Episode:22 薙刀、やぁぁぁぁあっと参戦

 審神者になって約9ヶ月。早いもんで今年もあと残すところ数日となりました。

 っていうか、『今年』は私にとっちゃ207年間なんだよなぁ…。私が混乱しないようにってことで、3月31日まで2003年で過ごして(仕事の年度末がその日だから。通常なら退職後1ヶ月で振り込まれる退職金は手渡しだった)、翌日の4月1日からは2210年。いやはや、なんとも波乱万丈な1年ですな!

「兼ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、サボってんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 今日も同田貫は元気です。

 本日、12月29日、土曜日。今年は年末が土日にかかってるから、業務休みにしたのは大晦日だけ。それから来年の三が日が正月休みで4日からは通常業務。うん、まぁ、現世の社会と一緒だよね。

 実質6日間も戦場に出ないってことで一部刀剣からは不満の声も上がったけど、そこは年末年始の祀り事をきちんとやっていた時代の刀剣たちだから、石切丸いしさんたち御神刀勢の『祀りは大事だよ』の一言で大人しくなった。うん、別に本丸打撃第一位(85)が恐ろしかったわけではないと思う。同田貫と御手杵ぎね君が拳骨落とされてたけど。

 で、年末休暇の初日は本丸総出で大掃除。まぁ、普段からそれなりに掃除はしているんで、そこまで大変じゃないとは思うんだけど、個々人の荷物は増えまくったりしてるし、遊戯室(主にTVゲーム)や図書室にもかなりの物が増えてるから、その整理整頓も結構大変。

 祐筆班と戦況分析班の部屋にも資料とか結構増えてるしなぁ。

「主君、これはどちらに仕舞いましょう?」

「大将、こっちは捨てていいんだよな? 焼却炉に持っていくもんは他にはねぇか?」

 私の執務室の片付けを手伝ってくれてるのは祐筆班の中から前田まぁ君と薬研。他の祐筆班のうち、歌仙と光忠、国広くに君は厨房の掃除をしてて、残りの太郎たろさんと鳴狐なき君、骨喰ばみ君と一期が祐筆班部屋の整理をしてる。戦況分析班は同じく自分たちの執務室を整理してて、他の刀剣たちは本丸内の共有スペースの掃除となってて、その指揮監督をしてるのが、普段から掃除班のリーダーをやってる同田貫。

「しかし、1年経ってないのに結構物が増えてたねぇ」

 日々の報告書やら、調べたことのメモやら、色々な書類が増えまくってる。調べ物もネットだけでは済まずに結構書籍もあるし。というか、元々私が電子書籍よりも紙媒体の本来の書籍のほうが好きというのもあって、本を集めてるからなぁ。

「それだけ大将が俺っちたちのために一所懸命になって勉強してくれたってことだろ」

 既にデジタル化済みのメモと未デジタル化のメモを分けながら薬研が応じる。

「ええ、主君はいつも僕たちのことを考えてくださって、本当に勤勉でいらっしゃいますから。無理はなさらないでくださいね」

 可愛らしい顔を困ったように歪ませてまぁ君も薬研に応じる。

「私があなたたちのことを考えるのは当然でしょ。大事な仲間で家族なんだから」

 仕事では一応上官と部下。でも仕事を離れれば大家族。この9ヶ月でそれがこの本丸の姿になりつつある。まだ顕現して1ヶ月経ってない源氏兄弟なんかはそれに戸惑ってるみたいだけど。因みに信濃しぃ君・博多・小狐丸こぎ・明石は元々『家族』や『兄弟』がいたからそこまで本丸家族には戸惑いはないみたい。

