Episode:08 第1週目業務終了

 夕食の後、改めて全員に本丸の方針を周知した。

 ●全員錬度最大まで上げる。

 ●当面は戦場開放を優先事項とする。

 ●そのため、第1部隊の錬度上げを進める。

 ●進軍については、軽傷・刀装剥げ(中傷未満)は進軍、中傷は要相談、重傷は撤退。

 まず、全刀剣男士は戦ってもらう戦士として呼んでいる。短刀君たちは確かに可愛いし癒しだけど、愛でるために呼んでいるわけではない。他の刀剣男士だってコレクション趣味で集めているわけではない。戦力となってもらうために呼んでいるのだ。だから、全員錬度は最大まで上げる。これは当然のこと。

 但し、1日に出陣できる回数には限りがあるし、1部隊の人数も決まっている以上、どうしても育成には優先順位というものがある。だから、先に来た刀剣男士から優先して錬度を上げていく。それが現第1部隊。その第1部隊は本丸初期ということもあって、戦場開放もその任務の1つとなる。

 優先順位をつけるということに関しては皆納得してくれた。既に24振の刀剣男士がいるのだ。部隊にして4部隊分(まだ第4部隊は開放されていないから遠征には出せないけど)。更に戦場開放を優先するとなれば、全員を均等に錬度上げするよりも第1部隊を優先的に上げるほうが効率がいいということにも納得してくれた。まぁ、自分が第1部隊に入れないことを不満に思う面子はいたけど。

 そして、実際の戦闘。進軍のルールというか、基準というか。傷を負った場合どうするのかという問題。刀剣男士には3つの傷の度合いがある。軽傷は生存値の約1割が削られた状態。中傷は3割5分が削られた状態で、この状態になると真剣必殺が出る可能性がある。そして最も重い重傷は残り生存値3割以下。軽傷や中傷から一気に刀剣破壊になることはなく、刀剣破壊は重傷を必ず経るという。これは多分、何かの呪術によって刀剣男士が守られているのだろうと思う。だって、敵の刀剣は一撃で倒される(軽傷未満からの刀剣破壊)のだから。普通に考えれば刀剣男士にだって同じことは起こるはずだ。でもそれがない。

 これらのダメージのどの時点で本丸帰還をするのかというのは、結構大切なことらしい。刀装がなくなった段階で帰還する本丸もあれば、重傷になるまで帰還しない本丸もある。どちらが正しくてどちらが間違っているというのでもない。刀装剥げの軽傷未満で帰還するのは効率が悪いかもしれないけれど、刀剣男士たちが傷を負わなければ手入れの必要もなく資源効率はいい。中には刀装の兵力が半分になった時点で帰還する本丸というのもあるそうだ。刀装の兵力は本丸に帰還すれば審神者の霊力で元に戻るから、これも刀装の消耗を防ぐという意味では有りだろう。実際私も『帰って来い』と言いたくなったことあるし。特上刀装が残り兵力3とかになるとね。

 でも、そういった超安全策をとる本丸では刀剣男士が不満に思うケースもあるという。まだまだ戦える段階で帰還させられるのだから、それも納得だ。

 そういった先輩たちのやり方を参考にしたうえで、うちでは中傷の場合には刀剣男士の意志を尊重、重傷だったら有無を言わさず帰還と決めた。

 正直なところ、効率でいえば重傷でも進軍してお守り発動させても問題はない。お守りは極を持たせてるから一度の刀剣破壊なら傷を完治させての復活だ。某RPGでいうアレイズ、某MMOでいうグレーターリザレクション。お守りは消費されるが、資源消費はしないし、手入れ時間もかからないし手伝い札の消費もない。そのまま進軍できるからペースも上がる。尤もお守り極は高価だから金銭的には赤字になるけど。

 でも、お守りが発動するということは、一度刀剣男士は破壊を経験するということになる。人間でいえば一度死ぬのだ。復活するとはいってもやはりそれは避けたい。今のところ破壊からの復活による不具合は報告されていない。でも今や肉の身を持ち思考と感情を持った──心を持った刀剣男士だ。『死』を経験することによって精神的に何らかの影響が出ることも考えられる。薬研や宗三、骨喰ばみ君、光忠は一度刀剣本体が焼けている。それがトラウマになっていないとも限らない。お守りは飽くまでも保険だ。一度の戦闘で重傷から破壊に至ることのないようにするための。

「検非違使については対策を考えて3日以内には指示を出す」

 実はさっき、歌仙に釘を刺された。今日は早く休めと。今日は重傷3人、中傷3人の手入れを一度に行なった。私が直接手入れをするわけではないけれど、妖精さんは私の霊力を消費する。

