審神者になって4週目。
演練で会った先輩審神者に『半年経ってる審神者の戦歴』と言われ、ちょうど届いた今月の官報で対戦した審神者さん(ほぼ同レベル)を調べてみたら、確かに審神者歴半年から1年の人たちだった。その後、先輩審神者にこれまでの出陣記録を見せたら『新人さんは普通、ノルマの10戦しかしてないらしいぞ。1日にこれだけ出陣してんのは審神者全体の1割にも満たないよ』って言われた。因みに先輩もその1割未満のほう。同時期に着任した審神者に比べると審神者レベルが突出してるらしい。
なので、普通はこうなんだってーと刀剣男士に告げて、出陣を3分の1(それでもノルマの3倍以上)くらいにしようかと言ったら大反対された。1日フルに出陣することもないし、今のままでいいと。一部もっと出陣させろと言ったけど、即、歌仙と薬研に『主(大将)の負担を考えろ』と叱られてた。
ってことでこれからも1時間に10~12戦、1日に80~96戦のペースで行くことになった。
そんな4週目、第1日。今日は近侍を薬研に頼み、鍛刀。どうやら近侍によって鍛刀・刀装の得手・不得手があるらしいと判ってからは交代制にしているのだ。面倒臭がる刀剣男士もいるけどね。
そして、最早これしか回してないんじゃないかという太刀・大太刀・薙刀狙いで資源を投入。すると……
「た……大将! この時間って……!!」
珍しく薬研が興奮している。
「そう……だよね? 見間違いじゃないよね!?」
思わず薬研と手を取り合ってデジタル表示されている数字を見る。そこには輝く3:20:00の文字(正確には3:18:43)。
「いち兄が……ついに来るのか!?」
「来るかもしれない!!」
そう、3:20:00はレア4太刀の鍛刀時間。可能性としては鶴丸国永・鶯丸・江雪左文字も有り得る。一期一振を含め、この4振の誰かは確実に来るという数字だ。
一期一振来て! 江雪左文字でも宗三や小夜ちゃんが喜ぶだろうけど、出来れば一期一振来て! 弟たちが超待ってる!!
いつもなら資源投入したら直ぐに刀装作りに行く。でも鍛錬所から出てくる気配のない私たちを不審に思ったのか、獅子君と小夜ちゃんが顔を覗かせた。2人は資源庫から刀装部屋に資源を補充してくれていたのだ。
「主、どうしたんだ?」
ひょっこりと顔を出した獅子君。後ろから小夜ちゃんも顔を見せる。
「いち兄が来るかも知れねぇ!!」
「江雪左文字かもしれない!!」
薬研が叫び、釣られて私も叫ぶ。その途端、小夜ちゃんが踵を返し『宗三兄様!!』と走っていった。程なく、バタバタと複数の足音が鍛錬所に近づいてくる。
「薬研兄! 今、いち兄って聞こえた!!」
やって来たのは乱ちゃんを先頭にした粟田口ご一同様。少し遅れて小夜ちゃんに連れられた宗三。皆期待に満ちた目をしている。
更に粟田口大移動に『何事!?』と思ったのか、結局全刀剣男士が鍛錬所前に揃ってしまった。馴れ合わない系刀剣男士こと伽羅まで来てるし。おま、短刀に関しては全身全霊で馴れ合ってるよな!
「主、手伝い札を使ったらどうだい?」
このまま3時間20分(正確には3時間11分)正座待機しそうな粟田口と左文字を見て、歌仙が苦笑混じりに言う。手伝い札は手入れにしか使わないと決めてたけど、余裕あるし、いいか!
