Episode:03 第一部隊完成

 二度目の戦場は何の問題もなく連戦連勝。といっても2戦だけなのだけど。戦場はいくつかの分岐があり、その分岐は何故か賽子さいころで進路を決める。今回の出陣では敵本陣には辿り着けなかった。

 最初の1戦目では先ほどのリベンジとばかりに歌仙が会心の一撃を放ち、誉を取った。2戦目では自分も負けてなるものかとばかりに薬研がやはり会心の一撃を決めて誉を取る。やっぱり刀剣だけあって、戦場で活躍できるのは嬉しいらしい。誉を取ると桜が舞う。これを審神者界では誉桜というらしい。そのまんまやんか。

「大将、帰ったぞ! 土産だ」

 2人とも快勝したことに満足しているようで、にこやかに帰還した。初陣とは大違いだ。これで私のトラウマも解消されるだろう。

 薬研が土産だと言ったのは短刀だった。戦場では刀剣を倒した敵から得ることがある。これはゲームに準えてドロップというらしい。私が2003年でプレイしていたMMOでもドロップはあったな。尤も私のドロップ運は決して良くなかったけど。レアなんて殆ど出たことないし。……まさか、そのドロップ運、このリアルでも影響しないだろうな。

 薬研から短刀を受け取り、顕現する。何処となく薬研が楽しそうに嬉しそうにしているから、この短刀は兄弟ではなかろうか。そう思いつつ呼びかければ、既に見慣れた桜吹雪とともに小学校低学年ほどの少年が現れる。おかっぱ頭のたいそう可愛らしい少年だ。

「前田藤四郎と申します。末永くお仕えします」

 現れた少年はとても礼儀正しい子だった。見た目は幼いながら、何処か凛として愛らしくも凛々しい。

「審神者の右近よ。今日審神者になったばかりの新人なの。よろしくね」

 膝を折り目線を合わせて告げる。うん、間近で見ても可愛い。

「はい。藤四郎の眷属の末席に座するものです。大きな武勲はありませんが、末永くお仕えします、主君」

 う……そんな健気なこと、円らな可愛い目で言われたら我慢出来ない。ずっと我慢してたのに!!

「ごめん、前田まぁ君!! あーーーー!! もう可愛い!! 可愛すぎる!!」

 我慢出来ずにそのまままぁ君をガバっと抱き締める。

「えっ、えっ?」

 突然のことにまぁ君は狼狽えてる。無理もない。でもごめん、おばちゃん、まぁ君が可愛すぎて我慢出来ない!

「あの……薬研兄さん……」

 仮にも主君と呼んだ人間を押しのけることが出来ないのか、まぁ君は戸惑った様子で兄に助けを求めている。その兄と言えば

「大将……」

 どうやら呆れているようだ。視線を薬研に向ければ苦笑して私とまぁ君を見ている。その隣の歌仙は呆れていることを隠すことなく、溜息をついていた。

「大将、まぁが困ってるから離してやっちゃくれないか。まぁが可愛いのは俺っちも同意だがな」

 そうか。お兄ちゃんも弟が可愛いのか。当然だよね! こんなに可愛いいんだもの。

「ごめんね、まぁ君」

 名残惜しいけれどこれ以上幼子を困らせるわけにもいかない。まぁ君の抱擁を解き、頭を撫でる。

「いいえ、あの、驚きましたが、嫌ではありませんでした。人に抱き締められるのは温かいのですね」

 少し頬を染めて笑うまぁ君。再び抱き締めたくなるのをぐっと堪える。その心情はこんのすけと歌仙にはバレバレだったようで、再度呆れたような視線を向けられた。

「全く雅じゃないね、主」

「雅じゃないけど、可愛いものは可愛い。思いっきり愛でたくなるのは人情」

「ああ、愛でることを悪いとは言わない。けれど、いきなり抱き締めるのはどうかと思うよ」

 ですよねー。まさか私も自分にこんな情動があるとは思わなかったよ。

「大将、俺っちは抱き締めちゃくれなかったな? 俺は可愛くねぇかい?」

 薬研が悪戯っ子の表情で私の顔を覗きこんでくる。ちょっと、薬研。それは反則だろう! お前、それが12歳の色気か!!

