Episode:09 休日

 完全オフ日とはいえ家事はしないといけない。特に食事の支度。というわけでいつもと同じ時間に起きて、いつもと同じように食事の準備を始める。炊飯器は既にご飯を炊いている。昨日タイマーセットしておいたから当然だ。しかし、1升炊き2つに業務用の5升炊きが並んでるのは凄いとしか言いようがない。今使ってるのは5升炊きと1升炊き1つ。それで6升(60合)のお米を炊いている。私を含めて29人。多めに炊いてるんだけど、これ、きっちりなくなるんだよね。

「大将、折角の休みなんだし、まだ寝てりゃいいのに」

「そっくり同じ言葉を返すよ、薬研。おはよう」

「ああ、おはようさん」

 いつものごとく薬研が手伝ってくれる。

「今日は出陣も遠征もなしか」

 玉子焼きの準備をしながら薬研が呟く。

「不満?」

「いや、俺っちは毎日出陣してるからな。兄弟たちは物足りなそうではあるけど、納得もしてる。ちゃんと大将は兄弟たちの使いどころも考えてくれてるしな」

 流石短刀こどもなりをした太刀おとなといわれる薬研。第二の側近でもある彼はちゃんと方針を理解してくれている。

「短刀はちゃんと判ってるから心配しなくていいぜ、たーいしょ」

 薬研の『たーいしょ』は偶に怖いときもあるけど、大抵は不要な不安を取り除いてくれる。というか、短刀たちの理解力や対人スキルって高いよね。流石は中身年長組。

「歌仙たちには言ってあるけど『戦国の記憶』クリアまでは開放優先。『武家の記憶』は第1部隊の平均錬度を55にするまでは進まない。でもその前に一度全員特付きまで錬度を上げる。短刀と新人が中心になると思う。薬研は既に特付いてるけど、サポート役として参加してもらうつもり」

 調理を進めながら告げる。

「そりゃいいね。厚や愛染あいが判っちゃいるけど戦いたいって言ってたからな」

 やっぱりね。方針を理解することと戦いたい欲求は別物だもんね。第1部隊カンストまで今の第1部隊で突っ走ることも考えたけど、それやると確実に不満が溜まりそうだし、月1回のペースで第1部隊以外を集中して育成する期間を設けたほうがいいな、これは。

「第1部隊が錬度55超えて皆に特が付いたら、『武家の記憶』クリアして、そのあとは短刀の皆に錬度50まで上げてもらう。で『池田屋の記憶』に突入」

 味噌を溶きながら言う。今日は豆腐と油揚げのお味噌汁だ。

「楽しみだな」

 ニヤリと笑う薬研。短刀の中でも戦場育ちと言い切る薬研は特に戦意が高い。

「おはよう、主、薬研君。休日なのに早いね」

 うん、だから同じ言葉を返すよ光忠。光忠もいつものように手伝ってくれて、3人で朝食作り。薬研の厚焼き玉子と光忠のおひたしと焼き鮭。

「おはようございます、主さん! 朝餉作りの手は足りてるみたいだし、僕はお洗濯してきますね! ほら、行こう兄弟!」

「ああ。主、おはよう」

「主殿、よい朝であるな!」

 いつも洗濯を自主的にやってくれる堀川がいつものように声をかけてきて、今日はその兄弟も一緒にお洗濯に行くらしい。兼さんの相棒で助手を自認してる堀川だけど、普段の生活でまで兼さんにべったりというわけではない。刀剣らしく兼さんの相棒なのは戦場ということみたいで、本丸内では切国に構ってることも多い。まぁ、兼さんにも充分構ってるか。世話焼きだな、堀川。

「腹減ったー。朝飯まだか」

 次にやってきたのは同田貫。どうやら朝から一汗かいてきたらしい。鍛練してたっぽいからお腹空いてるのはまぁ判るんだけどさ……。自主的に家事を一切しないくせにご飯が出てきて当然という態度はカチンとくるな。でもまだ家事当番組んでないから、強く言うのもなんだしなぁ……。ってことで今日は我慢。

「そういう言い方はないんじゃないかな、同田貫君。今日は僕たちだけじゃなくて主も休日なんだ。主は好意で食事の支度をしてくれてるんだよ」

「そうだぜ、同田貫。料理も洗濯も掃除も皆自主的にやってるんだ。何もしてないアンタにそんな言い方されちゃ、流石に俺っちも腹が立つってもんだ」

 私が何も言わずにいると横の2人が注意してた。

「まぁ、今日のところはそれくらいにしておこう。まだ家事当番組んでないからね。家事をするって発想がない刀剣男士もいるでしょ。特に自主的にやってくれてるメンバーがいれば気付かない人は全く気付けないからさ」

