ダニエーレ殿下とアンジェリカの死後、ひっそりと葬儀が行われました。表向きは病死ですから、葬儀は王家の者として行いました。但し国難を招きかけた王子夫妻とのことで親族のみのひっそりとしたものでした。国として喪に服することもございません。家族のみが服喪いたしました。
喪が明けてほどなく、隣国との諸問題の後始末が終わりました。国王陛下も王妃殿下もそれを以てご退位なさるご意向でした。問題を起こしたダニエーレ殿下の親である責任を取ると。隣国との諸問題の後始末はダニエーレ殿下の親であるがゆえに自分たちが為すべきことで、これからの新しい時代のためには若く問題のないエルメーテ殿下が王となるほうがいいと仰ったのです。
けれどそれは貴族議会に認められませんでした。ダニエーレ殿下を言い訳に国王の責務を放棄するのかと。ダニエーレ殿下の教育の失敗の責を取るというのなら、国王として重責を担い、国を正しく運営することこそがそれに値しようと。
当事者となるエルメーテ殿下もわたくしも、国王陛下には何も申し上げませんでした。議会の申すように、国王陛下も王妃殿下も責務に疲れ逃げようとしているように見えましたから。わたくしたちがしっかりと地盤を固め、我が子の王太子教育が進むまでしっかりと玉座を温めていただかなければ困ります。
ダニエーレ殿下の愚行は息子をしっかりと叱責し教育出来なかったご両親の罪でもあります。エルメーテ殿下とわたくし、わたくしの実家をうまく利用して、ダニエーレ殿下を甘やかし、周辺諸国との関係も国民の人気もあれもこれも欲しがった結果がわたくしとアンジェリカの対立となりました。王家内部に諍いの種を蒔きそれを育てた責任は取っていただかねばなりません。
お二人が退位なさったのはそれから十数年後。わたくしの第一子である第一王子が成人し、婚約者を定めた後のことでございます。エルメーテ様は国王となり、わたくしは彼の唯一の妃となりました。三人の息子と二人の娘に恵まれ、五人の子は互いに切磋琢磨し、信頼しあい、弟として妹として王太子となった長兄を支えております。
また、王弟である第三王子と第四王子はそれぞれ大公家を興し、王城の外から王家を支えてくれております。同母弟ということもあるのか、ご兄弟たちはエルメーテ陛下とも気安い関係で、陰に陽向に国王陛下の第一の忠臣としてお仕え下さっております。
様々なことのあった我が国でございますが、漸く治世も落ち着き、民は穏やかに暮らせるようになっております。平民の力も強くなってはおりますが、それは経済面に限定されており、国政に口を出すことはございません。かつて平民上がりの王子妃によって隣国と戦争になりかけたことを国民は知っておりますから。何も知らぬ平民が政治に関わると碌な結果を生まないと理解しているのでございましょう。
王家と貴族は国や民を守るために正しく政治を行い、国家を運営する。平民はその対価に経済を活発化し税を納める。それが穏やかな安定した生活を送るのに最もいいのだと、国民はそう認識しているのでございます。
これで百年ほどは革命など起きずに王家と貴族主導の国家運営が可能になったのではないでしょうか。愚かなダニエーレ殿下とアンジェリカも、平民の政治関与を抑えるという役目をご立派に果たしてくださったのですね。王権の安定にお力をお貸しいただきましたこと、感謝申し上げますわ。