「何? 薬研も抱き締めてほしかった?」

「いや、遠慮しとこう」

 即答するなら聞くな。薬研を抱き締めなかったのは見た目のせいだ。儚げ美少年で男を匂わせる言動の薬研を抱き締めたら、児童福祉法に引っかかりそうな気がする。

「それはそうと、審神者様。そろそろ鍛刀が終わっている時分かと」

 こんのすけの言葉にはたと時計を見る。既に鍛刀開始から30分以上経ってる。もう2振とも完成しているはず。ならば早速お迎えに行かねば。

「じゃあ、まぁ君も一緒に行こうか。2振鍛刀したんだけど、1振は確実に薬研やまぁ君の兄弟だから」

「そうなのですか? 兄弟に会えるのは楽しみです」

 まぁ君と手を繋ぎ、鍛錬所へと移動する。思わず手を繋いでしまったけど、まぁ君は嫌がることも戸惑うこともなく、手を握り返してくれた。うん、可愛い!!(まぁ君に関してはこれしか言っていない気がする) 後ろには薬研と歌仙が付いてくる。序でにこんのすけも。本丸にいる全員でゾロゾロと鍛錬所に入れば、妖精さんが『遅いよ!』という目で見てきた。

「遅くなってごめん、妖精さん。じゃあ、先に出来たほうから受け取るから。あ、こんのすけは黙っててね」

 また名前言われちゃ楽しみがない。

 妖精さんから短刀を受け取り、呼びかける。すると見慣れた桜吹雪をまとって現れたのは鼻の頭に絆創膏を貼った如何にも腕白坊主といった風貌の少年だった。

「オレは愛染国俊! オレには愛染明王の加護が付いてるんだぜ!」

 元気一杯に名乗りを上げる少年はまぁ君と同じかちょっとだけ上に見える。うん、小学3年生か4年生って感じ。因みに私の中でまぁ君は小学2年生認定。

「元気一杯だね、愛染あい君。審神者の右近よ。今日審神者になったばかり。一緒に頑張ろうね」

 しゃがんで目線を合わせれば、愛君は元気に頷く。なんか、愛君の行動には『元気に』が枕詞のごとく着いていそうだ。

「おう! よろしくな!」

 うん、いいお返事。まぁ君とは違った可愛さにほっこりと和み、頭をぐりぐりと撫でる。愛君はそれに嬉しそうに笑う。やっぱ、子供は可愛い。

 愛君の可愛さをこのまま愛でていたいけど、鍛刀した刀はもう1振。こちらも顕現しなければ。確実に薬研とまぁ君の兄弟である短刀。30分の鍛刀時間だったから、厚藤四郎か平野藤四郎か。

 妖精さんが渡してくれた短刀を捧げ持ち、呼びかける。今日5回目の桜吹雪。現れたのは短髪の活発そうな少年だった。

「よっ……と。オレは、厚藤四郎。兄弟の中だと鎧通しに分類されるんだ」

 厚藤四郎は薬研に近いタイプのようだ。見るからに男前予備軍。頼りになるお兄ちゃんタイプで、薬研に比べたら腕白っぽい印象。

「審神者の右近よ。今日審神者になった新人だから、一緒に頑張っていきましょうね」

 薬研とほぼ同じくらいの背の厚にはしゃがまなくても大丈夫。薬研と厚、どっちがお兄ちゃんかな? うん、双子設定でもいいかな。

「ああ、よろしく、大将!」

 ニカっと笑う表情は薬研よりも子供っぽい明るさがある。

「よう、厚」

「厚兄さん!」

「なんだ、お前らもいたのか、薬研、前田」

 厚は早速兄弟たちと言葉を交わしている。うん、いいな、兄弟って。微笑ましい気持ちで3人を見ていると、歌仙も同じような表情で3人の少年を見ていた。けれど、ふと気付く。今、ここにいる短刀は4人。そのうち3人が兄弟。残された愛君は。

 隣に立つ愛君を見れば、何処となく寂しそうに見えた。兄弟や知り合いが既にいるというのは羨ましいことに違いない。

「愛君は会いたい刀剣男士っている? 兄弟とか、同じ主に仕えた人とか」

 しゃがんで愛君に目線を合わせて問いかける。

「え?」

 愛君は一瞬戸惑ったような顔をして、それから答えてくれた。

「保護者みたいな奴と弟なのか兄貴なのかわかんねーのもいる。太刀と大太刀なんだ。明石国行と蛍丸」

 ああ、愛君にも兄弟刀がいるのか。なら、出来るだけ早く呼んであげたい。

「そっか。じゃあ、早く会いたいね」

「うーん、会いたい、かな?」

 ずっと刀だったからよく判らない、そう愛君は呟く。でも、薬研たち3人を見る目は寂しそうで羨ましそうだった。ってことでおばちゃん、決めた。愛君の家族、出来るだけ早く呼びます。

