本丸稼動から2ヶ月が経った。あれから刀剣男士は3人増えた。浦島虎徹、石切丸、蜻蛉切の3人。
まず、36日目に漸く検非違使さんが仕事をしてくれた。帰還した蜂須賀の喜びようといったら……誉取ったわけでもないのに桜舞ってたからね。検非違使対策が始まってからずっと探してた待望の弟だもんね、無理もないか。
「浦島君来たし、蜂須賀は抜ける?」
「どうしてだい? 贋作とはいえ、一応兄っぽいのもまだいるんだ。俺が行かなくてどうするっていうのかな、主」
翻訳:お兄ちゃんまだ来てないから、俺が行くよ! ってところか。この本丸の3人兄弟次男組(蜂須賀・宗三・
ってことで、検非違使対策部隊は引き続き、
そして、ちょうど50日目には
石さんは三条の大太刀ってことで、漸く
「だって、ぼくたちせんねんいじょういきてますから。もうおぼえてないです」
「1000年を過ぎてしまえば10や20歳が違ったところで大した違いはないよ」
とは本人たちの弁。うん、そうだね。7歳と35歳(石さん認定年齢)じゃかなり違うけど、1007歳と1035歳ってあんまり違わないよね。
漸く三条の刀剣が来てくれたけど、相変わらず岩融は来てくれない。余りの鍛刀運のなさに、今ちゃんも蛍丸を待ってる
そんなふうに日々を過ごして短刀たちが全員錬度50を超えたので、『池田屋の記憶』に進軍することになった。メインとする部隊は2つ。
ずっと出番のなかった短刀たちは生き生きと戦場を駆け回ってる。正直、大人の
毎日生き生きと出陣して行く短刀たちを大人な見た目の打刀以上の刀剣男士たちは微笑ましそうに見てる。すっかり出番のない太刀4人も『子供が元気なのはいいことだよ』とニコニコしてるし。光忠と一期はずっと第1部隊だったから特に不満もないのかもしれないけど、出陣回数の少ない獅子君と伏さんも文句はない様子。まぁ、全員がちゃんと本丸の方針を理解してくれてるってことでいいのかな。
『大将、敵本陣についたぜ!』
これまで4戦で帰還していた部隊を今日は帰還させず、行けるところまで行くことにした。池田屋部隊の短刀たちも皆錬度60超えたし、保護者枠の鳴君、ばみ君、国君は75超えてるからもう大丈夫だろうってことで。『池田屋の記憶』の最初の『市中』マップは分岐が多いせいで、今日から先に進むようにしたとはいえ敵本陣に着くまでに2時間かかった。午前中ラストの出陣、隊長厚で漸く到着。ホンットに自分の
「中々本陣に辿りつけなかった鬱憤、ぶつけちゃえ、厚!」
『おいおい、そりゃ大将の賽子運のせいで、敵に非はないだろ』
「主……それは八つ当たりでは」
インカムの向こうの厚と、こちらの
『岩融と蛍丸、江雪左文字、次郎太刀。どれでもいいから落としやがれ!!』
偵察指示の台詞がいつもと違いますよ、厚君……。でも、的確に私の心情を代弁してくれてありがとう……。
『今と愛と小夜と太郎さんのために、やりますよー!』
『愛君、初日から待ってるんだからね!』
『今どのと小夜どのもずっと待ってますよぅ』
ずおと乱ちゃんときぃちゃんの声も聞こえる。うん、仲間思いのいい子たちだ……。でも未だに呼べない自分に凹むな。
『おい、大将に聞こえるぜ。大将が落ち込むだろうが』
薬研の嗜める声で更にハートブレイク。ホントにごめんね。鍛刀運もドロップ運もなくて、おまけに賽子運までないせいで皆に苦労をかけて。
結果は勝利A、誉は誉ハンターの称号をほしいままにしている鳴君、ドロップは『燭台切光忠』だった。
「……なんか、ごめん」
ちょうどお茶を持ってきた光忠が何故か謝ってた。謝ることじゃないよ……。
そして、午後の出陣。今度は兼さんたち6人で新たなマップである三条大橋だった。午前中は兼さん隊と鳴君隊で1時間交替、午後は2時間交替で出陣を組んでいる。因みに午後の残り1時間は池田屋部隊出張中の3人を除いた第1部隊と歌仙・石さん・とんさんで阿津賀志山に行ってる。兼さん隊→第1部隊→鳴君隊という順番だ。で、今から2時間は兼さん隊の番だったのだけど、そこで兼さんが話があると妙に真剣な表情で私に告げてきた。
