Episode:07 初めての太刀

 4日目。

 朝から日課の鍛刀3回。例によって太刀(一期一振&江雪左文字狙い)、大太刀(蛍丸君狙い)に加えて薙刀(岩融)のレシピを回す。

 政府から支給された端末からアクセス出来るネットワークの中には審神者の交流サイトもある。所謂巨大掲示板とかYah○○知恵袋のようなものだ。内容は飽くまでも審神者業務に関することに限られる。とはいっても中には刀剣男士について語るスレなんてものある。刀剣男士との交流も審神者にとっては基本となる大切なことだから、これも『業務関連』となるのだろう。刀剣男士と審神者の関係が悪くては共に戦うことなど出来ないのだから。

 さて、そんな交流サイトの中には鍛刀レシピをまとめたスレもある。現在活動している審神者たちがどんな資源配合で鍛刀したかを挙げてくれているのだ。尤も、それで必ず狙った刀剣男士が出るわけではない。だからこそ『難民』なんて呼ばれる人たちもいるのだ。けど、なんでそこまで特定の刀剣男士を求めるのかよく判らない。大太刀・槍・薙刀といった数の少ない刀種を求めるなら理解できるんだけど。

 まぁ、私も狙いを絞ってるから人のことは言えないかな? 粟田口メンバーのために一期一振を、左文字兄弟のために江雪左文字を、愛染あい君のために蛍丸を、今剣いまちゃんのために岩融を呼びたいと思ってるし。ああ、これが難民のスタートなのかも。

 それぞれが出やすいとされる配合で鍛冶妖精さんに資源を渡し、いざ鍛刀! 時間は……3:00:00、1:30:00、3:00:00。つまり、太刀・打刀・太刀の可能性大。1時間半は確実に打刀だけど、3時間は打刀・太刀・大太刀・槍の可能性もある。残念ながら一期一振&江雪左文字(3:20:00)と岩融(5:00:00)はないけど、3時間なら蛍丸君の可能性もまだ残ってるし!

 初めての太刀以上の刀剣の可能性にワクワクしながら刀装を作り、昨日ドロップして顕現していないダブリの刀剣を刀解、錬結する。刀解は日課任務に定められている2振しかしないけど、錬結は全部やってしまう。

 そして出陣と遠征だ。昨晩話し合って、今日から出陣メインのAチーム、遠征メインのBチーム、控えのCチームに分けることにした。レベリングを平等に行なうことも考えたけど、刀剣男士たちから行ける戦場が多いほうがいいと言われたし。というわけで戦場解放を今日から優先することにしたのだ。

 当面の第1部隊(Aチーム)は歌仙、薬研、厚、鳴狐なき君、骨喰ばみ君、堀川。短刀・脇差・打刀がそれぞれ2振。

 太刀以上の刀剣男士が来たときには厚とチェンジ。厚はちょっと不満そうだったけど、最終的には納得してくれた。

 第2部隊は遠征班。前田まぁ君、平野ひぃ君、今ちゃん、小夜ちゃん、切国、宗三。宗三が『小夜と一緒にしてください!』って五月蝿かった。まぁ君もひぃ君も『お兄ちゃんと一緒がいい』とは言わないし、小夜ちゃんだって言わないのに、お兄ちゃんのほうが我が侭って……。まぁ、短刀たちの保護者で打刀2人入れるつもりだったからいいけど。特に面倒臭い拗らせ系を入れたのは外の世界見て来いや! ってとこ。

 控えは残りのメンバー。愛君、乱ちゃん、五虎ちゃん、大和、秋田あき君、陸奥。

 勿論これは暫定メンバー。刀種が増えれば特に第1部隊は入れ替えがあるし、遠征も行き先によっては刀種の指定やレベル制限もある。それに、刀剣男士を招くのは戦ってもらうためなんだから、当然全員にレベルカンストしてもらう。

 それに現時点での最終戦場となっている『池田屋の記憶』はALL夜戦+室内戦ということで、ここは短刀・脇差・打刀が主戦力となるらしい。その前にある『武家の記憶』や『戦国の記憶』は太刀・大太刀がメイン戦力だそうだが。なので、短刀たちには『池田屋の記憶』に入る前に集中して錬度上げをすると言ってある。それもあって厚は第1部隊から外れることを受け容れてくれたんだけど。