 鍛刀の日課は1日3振。勿論、それ以上鍛刀することも可能だけど、鍛刀に使う依頼札にも資源にも限りがある。特に資源は手入にも刀装にも使うから、無駄には出来ない。任務を達成することによって政府から資源も依頼札も支給はあるけど、今のところ1日3鍛刀以上するつもりはない。

 薬研たち粟田口の家族は短刀と脇差、打刀に太刀。歌仙が会いたいのは短刀と打刀。そして愛君の家族は太刀と大太刀。

「明日は短刀と打刀と太刀のレシピ回すかな」

 粟田口兄弟と小夜左文字、鳴狐と和泉守兼定、一期一振と明石国行。狙うはそのメンバー。

「あ、審神者様。明石殿は鍛刀では出ませんよ。あの刀剣男士は『池田屋の記憶』の三条大橋マップのレア刀剣です。しかも敵本陣でしかドロップしません」

 『池田屋の記憶』の三条大橋!? って、それ確か今一番難易度の高い時代じゃないっけ? 審神者初日の私にはまだまだ行けない場所だ。

「あー、主さん、国行はいいよ。あいつ、来ても役に立たないと思うし。働くの嫌いなグウタラなんだ」

 ニートかい。

 ショックを受けてる私を慰めてくれる愛君、マジでいい子!!

「ごめんね、愛君。新人だから明石は当分先になる。でも蛍丸君は出来るだけ早く呼べるように頑張るから!」

「うん! 蛍丸はすげーんだ。阿蘇神社に祀られたんだぜ。色々伝説もあるんだ」

 我がことのように自慢げに言う愛君、超可愛い。ん、待て。阿蘇神社? 地元じゃないか。

「そっか、蛍丸は阿蘇神社にいたんだ。私、阿蘇のある肥後の生まれなんだ。縁があるから、きっと来てくれるね」

 そう、縁があるからきっと来てくれるはず! そう言えば愛君は嬉しそうに笑った。よし、この笑顔のためにも絶対蛍丸呼ぶぞ。ってことで明日から大太刀レシピ回しまくってやる。

「たーいしょ。今日はもう出陣しないのかい?」

 どうやら兄弟の交流はひと段落したようで、薬研がこちらに向かって問いかける。

「まぁ君と厚と愛君の分の刀装作ったら、また出陣するよ。最低あと8戦は義務付けられてるからね」

 やっぱり、刀装を1つしかつけられない短刀の4人には出来れば特上の刀装をつけさせたい。特上は今薬研に装備させてる1つしかないから、あと3つ作らなきゃ。

「歌仙、刀装作りにいこう。うちの可愛い子たちが思う存分戦えるように、金色刀装作ろう!」

 最早気分は母親。うん、この子達のためならおかーちゃん、頑張る。

「すっかり母上だね、主」

 そんな私に歌仙は苦笑する。

「歌仙も保護者枠だよ。見た目唯一の成人男子」

 見た目は幼くとも彼らも刀剣だということは判ってる。でも、見た目が幼い彼らはそれに準じるかのように生存値も統率値(防御力)も低い。

「私たちが準備してる間、皆は本丸内を見ておいで。それから部屋も決めてね。こんのすけ、案内してあげて」

「畏まりました、審神者様」

「ああ、僕の部屋には扇を置いてあるから、そこ以外でね」

 まぁ君がこんのすけを抱っこして、短刀4人は本丸を探索に行く。広いからねぇ。因みに歌仙の部屋は私の私室に近いようにと東の対屋の渡殿正面だ。初期刀=側近だしね。

 それから約30分、子供たちが本丸探索を終えて刀装部屋に戻ってきたときには、何とか金色重歩兵10個の製作に成功していた。うん、軽歩兵並と軽騎兵並もかなり出来たけどね。それでも、当分は困らないだろう上刀装もそれなりに出来たから、充分な成果だろう。……かなりの資源を使ったけど。

「じゃあ、今回の出陣は隊長を薬研ね。隊長はちょっと経験値入りやすくなるから、皆一回りしよう」

 政府は戦場の画面だけではなく、刀剣男士の能力把握にもゲーム要素を盛り込んでいた。それぞれの能力を数値化しステータスを設定、更に戦闘によって得た経験も『経験値』として数値化、成長が数値として判るようにレベル設定までしていたのだ。判りやすいとはいえ、なんだかなーという気がしないでもない。