「ふふ、主君がそうやって僕たちを家族と言ってくださるのが嬉しいです。刀である僕たちにはお母さんはいませんけど、主君がお母さんみたいですよね」

「光忠の旦那と歌仙の旦那もおっかさんになるけどな」

 薬研の言葉にまぁ君とクスクスと笑う。

「みか爺がおじいちゃんで石切丸いしさんと蜻蛉切とんさん辺りがお父さんかな」

「いち兄、蜂兄、山伏ぶし兄が皆のお兄さんですね」

次郎じろ姐さんは皆の姉御って感じだな」

 今この本丸にいる45振にはなんとなく、皆での家族の役割が出来てる感じ。それを皆で楽しんでる。

「来年は絶対に江雪左文字と岩融呼ばないとね。小夜ちゃんと今ちゃんにはホンット待たせちゃってるから」

 特に今ちゃん。こぎが顕現したときは衝撃だったわ。みか爺が『お前じゃない』って泣くし、石さんが『空気読めや』って怒ってるし。来たばっかりで兄弟に責められてこぎ涙目だったよね……。

 『ぬしさま……私は来てはいけなかったのでしょうか』なんて耳(一応あれは髪の毛らしいけど)を垂らして言うこぎがなんとも哀れだった。そのこぎを今ちゃんが必死になって宥めてたなぁ。

「そうだなぁ。粟田口うちは全員揃ってるからな。岩融と江雪左文字がくりゃ、三条と左文字も揃う。そうなるとあとは長曽祢虎徹だけか」

「長曽祢虎徹は微妙ですよね。他の本丸では蜂兄が長曽祢虎徹を毛嫌いしたり忌避していると聞きますし」

「それは大丈夫じゃないかな。蜂須賀ずっと検非違使部隊から離れなかったくせに、長曽祢虎徹が検非違使ドロップじゃなくなった瞬間に検非違使部隊から抜けたしね。あれは確実にお兄ちゃん迎えに行ってたでしょ」

「そういやそうか。いやはや、打刀の旦那たちはツンデレとかいうのが多くて面倒臭いぜ」

 うん、それは常々思う。打刀は多少の差はあれ、ほぼ全員がツンデレ属性持ってるからなぁ。全くそれがないのって鳴君と陸奥くらいかな。あ、清光キヨも素直か。本丸ではキヨ超可愛いし甘えん坊だし。でも戦場に出るとカッコいいんだよね。これは全員に言えるんだけど。可愛い短刀たちもオカンな歌仙や光忠もホケホケ爺なみか爺も、皆流石に『武士もののふ』って感じがする。

 そんなことを考えながら、まぁ君と薬研に手伝ってもらって無事執務室整理も完了。

 翌日には各個人の部屋の清掃も終え(一部刀剣は周りを巻き込んで相当大変だったらしいけど、本刃の名誉のために名前は伏せておく)、年末大掃除は無事に大晦日前には完了することが出来た。それほど汚れが溜まっていたわけではないけど、気分的にやっぱり違うよね。本丸は神様のいらっしゃる場所でもあるから私もそれなりに気を付けて掃除してたし、本丸の標準装備として自動浄化機能もついてる(歴史修正主義者との戦いで刀剣に穢れが付かないようにってことらしい)。何より神様たち刀剣男士自身が毎日御自ら掃除なさってたわけだしね。いや、ホント、同田貫や杵君が掃除班仕切るようになるとは思ってもなかったなぁ……。助かってるけどね!

 大晦日には光忠・国君・歌仙・薬研・伽羅・宗三・蜂須賀と私を中心に御節作り。45振+1人の46人×三日分って超大変だった。厨房横の食料庫の一角の棚全部が重箱で占領されるくらい大変だった……。刀剣の一部は自分たちで御餅を搗く気満々だったんだけど、大量に消費するであろう御餅、そのためのもち米を蒸す労力がとんでもないことになりそうだったんで、鏡餅分だけを搗いてもらってあとは審神者通販で購入しましたよ。すごい量でこれまた食料庫の一部を以下略。

 因みに本丸戦争の原因ともなるお雑煮は丸餅に澄まし汁の熊本風です。お屠蘇も赤酒。ここの主である私の出身地のもので統一だ! と珍しく主権限振りかざしました。それまでは江戸派京都派関西関東東北と争ってたんだけど、『主に馴染み深く親しんだものを皆で味わうのもよいなぁ』とほけほけとみか爺が言ってくれたのが決定打になりました。ありがと、みか爺。