 そうして、午前の出陣を終え、遠征班も日課の10遠征を終了。まぁ、10分遠征(というか散歩?)7回と30分遠征(これも散歩だろ)3回だったけど。

 午前の出陣では歌仙と薬研に特がついてランクアップした(あと少しで鳴君にも付きそう)。戦場も『江戸の記憶』をクリアして『織豊の記憶』が開放。尤も錬度的にまだ先には進まず、大坂周回することにしたけどね。刀剣ドロップも3振(実際には7振だけど4振はダブリ)。脇差のにっかり青江、打刀の蜂須賀虎徹、そして堀川お待ちかねの兼さんこと和泉守兼定。

 お昼休憩のときには既に鍛刀も終わっていて、太刀1、打刀2と判明。燭台切光忠、加州清光、同田貫正国の3振。待望の太刀! ここから先は太刀がいないとキツいと聞いていたから超来てほしかった! 蛍丸君がいないのは残念だけど。短刀たちに関係者呼べなかったことを謝れば逆に叱られた。

「気にすんなって主さん! 蛍いなくても皆いるから寂しくねーし!」

「そうですよ、あるじさま。どのとうけんだんしがくるかはときのうん。きにしちゃだめです!」

「宗三兄様いるから、大丈夫」

「そうだよ、あるじさん。いち兄呼びたいって思ってくれてるだけでボクたち嬉しいんだから」

 愛君、今ちゃん、小夜ちゃん、乱ちゃんがそう言って慰めてくれる。

「いち兄はれあふぉーとか言われてて招きにくいんだろ? ばみ兄も鳴の叔父貴もいるんだ、気にするこたぁないぜ」

「薬研殿の言うとおりにございますぞ、主どの!」

 更に薬研ときぃちゃん(鳴狐のお付。お付の『き』とキツネの『き』できぃちゃん)もそう言ってくれて、鳴君とばみ君も頷いてる。

「……なんか申し訳なくなってきちゃった」

「だねー。新撰組、ほぼ揃ったし」

 後ろで堀川と大和が小声で話している。2人は相棒ともいうべき刀剣男士がこれから顕現される。

「よし、顕現するよ!」

 ほぼ恒例と化した一斉顕現。一振一振手に取り顕現する。まずは相棒が待ってる兼さんと加州。それから、にっかり青江、同田貫、蜂須賀。そしてラストに当本丸の初太刀となる燭台切光忠。

「僕は燭台切光忠。青銅の燭台だって切れるんだよ。……うーん、やっぱり格好つかないな」

 現れた燭台切は見るからに『大人の男』。これが太刀か。歌仙や蜂須賀も『大人』ではあるんだけど、なんか燭台切は違う。そうだ、『大人の艶気いろけある男』だ。流石は伊達男・奥州の独眼竜の刀、といったところだろうか。

 刀剣男士の中には縁の深い主の面影を色濃く残す姿をした者も多い。大和と兼さんは新撰組の羽織を着てるし。それと同じように燭台切は右目を眼帯で覆っている。隻眼なのかどうかは判らないけど、政宗公を模してるんだろうな。

「よろしく、燭台切光忠。この本丸で初めての太刀だから頼りにしてるよ」

「ああ、主、僕に任せて。ただ、名前は光忠のほうで呼んでほしいかな」

 どうやら『燭台切』という号は本人的には『格好よくない』らしい。でも『光忠』の銘がつく刀剣は他にもあるけど、『燭台切』は一振だけなんだけどなぁ。しかも伊達政宗ほどの武将が命名したのに。尤も光忠も不満と言うわけでも『燭台切』という号を嫌っているわけでもないらしい。単に『格好よくない』と思っているだけ。私としては彼だけの号である『燭台切』と呼びたいけど、本人の希望なら仕方ない。光忠と呼ぶことにしよう。

 さて、顕現を終えたら午後の出陣だ。

「あの……主さん、これは僕の完全な我が侭なんですけど……」

 怖々おずおずと堀川が声をかけてくる。うん、言いたいことは判る。何しろ顕現の第一声が名乗りじゃなくて『兼さんいますか』だからね。

「午後の最初の1時間だけ特別ね。1出陣ごとに光忠と兼さんの隊長交替で回す。薬研、1時間だけ兼さんと交替してくれる?」

 まぁ、私も鬼じゃないし。ただ、短刀1人はある程度錬度上げしておきたいから、1時間だけの交替。もう少しマップが進めば薬研も抜けることになるだろうけど。

「ありがとうございます、主さん!!」

 わー、堀川超嬉しそう。

「大体5時くらいまで第1部隊に出陣してもらって、その後の1時間を青江、加州、同田貫、蜂須賀、大和と陸奥で出陣。それまでの間に青江たち4人には1回ずつ遠征にも加わってもらうね。まぁ君と乱ちゃん、4人に本丸のルール説明よろしく。出陣する2人には道中よろしくね、歌仙」