「じゃあ、最低でもあと5回は出陣するってことか」

 自分にも隊長が回ってくるのかと嬉しそうに厚が笑う。見た目大人の歌仙が隊長固定と思ってたのかもしれない。初期刀だしね。でも、隊長は若干多めの経験値を獲得できる。それに誉を取ったときも、そうでないときよりも多く経験値を獲得している。これは刀装作りをしながら歌仙とさっきの戦闘の詳細を確認して判ったこと。ならば、誉をとることを調整は出来なくても、隊長を持ち回りにすることでレベルを均一化することは可能だろう。先に2戦闘を済ませている歌仙と薬研はレベル2になっているけれど、隊長持ち回りと巧く誉が分散すれば、レベルは均一になるはず。まぁ、レベル1と2の違いはそうはないから、問題ないだろう。

「はい、じゃあ、皆これつけて。準備出来たら、審神者執務室に移動して、出陣するよ」

 短刀たちに重歩兵特上を渡し、準備を整えさせる。

「おぉ、しっくりくるね」

「これは…! 良いものですね」

「りょーかいりょーかい!」

「カッコよく着こなしてぇな!」

 少年たちは刀装にテンションが上がってるようだ。武器?防具?を装着してテンション上がる子供ってのも微妙だけど、彼らは刀剣であり兵士だから、それも当然。うん、もう可愛いからそれで充分。

「さぁ、頑張っておいで! 先に歌仙と薬研が行った戦場だから、皆も怪我をすることはないだろうけど油断せずに思う存分戦ってらっしゃい」

 戦いに行かせることに躊躇いがないわけではないけど、それを言ったら私の役目はなんなんだということになる。私は戦争するために、戦うためにここに来ているのだ。そして、それは彼らも同じ。仮令たとえ、見た目は小学生のようでも彼らは戦うために人の姿を得た刀剣なのだから。






 その後、厚、まぁ君、愛君と隊長を替え、計10戦を終えた。これで最低限の日課ノルマは達成。今日の戦闘をこれで終えてもいいのだけれど、彼らの戦意は高い。帰ってきた彼らは疲れも見せず、次は自分が誉を取ってみせると言い合ってわちゃわちゃとしてる。それを歌仙は苦笑しつつも温かな目で見守っていた。歌仙、すっかりこの数時間で保護者になってます。

「主君! 兄弟を見つけました!」

 5回目の出陣を終えて戻ってきたとき、まぁ君が短刀を私に差し出した。戦場での2回目のドロップ。嬉しそうなまぁ君の頭を撫で、兄弟との再会を楽しみにしている藤四郎たちに自然に頬が緩む。愛君も新しい仲間が増えるのが嬉しそうだ。

「乱藤四郎だよ。……ねぇ、ボクと乱れたいの?」

 顕現したのは、少女と見紛うような美少年。いや、どう見ても美少女。スカート履いてるし。しかも『乱れたいの?』ってなにー! 私が女だからいいけど、これ、ロリコン男審神者だったら犯罪者まっしぐらじゃね!?

「乱ちゃん? 乱君のほうがいいのかな。私は右近、今日からあなたの兄弟たちと一緒に戦い始めたばかりの審神者よ」

 乱ちゃんは薬研・厚よりも下、愛君よりも上、って感じかな。よし、小学5年生認定。

「乱兄さん!」

 まぁ君が嬉しそうに乱ちゃんのところへと寄っていく。それをきっかけに他の兄弟と愛君も乱ちゃんのところへ行って、どうやら愛君を紹介しているらしい。

「何やら僕は子守になってしまったらしい」

 短刀、つまり子供ばかりが増える現状に歌仙は苦笑している。まぁ、仕方ない。鍛刀は短刀レシピだけだったし、函館でドロップするのは短刀だけだ。

「戦力が偏るのも良くないし、明日は打刀と太刀、鍛刀できるといいんだけど」

「おや、愛のために大太刀を狙うんじゃないのかい?」

 勿論、それも狙うけど、必ずしも大太刀レシピで大太刀が出来るわけでもない。それはマニュアルにも書いてある。飽くまでもマニュアルに書いてあるレシピは『これ以上の資源を投入すれば、大太刀も鍛刀できます』って数値だし。つまり、大太刀レシピで回しても、短刀や脇差、打刀、太刀が出来る可能性もあるわけだ。大太刀狙って資源大量投入して短刀だったら切ないだろうな。