「光忠、手入部屋から手伝い札持ってきて」
「OK、ちょっと待ってて」
普段手入れにしか使わないから、手伝い札は全部手入部屋に置いてある。それを取ってきてもらおうと光忠に頼んだところで、別のところから声が上がった。
「歌仙さんが提案した時点で取ってきました!」
堀川だった。流石脇差。フットワーク軽いな。頼まれたはずの光忠は苦笑してる。
「行くよ」
妖精さんに手伝い札を渡し、デジタル表示が0になる。そして渡された一振の太刀。それを見ただけで誰だか判ったのだろう。宗三と小夜ちゃんが残念そうな顔をした。
「私は、一期一振。粟田口吉光の手による唯一の太刀。藤四郎は私の弟達ですな。──わっ」
顕現の口上を述べるや否や、一期は弟たちに抱きつかれた。
「いち兄、待ってたよ!!」
「遅いです、いち兄!!」
口々に兄を呼びながら抱きつく弟たちに戸惑いながらも一期は微笑んでいる。うん、まさにお兄ちゃんって感じだ。
「明日から太刀は江雪レシピ回すから、もうちょっと待っててね、小夜ちゃん、宗三」
「うん」
「主のれあ運のなさは知っていますからね。期待せずに気長に待ちますよ」
宗三可愛くないなぁ。まぁ、素直に『はい』なんて言える性格じゃないってのは知ってるけど。あ、これもツンデレってやつか? 気長に待ってますから焦らずにどうぞ。でも待ってますよとか。そんな宗三にちょっと笑って一期に向き直る。
「ようこそ、一期一振。弟たちが首を長くして待ってたよ。今のその歓迎ぶりで判ると思うけど。早速あなたには第1部隊でその刃を振るってもらうから、よろしくね」
けど、その前に。
「
「うむ、判っておるぞ、主殿。拙僧が外れよう」
名を呼んだだけで判ってくれる伏さん、素敵!!
伏さんは遠征班。粟田口短刀たちと一緒の隊で保護者してくれてる。つまり、今日は伏さんが一期と交代ってことだ。
「一期には今から30分遠征に2回行ってもらう。1回目は薬研、
30分ずつだけど家族で行ってらっしゃーい。因みにこれをやるのは初めてではない。伏さんが来たときにも堀川派3兄弟で20分遠征に出してる。それもあって伏さんは直ぐに判ってくれたのだろう。
「お心遣い感謝します、主殿」
微笑みながら言う一期。うーん、確かに審神者の間で『ロイヤル』と言われるの判るな。
「はいはい、解散。皆出陣の準備して! あ、薬研は
「おう!」
刀剣男士たちを一旦解散して、刀装作り。ここのところ第1部隊の刀装──特に脇差2人──の消耗が激しいから、重歩兵を狙ったレシピで回す。日課分以上を作って終了。それから日課の刀解2振と打刀部隊の錬結。
よし、今日も出陣だー!
午前中2時間の対検非違使部隊出陣中に粟田口は2回の遠征を終えた。そういえば顕現以降ずっと第1部隊のばみ君は初遠征だ。
「あるじさん、ありがとう!」
遠征から帰ってきた乱ちゃんはそう言って抱きついてきた。粟田口で一番自分からスキンシップ取ってくるのって乱ちゃんだよなぁ。余程長兄との遠征が嬉しかったみたい。それなら来週あたりから始める池田屋対策部隊育成の粟田口パーティの保護者枠は一期にしよう。そのころにはまだ一期も到底他の1軍メンバーに錬度追いついてないだろうし、ちょうどいい。
「お兄ちゃんとたくさん話せた?」
キラキラ笑顔の乱ちゃんの頭を撫でながら聞く。
「うん! あるじさんのこともたーくさん話したよ」
ニコニコと笑う乱ちゃん、マジ可愛い。ホントこれで男の子なんて信じられんわ。てか、乱ちゃん、私のことで変なこと話してないよね?