 霊力はMMO-RPGでいうところのMPに相当すると考えれば判りやすい。刀剣男士のHP(生存値)のように数値化はされていないけれど。個々人によってMPの最大値は違うが、審神者は50人の刀剣男士を顕現維持した上で6人の重傷手入れをしても大丈夫なMPを持っていることが任官の最低条件。刀剣男士がまだ24人で重傷3人中傷3人の手入れなら充分余裕はある。RPGやMMOでいえば余裕のあるブルー表示から、注意しながら使えよというイエロー表示になった程度だろう。それにMPは何もしなければ自然回復するし、通常は寝ている間に全回復する。だから問題ない。

 そう歌仙に言ったけど、聞き入れてはくれなかった。しかも同席していた薬研(彼は初鍛刀ということもあって歌仙に次ぐ側近だ)に何やら囁いた。

「今夜は五虎と前田まぁ平野ひぃを大将の寝所にぶち込む。大人しく一緒に寝てくれ」

「お小夜も送り込みたいところだけど、宗三が五月蝿そうだからね」

 私が弱い短刀トップ3を送り込まれたら大人しく寝るしかない。しかも短刀たちの夜は早い。9時にはもうおねむだ。いや、これはラッキーか? 先に寝かしつけて私は調べものを……。

「五虎とまぁには大将に抱きつくように言っとくからな。添い寝してやってくれよな、たーいしょ」

 ニヤリと笑う薬研。お前、短刀と違う、絶対!!

 とまぁ、こういう訳で今日は強制的に早寝することになった。

「明日の出陣は第1部隊は越前と安土。クリアして先に進むかどうかは現場の判断。第2部隊と第3部隊は遠征。第2部隊は加役方人足寄場で自立支援、第3部隊は公武合体運動の見回り。その後は10分遠征と30分遠征の組み合わせで日課こなしてね。他は内番と自主鍛練」

 簡単に指示を出してミーティングを終える。戦場に出る機会の少ないメンバーは不満そうではあるけれど、集中して出陣する時期が早いか遅いかだけの違いだと言えば渋々了承してくれた。特に同田貫とか不満そうだったけど。うん、まぁ、同田貫の不満は解消できると思うんだけどね。主に検非違使関係で。

 場を解散すれば、皆思い思いに散っていく。今日来たメンバーは短刀たちに端末の使い方を教わりつつ買い物を始めてる。何気に短刀たちが巧く新人に日常生活のルールを教えてくれていて、マジうちの子たち出来る子! 昼間私が出陣組にかかりきりになってる間に部屋割りも済ませてくれてたし、ホントにまぁ君中心にして短刀たちは超有能です!!

 そんな刀剣男士たちを見、私は執務室へと引き上げる。報告書をまとめないといけないからね。報告書には今日の戦績が自動入力されている。出陣回数と勝敗数、遠征回数と成功の可否、参加してないけど演練結果。いつの時代にどういう部隊を送ったかまでは報告義務はない。それぞれの項目に審神者所感を付け加えれば報告書は完成する。入力を終えて『確定』をクリックすれば保存と同時に担当官である丙之五へのご氏に送信される。

 それから明日の部隊編成。これはEXCEL(今は2209らしいけど丙之五氏の配慮によって私のパソコンには2002が入っている)にフォーマットを作ってある。どんなメンバーで何処に行って勝利結果はどうで誉は誰が取ったのかを戦闘結果画面を見ながら入力しているのだ。だから出陣中は戦闘画面の他、先輩方提供の戦場攻略マップ(敵出現地点に判りやすいようにアルファベットが振ってある)、EXCELを開いた状態になる。余談だが、政府から支給されたこのパソコン、刀剣男士の名前が単語登録されてた。しかもその中には『たぬき→同田貫』とか『CCP→燭台切光忠』なんてのもあったんだよね……。多分、やったの丙之五氏だと思うんだけど、もう、お茶目さん。てかCCPって何だろうと思ったら『キャンドルカッターピ○チュウ』らしい。光=ピカってことか。

 それが終わったころ、歌仙、鳴狐なき君、光忠がやってくる。3人とは明日の打ち合わせだ。歌仙は側近として、鳴君は戦闘班長として、光忠は戦国を経験した実戦刀ということから参謀として。兼さんにも参謀にはなってもらいたいところだけど、彼は『合戦場』よりも市街戦向きだろう。維新の戦場ならともかく、戦国の世の合戦は勝手が違うらしい。となれば、やはりここは鎌倉中期生まれで戦国乱世を経験している光忠に加わってもらおうというわけだ。取り敢えず暫定この3人が戦闘班首脳部ってところかな。