 だからといって感謝の気持ちがないのもどうかとは思うけどね。

「そろそろちゃんと当番組まなきゃね。調理班と洗濯班と掃除班でいいかな」

「それならあとで僕と歌仙君で組んでおくよ。主は今日はのんびりしてて。働きすぎだよ」

「ああ。どうせ毎晩遅くまで調べ物したり編成考えたりしてるんだろ? 目の下に隈が出来てるぜ」

 あら、ばれてた。化粧で隠してたつもりなんだけどな。

「あ、ホントだ。もう主も若くないんだから、確り休養は取らないと。やっぱり朝餉の支度は僕と薬研君と堀川君でやるから、その分寝てなよ」

「いいよ。昼も夜も光忠たちに任せっきりだし、掃除や洗濯も短刀たち中心にやってくれてるんだし、これくらいしなきゃ。ってか、光忠、歳の話はするな」

「大将、自分の体のことを考えろって言ってるんだ。いつも自分で言ってるじゃねぇか。長期戦なんだからちゃんと休めって。俺っちたちには言うくせに自分は休まないってのはどういうことだ」

 あ、何か雲行き怪しい。ここは話題転換!!

「同田貫、詳しくは明日の夜のミーティングで言うつもりだけど、あなたにも休み明けから毎日3時間程度出陣してもらうよ。検非違使対策部隊に入ってもらうから」

「本当か!」

 それまでバツの悪そうな顔で所在無げにしてた同田貫が目を輝かせる。戦場に出られるのがそんなに嬉しいか。刀だから当然か。

 薬研と光忠は私が露骨に話題を変えたことに気付いてはいるけど、何も言わずにいてくれた。溜息はつかれたけど。

「そうと決まりゃ今日は鍛練だな。燭台切付き合え」

「嫌だよ。今日は僕、レシピ検索するんだから」

 本当に光忠って料理が好きなんだなぁ。まぁ、政宗公の料理好きは有名だし、その影響ってことかな。

「主君、おはようございます!」

 パタパタと駆けてきたのは秋田あき君。現メンバーでは最後に来た短刀。残る博多藤四郎は現在入手不可だから、短刀は一応全員揃ってると思っていいかな。

「おはよ、秋君」

「あの! 今日は主君もお仕事お休みなんですよね?」

 キラキラした目で問いかけてくる秋君、超可愛い。いつもの戦装束ではなくサロペットのジーンズに長袖Tシャツ、しかもジーンズの裾をロールアップにしてて、その姿もとっても可愛い。

 そう、刀剣男士たちは出陣・遠征以外の時間は自分で選んだ私服を着ている。歌仙・乱ちゃん・光忠・加州・兼さん・蜂須賀は結構拘っててお洒落。逆に陸奥や同田貫、伽羅は無頓着で動きやすいからとジャージだったりする。他は着流しもいればシンプルなシャツ&スラックスだったり。それぞれ個性があって面白い。

「うん、今日はご飯作り以外はしないけど?」

 目線を秋君に合わせてしゃがむ。

「じゃあ、今日は僕たちと遊んでくれませんか!?」

 期待に満ちた目で短刀にそう言われて断れるわけがない。

 いいよ、と返せば、パーッと秋君の顔が喜色に染まる。

「乱兄、いいって!!」

 そろぞろと集団でやって来た短刀の許へ秋君は駆けて行く。どうやら秋君がお誘い担当だったらしい。口々に挨拶をしながら短刀全員(既に挨拶済みの薬研・秋君除く)と鳴狐なき君、骨喰ばみ君、歌仙、宗三が居間に入ってくる。

「乱ちゃん、前田まぁ君、平野ひぃ君、厚。まだ来てない人に声かけてきてくれるかな。起きなかったら無理に起こさなくていいよ」

「はーい」

 元気に返事して面倒臭がることなく4人は対屋たいのやへと走っていく。うん、いい息子たち(1人は娘っぽいけど)だ。

 基本的に食事は全員で摂る方針だけど、休日の朝は例外。休みの日くらいゆっくり朝寝を楽しむのもいいだろうし。一度声をかけて起きなければ放置。おかずはラップ被せておくから自分で味噌汁温めて食えと昨日伝えてある。