「あー、あのよ。オレら当分、三条大橋専任でいきてぇんだが」
ボリボリと頭を掻きながら兼さんは言う。これはちょっと照れてるときとか、自分らしくねぇ! と思ってるときの兼さんの癖だ。一応隊長は持ちまわりだけど、『兼さん隊』と呼んでいるように、ここの実質隊長は兼さん。そして、その兼さんはどうやらこの『三条大橋』で自らにある役目を課しているらしい。
そう、『三条大橋』、マップ6-2。初日から目指してきたマップだ。つまり、兼さんは愛君のためにこのマップを周回したいと言ってきたのだ。ぶっきら棒そうでいて、優しいよね、兼さん。ヤバイ、私の顔、絶対ニヤニヤとニヤけてる。
「あー、うん。皆の希望は聞くよ。兼さん隊は三条大橋周回希望ね」
「じゃあ頼まぁ。戦場開放は粟田口ぱぁてぇに任す」
横文字に慣れてない兼さん。ぱぁてぇって可愛いな、おい。
それでいいかと粟田口隊実質隊長の鳴君(他のメンバーは休憩のためにお昼寝中)を見れば頷いてる。当人たちがOKならこっちも文句はない。
「了解。他はいいの? 国君はその顔だと聞くまでもないね」
「はい!」
キラキラ笑顔の国君。(流石だよ、兼さん! カッコイイね!!)とかいう国君の心の声が聞こえてきそうな表情だ。
「今ちゃん、小夜ちゃん、浦君?」
ぶっちゃけ国君には確認取らなくても判りきってたんだけど、他のメンバーはどうかなと聞いてみれば。
「もちろんさんせいです!」
「うん、問題ないよ」
「賛成だぜ、主さん!」
こちらも満面の笑みで了承。兼さんがどうしてこう言い出したのか、ちゃんと判ってるってことだね。というか、事前に5人で相談して決めてたのかもしれないな。
と、ここまでは私も予想の範囲内だったのだけど、次の兼さんの発言は予想してなかった。
「で、隊長も愛に任す」
そう来たか。別にドロップに隊長は関係しないと思われるんだけど、でもまぁ、そうしたくはなるよね。ただ、これまで隊長人事に関しては獲得経験値の関係から一切口を出させなかったんだけど……。これは不満出るかなと思ったものの、それは完全に杞憂だった。
「それいいですね!」
「さんせーです!」
「うん」
「ナイスアイデアだぜ、兼さん!」
即座に賛成する4人。これも当人たちが納得してるなら、それでいいけど。今回は特例だよ。部隊編成と隊長任命は審神者である私の仕事なんだから。
「えっ?」
突然の隊長推薦に当事者の愛君は驚いてる。今までほぼ蚊帳の外というか、呆然としてたもんね。どうやら、兼さん隊が三条大橋周回専任を希望することは愛君には知らせてなかったみたい。
「愛、本陣行きまくるぞ! にーととかいう奴も引っ張り出すぞ!」
「ですよねー。可愛い被保護者が迎えに来てるんですし!」
「家族が来てんだ、働きたくないでござるマンだって出てくるさ」
そう、彼らが愛君隊長で三条大橋周回を希望したのは全て、ここのボスドロップである『明石国行』を手に入れるため。未だ家族の来ない愛君の保護者を迎えるため。本当に、彼ら刀剣男士は優しい。仲間思いだ。
「蛍丸がなかなかきませんからねぇ」
グサっと今ちゃんの言葉が胸に突き刺さる。本当にねぇ……。かれこれ70日ほどお待ちしてるんですけど。まぁ、『難民』と言われる審神者からすれば『それくらいまだまだぁ!!』って言われちゃうんだろうけど、でも蛍君じゃないのを知るたびに残念そうにする愛君見てるとね……。
「今君、それを言うと主にキノコが生える」
「あ……」
「ごめんねぇ。まだ岩融も長曽祢さんも江雪も呼べなくてぇ……」
漫画なら『ずーん』という描き文字とともに落ち込みを表す効果線が背後に描かれてるだろうな。
「き、気にすんな! 局長の刀いない分、副長の俺らが頑張ってるし!」
「そうですよ! 長曽祢さんはヤス君や
「蜂須賀兄ちゃんだっているしな!」
