Episode:05 第二部隊集結

 本丸生活2日目。心地よい目覚めでございます。

 顔を洗い、着替えて、普段の自宅休日ならしない化粧をして。うん、化粧めんどくさー。でも刀剣男士とはいえ他人の目があるわけだし、職場だしってことで薄くではあるけど化粧したよ。まぁ、チークもマスカラもアイシャドウもしない、ファンデと眉墨と口紅だけっていう最低限のメイクだけど。

 キッチンへと行き、早速朝ご飯の準備。皆はまだ寝てるのか、本丸は静か。刀剣男士の個室は東の対屋たいのやっていうのもあるかな。本丸広いから。

 朝ご飯のメニューは白米、味噌汁、焼き鮭、厚焼き玉子、ほうれん草の胡麻和え。厚焼き玉子は今日は甘いヤツにする。出汁巻とどっちにしようかなと思ったけど、昨日の夕食の感じからして短刀たちはお子様味覚みたいだし、人数多いほうに合わせる。

 早速鮭をグリルで焼きながら、味噌汁作り。昨日のうちにイリコを水につけておいたから出汁は出てる。わー、イリコから出汁とって味噌汁作るなんて何年ぶりだろう。ずっと粉末のダシ使ってたからな。出汁に使ったイリコは乾燥させてフードプロセッサーで砕いて、炒ってふりかけにするつもり。味噌汁の具は定番の豆腐とお揚げ。

「おはよう、大将。早いな」

 玉子焼きを作り始めたところで、薬研がやってきた。昨日買った、Tシャツにジーンズという姿。すっごいシンプル。

「おはよう、薬研」

 返事を返すと、薬研はこちらへと近づいてくる。

「朝餉の支度か。俺も手伝う」

 手を洗いながらそう申し出てくれた薬研にありがたく手伝ってもらうことにする。

「じゃあ、このすり鉢と擂粉木で胡麻を擂ってくれるかな。ほうれん草の胡麻和え作るから」

「りょーかい」

 粉末の擂り胡麻じゃなくて炒り胡麻だったから、これ幸いと薬研にやってもらう。結構力使うからね。

「大将、今日はどれくらいから出陣するんだ?」

「んー、大体辰の刻(午前9時)前後くらいからかなぁ。朝ご飯終わったら洗濯して、それから日課の鍛刀と刀装作って、その後だね。午前中にそれぞれ2回は隊長やってもらうつもりで部隊を回す予定」

 つまり、最低でも12回の出陣。会津のマップはどう進んでも敵本陣に辿り着くようになっている。でもどのルートでも戦闘回数は2回。多分、1回の出陣に要する時間は(私にとって)10分程度だろうから、1時間に6回出陣かな。途中で休憩を何度か挟むことになるだろうし、そうすると午前中の出陣回数は15回くらいだろう。

「今日は会津に進むんだよな? その先はどうするんだ?」

「それは皆の錬度を見て、だね。でも、今日と明日で『維新の記憶』は抜けたいかな」

 幸い、次の宇都宮までは敵は短刀と脇差だけ。『維新の記憶』の最終地である鳥羽には打刀も出る。今後のことを考えて、ギリギリまで会津と宇都宮でレベルを上げておきたいところかなぁ。

「ただ、今日も鍛刀とドロップで新しい刀剣男士来てくれるだろうから、午後は新人さん育成に回す予定」

 昨夜のうちに鍛錬所は拡張して炉を3つにした。そうすれば1日の日課ノルマである3鍛刀を一度に出来るから。だから、午前中には鍛刀は終わる。被りがなければ、午後には新たな刀剣男士が3人増えることになる。だから、午後はその新たな刀剣男士たちに出陣してもらうつもり。

「そうかい。俺っちが出陣できないのは残念だが、仕方ねぇな」

 そんなことを話しながら手を動かし、朝食を作り続ける。

「あるじさん、薬研兄、おはよう!」

 元気にキッチンへ入ってきたのは乱ちゃん。鮮やかなオレンジのワンピース姿でたいそう可愛らしい。その後ろには薬研と同じような恰好の厚と愛染あい君、半ズボンにシャツ姿の前田まぁ君と続く。全員昨日買った服を着てる。