 自分が直ぐに戦場に出られないことが同田貫は不満そうにしている。けど、基本的な方針は変えるつもりはない。能力値からいえば元太刀である同田貫は歌仙や鳴君よりも上だけど、2人はこの本丸の戦闘班リーダーだ。初期刀で毎晩反省会と打ち合わせをしている歌仙は紛れもない私の右腕。鳴君は最大派閥である粟田口の保護者というのもある。他の同日に来た打刀2人が面倒臭い性格をしているのに比べて遥かに付き合いやすいというのも大きい。ぶっちゃけて言えば好みとか相性の問題だ。そう、贔屓ともいう。

 うん、上司としてどうかなとは思うよ? でも、やっぱり、付き合いやすい付き合いにくいってあるんだ。それに打刀は現在全13振。そのうち既に10振がいる。いないのはへし切長谷部、大倶利伽羅、長曽祢虎徹の3振だけ。それだけいればどうしても育成には優先順位をつけないといけない。それはやっぱり早く来たメンバーからになっていく。で、今現在の優先順位は歌仙と鳴君というわけ。特に鳴君は短刀が主力となる池田屋で短刀最大勢力である粟田口の保護者として同行してもらうつもりでいるから、錬度上げ最優先なのだ。

 とはいえ、この方針は今夜改めて全員に周知しないといけないなぁ。全員カンストしてもらうから、飽くまでも優先順位に過ぎないって。

 ──しかし、私は方針の変更を余儀なくされた。そう、検非違使の出現によって。






 午後の出陣は1時間だけ兼さんを加え、その後は薬研と交替して関が原に進んだ。第1部隊全員に特がついてランクアップしたら関が原に進む予定にしてたんだけど、短刀外したから進んでみた。関が原からは敵も遠戦しかけてくるからね。刀装1つしかつけられない短刀を入れるかどうか悩むところだな。取り敢えず兼さんINした状態で問題なかったから、1時間後には薬研IN・兼さんOUTで同じく関が原。うん、心配は要らなかったみたい。

 誉を取り捲ったのは鳴君、ばみ君、堀川で3人は常に桜が舞ってる状態。歌仙や薬研は遠慮しているわけではないんだろうけど、1時間に1回か2回といったところ。まぁ、つまり今日来た光忠以外で誉を取っていたことになるけどこれは錬度差があるから仕方ない。鳴君とばみ君も午後の出陣で特付いたしね。因みに1時間あたりの戦闘回数は約12回。5分で1戦闘といったペースだった。

 光忠の錬度は15まで上がった。所謂パワーレベリングに近い状態だから、4時間でここまで上がったのもまぁ、当然かな。

 そして、ラスト1時間は青江・同田貫・加州・蜂須賀の4人で隊長を交代しつつサポートの大和と陸奥を入れたパーティで出陣。行き先は『江戸の記憶』の鳥羽。一番錬度の高い大和でもまだ10だったけど、全員打刀だし軽騎兵の特上と上を全員に持たせてるから問題ないだろうと出陣させた。あ、違う、青江は脇差だ。見た目脇差(ばみ君と堀川の少年系)と大違いだからつい勘違いしてしまう。

 そう、問題はないはずだった。順調に進軍して資源を得たりボスを倒したり。今日来た加州たち4人も錬度4になり、あと2回出陣したら今日は終わろうと決めていた。歌仙と光忠、薬研が中心となり本丸に残っていたメンバーで夕食作りも始めてくれていた。私の傍には鳴君と新撰組副長の刀ということで作戦参謀になってくれるんじゃないかなという期待の兼さんの2人が付いていてくれた。

 青江を隊長とした新人組5回目の出陣で、それに遭遇した。

 そう、検非違使。歴史修正主義者だろうが政府軍だろうが関係なく襲ってくる第3勢力。その存在を私は失念していたのだ。

 戦場に出た途端、こんのすけが現れた。今日は一度も姿を見せていなかった審神者のサポート管狐。

「この時代に長く留まりすぎたようです」

 そうこんのすけは言った。この時代のこの地には今後検非違使が出現するようになると。

 検非違使の出現条件ははっきりとは判っていない。けれど、先輩方の検証によれば敵本陣を10回制圧することによって確認されるのだそうだ。

 検非違使は通常の時代遡行軍よりも遥かに強い。しかも最も高いレベルに合わせた敵となる。今日来た4人とサポートの2人の錬度差は7しかない。でも11と4では大きく違う。