「そっか、じゃあ、一期の出陣までの間に部屋決めて、本丸案内してあげて。終わったら執務室ね。終わってなくても10時50分までには連れてきて」
「はーい!」
乱ちゃんは元気に返事をすると、一期たちの許へ駆けて行った。
「さて、お待たせ。あと午前中は1時間。せめてもう2回検非違使潰しておきたいね」
出陣待ちしてる検非違使部隊を振り返る。次のメンバーは同田貫、大和、加州、兼さん、蜂須賀、伽羅。待たされて不機嫌かと思いきや、皆穏やかな顔してる。うん、うちの刀剣男士はホント短刀には甘いよね。
「そろそろ浦島を救い出したいね。贋作はどうでもいいけど」
蜂須賀が言う。蜂須賀の兄弟は検非違使ドロップだもんなぁ。脇差の浦島虎徹と打刀の長曽祢虎徹。その長曽祢虎徹は近藤勇の刀で、新撰組刀剣でもある。それが蜂須賀と兼さん、大和、加州が対検非違使部隊から絶対に抜けようとしない理由。結局、対検非違使部隊はこの6人でほぼ固定されて、切国・宗三・陸奥・長谷部は遠征部隊になってる。まぁ、遠征部隊に回ったメンバーも『気持ちは判るから』と苦笑して受け容れてくれてる。2人が来れば戦闘狂の同田貫と伽羅以外は交代してくれるだろうしね。
「虎徹兄弟救出目指して、そら、行って来い!」
そう言って、今日7回目の出陣に送り出したのだった。
「どんどん『家族』が増えてるね」
画面に向き直った私にそう声をかけてきたのは、今日から第1部隊を抜けることになった歌仙。初期刀の歌仙は今までずっと第1部隊にいた。隊長は獲得経験値の関係から持ち回りだったけど、実質的には彼が隊長だった。その歌仙を外すことに正直なところ躊躇いはあった。でも、歌仙自身が申し出てくれたのだ。戦力を考えれば自分が外れることが最善だと。
初期刀である歌仙は私のことをよく判ってくれている。初期刀とはいえ、2人だけで過ごした時間は1時間に満たない。直ぐに薬研が来て、その後まぁ君、厚、愛君、乱ちゃんも来た。付き合いの長さという点では然程大きな違いはない。
でもやっぱり『初期刀』は特別だ。唯一審神者が自らの意志で選ぶ刀剣が『初期刀』。他は運によって審神者の許にやってくる。顕現する際にはある程度刀剣男士側も主を選ぶらしいけど(と審神者交流サイトに書いてあった。本当かどうかは知らない)、初期刀は違う。唯一審神者が選んだ刀剣男士だ。刀剣男士側からすると、『主に選ばれ主に
「刀剣男士は刀だ。でも今は心がある存在になっている。人の身を得て自分の思いを口にして、動けるからね。刀の付喪神として在ったときには己の思いを伝える
歌仙はそんなことを言う。確かに心があってもそれを伝える術がなければ、思いは伝わらない。兄弟や友に会いたいと思っても叶わないもんな。
「そっか。そんな場所を審神者である私が提供できてるなら嬉しいな」
戦ってもらうために招いた刀剣男士。今は人と変わらぬ心を持つ彼らが少しでも幸せを感じてくれるならいいなと思う。人間の呼びかけに応えてくれたことの恩返しが少しでも出来てるならいいな。
画面を見ながら応じる。
審神者になったころはビジネスライクに行こうと思ってた。社員寮で同居する同僚程度の距離感で。尤もまぁ君の可愛さにノックアウトされて、そんなのすっ飛んでいったけど。今は同居してる親戚のオバチャンみたいな感じだ。母や姉妹というにはちょっと遠いけど、一応家族の括りには入るかなって感じ。
「そうだね。僕もお小夜や和泉守に会えた。まさか刀剣である自分にこんな情があるとは思っていなかったけどね」
何だかんだといって歌仙は旧知の小夜や
「家族や友に会えるのは嬉しい。ともに戦えることもね。そして同時に思うんだ。もしこの戦いに負けてしまったら、僕たちの大事な家族が失われてしまうかもしれないとね」
歴史改変が起きれば、刀工たちが刀剣を作らないかもしれない。付喪神になる前に折られてしまうかもしれない。そういった可能性は捨てきれない。
「主、この戦いは人間のためだけじゃない。僕ら自身や大切な仲間を守るための戦いでもあるんだ」
だから、人間のために刀剣男士を利用してるなんて思わなくてもいい。そう、歌仙は言いたいのかもしれない。彼らの『人らしい』部分を見るたびに、ちょっと複雑な気分になってたから。刀剣男士の、付喪神の人(神)の好さを利用してる気がしてね。流石初期刀、気付いてたか。