 うん、みか爺はその穏やかな表情と声音で皆の小さな喧嘩を両成敗することなく収めてくれるんだよね。まぁ、ヤンチャがすぎたときには流石の天下五剣っぷりを発揮して武闘派な一面も見せるけど。んで、最終的にはヤンチャした子と戦線拡大したみか爺は石さんに打撃85の拳骨を食らうとこまでがお約束。

 元旦には御神刀である大太刀4振が神事もどきをやってくれて、皆で初日の出を拝んで。それからお年玉配布。

 このお年玉も若干トラブルだったというか。何処までお年玉をあげるかって問題があったんだよね。見た目に日常は引き摺られてる部分の多い刀剣たち。つまり、短刀くんたちは本丸では『子供』になってる。なので、短刀は関係の深い面々がお年玉を渡す。主に兄弟とか同じ主に仕えたことのあるメンバーとか(結局最終的にはほぼ全員が短刀には渡してたことが後から発覚したけど)。

 じゃあ、脇差以上はどうするかってことで実は保護者組で極秘会議(笑)が開かれたりした。参加者は鳴君、一期、宗三、蜂須賀、伏さん、本丸全体の保護者枠ってことでみか爺、石さん、とんさん、光忠、歌仙、それから私。結論から言うと、実家のルール適用することにした。実家では大学を卒業するまではお年玉をもらえた。一応大学からはバイトOKだったんだけど、それでもお年玉とお小遣いはあったんだよねー。

 で、そのルールを本丸でも適用。未就労者だからお年玉対象だった実家とは違うけどね。それいうと全員就労者ですし。ちゃんと政府から日当5000円出てますから月収15万円程度ってとこだね。当初の日当1000円(月収3万円弱)から比べると随分上がったなぁ。多分、次の査定では上限の日当1万円になるだろうと担当官からは言われてる。1回で上がる上限が5000円だったらしい。

 本丸のお年玉対象者はまず短刀くん全員と蛍君(小学生認定)。中学生認定のばみ君とずお、浦君。高校生認定の国君、獅子君、ヤス君、キヨ。大学生認定の鳴君、同田貫、兼さん、伽羅、青江、切国、宗三。……宗三とか同田貫とかお年玉って似合わねぇぇぇぇ。

「……高校生認定組までで良くないかな?」

 大学生認定組の顔ぶれを見て光忠が呟く。

「確かに、『子供』という感じではありませんな」

 とんさんも同意。他の保護者組も頷いてる。

「そうすると、新撰組で兼さんだけ貰えないよね?」

 そうなると国君が気にしそうだしなぁ。じゃあってことで高校生組をなしにするってのも獅子君が楽しみにしてるからないし。

「獅子王は無視してもいいんじゃないかい? 彼、実際はジジイ組だよ」

 苦笑する石さん。いやいや、それ言っちゃうと一気に短刀組もお年玉対象から外れるし。

「色々面倒だ。当初の予定通り大学生認定組までを対象にする! 金額は一律500円! お年『玉』だからね、硬貨限定」

 少ない金額にブーブー文句は出そうだけど、12月顕現の髭切以外はお給料出てるし、髭切もボーナスは(雀の涙ほどとはいえ)出てるし! お年玉は一種の行事だからね、それでいいはず。因みに私からは大人組にもお年玉はある。現金じゃなくて500円相当のちょっとお高いビールだけど。