「ねぇ、あるじさん! ボクも戦に出たい!」

 短刀たちでわちゃわちゃしていた乱ちゃんが駆け寄ってくる。既に兄弟たちが戦場に出ているのを知って、自分も! と思ったらしい。うん、女の子みたいな恰好をしててもやっぱり刀剣男士なんだね。

「あー、他のメンバーは? まだ戦いたい?」

 5回出陣してるし、疲れてるかな? と思ったんだけど、5人は『当然!』という顔をしている。出陣はどういうシステムになっているのか判らないけど、本丸と時間の流れが違う。私にとっては画面を通して見ているだけのほんの1、2分の戦闘だけど、実際に彼らは十数分から数十分かけて戦っているのだ。つまり、函館出陣は私にとっては10分にも満たないものだけど、彼らにとっては1時間弱の戦闘なのだ。

「判った。初日だから様子を見るためにも皆がもう疲れた! 今日は出陣しない! って言うまでやるか」

 まぁ、ギブアップしなくとも夕食の時間帯になればやめるけど。

「じゃあ、今から10戦は乱ちゃんが隊長。レベルの差があるからね。乱ちゃんが皆のレベルに追いついたら、また交代で隊長を回していこう」

「ようし! ボクに任せてよ!」

 これからの10戦の隊長に任じた乱ちゃんは張り切ってる。こういうところも子供らしくて可愛い。

「乱、張り切りすぎるなよ」

「そうそう、お前まだ錬度1なんだから」

 そんな弟(違和感ある。妹と言われたほうが納得出来る)を薬研と厚が諌める。いや、諌めると言うよりも揶揄いつつ釘を刺してる感じかな。2人はお兄ちゃんって感じだ。因みに日本刀の付喪神である彼らは『レベル』という言葉は判りにくかったらしく『錬度』って言葉で代用してる。鍛錬度で錬度。

「判ってるよーだ! 頼りにしてるからね、薬研兄、厚兄!」

「乱兄さん、僕だっています! 歌仙さんも愛君だって」

「そーだそーだ」

 兄2人の言葉に乱ちゃんが応じ、更にそれにまぁ君と愛君が乗っかる。うん、短刀5人は仲好いな。愛君がちょっと心配だったけど。そういえば短刀は全部で11振。うち粟田口が8振。愛染国俊の他に2振が非粟田口。兄弟とそうでないメンバーで親密度が違ってくるだろうから気をつけておかないと。積極的に仲間外れなんてことはないだろうけど、疎外感を覚えることはあるかもしれないし。

「はい、乱ちゃんもこの刀装つけて。準備出来たら出陣するよ」

 このままわちゃわちゃしてる可愛い短刀たちを見ているわけにもいかない。今は戦争中で仕事中だ。因みに私の中で仕事時間は午前9時から午後6時。お昼休憩1時間をとっての8時間勤務って感じ。この時間の間はどんどん出陣してもらうつもりでいる。ああ、これも今夜にでも皆にちゃんと伝えておいたほうがいいな。今夜は色々やること多いぞ。

「はーい」

 隊長の乱ちゃんがいいお返事。

「主、今度こそ本陣に辿り着けるように頼むよ」

「う……それは運の女神様に言ってください」

 戦場のルート選択は完全に運任せだ。分岐点では賽子の目によって進路が決まる。そして、これまでの10戦は悉く本陣ではないルートへと進んでいた。もとから籤運とかレア運とかないからなぁ……。

「歌仙の旦那、こればっかりは仕方ねぇさ。大将、あんま気負わずにな」

 薬研、あんた、ホントに短刀か!? 何この男前。漢と書いて「おとこ」と読むって感じだよね。

「よーし、じゃあ、まずは乱ちゃん頑張って皆に追いつこう!」

「まっかせといてー!」

 ノリのいい乱ちゃんは元気に拳を振り上げて応じてくれた。

 そうして、乱ちゃんの初陣、6回目の出陣をしたのだった。






「主さん~、オレ拾った!」

「ボクも拾ったよー」

 愛君と乱ちゃんがそう言って帰ってきたのは6人揃って3回目の出陣のとき。ドロップした刀剣は『愛染国俊』と『乱藤四郎』だった。

 こうして同じ刀剣がドロップされたり、鍛刀されたりするのは珍しいことではない。同じ刀剣男士を複数顕現することも可能なのだそうだ。推奨はされていないけれど、どうするかの判断は審神者に任されている。まぁ、推奨されていないという時点で何らかの問題発生の要因になり得ると察することが出来る。