 3人に今日の戦闘で感じたことを聞き、無理な進軍ではなかったかを確認する。これもこれまでの3日間やってきていることだった。勿論これから先も続けていくつもりでいる。人数が増えれば各班のリーダー格とか刀種の代表的な人にも参加してもらうことになるんだろうけど、今のところは第1部隊のこの3人。

「政府の推奨する適正錬度からすれば上の戦場ではあるだろうが、無理ではないよ」

「そうだね。流石に錬度の低い僕や和泉守君にはキツいところもあったけど。戦いそのものじゃなくてね」

 苦笑する光忠。ああ、あれか。初めのころは光忠も兼さんも大して敵にダメージ与えられなかったからね。歌仙や鳴君はともかく、ばみ君や堀川が一撃で倒す敵に光忠と兼さんは軽傷すら負わせられず掠り傷程度。兼さんは相棒に遥かに劣っていることにハートブレイクしてた。尤も、終盤になるころには光忠は元々の打撃値の高さもあってそれなりに倒せるようにはなってたけどね(兼さんはそのころには薬研とチェンジしてた)。

「明日の目標は安土まで開放ね。でも、無理は禁物」

「判ってるよ。主の賽子さいころ運のおかげで巧く本陣を避けられているからね、心配はいらない」

 うっ。確かに悉くボスじゃないルートのほうに進んでるからね。でもその分、経験値稼げてるし、これは逆に運がいいのか?

「大丈夫ですよぅ主どの! いつもちょうどいい頃合に本陣に到達しておりますゆえ!」

「うん」

 きぃちゃんと鳴君のフォローが胸に沁みる。

「あと、明日は検非違使対策考えよう。それから明後日とその次の日は出陣・遠征なしのオフ日──休日ね。現世では7日周期で日程組むの。そのうち2日を休みにする週休2日が一般的だから、この本丸でもそれを取り入れる」

 そう。週休2日。短期決戦の戦争ならともかく、既に5年続いて尚も終わりの見えない長期戦。本拠地もその正体の詳細も未だに掴めていない敵が相手の戦争だ。長期間戦い続けるためにも休みは必要だろう。

「完全な休日か。不満に思う者はいそうだね」

 そうだね。主に同田貫とか。第1部隊が休みなら出陣させろとか言いそうだ。

「だが、出陣すれば主は休めない。僕ら刀剣とは違って主は人間だ。休養は必要だよ」

 光忠の言葉に歌仙が応じる。

「というわけで主はそろそろ休みたまえ。短刀たちがもうやって来るころだろうし」

 歌仙がそう言ったのをまるで見計らったかのように襖の向こうからまぁ君の声がした。襖を鳴君が開けるとそこにいたのはパジャマを着て枕を抱えたまぁ君と五虎ちゃんの2人。あれ、薬研は3人って言ってたけど、ひぃ君は?

「いくら体の小さな短刀とはいえ、主の寝台に3人はきついだろうということになってね。今日は前田と五虎退だよ。次回は秋田と乱、その次は今剣と平野、それから愛染とお小夜だね。薬研と厚は気恥ずかしいといって辞退したよ」

 クスクスと笑いながら歌仙は言う。何その天国か拷問か判らない仕打ち。

「あの、主君、ご迷惑でしたでしょうか」

「ご…ごめんなさいあるじさま。でも、僕、あるじさまと一緒に寝たいです」

 うるっとした目で、コテンと首を傾げてそんなこと言われて、この私に否やという返答が出来るだろうか、いや出来ない(反語)。

「うん、判った。寝室入ってて。私も直ぐに着替えて行くから!」

 即座に答えた私を歌仙は呆れた目で見る。自分がこうなるように仕組んだくせに、何その態度。因みに鳴君と光忠は微笑ましそうに笑ってた。

「まぁ、いい。ゆっくり休むんだよ、主」

「いい夢を」

「お休みなさいませ、主どの!」

「おやすみ」

 主犯と従犯はそう言って執務室を出て行った。それを見送り、即行で歯磨きと着替えを済ませ、私は癒しの天使ズにしがみ付かれて幸せな眠りに就いたのだった。






 そして、5日目。鍛刀で来たへし切長谷部、山伏国広、獅子王。ドロップで来た大倶利伽羅。午後のラスト2時間は加州・同田貫・兼さん・蜂須賀・大和・陸奥のチームと、長谷部・山伏ぶしさん・獅子君・伽羅・切国・宗三のチームで1時間ずつ出陣した。あー、これで検非違使ドロップの長曽祢虎徹以外の打刀が揃ったことになるな。