「そうだね。この戦いが人間だけじゃなくてあなたたちにも意義のあるものならいい。人間だけじゃないもん。ここに在る全てに関わる戦いなんだよね」
何となくしんみりしてしまう。歴史は人間が作ったものかもしれないけど、歴史の中にあるのは人間だけじゃない。色々なモノが在るのだ。付喪神になってるものだって多いだろうし。この戦争の最終的な勝利が、彼ら刀剣男士にとっても意味のあるものだったらいいな。
『おい、クソ主!! しんみりしてねーで、さっさと進軍か帰還か決めろ!!』
とインカムから同田貫の声。私の声は当然同田貫にも届いていて、今まで待っていてくれたらしい。
「ごめん! 被害0だから当然進軍!」
投石部隊コエー。完全勝利Sしか最近見てないぞ。もう大坂じゃ物足りないか。
進軍をクリックして
『うっせー! 敵に気付かれるだろうが!! 敵は逆行陣!』
「雁行陣で」
『諾! いいぜぇ、どんなに堅かろうが俺の敵じゃねぇ!!』
結果は蜂須賀が『使えない検非違使だね』とお冠だったとだけ記しておく。
「あるじさんー、いち兄連れて来たよー」
対検非違使部隊に最後の出陣をさせたところで乱ちゃんが一期を連れて来た。うん、ちょうどいい頃合だね。他の第1部隊のメンバーも集まってるし。
「今日から当分の間、一期には隊長をやってもらう。錬度が追いつくまではそうするから」
「私が隊長、ですか……」
ド新人の錬度1に隊長を任せることに不安を覚えたのだろう、一期の表情は戸惑っている。
「我が本丸の方針なのです。私も顕現したその日から隊長でした」
一番最近第1部隊配属になった
「実質的な指揮は鳴君と光忠が執るよ。隊長は飽くまでも早く錬度を上げるため。それと戦場を知ってもらうためだね」
錬度が追いつくころには隊長として指揮を執ることも出来るようになる。これは光忠や兼さん、太郎さん他第1部隊&打刀部隊で実証済み。元々指揮官たる伊達政宗や土方歳三の刀だった光忠や兼さんには素養があったのかもしれない。でも御神刀として現世慣れしてなかった太郎さんが出来るようになってるんだから間違いではないはず。
「拝命いたします。──弟を率いるのと同じようなものです……?」
自分に言い聞かせるように言う一期に周りから苦笑が漏れる。まぁ、ド新人がいきなり隊長ってのは第1部隊は全員体験してるし、気持ちは判るんだろうね。
「鳴君、甥っ子のフォローお願い。ばみ君もお兄ちゃんサポートしてあげてね」
「お任せください、主どの!」
「うん」
きぃちゃんとばみ君が返事。鳴君も手を狐の形にして頷いた。
『和気藹々なのはいいけど、主、俺の活躍見てくれてたー!?』
インカムから加州の声。加州も空気を呼んで今まで黙ってくれていたらしい。何気にうちの打刀はエアリーディングスキル高いな。
「ごめん、加州! 見てなかった」
いかんいかん、戦闘中に目を離すなんて。いくら遠戦で5体破壊してたとはいえ。
『酷いよ、主! 俺のコト愛してないんだ!!』
「そーいうこと恥ずかしげもなく素直に言える加州のコト好きよ。よし、今度はキッチリ見てるからまた大活躍して! ってことで進軍」
『もー、調子いいんだから!』
プリプリと怒ってそんなコトを言いつつも、キッチリ次も誉取った加州って可愛い。
結局検非違使には遭遇せず帰還した部隊は一旦解散。次は本来の第1部隊で桶狭間に出陣。これまでは椿寺で錬度上げしてたけど、一期の初戦だし1つ前の戦場にしておいた。それでもレベル35以上推奨の戦場なんだけどね。
刀装3スロットの一期には特上軽騎兵と特上重騎兵と特上盾兵を渡す。実は今まで盾兵って使ったことなかったんだよね。攻撃力や機動力重視で。でも3スロットだし持たせてみた。
「桶狭間はまだ1回しか本陣撃破してないから、安心してボス倒しちゃってねー」
「主さんの賽子運で僕たちの心のほうが重傷負いそうですけどねー」
堀川、それは言わないお約束。
1日の出陣を終え、一期の落ち込みようは酷かった。それを光忠は覚えのあることだからと慰めてた。うん、弟のばみ君が敵太刀を一撃で倒すのに対して、一期は敵脇差に掠り傷だもんね。レア太刀としてのプライド以前に兄としてショックだよね。でも仕方ないよ。ばみ君は鳴君と錬度トップ競ってるんだから! 出陣時の錬度、ばみ君51だから! 50も錬度違うんだから仕方ないって!!