 まぁ、そんなこんなの保護者会議を経て、元旦は皆でお年玉配布をしてました。

 正月休み3日目には担当官丙之五へのご氏も招いて新年会をして、翌4日からは通常業務スタート。まぁ、金曜だったから、1日出陣しただけで直ぐ2連休だけどね。

 それからはいつもどおりに出陣して遠征して週末には演練して。

 1月2週目には制度の変化があった。審神者にも錬度があるんだけど、それの上限が300に引き上げられた。実は歌仙がカンストしたのとほぼ同じくらいに私の審神者錬度もカンストしてたんだけど、今回の引き上げにより一気に127になった。経験値累積してたのかー。因みに刀剣男士の錬度は上限変わらずなんだけど、なんかランクアップの動きがあるらしい。あれかな、髭や膝みたいに特二とか特三とかあるのかなー。まさか源氏兄弟レア度まで変わるとは思わなかったよ。序でに経験値累積もないらしい。

 年が明けても本丸生活にほぼ変化はなかった。戦況にも大きな変化はない。まぁ、私が審神者に就任するまで5年大きな変化のなかった戦局が大きく動くこともないか……。

 毎日規則正しく、ほぼルーティン状態で日課をこなし、刀剣たちを戦場に送り出し。日課の鍛刀3回は岩融・江雪左文字・長曽祢虎徹狙いで回してた。そしてその度にコモン太刀・元太刀打刀、そして打刀勢が今ちゃん、小夜ちゃん、浦君に謝る日々が続いてた。






 1月も第3週になって、短刀ちゃんたちが雪合戦しまくってたある日のこと。今日の近侍はレア4繋がりで江雪左文字呼べないかなってことで一期に頼み、資源投入。時間は1:30:00、3:00:00。そして……5:00:00。

 5時間!?

「あ、主殿……!」

「ついにきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。一期、手伝い札用意。今ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!!」

 一期に手伝い札をスタンバイさせて、恒例の雄叫び。すると、ズダダダダダと凄い音をさせて今剣いまちゃんをおんぶした博多、みか爺を肩に担いだ厚、こぎを肩に担いだ愛君、石さんを担いだ長谷部が現れた。うん、なにこれ、カオス。確かに担いで来たメンバーはうちの本丸でもトップクラスの機動を誇ってますがね。長谷部は普段から本丸では特上軽騎兵2積んでるから機動67だし、短刀たちも鬼ごっこ用に本丸じゃ特上軽歩兵つけてるから機動+5だし……。まぁ、いいか。

「あるじさま! ついにきたんですね!!」

 お目目キラキラの今ちゃん。うんうん、ずーーーーーーっと待ってたもんね!!

「主、ようやった、ようやったぞ主」

 顕現前から既に泣いてるみか爺。おじいちゃん涙腺脆いよね。

「日々の祈祷の甲斐があったね。漸く主の穢れも断ち切れたのかな!」

 私の穢れのせいだったんかい! ていうか物欲は穢れなのかそうなのか! あと2振りのために引き続き祈祷よろしくね、石さん!

「私のときとは随分な違いじゃ……」

 こぎ、落ち込まないで。うん、君のときは非道かったもんね……。

「よし、顕現するよ」

「はい!」

 手伝い札を妖精さんに渡す私の傍らで、何故か今ちゃんは屈伸運動をしてる。……なんの準備ですか、今ちゃん。

「おお。小さすぎて気付かなんだわ。俺は岩融、武蔵坊弁慶の薙刀よ! がははは……ぐぉっ!?」

 現れた超デカい僧兵は、大笑いの直後に仰け反り倒れた。理由は……

「おそいですよ、岩融!! まちくたびれました!! さぁ、はやく、ちさんをあるじさまにおわびするのです!!」

 華麗にジャンプして岩融の顎に膝蹴りをクリーンヒットさせた今ちゃんでした。

「今ちゃんや……別に岩融が悪いわけじゃなくてだね、物欲センサーが」

「いいえ! 岩融がのんびりしすぎなんです! もっともでにくい三日月も、けびいしがなかなかかいほうしない髭切も膝丸もすでにふくすうきているというのに、なかなかこなかった岩融がわるいのです!!」

 ……まぁ、昨日、髭爺4振目来たよね。源氏兄弟出すぎだろ。同じだけ検非違使狩ってたのに浦君1振しか来なかったもんな、虎徹兄弟は。

「がはははは! それは済まなんだな、主よ! 遅参の詫びは戦場で返そうぞ!!」

 起き上がった岩融は豪快に笑いながら、私の頭をぐりぐりと撫でた。痛い痛い、背が縮む! 蛍君の台詞じゃないけど!