「い、岩融ははずかしがりやののんびりやさんなんです、きっと! ねぼうしてるだけです! おきたらすぐあるじさまのところにきますよ!!」
「江雪兄様、照れ屋なんだと思うの。主、気にしないで」
全員がわたわたと慌てて慰めてくれる。そういえば、このパーティは全員待ち人がいるメンバーだった。
実を言うと、今新メンバーはまだ要らないかなって気もしてる。運営面でね。既に34人の刀剣男士がいて、錬度上げの順番待ちしてるような状態。コンスタントに出撃してる打刀対検非違使部隊以外は戦場に出られない日々も多くて、鬱憤は溜まってると思うんだよね。本丸の運営方針ってことで納得はしてくれてるだろうし、毎週土曜に参加してる演練では出陣の少ないメンバーで隊を組んでるけど……。そこに新しいメンバーが来れば、更に出陣の順番待ちは長くなるからな……。出陣が1部隊なのは仕方ないとはいえ、同時遠征3部隊までっていうの、何とかならないかなぁ。今、ほぼ6部隊組める人数いるんだし、顕現可能な刀剣男士揃ったら8部隊だよ。遠征同時に最大7部隊にしてくれないかな。
だから、運営面だけで見れば今は新規刀剣男士は要らないって思ってしまうけど、同時に皆の家族をお迎えしたいって気持ちもある。特に初日から待ってくれてる愛君。小夜ちゃんと今ちゃんも浦君も待ち人はいるけど、少なくとも兄弟が1人は来てくれてるし、最優先は愛君なんだよね。因みに太郎さんは『一応弟ですが、あれが来ると色々と主のご苦労も増えるかと思いますゆえ……1年くらいは来なくてもよいかと』と言ってる。しみじみとした声で言ってたから多分本心。一体次郎太刀ってどんな刀剣男士なんだ。
「うん……愛君、蛍君まだ呼べてないけど、明石頑張って連れ帰ろうね」
だから、仲間思いの兼さんたちの提案に乗っかる! この三条大橋周回で絶対、明石国行を呼んでやるー!!
「愛、うちも協力する。ニート、呼ぼう」
博多藤四郎以外の全親族揃ってる粟田口保護者鳴君が愛君の頭を撫で撫でしながら言う。粟田口年長組にしろ宗三にしろ蜂須賀にしろ伏さんにしろ、所謂『お兄ちゃん』な立場の刀剣男士たちは『弟』位置にいる短刀たちに優しい。特にまだ家族が来てない愛君に対しては皆が『お兄ちゃん』になってる。だからなのか、愛君も最近まで兄弟のいなかった今ちゃんも一期をいち兄、宗三を宗兄、蜂須賀を蜂兄って呼んでるし、彼らもそれを許容してる。うん、いいな。本丸一家って感じだ。
「皆……ありがとな! 主さん、国行連れ帰るぜ!!」
皆の気持ちが余程嬉しかったのか、愛君は力強く拳を握って宣言する。キラキラした笑顔が可愛い。よーし、頑張って出陣するぞー!!
その後、うちの本丸では家事当番業務をサボる刀剣男士はいなくなった。全員が『ニート許すまじ!!』な心理状態だ。穏やかな石さんやとんさんまでそうなってる。
「ニートなんてろくなもんじゃねぇ!! さっさと来やがれってんだ」
「敵大将を名乗るなら、お宝寄越せって言うんですよ!」
「ニートっつーよりも引き篭もりだろう、関西弁眼鏡!!」
「ほごしゃのかざかみにもおけませんね!!」
「愛君、復讐する?」
兼さん部隊は帰還するたびに御立腹だ。
「ごめん、うちの馬鹿国行のせいで」
そのたびにしょんぼりしてしまう愛君。そして
「愛がわるいのではありません!!」
「そうだぜ! 主がキッチリ本陣に辿り着くサイコロ振ってるから、ぜってーそっちで運使っちまってるだけだ!」
「ちょっと待て! 本陣に辿り着いて文句言われるって何!?」
「愛君も主も悪くない……。敵が吝嗇なだけ」
「物欲センサーって、本当にあるんですね」
「だなぁ……。ってか、兼さんが文句言い捲くるから、引き篭もり出て来にくいんじゃねぇかな」
「オレのせいか!?」
なんて会話が恒例のように繰り広げられている。
これは……明石国行来たら歓迎より先に『遅いッ!!』ってフルボッコになったりしないだろうな……。