 夕食は午後のラスト2時間が空いた歌仙・光忠・堀川と薬研が作ると言ってくれたので、今日も甘えた。刀剣男士たちが入浴する時間を使って、私は検非違使の情報収集。夜の歌仙たちとのミーティングまでにある程度の草案を作っておきたい。

 ●10回ボス撃破で出現する可能性大。

 ●レベル10以上の刀剣男士がいない場合は出現しない。

 ●一度出現したマップには以降ランダムで出現。

 ●隊の最高錬度に合わせた部隊が出現。

 検非違使について判ったのはこれだけ。でも先輩たちは様々な対策を取り、有効な策を見出してくれていた。

 それが打刀投石兵部隊。打刀のみで編成し、全員に特上投石兵を持たせるというものだ。刀剣男士の部隊最高錬度29未満で出て来る検非違使は遠戦がないから、かなり有利に戦える。それ以降でも遠戦で戦力を削ぐのはやはり有効な戦略だということだ。

 よし、これでいこう。これなら多少錬度が足りない戦場でも投石兵でカバー出来るだろうし。何より『江戸の記憶』までの一般敵兵であれば完全勝利Sがほぼ確実に狙えて刀剣男士たちの士気も高まる。

 大体のイメージがまとまったところで、夕食後のいつもの打ち合わせで歌仙たち3人にそれを告げる。

 でも、打刀のうち第1部隊にいる歌仙と鳴君は錬度が突出してしまっているから除外。残りの10人の錬度を上げて編成することにしよう。

 全員特付きになってからといいたいところだけど、10人のうち兼さん、同田貫、蜂須賀、長谷部の4人は特が付くのがレベル25。他の6人は20。この5つの差は大きい。特に長谷部は今日来たばかりだから、同田貫や蜂須賀よりも錬度低いし、20で特が付くメンバーより4~5日は遅くなるだろう。そこまで主に同田貫がリベンジを我慢できるかな?

 この『我慢できるかな?』については戦闘班首脳部全員一致で『我慢できない』という結論が出た。きぃちゃんのみならず寡黙な鳴君でさえはっきりと『無理』って言ったし。

 ということで検非違使対策部隊の錬度が均一(差が2以内)になったらリベンジすることにした。大体錬度15前後で均一になるんじゃないかなと予想してるんだけど、鳥羽の検非違使なら多分、その錬度でもいけるはず。その後は錬度上げしつつ検非違使狙うってことで考えてる。

 検非違使を出さないという方法もある。検非違使が出た戦場を避けるという手もある。でも対策を取って検非違使とも戦う。検非違使との戦いは日課任務にもあるのだ。昨日気付いたけど。それに検非違使限定ドロップ刀剣もあるし。蜂須賀の兄弟。

 勿論、戦う理由はそれだけじゃない。検非違使が出た戦場に行かないとなれば、その戦場は放置することになる。検非違使を出さないようにするには本陣を叩けない。本陣が叩けないということはいつまでもその戦場から敵は消えない。本陣を前にして帰還することで刀剣男士たちのフラストレーションも溜まる。

 だから、いくつかの戦場を選んで検非違使を出現させることにした。候補としては戦闘回数の少ない戦場。大坂と関が原かな。あ、でも今後の育成のことを考えてギリギリまでボス撃破数8か9で抑えておこう。

「しかし、検非違使とは一体何者なのだろうね。仮にも検非違使を名乗っているのに、御上の軍である僕らをも潰そうとする」

 歌仙の疑問も尤もなことだ。検非違使は本来朝廷の組織。では検非違使が仕えている『朝廷』とは一体何処の朝廷なのだろう? 少なくとも今の政府ではない。私は大学で平安女流文学を専攻していた関係で検非違使といえば都の警察組織という印象が強いのだけど。律令に基づく本来の検非違使なら飽くまでもその権が及ぶ範囲は都のみのはずだし。それに見た目だって歴史修正主義者と殆ど差異はない。それともSFのタイムトラベル系創作でお馴染みのタイムパトロールとか時空警察とかそういうものなんだろうか?