「おはようございます、主君」

「主さん、おはよー」

「おはよう、大将」

 4人は口々に挨拶して、直ぐに食器を出したりテーブルを拭いたりと自主的にお手伝いしてくれた。うう、こんないい息子たち持てておかーさんは幸せ者です。

 ほぼ食卓の準備が整ったところで、漸く歌仙が登場。

「おはよう、主、皆」

 風流に拘る歌仙は洋服ではなく和服。戦闘服とは違った飾りの少ないシンプルな素襖と袴だ。

「おはよう、歌仙。よく眠れた?」

「ああ、ぐっすりとね。寝過ごしてしまったよ、雅じゃないね」

 まぁ、昨夜は随分遅くまで起きてたみたいだもんね。歌仙の部屋は深夜2時まで明かりがついてたのは知ってる。それを言うと何で知ってるのかってことから私も起きてたのがバレるから言わないけど。昨日の戦闘のデータ、今日進む予定の会津、宇都宮、鳥羽の敵データ、更に自分を含めた刀剣男士のステータスデータを見せるように言われたってこんのすけが言ってた。つまり、昨晩私が見て検討していたデータと全く同じもの。歌仙は唯一の打刀おとなとして初期刀として、戦術の組み立てなんかを考えてくれていたのだろう。

「あ、先に洗濯するから、皆、寝巻きと浴衣持ってきて」

 時間かかるし、先にやっておこう。そう告げれば全員が一旦部屋へと戻る。洗濯物を持ってきた6人を引き連れて風呂場へ移動し(脱衣所に洗濯機があるから)、洗濯機の使い方を教える。まぁ、全自動なんで、何処に洗剤と柔軟材を入れるか、どのスイッチを押すか、だけなんだけど。

「へぇ、便利なもんだ」

 薬研が呟く。薬研たちの知る洗濯は桶に洗濯板。うん、確かに指先1つで自動で洗濯してくれるのは便利だよね。

 全員の浴衣と寝巻き、昨日使ったタオルを洗濯機に放り込んで、ひとまず終了。ご飯終わったころには洗濯も終わってるだろうから、皆で干せばいい。

「さ、朝ご飯にしよう」

 じーっと回る洗濯槽を見ている子供たちに苦笑して、居間に戻るように促す。

「腹減ったー!」

 愛君がそう言って、走っていく。それに釣られるように厚と乱ちゃんも駆けていく。

 全員居間に戻り、思い思いの席について、『いただきます』と手を合わせる。

「この玉子焼き、甘くて美味しいです!」

「中に何か入ってる。あるじさん、これ何?」

「それはカニカマ。蟹風味の蒲鉾ね」

「味噌汁は出汁が効いてるね」

「主さん、おかわり!」

「はやっ。愛君、ちゃんと噛んで食べてる?」

「うーん、この青菜はオレ苦手かもしれねー」

「苦味が苦手かな? じゃあ、今度は別の味付けにしてみるね」

「大将、甘やかさなくていいぞ」

 わいわいと賑やかに朝食が進む。全員が食事を終え、お茶を飲み始めたところで、今日の伝達事項。

「じゃあ、今日の予定言うね」

 そう言えば全員の目がこちらに向く。途端に全員が正座するのはやはり流石だ。

「まず、片付けと洗濯。それが終わったら、私と歌仙で日課の鍛刀と刀装作りをします。その間に短刀5人には別の仕事をお願いするね。辰の刻……9時になったら出陣するから、それまでに着替えて昨日渡した刀装つけて、審神者執務室に集合」

 ここまではいいかな? 皆頷いてるからOK。

「出陣はまず会津。それから様子を見て先に進む。隊長は持ち回り。歌仙、薬研、前田、愛染、厚、乱の順番ね。1人2回隊長が回ってくるようにするから。多分、そのころにお昼にちょうどいい時間になるはず。1時間お昼休憩をしたら、そのころには増えてるはずの新人さんも加えて午後の出陣。どういう構成になるかは、来てくれた新人さんで決めるね。いい?」

 6人が了承の返事をしてくれたから、早速行動開始。後片付けは歌仙と薬研にお任せして(この2人が今後厨房の手伝いをメインでやってくれることになったから)、他の4人を連れて洗濯場へ行く。洗濯が終わってるはずだから、あとは干すだけ。浴衣用の衣文掛けハンガーも発注しておいたから楽だ。一々棹に通してたんじゃ手間がかかるから。4人に手伝ってもらいながら、庭に洗濯物を干す。いいお天気だし、お昼過ぎには乾くだろう。