「唯一の全体攻撃できる薙刀だからね、期待してるよ岩融。尤も、他の殆どが錬度上限に達してるから、暫くは落ち込むかもしれないけど」

 特付きになるまではカンスト部隊に放り込むからなぁ。パワーレべリングですよ。

「む。そうか。ならば精進せねばらなぬなぁ!」

 相棒の今ちゃんは2日目顕現の古参組だし、とっくに錬度上限になってるしね。最近みか爺もカンストしたから、三条でカンストしてないのは他はこぎだけ。そのこぎも60は超えてるし。

「さて、まずは三条には恒例の刀派揃った記念遠征に行ってもらうかな。今ちゃん、相棒の世話よろしくね!」

「はい、あるじさま! ばびゅーんといってきますよ!」

 いつもニコニコしてる今ちゃんの笑顔は、これまでで一番の輝き具合だった。

 よし、これで家族が待ってるのはあと2振だ!






 こうして、待望の岩融に今ちゃんがニーキックをかまし石さんがアイアンクローをお見舞いして(実はやってたんですよねー……)から数日後。政府からの通達メールが来た。それを見た私は、執務室の片隅にあるマイクのスイッチを入れる。これは本丸が広くなったこともあって、連絡を通達しやすくするために入れた放送設備。学校の校内放送やら、ショッピングセンターの迷子放送を思い浮かべてもらえばいい。

『光忠、伽羅、直ぐ執務室来てー。光忠はちゃんと来るだろうけど、伽羅も来いよー』

 光忠は文句言わずに来ると思う。けど伽羅はねー。万年反抗期ですから。出陣とか遠征のときじゃないと呼び出しには中々応じないんだよね! でも、主、ちゃんと学んだ!

『来なかったら、伽羅のこと、これから「く~りりん(はぁと)」って呼ぶからな。10数える間に来いよー』

 私がこう呼べば意図を察した歌仙たち祐筆班、面白いこと大好きな脇差と三条、愉快犯気味なところのある宗三や新撰組は乗って同じように呼ぶしね。短刀も意図が判ってる薬研とまぁ君によって同調する。つまりは真面目組以外の殆どの刀剣が伽羅を『くりりん』呼びすることになるわけだ。馴れ合いたくない系男士の伽羅にはこれは超イヤなことだろう。

『じゅーう、きゅーう、はーち、なーな、ろーく……』

 お、ドタドタとすんごい音がする。

『ごー、よーん、さーん、にーぃ……ちっ、来たか。しゃーないから、くりりん呼びは次のチャンスに』

「やめろ! 阿呆主!!」

「主にその言い方はないだろう、伽羅ちゃん! 僕はそんな子に育てた覚えはないよ!!」

「俺もお前に育てられた覚えはない!!」

 ぜぇぜぇと息を切らして執務室に駆け込んできた伽羅と実は隣の祐筆班部屋にいたために余裕で現れた光忠が、母子漫才を繰り広げる。それを見て、マイクのスイッチを切る。ごめんなー伽羅ちゃん。マイク切るの遅かったから今の漫才、本丸全部に筒抜けだわ。