 歴史修正主義者同様、検非違使についても判らないことが多すぎる。敵も第3勢力も、その正体が判らない。そもそも敵である歴史修正主義者が組織化されているのか、単一の組織なのかも判っていないのだ。テロリスト集団なのか、それとも個々のテロリストの総称なのか。それによって政府が取れる策だって違ってくるはずなのに、それすらも明らかにされていない。もしかしたら政府は判っていて現場には知らせていないのかもしれないけど、隠す利点が判らないから、多分、政府にも判明していないんだと思うけど。

 こんなに判らないことだらけでは、いつまで経ってもこの戦いは終わりそうにない。何を以ってこの戦いの勝利とすればいいのかさえ判らないのだから。個々の戦闘に勝ったとして、各地の時間遡行軍が現れなくなったとして、どれだけの期間現れなかったら『歴史修正主義者がいなくなった』と判断できるんだろう?

 政府によれば今のところ歴史改変は起きていないという。でも本当に? だったら政府はどうやってこの異常を知ったのだろう。何故歴史修正主義者の存在とその改変方法を知ったのだろう? 一介の現場指揮官にはそういった情報は開示されていない。私たちはただ、決まった時代の決まった場所で何度も現れる敵を倒すだけ。──ああ、そうか。歴史改変が成功すればその戦場に歴史修正主義者は現れなくなるはず。或いはその戦場が消える。目的を達しているし、その後の流れも変わるはずだから。敵が同じ場所に現れているということは、歴史改変は起こっていない。そういう理屈ってことか。

 まぁ、余り現場の一介の審神者が考えることではないのかもしれないけど、気になる。とはいえ、私の仕事は目の前に現れる敵を倒すこと。対処療法でしかないけれど、それが私たち審神者と刀剣男士の役割だ。

「休み明けからは打刀10人を午前中3時間育成する。まぁ、切国と宗三と大和と陸奥と兼さんは少し差があるから、加州と同田貫、蜂須賀、長谷部、伽羅の5人は固定で切国たち5人を交代で入れるって感じだね」

「何処で育成するんだい?」

 光忠が聞いてくる。第1部隊の彼らは当然一番戦場を把握している。

「当面は江戸かな。打刀2人はどう思う?」

 実際に戦った2人に問う。2人は錬度14くらいでこの戦場を経験している。

「錬度10未満の長谷部や大倶利伽羅にはきついかもしれないね」

「でもお二方はすてーたすが高うございますよぅ歌仙どの! 元太刀勢が加わるまでは打刀最強だった長谷部どのと元太刀の大倶利伽羅どのでございますから!」

「2人とも戦意が高い」

 わぁ、鳴君が3文節も喋った!

「幸い軽騎兵は特上に余裕があるから、それで行けるかな」

 刀装作りが得意というだけあって、歌仙は特上もかなり作ってくれる。でも軽騎兵ばっかり。短刀に使わせる軽歩兵と重歩兵は中々特上が出来ない。幸い資源に余裕あるから休み明けは他の刀剣男士にも作ってもらおうかな。投石兵の特上、最低12個は要るし。

「で、午後は第1部隊でマップ開放と錬度上げね」

「そうすると夕餉の支度が出来ないね」

 あ、その問題があったか。今厨房のメイン戦力は歌仙・光忠・堀川・薬研だ。4人とも第1部隊だった。人数増えたから調理時間も長くなってるし、出陣終えてから私が作るとなると夕食の時間が8時くらいにずれ込むなぁ。流石に戦場から帰ったばかりの歌仙たちに作ってもらうのも悪いし。

 でも、鍛刀で新人が加わってそれが大太刀や槍・薙刀、或いは3スロ太刀だった場合には、午後からはパワーレベリングで第1部隊に放り込みたいんだよねぇ。

 歌仙の言葉に唸っていると、顕現2日目にして既に台所番長と化した光忠が折衷案を出してきた。

「午前中に打刀2時間、僕ら1時間。午後は僕らが4時間のあと、最後の1時間を打刀でどうかな。そうすれば午前中にある程度仕込みと下拵えをして午後に仕上げられるし。午後は短刀たちも遠征終えてるから手伝ってもらえる。充分間に合うよ。ここの短刀たちはよく厨房の手伝いしてくれるしね」

 うん、本当にうちの子たちいい子だよねー(親馬鹿)。

「よし、それでいこう。あ、明日と明後日の夕食は私も作るね」

 今は朝食しか作ってないし。しかも味噌汁だけ。他は薬研と光忠がやってくれてる。

「主の手料理は楽しみだね。初日以来だ」

 そういえばここの3人のうち、歌仙以外は食べたことなかったな。味噌汁だけじゃ手料理といえるほどでもないし(尤も味噌汁は家庭料理の基本だけど)。歌仙や光忠が作るのは和食だから明日は洋食にしようかな。まずは定番のカレーライスから。明後日はハンバーグとかいいかも。

 打ち合わせのラスとはそんなのんびりした話で終わった。

 これにて審神者第1週目の業務終了!