「兄として負けてはいられませんな!」
お、いい意味でプライド刺激されたか。
これ以降、一期のモチベーションが凄いことになって、2日目には特付きとなったのだった。
顕現したその日の夜、私は一期を執務室に呼んだ。夕食後の歌仙たちとの打ち合わせの後だ。まだ一期には本丸の方針説明してなかったし。本丸運営1週目は1日の顕現人数多かったし、本丸初期メンバーに叩きこむ意味合いも込めて毎日夕食後の全体ミーティングで伝えてた。太郎さんとずおは2人だけだったから、今日と同じように2人を呼んで説明した。
「態々来てもらってごめんね。1日を終えてどうだった?」
一期にソファに座るように勧め、話を切り出す。この本丸で執務室と私室だけが洋間になっている。
「なんとも濃い1日でしたな」
まぁ、そうだろう。顕現して直ぐ2遠征にいきなりの第1部隊隊長、5時間10出陣(53戦)だもんなぁ。錬度も一気に22まで上がってるし。
「ですが、弟たちが楽しそうで何よりです」
夕食のときも粟田口の面々はあれこれと一期の世話をしてたな。
「本当に皆待ってたからね。私に鍛刀運がなくて今まで待たせちゃったけど」
尤も先輩に『いち兄キター!』って報告したら『22日目でレア4とか早ぇぇぇぇぇぇ!! 生意気!!』と言われた。先輩、半年過ぎてからやっと鶴丸国永が来たのが最初のレア4太刀だったらしい。でもさ、短刀たちの待ち侘びる顔見てたら『やっと来た!!』が本心なんだよねー。
「弟たちが揃っている本丸に呼んでいただけて嬉しく思います」
そう言って一期は笑うけど、弟が全員揃ってるわけじゃない。博多藤四郎は今は行けない特殊な戦場でしかドロップしないとかで、うちの本丸にはいない。
「ん。そっか。それで弟たちから聞いてるかもしれないけど、この本丸の戦いの方針を説明しておこうと思ってね」
「薬研からある程度は聞いておりますが、改めて主殿から直接お伺いしたく思っておりましたゆえ、お願いいたします」
一期に促されて説明する。進軍は軽傷・刀装剥げなら進む、中傷は要相談、重傷は撤退。手入れは軽傷になったら。以前は刀剣男士たちが『これくらい平気! 資源が勿体無い』と言うので手入れは中傷になってからにしてたんだけど、私が無理だった。怪我してるのに放置なんて出来ないって、半日しか我慢できなかったんだよね。で、即手入れすることにした。ただ、そこは資源と手伝い札が勿体無いと意外と倹約精神を発揮する刀剣男士たちとの妥協点ということで、軽傷手入れには手伝い札を使わないことになったけど。
一度同田貫たちの希望で中傷での出陣もさせた。真剣必殺出すためって言われて。だけど、やっぱり無理。出撃してる間中、胃がキリキリ痛んだ。そりゃ中傷からいきなり刀剣破壊にはならないけど!! お守り持たせてるけど!! やっぱり心配は心配なのだ。結局見かねた第1部隊が出陣時は軽傷未満でと同田貫たちを説得してくれた。一度出陣すれば主は帰還させたいのを我慢して中傷でも進軍させてくれているのだから、そこは妥協しろって。
えー、思考が逸れた。
他にも錬度上げの優先順位について、進軍計画についても説明し、一通り終わったところで質問はないかと尋ねる。
「弟たち──短刀は皆、錬度が低いですな。聞けばつい最近漸く皆特付きになったばかりとか。短刀で長く第1部隊にいたのは薬研のみで、短刀の多くは第1部隊は1日程度しか経験していないとも聞きました。戦場への出撃はほぼなく、遠征中心。それを聞いたとき、主殿は短刀を侮っておいでかと思いました」
ああ、現状を見ればそう思われるかもしれない。女性審神者の中には子供を戦場に送るなんて!! と短刀に出陣させない人もいるらしい。人間の子供だったら同感だし同意する。でも彼らは刀剣男士だ。だったらなんで短刀顕現したんだよ。戦場に出さないんなら顕現すんなって思う。まぁ、一期も判ってるみたいで『思いました』って過去形で語ってる。
「そんな不審が顔に出ていたのでしょうな。前田や秋田に諭されました」
曰く、主君はちゃんと自分たちの使いどころを考えてくれている、特が付いたのが最近なのも本丸の戦略上の都合に過ぎない、短刀に不利な戦場が多いことも理由であって、放置されていたわけではない。遠征とて重要な後方支援で短刀ゆえの隠蔽値の高さに期待してくれているのだ、と。