 乱ちゃんたちが戻ってきて、結局起きてきたのは加州と大和だけだった。2人ともまだ寝ぼけ眼でパジャマのまま。ちょ、加州、そのクマさん模様のパジャマ、可愛い。朝ご飯食べたら二度寝するらしい。そんな休日もありだよね。

 因みに伽羅は起きてたけど『馴れ合うつもりはない』とか返したそうだ。うーん……これって馴れ合いか? 休日じゃなきゃ有無を言わさず引っ張ってくるんだけどとか思ってたら。

「ああ、もう、伽羅ちゃんってば万年反抗期!!」

 と光忠が若干お冠で居間を出て行き、数分後、伽羅の耳を引っ張って連れて来た。伊達家で縁のある刀剣らしいから、世話焼きなところのある光忠には放っておけなかったんだろうな。

 さて食べようとしたところで、ドタドタドタと凄い足音がして、バンッと居間と廊を繋ぐ襖が開いた。入ってきたソレは光速の早さで私の横に来ると平伏した。

「参じた翌日に寝坊するとは何たる失態!! 主申し訳ございませんっ!!」

 そう、現れたのは長谷部。余りの勢いに唖然とする。

「おはよう、長谷部。別に今日は休日なんだからいくらでも寝てていいんだよ」

 苦笑しながら言えば、更に恐縮したように長谷部は頭を下げる。うーん、これじゃ食事が出来ない。隣にいた今剣いまちゃんは長谷部が横に来る直前に私の膝の上に避難し、逆隣の五虎ちゃんはびっくりしたのか、私の服を縋るように掴んでいる。因みに食事の席は自由で、私の両隣はいつも短刀たち。順番制にしてるみたいで、毎回違うメンバーになってる。

「全く、朝から騒々しい。雅じゃないよ、長谷部。君がそうしていたら主がいつまでも食事できないだろう」

 歌仙が長谷部の首根っこを掴んで立ち上がらせる。歌仙さーん、その乱暴な振る舞いこそ雅じゃないと思いまーす。でも助かるから黙っておく。

 歌仙が長谷部を回収してくれたから、漸く食事が出来る。

 はぁ、朝っぱらから騒々しいなぁ。ま、平和な本丸ですよねー。






 朝食の片づけを終えたら(短刀たちが自主的にお手伝いしてくれる。もう、天使!!)、短刀たちとのお遊びタイム。光忠が『昼餉は僕と歌仙君で作るから、主は短刀たちとたっぷり遊んであげて』と言ってくれたので甘えることにした。刀剣男士たちって、私を甘やかすの巧いな。

 午前中はいいお天気だし庭で遊ぶことにした。鬼ごっこや隠れん坊といった、いつも短刀たちがやってる遊びはその機動と体力で結構ハードだ。私には無理。体力たない。ってことで、『だるまさんが転んだ』を教えた。

 振り向くタイミングとか、振り向いてる時間とか『達磨さんが転んだ』を言う速さとか、結構駆け引きが楽しめるし、短刀たちもワイワイと楽しそう。普段は参加しない薬研やばみ君も弟たちにねだられて参加してる。うん、皆の楽しそうな声が響いて、本丸の平和な休日って感じだ。何気に大人組も縁側(寝殿造だから正確には廊やきざはしだけど)でお茶を飲みながら見学してるし。

「疲れたから、私は1回休憩~!」

 何度もぶっ続けだと流石に疲れる。私は一旦ゲームを抜ける。いつの間にか参加者は増えていて、短刀の他にばみ君、鳴君、堀川、加州、大和、陸奥、獅子君、更に兼さんまで加わってた。

「どうぞ、冷茶ですよ」

 縁側に座れば宗三がお茶をくれる。礼を言って一口飲めば喉が渇いていたことに気付く。

「宗三も参加すれば?」

「僕にあの変なぽおずをしろと?」

 途中から静止時の恰好が変なポーズ付きになってた。特撮物の変身とかヒーローの決めポーズとか。本丸にはTVもあって、色んな番組が見られる。現世とは隔絶された亜空間にある本丸ではあるけど、どういう技術なのか、地上波もBSもCSも見られる不思議。主にTVを見てるのは遠征班で午後は暇になることが多い短刀たち。で、短刀たちにはアニメチャンネルや特撮チャンネルを見せてる。まぁ、外で遊ぶのが好きな短刀たちだから、1日に1時間見てるかどうかって感じだけど。

