。

 1つは新たな戦場の発覚。『延享の記憶』と名付けられたその時代は、江戸時代中期の延享年間の江戸を戦場とする。延享は徳川吉宗治世末期だ。そして、この戦場はどうやら細川家と伊達家に関わる戦場らしい。細川縁故の歌仙と小夜ちゃん、伊達家縁故の光忠・伽羅が出陣を希望していた。尤も、今はカンスト優先ということになってるし、もう少し情報が出てから進軍することにした。勿論、皆で話し合った上で、だ。

 幸いなことに私の就任前にこれまでの戦場はある程度の情報が出揃っていた。敵の編成や適性錬度。諸先輩方の齎してくれたそれらの情報を基に祐筆班と戦況分析班の意見も聞きながら部隊編成して出陣してきた。でも、この『延享の記憶』はまだ何もない、データまっさらな状況。正直なところ、怖い。

 正直にその旨、丙之五氏と先輩の左近さんに相談した。そうしたら2人とも『ある程度情報出るまでステイ』と言った。私はまだ審神者に就任して1年も経っていない新人なんだから、無理はしなくていいと。現在、最初期に就任した審神者約20人が出陣し調査しているから、と。実は3年目である左近さんもステイ状態だそうだ。それにホッとして、これまでどおりまずは全員カンストを優先させることにした。

 それから、2つめの通達。これはかねてから噂のあった、刀剣男士のランクアップについてだった。特、ではなく『極』というらしい。『極』となることによって刀剣男士はそのステータスを格段に成長させることが出来るそうだ。この知らせにはカンスト組が喜んだ。これ以上ステータス的な成長は出来ないとされていたのだから当然だろう。

 『極』となるには刀剣男士を修行に出す必要があるらしい。どんな修行なのかは明かされておらず、刀剣男士ごとに違うという。また、全員一度に『極』が実施されるのではなく、数人ずつ順次ということだった。最初に極が実施されるのは厚藤四郎・平野藤四郎・乱藤四郎・五虎退の4振だと発表された。

『短刀たちからか。まぁ、短刀が強くなるのはいいよな。今でも夜戦は鬼だけど』

 画面の向こうで左近さんは言う。

「ですねー。生存や統率が上がってくれるのは有り難い。あと、刀装装備数が増えてくれればいいんだけど」

 まだ、ステータスがどれほど上がるのかの詳細は発表されていないから、こうなってくれたらいいなーと2人で話す。既にさにちゃんでも色々な『極』予想スレッドが立ってて、審神者も刀剣男士も詳細発表待ちだった。

『お前さんにとっちゃ、嫌な意見もあるぞ。極って要は成長だろ? つまり、短刀たちが大人になるんじゃねーかって意見がある』

 私が子供姿の刀剣たちに激甘なことを知ってる左近さんは揶揄うように言う。

「マジか。でもないでしょ。短刀の特性を表しての子供姿なんだし。大人姿だと短刀の特性の懐に飛び込むが出来なくなるじゃん」

『なんだ、意外に冷静だな』

「いや、実はうちの本丸でもそういう見解が出たんだわ。それを短刀たちが冷静に否定してた」

 そう、ここ数日刀剣たちのの話題はほぼほぼ『極』について。その中で『もしかしたら、皆大人姿になるのかもね』なんて見解も出たのだ。

「皆が大人になってしまうのは寂しいなぁ」

 しみじみとみか爺が呟いてたな。みか爺は本当に『おじいちゃん』してて、短刀たち(蛍君含む)を孫扱いして滅茶苦茶可愛がってるからね。

「幼き者が大きゅうなってしもうては、ぬし様がお寂しく思われるであろうな。そのときは私がこの毛並みでお慰めしようぞ」

 なんて、小狐丸こぎも言ってた。こぎはホントにワンコ属性の甘えん坊だ。まぁ、顕現時の『お前じゃない!』がトラウマになってるのかもしれないけど。

「主様、僕たちを可愛がってくれなくなるんですか?」

「あー、主さん、子供好きだからなー」

 五虎ちゃんは不安そうだったし、それに追い討ちをかけるようなことを愛君がちょっと寂しそうに言った。が、そんな暗くなった弟たちの不安を笑い飛ばしたのが、流石は皆のアニキ、大将組である。

「五虎、何言ってんだ。俺っちたちがこの姿なのは何でか忘れたのか?」

「短刀は懐刀だぜ? だからこその子供姿だ」

「それに敵の懐に飛び込んで首を掻っ切るのも俺たちだしな!」

「そうそう。その役目があるから俺たちは子供なんだよ」

 だから、成長しても『極』になっても子供姿であるのは変わりない。つまり子供好きの私が可愛がることには変わりない、という結論に至ったらしい。

 というか、子供姿じゃなくても君たちは可愛い私の息子です!! 大人姿の薬研とか厚とか超見てみたいと思ったのは内緒です。子供姿でもあれだけ男前の2人だから、大人姿になったら絶対光忠や兼さんにも劣らない色男っぷりを見せてくれるだろうな。

『確かにニキや厚の大人姿ってのも見てみてぇな。でも子供にはいつまでも可愛い子供姿でもいてほしい』

 左近さんの言葉に同意。成長し大人になった姿も見てみたいけど、今の可愛い子供の姿もこのままで! って思ってしまう。勿論、彼らが戦士であることは忘れてないけどね。

 ともかく、今回の2つの通達はどちらもまだ詳細不明で、何もしようがない。詳細連絡待ちだ。『極』の修行は本人が行きたいって言ったら希望に添おう。

 ってことで、我が本丸はこれまでどおり運営。鍛刀は江雪&鶴丸狙いで、全員カンスト目指して錬度上げ。序でに阿津賀志山だから江雪も狙えるし。

 小夜ちゃん、宗三! 絶対江雪呼ぶから、ホントに呼ぶから!! 待たせすぎるほど待たせちゃってるけど、絶対呼ぶから待っててね!!

 ……この決意って、物欲強化かな。これじゃあ、当分江雪難民からは抜け出せないかもしれない……。