「じゃ、皆厨房に戻ろう。私が日課任務やってる間に皆にはお昼ご飯の準備をしておいてほしいんだ」

「もうですか?」

 はい、確かにまだ午前8時を過ぎたばかり。早いよねー。でも出陣したら私は執務室のモニターの前に張り付きっぱなしになるからね。そうすると準備してる時間がない。

「うん。皆が出陣してる間は私も戦場から目が離せないからね。皆が帰ってきてからお昼ご飯作ってたらお腹空きすぎちゃうよ」

 予定では12回出陣。つまり最低でも24戦。それだけ戦って体を動かせば、まぁ育ち盛りな年齢設定の少年たちはハラペコ状態だろう。しかも戦場と本丸では時間の流れが違っているから、私にとっての約3時間が彼らにとってのどれくらいになるのか判らないし。先に作っておけば、途中で空腹を覚えたときにも対応できる。

 キッチンに戻れば、既に歌仙と薬研は後片付けを終えていた。うん、ちょうどいい。

「では、短刀5人に昼餉作りの任務を与えまーす」

 冷蔵庫から準備しておいた焼鮭の解し身、梅干、おかか、焼きたらこ、海苔を取り出し、朝思い立って注文した2台目炊飯器(1升炊)で炊いたご飯をお櫃に移す。それからご飯茶碗を6人分。

「お昼ご飯としてお握りを用意するので、それを皆に作ってもらうからね」

 そうして作り方(握り方)を説明する。具は好きなものを入れるように言って、最後に海苔を巻いて終わり。1つだけお手本で作ってみせて、後は5人にお任せ。刀剣男士とはいえ、子供の姿ゆえなのか好奇心は旺盛で、短刀たちは何でもやりたがる。それはお握り作りでも一緒らしく、大人びた薬研や厚でさえ目をキラキラさせている。

「じゃあ、任せたよ。私と歌仙は日課済ませてくるから」

「任せろ!」

「はーい!」

「いってらっしゃいませ」

 いいお返事の5人をキッチンの残し、私と歌仙は鍛錬所へ移動する。

「出陣していたら昼餉の支度が難しいね。でもこれからは出陣人数も増えるだろうし、午前と午後の最後の出陣から僕を外しておいてくれれば、僕が支度するよ」

「あー、それもいいね。夕食は私も作るけど、お昼は任せていいかな」

「ああ、任せてくれ。尤も、今日のあの短刀たちの様子を見れば、ああして握り飯作りを任せるのもいいかもしれないね」

 賑やかに楽しそうにお握りを作り始めていた5人だから、これからも頼めばやってくれそう。

「人数が増えたら手の空く刀剣男士もいるだろうし、そういう面子で家事を回すようにするのもいいよね。これも皆で相談して決めよう」

 戦うために人の身を得た刀剣男士だから、家事労働なんて拒否する人もいるかもしれない。でも、共同生活なんだから、そこは平等に。

 鍛錬所に入り、3つの炉を使って鍛刀を始める。狙うは打刀・太刀・大太刀。レシピはオーソドックスな数値で行く。つまり、打刀は木炭350・玉鋼500・冷却材350・砥石350、太刀はALL550、大太刀は木炭530・玉鋼600・冷却材510・砥石510。

「狙いは打刀が鳴狐か和泉守兼定、太刀が一期一振、大太刀が蛍丸、だったね」

 優雅に畳に腰を下ろしながら、歌仙が言う。その通り。歌仙の親戚和泉守兼定、粟田口の家族鳴狐と一期一振、愛君の兄弟蛍丸。その誰かが来てくれたらいいな。って、歌仙、座ってる余裕ないよ。直ぐ、刀装造りに行くんだから。

 さて、何が出るかな? 鍛冶妖精さんに依頼札を3枚渡して、早速鍛刀開始。時間は……1:30:00、00:20:00、00:30:00。打刀、短刀、短刀。……大太刀目当ての多め資源で短刀だと切ないね。