 で、そのTV番組で知ったポーズで彼らは遊んでいるわけだ。

「僕は見てるだけでいいですよ。小夜が楽しそうにしている姿なんて余り見られませんしね」

 そう言う宗三の目は優しさに満ちている。宗三がこんな目をするのは小夜ちゃんに対してだけ。

 確かに小夜ちゃんが声を立てて笑ってる姿なんて滅多にないもんなぁ。いきなり『あなたは……誰かに復讐を望むのか……?』なんて言われたときはびっくりしたよ。小学校1年生くらいの小さな子の口から『復讐』なんて言葉が出るとね。取り敢えず『今は誰にも望んでないよ』とだけ答えておいた。復讐なんて考えなくていいの! って言いたいところだけど、小夜ちゃんの来歴を考えれば、そこを否定しちゃいけない気もするし。だから『今は復讐のためじゃなくて、皆が生きた時代を守るために力を貸して』って言ったんだけど、小夜ちゃんはそれで納得してくれてるのかな。まぁ、普通にお喋りしてくれるし、懐いてくれてるかなーとは思う。時々抱き締めたり膝の上に抱っこしたりしても嫌がらないから、そう思いたい。因みに小学校低学年認定の今ちゃん・まぁ君・ひぃ君・小夜ちゃん・秋君が抱っこ対象。戦闘時間の合間に入れる5分休憩(帰還して刀装チェックしてる時間)に5人の誰かを抱っこして癒されてる。尤も小夜ちゃん抱っこを宗三に見つかると奪われるんだけど。

「小夜ちゃん、可愛いよね」

「当然でしょう」

 はい、宗三、即答。この兄馬鹿め。






 再びゲームに参加して2回鬼が交代したころ、光忠が昼食だと呼びに来て、皆で昼ご飯。今日は鴨南蛮蕎麦でした。日に日に歌仙と光忠の料理のレパートリーが増えてる。

 昼食の後は室内遊びってことで、色んなゲームをさにわ通販で購入。オセロ・トランプ・花札・百人一首。オセロとトランプはルールブックというか解説書も買った。花札は同田貫や兼さん、山伏ぶしさん、陸奥がやってた。

 短刀たちは色々な模様と綺麗な絵柄のトランプに興味津々。まずは手始めに五虎ちゃん、今ちゃん、厚、愛染あい君と私でババ抜きをやってみることにした。ルール教えながらね。

 私が最初ババを持ってたんだけど、1周目で五虎ちゃんがババを引いて顔色変えちゃってた。うん、素直。厚が五虎ちゃんのカード引くときも目がきょろきょろしちゃってバレバレで。素直で可愛い。あんまりバレバレで仕方なく厚が引いてあげてたんだけど、そのときはあからさまにホッとしてたし。厚も優しいお兄ちゃんだね。他にも秋君や愛君も結構顔に出てたな。あと加州とか獅子君とか。意外なところでは長谷部も結構判りやすかった。

 何となく部屋を見回せば、全員が居間に揃ってゲームに興じていた。馴れ合わないはずの伽羅も長谷部とオセロしてたし。そういえば一応2人は親戚筋になるらしい。長谷部を打った刀工と伽羅の作者が兄弟らしいとかなんとか。尤も諸説ある中の1つに過ぎないらしいし、本当のところは2人にも判ってないっぽい。うーん、刀剣の『親戚』っていうのも不思議な感じだよなぁ。

 楽しく遊んでいる刀剣男士の姿を見て何となくホッとする。長い戦いを戦い抜くためには息抜きの時間も必要だ。巧い具合に皆リラックスすることを覚えてくれたみたいで安心した。

 さて、そろそろカレーライス作り始めるかな。なんせ約30人分。しかも細身に見えるメンバーでさえ軽く3人前は食べるしなぁ。96皿分の材料準備しといたけど足りるよね? お米何合だ……いや、何升だ? 取り敢えず炊飯器フル稼働の7升でいいかな。カレーライスだとご飯進むしなぁ……。

 当初本丸運営費の中で食費がかなり多く支給されてて『これは付喪神とはいえ神様だから高級食材使えってことかな?』とか思ってたけど、そうじゃなかったんだね。純粋に刀剣男士が大喰らいだったってだけで。初めは普通のご飯茶碗使ってたけど、今は皆どんぶりだもんなぁ。しかも体の大きなメンバーはラーメンどんぶりだし……。これ、人数増えること考えたら、5升炊き炊飯器もう1つ買っておくべきだよね。

