「皇太后陛下、皇后陛下、今回の件を受けまして、我が家は女系相続も検討することにいたしましたの」
そう告げたのは婚約を破棄されたフィーリャだった。
今回の断罪茶番劇にはフィーリャの弟も関わっている。
この弟は母の子ではない。父の愛人が産んだ子だ。フィーリャが皇太子の婚約者となり、フィーリャに弟妹が出来なかったことで公爵家に引き取られた。
本来であれば愛人の子など後継者にはなれない。しかし、フィーリャが皇太子の婚約者となってから10年、両親がどれだけ頑張っても弟妹は出来なかった。そこで仕方なく、庶子を母の養子とすることで後継者としたのである。
が、引き取られたときに既に異母弟は14歳だった。それまで庶子として育った彼は高位貴族として当然身に着けているべき『ノブレスオブリージュ』を理解していなかった。
そして、今回の姉を貶める騒動である。父はあっさりと弟を切り捨て、フィーリャに女公爵となることを認めた。皇后教育を受けているフィーリャであれば公爵としての役目も十分に果たせると判断したのだ。
それに父にはある疑念があったらしい。弟が本当に自分の子であるかという根源的なものだ。弟はあまり父には似ていない。
愛人は父の従妹であり、没落した父の叔父の娘だ。借金のために身売りしなければならなくなり叔父が泣きついてきて愛人として囲ったのだ。まぁ、父もスケベ心があって、妻以外の女性と楽しみたいと囲ったのだが。
囲ってすぐの懐妊だったことから、時期的に微妙とも思っていたそうだが、所詮は庶子で公爵家の継承には関わりないと父は軽く考えていたようだった。
しかし、フィーリャが次期皇太子妃となったことで状況が変わった。自分の子ではないかもしれないと思いつつ、公爵家の血を継いでいることに違いはないと己を納得させていたらしい。
父は一人っ子で、最も血が近いのが愛人である従妹だったのだから、ある意味仕方ないのかもしれない。親族から養子をとるとしたら従妹の子が最有力候補となるのだから。
そんな経緯があったせいか、父はフィーリャに女公爵となるよう伝えた後『女系相続であれば、私のような不安もないのだがなぁ』と呟いた。それを聞いたフィーリャはそれもありだなと思ったのだ。
自分の子であれば確実に公爵家の血を継ぐ。誰の胤かなんて関係ない。夫の子でなくても問題ないのだ。
不貞を責められはしようが、女公爵で当主のフィーリャと入り婿でしかない夫では自分のほうが立場は強いから問題ない。そもそも、男の当主の愛人は認められて女の当主の愛人は認めないというのはおかしいだろう。
なので、フィーリャはひそかに自分が娘を産んだら女系相続に切り替えようと考えていた。
フィーリャの話を聞いたレジーナ皇后とモナルカ皇太后は目を輝かせた。女系相続! そうだ、その手があったではないかと。
それに同席していたミニストロ宰相、ドゥーカ公爵、マルケーゼ侯爵もふむ、と考え込む。
盆暗皇族の問題と共に、帝国内でひそかにじわじわと問題になっている現象があるのだ。だが、それもこれならば問題なく解決するのではないかと思われた。
「次代はマレカ第一皇女が女帝となり、筆頭公爵家もフィーリャ嬢が女公爵となられる。ならば、いっそ国法を変えてしまうのも手かと」
ミニストロ宰相は熟考の後口を開く。そして、国の体制を根底から覆す提案をした。
「次代の女帝即位を以て帝国は原則女系相続とするというのはいかがか」