「公爵令嬢フィーリャ! 貴様は身分を笠に着て俺の最愛、真実の愛の相手であるアーヘラを苛めたな! そんなお前は未来の皇后には相応しくない! だから、婚約を破棄する!」
夜会の場でそう宣言したのはこの国の皇太子であるプリンチペだった。その腕には豪奢で下品な
宣言を受けたフィーリャは扇子の影で溜息をついた。『ああ、やはりこうなってしまうのね』と。
プリンチペの背後には異母弟とマルケーゼ侯爵子息他、側近の盆暗たちもいる。
そして、彼らはアーヘラの証言のみで構成されたフィーリアの罪状リストとやらを読み上げ、彼女を声高に責め立て喚き続ける。
それらの罪とやらは、とても上位貴族では考えつかないような稚拙な『イタズラ』で、どこかの平民の自作自演は明らかだった。平民の幼年学校で行われるような、幼稚なものだ。ともすれば命に係わる、或いは族滅されるような上位貴族の悪意とは全く性質が違うものだ。
夜会の参加者たちは思う。
ああ、また
3代続けての茶番劇に彼らは帝国の未来を憂う。
「そこまでである! 衛兵、捕らえよ!」
凛とした女性の声に衛兵たちが愚者を捕らえた。
そして騒ぎ立てる彼らを会場から牢へと連行する。
「最早世代に1回の恒例行事となった茶番ではあるが、愚息が迷惑を掛けたことを申し訳なく思う。気を取り直して楽しんでくれ」
女帝──いや、皇后はそう告げると、被害者であるフィーリャを伴い、広間から退室したのであった。