 どうか出遭いませんように。そう祈った。検非違使には必ず遭遇するわけではないのだから。安全のために帰還させたくとも一度は戦闘しなければ本丸に戻れない。その一度の戦闘さえ凌げれば帰還させられるし戦場も変えられる。

「お守りも持たせてるんだろ? そんなに心配するな」

 兼さんは言う。確かに全員お守りを装備しているから破壊されることはないだろう。でも心配なのだ。今日まで刀剣男士たちが中傷以上の傷を負ったことはない。初陣の歌仙を除いて。でも検非違使戦では中傷・重傷が当たり前だという。

「……大丈夫。皆強い」

 私を安心させるように滅多に言葉を発しない鳴君が言ってくれた。

「ほら、主、確りしろ。指示を待ってるぞ」

 兼さんが励ますように肩をバシっと叩く。まだ検非違使が出たわけじゃない。彼らが傷を負ったわけじゃない。私がここで怯えていてどうする。

「青江、その戦場は第3勢力の検非違使の出現条件を満たしてる。一度戦闘したら帰還して。検非違使対策をして改めて出陣するから」

『ふーん、強いのかい? まぁ、主の言うとおりにするよ』

 青江が了解してくれたことにひとまず安心して、画面をクリックする。賽子さいころが振られ進路が決まり、敵の出現を示すアイコンが表示され──そして斬られた。

『これが検非違使か。嫌な感じだね』

 青江の呟きがインカムを通して聞こえる。

「気をつけて! 段違いの強さだから慎重に!!」

『ヒシヒシと感じてるよ。大丈夫、勝てない相手じゃない。──ああ、この手は覚えがあるね。合ってるか確認してほしいな』

 青江が索敵の指示を出す。せめて有利陣形が判るように成功してほしい。

『敵は雁行陣』

「方陣で。武運を!」

『ああ。──さぁ、斬ったり斬られたりしよう』

 青江の開戦の声を合図にこちらからの声は届かなくなる。移動中と戦闘中は本丸と時間の流れが違うからだ。4日目の今でもどういう仕組みになっているのかはさっぱり判らない。多分ずっと判らないままなんだろうな。

 マウスを握る手がじわりと汗をかく。戦闘に慣れ始めていたせいで薄れていた緊張が戻る。

 兼さんも鳴君も、お喋りなきぃちゃんまでもが無言。

『そこだよね』

『フェイントに見せかけて攻撃!』

『斬る!』

『首落ちて死ね!』

『よぉ狙って……ぱん!』

『キエェェアァ!』

『ガハッ……』

『戦ってるんだ、これくらいは普通さ』

『くそっ……だが、まだまだだぜ!』

『のうが悪いぜよ』

『こんなに……追い込まれるなんて……!』

『うぁ!? 重傷……!?』

 聞こえてくる声に、画面に映し出される彼らの姿に言葉が出ない。

『本番は……これからだ!』

『ええい……わしに抜かせたな!』

『ずいぶんと舐めてくれたじゃねぇか……許せねぇ!』

 中傷の大和が真剣必殺を発動し、陸奥と同田貫が連鎖発動する。3人の真剣必殺により辛くも勝利した。

 隊長が重傷を負えば部隊は強制帰還となる。インカムをつけたままタブレットを引っ掴み、広間へと向かう。ちょうど手入れ部屋に差し掛かったところで重傷の青江・加州・蜂須賀を抱えた歌仙・切国・光忠と合流した。鳴君が無言で開けてくれた扉に飛び込み、歌仙と切国が治療台に2人を乗せている間にタブレットを操作して手入れ部屋を拡張する。増えた2室に蜂須賀と同田貫を入れ、既に手入れを始めていた妖精さんに手伝い札を渡す。

 全員の手入れが終わるまでに2分もかからない。本丸に帰還して5分もかかっていない。彼らが苦痛を感じた時間はそう長くはない。──長くはないけれど、0ではない。これは私の失態だった。私がきちんと検非違使のことを把握していれば避けられた負傷だった。