「確かに主君は僕たち短刀にお甘いです。お仕事が終われば僕たちのことを甘やかします。でも戦に関してはそんなことなさいません。同錬度の打刀がいる中で隊長を任せていただいたこともあります」
「僕たちの話もちゃんと聞いてくださいます! 間違ったことを言ったら叱られることもあります。だけど、僕たちが苦言を申し上げればちゃんと聞いて考えてくださいます! 出陣に関してもいつごろ出していただけるのかもちゃんと説明してくださっていました」
2人は長兄にそう言って説明したのだという。
「主君は僕たちの戦いたいという刀の本能をご理解くださっています。そのうえで怖がりな五虎兄には必ず薬研兄か厚兄か乱兄が同行するようにしてくださっています。中々出陣させてやれないことを謝ってもくださいました。まだ本丸に来たばかりのいち兄がそう思ってしまうのも仕方ありませんが、大好きないち兄に大好きな主君のことを誤解されたくありません!!」
そう言ってくれたという、まぁ君。ああ、なんて……
「弟たち、天使だね!」
「ですな!!」
一期と私が理解し合えた瞬間だった。はい、ブラコン1名追加ー。
「あー、まぁ、そういうこと。短刀君たちは可愛い! 天使! 癒し! でも彼らは刀剣男士。1人前の戦士! そこは履き違えないよ」
だからこそ、短刀君たちは私を信頼してくれるのだろうし。
「今、第1部隊は『戦国の記憶』で錬度上げしてる。もう少ししたら『武家の記憶』に進むけど、その『武家の記憶』の後は短刀や脇差が主力となる『池田屋の記憶』なんだ。『池田屋の記憶』が開放されたらまずは短刀たちを錬度50まで上げる予定でね。そのとき一期には粟田口短刀と一緒に出陣してもらうつもりでいる。第1部隊は休みだけど、一期は多分、そのころまだ錬度差あるだろうし」
「望むところです。鳴狐の叔父上だけではなく骨喰の足許にすら及んでおりませんでしたからな」
やっぱり気にしてたか。
「うん、鳴君とばみ君は2日目と3日目に顕現してからずっと第1部隊だからね。2人とも機動値高いから誉取り捲るし」
「第1部隊に太刀2人を差し置いて脇差2人が入っているのには驚きましたな」
「ああ、そうかもね。2、3日の違いでしかないとはいえ、太刀2人が来たときにはほぼ今の形が出来てたし、二刀開眼もあるからずっと入ってもらってたら、錬度トップ争いするようになったからねぇ」
脇差は機動値が高いから、1ターン目で討ち漏らした敵は大抵ばみ君か堀川が討ち取るからなぁ。その分、誉取るし。今、本丸の刀剣錬度はトップを鳴君、ばみ君、堀川で日替わりで取り合ってる状態だもんね。
「私も仮にもれあふぉーと呼ばれる太刀。負けてはいられませんな」
「うん、期待してる。今の第1部隊は錬度上限になるまで変えるつもりはないから、早く追いついてね」
『池田屋の記憶』は夜戦+室内戦で太刀と大太刀は夜目が利かないから変えざるを得ないけど、それ以外で変える気はない。
ある程度錬度が上がればあのメンバーのことだ。巧く一期が誉を取れるように調整するだろう。そこが対検非違使部隊と違うんだよね。対検非違使部隊は誉調節なんてしていない(或いは出来ない?)。錬度横並びだから結果的にバラけているとはいえ、機動値が高い長谷部と打撃値が高い同田貫に集中しがちだ。でも第1部隊は確実に調節してる。でなきゃ、1日のトータル誉数が全員ほぼ均等にはならんだろ。
「どうやら良い本丸に呼ばれたようですな。この一期一振、主殿のため力を尽くしましょう」
「ありがとう。でも、本当に好い本丸かは自分の目でじっくり確かめて。そして、より良い本丸になるように力を貸して」
良い本丸っていうのがどういうものかは正直判らない。色々な本丸があるし、正解なんてものはないと思う。平均的な出撃数の本丸から見ればうちは過剰出陣を強いる本丸となるだろうし。
でも、ここに来てくれた刀剣男士にとって過ごしやすく戦いやすい、好ましい本丸でありたいとは思う。
「さ、話は終わり。五虎ちゃんが今日はいち兄と寝るんです! って嬉しそうにしてたよ。待てるだろうから行ってあげて」
「はい、では、御前失礼いたします、主殿」
綺麗な一礼をして一期は出て行った。
2日目から待ち続けた一期一振。やっと来てくれた! という感じだ。
よし、明日から太刀は江雪狙いだ。うん、そろそろ、蛍君と岩融にも来てほしいな!!