 大量に作るからお鍋は3つ。3つに分けるから味も甘口・中辛・辛口に分けておこう。それぞれルゥ4つ32皿分の分量。使う材料は豚肉、ジャガイモ、ニンジン、玉葱、かぼちゃ、ナス、ピーマン、しめじ、しいたけ、エリンギの夏野菜茸カレー。それから付け合せのサラダは何にしようかな。ポテトサラダ、マカロニサラダ、かな。辛口カレーもあるから、甘めの味付けのサラダがいいだろうし。

 材料を並べていると光忠が手伝いを申し出てくれた。材料が96皿分という大量だから超助かる。薬研と堀川も来てくれた。更にシンクに積まれた(笑)野菜を見て、加州と大和、鳴君(きぃちゃんはババ抜き観戦中で別行動)とばみ君も参戦。20人超えたときにキッチン拡張しておいたから、これだけの人数が並んでも大丈夫! ここは給食室か! って突っ込みいれたくなる広さです。因みに調理班の1人、歌仙は百人一首バトルが白熱してて私が料理を始めたことに気付いてない。凄いな、宗三VS歌仙。百人一首って格闘技だったんだなぁ(遠い目)。

 自宅でカレーを作ってたときは火を通す時間短縮のためにジャガイモとニンジンはレンジでチンしてたけど、この大量の材料の前にはチンする余裕はない。総勢7人でせっせせっせとイモとニンジンの皮を剥き、ゴーグル装備した薬研が大量の玉葱を刻む。ザルに山盛りの野菜!! 96皿分って凄いなぁ……。肉なんてドデーンと表現したくなる大きさのブロックですよ。刀剣男士たちは流石に刃物だけあって、包丁捌きが見事!

「斬った張ったはお手の物!」

 堀川、なんかそれ違うから。光速の包丁捌きで材料を切ってくれるのはいいんだけど。

 大量の材料を切り終われば、あとはそれほど手は要らない。鍋が3つだから、光忠と薬研がいれば充分。手伝ってくれた兼さん以外の新撰組と粟田口年長組に礼を言い、また遊んでおいでと居間に送り出す。ちょうどお八つの時間だからと取り寄せておいたスナック菓子を加州たちに持たせる。カレーは煮込むほど美味しくなるから早めに作り始めたんだよね。

 スナック菓子は短刀に限らず結構人気がある。今のところカール派・ポテチ派・キャラメルコーン派に分かれてるな。そのうちうちの本丸でもきのこたけのこ戦争起こるんだろうか? 私両方とも好きなんだけどなぁ。

「ねぇねぇ、あるじさん! ボク、ポテトサラダ食べたい!」

 お八つを食べ終わったころ、お手伝いするー! とフリルのエプロンをつけた乱ちゃんがやってきてリクエスト。まるでお母さんのお手伝いに来た娘のようです。そのお母さんが私なのか光忠なのかは不明です。光忠ってば、その面倒見のよさで顕現3日目にして既に本丸のお母さんポジションに就任しつつあるからなぁ……。

「ポテトサラダかー。うん、じゃあ、そうしよう」

 マカロニサラダにしようかと思ったけど、リクエストあるならそっちにしよう。

「あるじさん、ボク、ちゃんと作り方覚えたよ!」

 本丸初日には皆でお手伝いしてくれたもんな。ポテトサラダを気に入ったらしい乱ちゃんはそのときの手順を確り覚えていたらしい。

「でも味はあるじさんの味付けがいいから、あるじさん、お願いね」

 もう、そんな可愛いおねだりされたらおかーさん頑張っちゃう!

 食糧庫からジャガイモ60個(1人約2個)を取り出し、乱ちゃんにお任せする。子供を信じて任せるのも子育てには大事! 子育てしたことないけど。

 乱ちゃんが調理班を手伝ってるのに気付いたまぁ君、小夜ちゃん、愛君も一緒になって乱ちゃんと作業してくれる。ジャガイモを半分に切って、レンジでチンして、皮を取り外してマッシュして。初めて作業する小夜ちゃんには乱ちゃんが教えてる。なんか乱ちゃんが弟(妹に見えなくもない)の面倒見てるお姉ちゃんみたいだなと見ていて微笑ましくなる。