「にっかり青江」

 治療を終え畳の上に座っている青江を見つめる。

「加州清光」

 その隣に座る加州。

「同田貫正国」

 壁に凭れて立っている同田貫。

「蜂須賀虎徹」

 その隣で腰を下ろしている蜂須賀。

「大和守安定」

 まだ治療台に横たわっている大和。

「陸奥守吉行」

 そして、治療台に腰掛けている陸奥。

 傷を負った6人を1人1人正面から見つめる。

「申し訳ありませんでした。あなたたちに傷を負わせたのは私の失態です」

 平伏し、頭を下げる。土下座しての謝罪。私が失態を犯したせいで彼らは避けられたはずの傷を負ったのだ。謝らなければならない。

「ちょ……主! 頭上げてよ!」

「そうだよ! ほら、ちゃんと治ったから!!」

「頭上げとうせ!!」

 幕末3刀が慌てた様子で言う。

「いいえ。これは私の失態。検非違使のことを完全に失念してた。私がきちんと把握していたらあなたたちが傷を負うことはなかった。これは指揮官としてあってはならない失態だわ。私の甘さのせいでしなくてもいい怪我をさせてしまって申し訳ありませんでした」

 一度頭を上げ、6人の顔を見て告げる。そして、もう一度深く頭を下げる。

「うん、主の采配が甘かったのはあるね。でも、主はまだ戦に出始めて4日目だと言ってたよね」

 戦国時代を経た1刀が言う。

「そうだね。女性にょしょうの身で今まで戦に無縁だったのだから仕方ないかな」

 江戸初期の混乱を知る1刀も言う。私の失態は失態とした上で、まだ未熟だから仕方ないのだと。

「俺は楽しかったぜ。あれこそ戦だろ。まぁ采配の甘さで折れるのは御免だが、同じ失敗はしねぇよな?」

 実戦刀もそう言って謝罪を受け容れてくれた。

「勿論、同じ失敗は繰り返さない。皆が折れることのないように采配を振るう」

 今日のことは予測していれば防げたこと。先輩方のおかげで戦場には適正レベル(安全に行軍できるレベル)があることも判ってる。確りと戦場のことを知っておけば何も問題はない。検非違使の出現だってコントロール出来る。

「あ? まさか温い進軍する気かよ」

 不満そうに言う同田貫は本当に戦うことが生き甲斐という感じだ。

「改めて食後の合議ミーティングで説明するけど、それはしない。温い進軍するんだったら、いきなり錬度1を関が原になんて行かせないでしょ」

 関が原は太刀レベル25が適正とされている戦場だ。そこに錬度1の太刀を送り込むのだから『温い進軍』ではなく『無茶な進軍』になるだろう。

 そう言えば実際に出陣した光忠と兼さんが笑った。

「そりゃそうだ」

「確かにね」

 2人とも傷こそ負わなかったもののかなり刀装を削られていたし、自分たちよりも刀としての性能の劣る脇差2人に誉を取られ捲って悔しそうにしてた。まぁ、錬度が20近く違っていたから仕方のないことではあるのだけど。

「んで、検非違使に復讐戦させてくれるんだろうな?」

 負けてはいないけれど不満らしい銅狸。あ、間違えた、同田貫。もう心の中ではタヌキでいいや。口にしたら怒られそうだから言わないけど。

「勿論。でも、今のままじゃ今日と同じになるから策を考える。調べたりしないといけないから、2、3日時間をちょうだい」

 今後のこともあるから検非違使対策は立てないと。うわぁ、今日の睡眠時間激減だろうな。

「さて、話も済んだみてぇだし、メシにしねぇか、大将」

「そうしようぜ、大将」

「あるじさま、僕お腹が空きました」

「主君がお好きだと仰ってた茸のさらだを作ったんですよ!」

「光忠さんが胡麻どれっしんぐっていうの作ってくれたんだよ!」

「主さん、メシメシー!」

「今日は僕が主の隣です!」

「僕も主君の隣に!」

「じゃあ、ぼくはあるじさまのひざのうえに」

「行こう、主」

 それまで黙っていた短刀たちが一斉に口を開く。まぁ君と小夜ちゃんが私の手を引いて歩き出す。空気を読むスキルって実は短刀たちが一番高いのではなかろうか。流石、懐刀として日常に侍っていただけはある。

「──主、失敗を忘れなければいい」

 出て行く間際、そうばみ君が囁いた。記憶の殆どを失っているばみ君の言葉だと思うと深い。

「うん。肝に銘じておく」

 絶対に油断による失態はもう犯さない。二度同じ過ちは繰り返さない。