「……まぁ、こういうこともあるよ」

 慰めるように言う歌仙。うん、そうだよね。そうそう巧くはいかないよね……。愛君ごめんね。蛍丸君は今日は無理でした。

 手伝い札は鍛刀では使わないことにしてるのでそのまま鍛錬所を出て、今度は刀装作成部屋へと行く。昨日たっぷり作ってるから別に作る必要はないんだけど、日課任務で1日3個作るようになってるからね。報酬資源は決して多くはないけど、地道な積み重ね大事。それに依頼札も報酬だし。今日は特上青銅の3つの軽騎兵が出来た。

 日課を終えキッチンへ戻ると、大量のお握りが出来ていた。ま、大量とはいっても20個ちょい。いや、充分に多いか。大小さまざま、形もさまざま。綺麗な三角形もあれば、俵型、まん丸に近いものもある。

「おー、上手に出来たね。じゃあ、これが皆の今日のお昼ご飯になるからね」

 お疲れさまと全員の頭を撫でる。乱ちゃんとまぁ君は優しく、他の3人はちょっと力強くぐりぐりと。薬研と厚と愛君はそのほうが嬉しいみたいだから。

「鍛刀は打刀1つと短刀2つでした。短刀1つは厚じゃなきゃ平野藤四郎確定。愛君、ごめんね、蛍丸君呼べなかった」

「気にすんなって、主さん! 大丈夫! オレ、皆と仲良くなったぜー!」

 どうやら昨夜夕食後に短刀たちは集まって遊んだらしい。囲碁というあたりがうん、刀剣だなと思った。今度トランプでも教えるか。

「で、午前中の出陣でドロップがあったら、直ぐに顕現せずに鍛刀した刀剣と一緒にお昼休みにまとめて顕現します」

 そのほうが楽。何がって、本丸の案内とか。

「よーし、じゃあ、出陣の準備をして、執務室に集合」

「はい!」

 6人は返事をすると、準備を整えるためにそれぞれの部屋に戻っていった。






 午前中に予定の12回出陣をしたけど、まだ戦いたいという短刀たちの希望により、更に6回の計18回44戦を終えた。これ、今日100戦いくんじゃないの?

 で、予定では宇都宮まで進めればいいかなと思ってたんだけど、鳥羽まで進むことが出来た。6人フルの部隊だから、宇都宮でも温かったらしい。

 そして、午前中になんと3振ドロップ。しかも打刀2、短刀1。打刀は鳴狐と宗三左文字、短刀は五虎退。そのときには既に鍛刀も終わっていて、打刀は山姥切国広、短刀は今剣と平野藤四郎ということも判ってた。

 これで打刀が4人になったから、部隊構成を打刀2・短刀4ずつで分けて、昨日顕現3・今日顕現3ずつで構成することにしよう。

 というわけで、昼ご飯も終わったところで顕現ターイム! まずはジャンル『可愛い』から行きましょう。

「……大将、先に言っとく。五虎退も平野藤四郎もめっちゃくちゃ可愛い」

 打ち上がった刀とドロップした刀を居間に並べて顕現の準備をしていると、真面目な表情で薬研が言った。厚と乱ちゃん、愛君は何を言ってるんだ? という表情で薬研を見てる。でも、歌仙とまぁ君は思い当たったみたいで、歌仙は呆れたような目で私を見遣り、まぁ君は恥ずかしそうに頬を染めていた。

 そう、薬研は何も兄馬鹿全開でこんなことを言ったわけじゃない。

「……抱き締め禁止?」

「禁止。6振顕現しなきゃいけねぇんだから、五虎退と平野で時間取るわけにはいかねぇだろ?」

「……判った」

 態々薬研が禁止するってことはそれだけ可愛いんだろうな、五虎退と平野。うん、いずれチャンスはあるだろうから、今は我慢だ。

 まずは五虎退を手に取り、呼びかける。昨日も見た桜吹雪とともに愛らしい少年と5匹の仔虎が現れる。なるほどだから五虎か。

「僕は、五虎退です。あの……しりぞけてないです。すみません。だって、虎がかわいそうなんで」

 どうやら内向的な性格っぽい五虎ちゃん。ちょっとビクビクしてる。

「そっか、可愛いもんね。退けなかったからこうして一緒にいてくれるんだね。よろしく、五虎ちゃん。私が審神者の右近よ」

 抱き締め禁止されたから頭を撫で撫で。うう、可愛い。見た目的にはまぁ君より上、乱ちゃんより下って感じ。愛君よりは身長的な意味で上っぽい。ってことで、五虎ちゃんは小学校4年生認定! 愛君は小学校3年扱いだし。

「謙信公へのお土産で、その時、なんというか、調子のいいお話がつけられて、僕、虎をいろいろやっつけたことになったんですけど。ぐす。ほんとはただの短刀でぇ…ぐす」

 半べそをかいてしまった五虎ちゃん。うわ、逸話がプレッシャーなのかな? しかし! 今! 五虎ちゃんは聞き逃せないことを言った!!