「なんだか、家族って感じだね。主がお母さんで乱君がむす……め? 差し詰め僕がお父さんで薬研君がお兄ちゃんかな」

「寧ろ光忠がお母さん……」

「何か言った?」

「ううん。やっぱり、光忠も乱ちゃん娘認定か」

「戦場では立派な男士だけどね」

 そんなことを言いながら、カレー作りを再開する。鍋に油を敷いて刻んだニンニクを炒めて香りを出す。玉葱の半量を入れてしんなりとして水分が出るまで炒める。ルゥではなくカレー粉と小麦粉で作るなら飴色になるまで、だけど市販のルゥを使うからそこまで炒める必要はない。この半量は甘さを出すためのもので、残り半量は食感を残すために他の材料と一緒に入れる。

 玉葱に火が通ったら豚肉投入。カレーって材料がゴロゴロした感じのほうが美味しく感じるから、お肉もちょっと大きめにカットしてる。今日はポークカレーだけど、チキンカレーもいいな。チキンカレーのときはお肉は結構大きめに切るんだよねー。お肉の表面に焼き色が付いたところで、ジャガイモ・ニンジン・カボチャ・ナス・ピーマン・茸類を入れて、水を張る。煮込むからちょっと多め。

 水を張ったら鍋1つに付きローリエ4枚を入れて、灰汁取りシートを被せて、野菜に火が通るまで煮込む。

 因みにカレー作りは初めての光忠と薬研は私の作業を見よう見まねで作ってくれてた。勿論、判らないことあればちゃんと質問して。序でに鍋は薬研担当が甘口、光忠担当が辛口、私担当が中辛。尤も辛い料理なんて多分初めてだろうから、辛口の中でもまろやかなバー○ントにしておいたけど。つーか、この時代にもあるんだね、ハ○ス食品。

「あるじさん、下準備できたー!」

 ちょうどのタイミングでポテトサラダ班班長の乱ちゃんから声がかかる。おお、ちゃんとスライスしてチンしたニンジン(型抜き使って星型やハート型になってる)、ちょっと厚めに切ったハム、スライスした玉葱、解凍したスィートコーンも混ぜてある。目や鼻が痛くなる玉葱は乱ちゃんが担当していたあたり、流石お姉ちゃん! じゃなかったお兄ちゃん! 途中で気付いた薬研がゴーグル渡してたけど。

 ちゃんと味付けのためのマヨネーズに塩コショウも準備してあって、乱ちゃん有能! 頭を撫で撫ですれば乱ちゃんはエヘヘと嬉しそうに笑う。それを見てオレも! と主張する愛君をグリグリと撫でていれば、まぁ君も控えめながら僕も……と言うので、勿論撫で撫で。小夜ちゃんもと思ってみれば、そっと近づいてきてじっと見上げてくる。何この可愛い生き物!! 宗三、歌仙とバトルってる場合じゃないぞ!! 勿論思いっきり撫で撫ですれば、含羞はにかんで笑う。もう、もう、何この可愛い軍団はーーー!!

 悶える私に光忠と薬研は苦笑してた。

「大将、馬鈴薯に火が通ったぞ」

 薬研に言われて鍋から灰汁取りシートとローリエを取り出し、火を止める。味噌漉し器に砕いたルゥを入れて溶かす。一々面倒臭いけど、こうすれば溶け残りもないし、なんか滑らかになる気がする。

 それから我が家の隠し味。醤油とインスタントコーヒーとチョコレート。後者2つはよく『えっ?』って言われるんだけど、これを入れるとプライベートブランドの安いルゥでもお高いルゥのコクが出るんだよね。分量はルゥ1箱あたり醤油お玉半分、コーヒーティースプーン1杯、チョコレート一欠片。光忠と薬研も初めて作る料理だから何の疑問も持たずに同じように入れる。まぁ、当然だよね。知らないからこれが一般的な材料と調理法だと思うだろうし。

「醤油とコーヒーとチョコレートは私の隠し味。隠し味は人によって違うの。りんごを摩り下ろして入れる人もいるし、ハチミツを入れる人もいるし、他にも色々あるらしいよ」

「へぇ、おりじなるれしぴってやつだね」

 お鍋をかき回しながら光忠が頷く。多分、光忠も自分だけのレシピ作り上げるんだろうなぁ。今日も1日端末でクック○ッド見てたくらいだし。

 さて、後は煮込んで終わり。初めてのカレーライスを皆どう味わうかな?






 7升の白米、96皿のカレー、綺麗さっぱりなくなりました! 皆その細い体の一体何処にそれだけ入ったの!?