「乱ちゃん、愛君、どうする? もう1人自分を呼んで双子ごっこする?」

 私としては出来るだけ同じ刀剣男士は顕現したくない。もう1人自分がいるってイヤだなという人間目線。でも、刀剣男士がどう考えるかは判らない。

「うーん、ボクがもう1人いるって、何かヘンな感じがする」

「オレも。出来れば主さんのオレはオレだけのほうがいいかなー」

 刀剣男士も同じ感覚みたいだ。なら、やることは1つ。

「じゃあ、それぞれに錬結しようか」

 そう、錬結。刀剣はドロップしたり鍛刀しただけの状態であればそこに魂は宿っていない。審神者が呼びかけて顕現して初めて魂が宿り刀剣男士となるのだ。つまり、ドロップしたり鍛刀したりして得た刀剣は依代であるに過ぎない。けれど、依代である刀剣には刀剣男士としての能力値も備わっている。だから、錬結することによって、刀剣男士の能力値を上昇させることが出来るのだ。

「あ、それなら、ボクじゃなくて歌仙さんに錬結して。歌仙さん、唯一の打刀だし、ボクたちの能力上げるより先に強くなってもらったほうがいいな」

「オレもそれでいいぜ、主さん!」

 そう言って2人は刀を私に渡す。

「いいのかい?」

 短刀たちの申し出に歌仙は戸惑っているようだ。

「うん」

 迷いなく頷く乱ちゃんに歌仙も頷き返した。当人たちも納得したなら、こちらから言うことは何もない。

「じゃあ、歌仙、持って」

 『乱藤四郎』と『愛染国俊』を歌仙に持たせて、目を瞑ってもらう。錬結に作法はない。左手で2振の短刀に触れ、右手の人差し指と中指を揃えて歌仙の額に触れる。刀剣から力を歌仙に流すイメージ。

 虹色の泡のような光が浮かび上がり、歌仙に溶け込む。

「ああ…心地いいね」

 何処か陶然としたような歌仙の声に錬結が成功したことを知る。端末で能力値を確認すれば、機動が3、衝力が2上昇していた。

「今回は乱と愛の好意に甘えたけど、次からは主が判断してくれ。部隊を回すのに有効な錬結をね」

「うん、判ってる」

 今日は初日だし、歌仙だけが刀種が違うから、歌仙を優先した。けれど、これからは違うようになるだろう。刀剣男士が増えれば優先順位もまた変わってくるはずだから。

「さて、大将、まだまだ終わりじゃねぇよな?」

 好戦的な笑みを浮かべて出陣を促す薬研に苦笑しつつ周りを見れば、どの顔もやる気に満ちていた。

「晩御飯の時間になるか、皆がもういいって言うまで出陣するよ!」

 なら、その期待に応えないとね。






 うん、確かに出陣しまくろうとは言った。皆が飽きるまでやろうとは言った。けど、ここまでやるとは思ってなかった。政府から指示されているのは1日10戦。その5倍戦いましたよ、初日から。しかも、出陣を終了した理由は皆が疲れたからではなく、そろそろ夕食の支度をしないといけないという時間になったから。君たち戦い好きなのね。そして体力お化けなのね。

 尤もこれは『誉』を取り巻くって『桜付き』状態だったことが影響していたらしい。あとからこんのすけが教えてくれた。

 乱ちゃんが隊長になって10戦を終えないうちに乱ちゃんが皆のレベルに追いついて、更に全員がほぼ均等に誉を取っていた。何か調整でもしてるのかな? と思ったけどそういうわけでもなく、運が良かったと厚が言ってた。尤も唯一の打刀である歌仙は刀装を外したりして調節をしてくれていたけど。そうしないと全部自分が誉を持っていってしまうからって。そういう気遣い出来るってステキだよなーと思う。雅だねって言ったら照れ臭そうに笑ってた。

 1日の戦闘を全て終了したとき、皆のレベルは等しく6になっていた。

 あ、ちゃんと敵本陣にも辿り着いた。乱ちゃん隊長の2回目の出陣のときに辿り着くことが漸く出来た。

 本陣を制圧すると、次の時代のマップへと進めるんだけど、今日は函館オンリーにしておいた。というのも、私が情報処理できるか不明だったから。戦いが終わってもやることは一杯ある。初日だからね。なので、少しでも仕事を減らしたいという勝手な都合です、ごめんね皆。明日は次の会津に出陣するからね!