「五虎ちゃんって、上杉謙信公の刀なの?」

「はい、そうですけど」

 多分、私の目は今、キラキラと輝いてる!

「今度、謙信公のお話聞かせてね? 私、歴史上の人物で謙信公が一番好きなの!」

 そうか、そうだよね。偉人の愛刀が付喪神になって刀剣男士になってるんだから、謙信公の刀だっているわけだよね! なんか、テンション上がった。だって、実際に偉人たちを見てきてる刀なんだから、色々な話が聞けるじゃないか!

「はい!」

 五虎ちゃんは涙を拭ってにっこりと笑ってくれた。やっぱり嘗ての所有者のことは大好きなんだろうなぁ。

「おや、主はてっきり加藤清正公が好きなのかと思ってたよ」

 昨日それなりに熊本のことを話してた歌仙がそう言ってくる。

清正公せいしょうこさんは歴史の偉人というよりも地元の殿様で尊敬してるって感じだね。好き嫌いじゃないんだよね」

 そう、現代の熊本でも使用されている地下水や農地は清正公さんが整えたものを基盤としてる。1600年代に作られたそれらが2000年代でも活用されているのだ。それに、嘗て市の中心部に据えられていた清正公さんの銅像は熊本市を脅威から守るためのものだって、市民なら誰でも知ってる。それくらい清正公さんは熊本の民に『うちの殿様』として愛されている。だから、なんというか、『歴史の偉人』という遠い括りではなく、もっと身近な感じなんだよね。

「さて、続いては平野藤四郎行きます」

 このまま話してたら先に進まない。話を切り上げて、顕現再開。

「平野藤四郎といいます! お付きの仕事でしたらお任せください」

 現れたのは何処となくまぁ君に似た少年。ちょっとまぁ君より大人びた印象を受ける。ぶっちゃけ藤四郎ズは兄弟とはいえ顔立ちは似てなかったから、平野ひぃ君とまぁ君を見て漸く『あ、兄弟だ』って思った。うん、これだけよく似てるから、2人は双子設定でいこう。

「ひぃ君、よろしくね。私は右近。審神者よ」

「はい、よろしくお願いいたします、主君。実戦より、警護やお付きだったことのほうが多いんですが、お供なら任せてください。何処まででもご一緒しますから!」

 何処までもご一緒しますとか、超可愛いんですけど!! 薬研に禁止されてなきゃ、抱き締めてる!

「うん、頼りにしてるよ」

 抱き締められないから、頭撫で撫で。絶対、顔だらしなく緩みきってるよ……。歌仙と薬研とこんのすけ(いつの間にか来てた)の視線が痛いです。

 さて、短刀ラスト!

「ぼくは、今剣! よしつねこうのまもりがたななんですよ! どうだ、すごいでしょう!」

 元気一杯に現れたのは天狗モチーフの白い少年。どう聞いてもオール平仮名発音。幼い感じだけど……義経公の守り刀ってことは、今いるメンバー最年長だな、確実に。

「審神者の右近よ。よろしくね。義経公の守り刀だったのかぁ。今度義経公のこと聞かせてね」

 まぁ、あんまり源義経は好きではないんだけどね。どっちかというと兄頼朝のほうを評価してる。けど、あんまり大きな声じゃ言えないよねぇ。今剣が義経公の刀だったからというよりも、世間の空気的に。

 世に『判官贔屓』という言葉がある。不遇な立場にいる人に対して評価が偏ってしまう現象。明らかに『贔屓』ってやつ。で、この語源になったといわれるのがまさに『九郎判官ほうがん』、つまり源義経だ。

 でもねぇ、私としては義経は政治感覚のない甘ちゃんとしか思えない。一方、兄は稀代の政治家だ。公家から武家へと政権を移し、以降の武家社会の礎を築いたんだから、後の幕府初代将軍たちの誰よりも偉大な政治家だったと思う。