「来たね、2人とも。じゃあ、これ見て」

 母子漫才はいつものことだからスルーして、やって来た2人にメールを見せる。

「あ……主!! これって」

「うん、やっと契約成功したらしいよ。お待たせ、光忠、伽羅」

「……別に俺は待ってなんか……」

 待ってないなら、名前出したりしないよね。時々『光忠や貞宗に任せればいい』とか言うけど、その貞宗は明らかに物吉貞宗じゃないよねー。

「契約成功はしたけど、刀剣男士としての参戦予定はまだ未定なんだって。鍛刀で出現するのか、いつもみたいに政府主催の訓練での報酬なのかも未定」

「いいよ、それでも! 貞ちゃんに会えるんだから」

 ニッコニコと嬉しそうな光忠。

「うん、そう言ってもらえるとちょっと安心かな。ほら、物欲センサーがよく仕事してるじゃない? どんだけ小夜ちゃんを待たせてるか……」

 蛍君だってかなり来なかったし、岩融がんさんだって今ちゃんを10ヶ月も待たせたからね。なのに全く求めてなかった源氏兄弟はあっさり検非違使から奪い取ってたし。

「まぁ、側でよく見てるから、判ってるよ」

 だよねー。光忠、今ちゃんと小夜ちゃんに謝りまくってたもんね……。

「これで伊達の刀がまた増えるねぇ。短刀なんだよね、どんな子なんだろうね、貞ちゃん」

 うーん、短刀増えまくりだなぁ。バランス悪いよね、刀種の。既に短刀と打刀と太刀は2桁の刀剣男士いるんだから、一桁しかいない脇差・大太刀・槍・薙刀ともっと契約して欲しいんだけどなー。付喪神になってる刀剣が少ないのかなぁ……。あー、薙刀は現存してるのって3本しかないとか聞いたことあるけど……そもそも岩融って実在疑われてるよね(持ち主の武蔵坊弁慶自体が架空の人物説あるし)。だったら、実在するかしないかより、どれだけ人の想いが集まってるかで付喪神化しそうな気もするんだけど。

「主……鶴丸国永も呼んでくれ」

 黙って私と光忠の会話を聞いていた伽羅が突然口を開いた。鶴丸国永か。そういえば彼も伽羅と同時期に伊達にいたんだっけ。伊達政宗没後に伊達に来てるから光忠とは伊達での交流はないらしいけど。一応光忠によれば『燭台切光忠』になるまえの織田時代に多少の付き合いはあるそうで『鶴さんかぁ……来たら賑やかになるね』なんて笑ってる。

「鶴丸国永か。彼も一応伊達の刀に分類できるんだよね。伽羅とは200年くらい一緒にいたんだっけ」

「ああ。俺のカンスト祝いはまだだっただろう。その褒美は鶴丸国永を呼ぶことにしてくれ」

 ぷいっと顔を背けて言う、伽羅。耳が赤い。ちょっと、万年反抗期の一匹狼の照れた姿なんて超可愛いんですけど!

「みっちゃん、みっちゃん。伽羅がデレてないかい?」

「うん、デレてるよね、これって」

「だよねー。ちょうかわいい」

「うんうん。ちょうかわいい」

「五月蝿い!!」

 思わず光忠と感慨に耽ってしまうと、伽羅は更に顔を赤くして怒鳴る。これ以上揶揄うと完全に拗ねるから、ここまでにしておこう。

「判った。ただ、光忠にも言ったように、私の鍛刀運もドロップ運もかなり物欲センサーに邪魔されまくってるから、かなり待たせることにはなると思うけど」

「判ってるから心配するな」

 ……ありがとー。判られるのもなんか複雑なんだけどね。

 うん、レア運は決して悪くはないと思うんだ。22日目に最初のレア4太刀である一期が来てくれてるし、みか爺もこぎも蛍君もいるしね。顕現してないけど、みか爺2振目、一期2振目、蛍君2~4振目も保管庫に眠ってるし。源氏兄弟なんて探してもいないのに検非違使誘拐から1週間くらいで来て尚且つそれぞれ4振目が保管庫にいるくらいだしね。

 ただ、そこに『来てくれー』という欲望が入ると途端に来てくれなくなるんだよ。

「よし、じゃあ、滅多にない伽羅のおねだりだもんね! 明日からはレア太刀レシピ2と長曽祢レシピで日課鍛刀するよ」

 ……岩さん来てから実はずっとそのレシピ配分だったのは内緒。

 当分レア太刀難民からは抜け出せないかな……?