 義経は頼朝を飽くまでも『兄』と見た。兄のために戦う、自分は弟だから他の配下とは違う、そんな甘えがあったと思う。けれど頼朝は血縁であるがゆえに規範たれと思ってたような印象が強い。まぁ、頼朝は平安貴族でもあったから、母が違う兄弟を兄弟とは思ってなかった可能性も高いけどね。平安時代の異母兄弟は仲良し家族じゃない。当主の座を巡るライバルでしかない。従兄弟とかのほうがよっぽど仲がいいくらいだ。

 だから、義経の悲劇は起こるべくして起こったこと。兄と弟の認識の違いから起きてしまったことだと思う。うん、大学時代に『平家物語』や『吾妻鏡』とかやってるときに調べた範囲内での考えだけど。

「あるじさま、よしつねこうのこときょうみありますか?」

 嬉しそうに言う今剣いまちゃんにこんなことは言えないよねー。

「うん、実際に一緒にいた今ちゃんに話を聞きたい」

 文献でしか知らない義経公が本当はどんな人だったのか。

「はい! おはなししますね」

 ニッコニコと笑う今ちゃん可愛い。実年齢(平安時代の生まれ)はさておき、認定は最年少だな。小学校1年生認定。

 短刀3人は既に昨日顕現してる短刀5人に混じってわちゃわちゃし始めた。粟田口じゃない今ちゃんがちょっと心配だったけど、そこは流石亀の甲より年の劫なのか、中々図々し……もとい、物怖じしない。

 よし、次は打刀3振。まずは粟田口の叔父さんから行きますか。

「やあやあこれなるは、鎌倉時代の打刀、鳴狐と申します。わたくしはお付のキツネでございます!」

 叔父さんというからオッサンかと思いきや、若いな。っていうか、狐の声キンキンうるさっ。見た目は凄く可愛いのに。

「……よろしく」

 狐が五月蝿い分、本人は寡黙なのか。

「甥っ子たちが楽しみに待ってたわよ。私は審神者の右近。短刀が多いから、よろしくね」

 そう告げれば鳴狐は無言でコクリと頷く。お付の狐が何か言おうとしてたけど、その口を塞いでるあたり、結構お茶目さんかもしれない。手で狐の形作ってるし。これは成人はしてない感じってことで大学1年生認定! あ、因みに歌仙は社会人っぽいなぁってことで24歳、社会人2年目設定で考えてる。

 さてさて、どんどん行きますよぅ(お付の狐口調)。

「山姥切国広だ。……何だその目は。写しだというのが気になると?」

 何かネガティブ来た。見た目は綺麗系なのに。卑屈系刀剣男士なんているのか。

「写し?」

 写しって模写ってことかな? それがコンプレックスなのか。でもなぁ、模写って全てのベースだよね? 優れた作品を模写することから始めるんだよね、色々。だから決して『写し』って悪いことじゃないと思うんだ。第一、『写し』が本物の劣化品なら現代まで残ってるはずはない。しかも付喪神が宿ってるってことはそれだけ大事にされてきた証に他ならないわけだし。

「足利城主長尾顕長の依頼で打たれた刀だ。…山姥切の写しとしてな。だが、俺は偽物なんかじゃない。国広の第一の傑作なんだ……!」

 ん? 単なる卑屈系じゃないな。プライドはあるけど、『写し』ってことが気に入らない感じ? 本物の山姥切と比較され続けてきたのかな。それが嫌で卑屈になってるとか。

「あー、うん。第一の傑作って凄いね。なのに写しだから色々比較されてたってことかな。比べられるのは嫌だよねぇ。比べるんじゃなくて自分をちゃんと見ろって思うし」

 そういうことだったら、名前も『山姥切』で呼ぶのはやめたほうがよさそう。でも国広って刀工名だから、重なる刀いるよねぇ……。

「君のこと『山姥切』と『国広』以外で呼ぼうと思うんだけど、何がいい?」

「は? 何を言ってる」

 私の言葉に山姥切国広は不思議そうに言う。まぁ、そうだろうね。

「だって、写しってことで比較されるのが嫌なら『山姥切』とは呼ばれたくないでしょ? でも『国広』はこれから他の刀剣男士でも来るだろうし」

 確か堀川国広と山伏国広がいたはずだし。

「写しとでも呼べばいいだろう」

「却下」

 卑屈系拗らせ系か。めんどくさー。いっそ拗らせ系のこじちゃんとでも呼ぶか? うーん……

 じっと山姥切国広を見る。外見的特徴から呼び名つけるか……。

「何を見ている。綺麗とか言うな!」

「言ってねぇよ!」

 山姥切国広の言葉に咄嗟に突っ込む。綺麗系とは思ったけどさ。こいつ、結構自信家でもあるぞ。

「大将、『切国』とかどうだ?」

 ああ、名前の真ん中取ってか。厚が出してくれた助け舟に乗っかろう。

「そうだね。じゃあ、これから君のことは『切国』って呼ぶね」

「好きにしろ」

 はい、好きにします。……初期刀、彼にしなくて正解だったかも。色々面倒臭そうな子だ。あ、年齢設定は21歳。大学3年生。見た目オンリーで。鳴狐なき君よりちょっと上っぽい感じだし。

 さ、ラスト1振。切国相手で疲れたよ……。

「……宗三左文字と言います。貴方も、天下人の象徴を侍らせたいのですか……?」

 え、男? ってか、また面倒臭そうなの来た。何、打刀は面倒な奴しかいないの? いや、歌仙と鳴君がいる。ある意味歌仙も面倒だけど(雅とか風流とか文系とか)、彼は常識がちゃんとあるから大丈夫。

「天下人の象徴って凄いね。そういう来歴なの?」

「今川義元が討たれた時、僕を戦利品として得た魔王によって磨上られ、刻印を入れられてから今の僕があります。……ですから、義元左文字、とも呼ばれています。その後は豊臣秀吉、秀頼、徳川家康、そして徳川将軍家と僕は主人を変え、天下人の持つ刀として扱われました。……何故、皆僕に、そんなに執着したのでしょうね……」

 宗三は言うけど、それ、自分凄いよ自慢だよね? こいつも卑屈に見せかけた自信家か。

「色々な話の聞き甲斐があるね。東海道一の弓取りといわれた今川義元に天下人たちか。でも侍るのはいらん。戦ってもらうために呼んだんだから」

 どうせ侍ってもらうなら可愛い短刀たちがいい。ひぃ君とかまぁ君とか貴人の傍にいた刀がいるわけだし。

「そう、ですか」

 なんか宗三は物足りないような不満げな顔してる。『天下人の象徴』の刀に執着を見せないからかな? そりゃ天下取ろうとしてるわけじゃないもん。執着なんてしないわ。

 そんな宗三に歌仙が声をかけ、宗三も目の前から移動する。広間には短刀打刀計12振が揃っている。さっきまでに比べて人数倍。一気に大所帯になった感じだ。

「早速、出陣してもらうよ~!」

 互いに自己紹介している刀剣男士たちに声をかけ、注目させる。

「部隊は2つに分けるからね。昨日来た3人と今日来た3人で組んでもらう。打刀2、短刀4の構成。隊長は今日来た3人が交代で。引率・まとめ役のリーダーは歌仙と薬研に任せる」

 ということで、『伊組』は歌仙、まぁ君、厚、切国、今ちゃん、ひぃ君。『呂組』が薬研、愛君、乱ちゃん、鳴君、宗三、五虎ちゃん。『伊組』が出陣してる間、『呂組』には遠征に行ってもらう。『呂組』が出陣してるときは『伊組』が遠征。因みに『伊組』『呂組』と分けたのは結成画面での『第1部隊』『第2部隊』と区別するため。伊と呂は『伊呂波仁保辺止いろはにほへと』の『い』と『ろ』。

 それぞれのチームを分けて、刀装を渡して。さぁ、午後の出陣行きますか!

 顕現で疲れたけど! 主に最後2人のせいで精神的に。

 因みに、出陣は1時間交替で、遠征は10分から30分で終わることから、遠征組は空き時間にそれぞれ本丸内を案内したり、昨日決めたルールやらここでの生活について説明してくれてた。歌仙と薬研、マジ頼りになる! 流石初期刀と初鍛刀!

 しかも、ラスト1時間は『呂組』が出撃だったから、歌仙が指揮して晩御飯の準備まで整えてくれてた。ありがとう、歌仙!!