猶予期間の終わり

 実はメアリーに対して厳しい目を向けているのは貴族よりも平民の生徒のほうが多ございます。

 貴族は『まぁ、まだ貴族のルールが身についていないのでしょう。暫くは大目に見ることにいたしましょう』という段階でございますの。尤もこの『大目に見る』も一年程度の猶予でございますけれど。

 つまり、そろそろその猶予期間が終わろうとしているのです。そのせいで貴族の生徒も我慢していた分少しばかり不穏な雰囲気になってまいりました。

 けれど、わたくしが何かをすることはございません。正確に言えば出来ないのでございます。陛下から止められておりますから。

 攻略対象の五人のうち、殿下とお兄様を除く3人に対してはメアリーや婚約者への態度・対応を見て処遇を決めることが各家で決まっておりますので。ハニートラップに引っかかって下手を打つような息子は要らないということらしゅうございます。流石に貴族はシビアでございますわね。

 殿下とお兄様が除外されているのは、わたくしが当事者または関係者だからでございますね。わたくし自身の分について対処するのは当然許されておりますから。

 まぁ、殿下からは『私の妻になるのはブランだけだよ』とことあるごとに言われておりますから、さほど心配はしておりませんの。お兄様曰く『鬱陶しいほどの溺愛』でございますから。

 ああ、他の3家について王家がほぼ放置なのは彼らが攻略されたとしても国政には何の影響もないからでございます。3人とも嫡男ではございませんし、国政において何か重要な役割を担っている家でもございません。トマスの父上は騎士団長ではございますけれど、いくつかある騎士団の一つの団長であるだけで、全ての騎士の最上位というわけでもなければ世襲制でもございませんから。冷たい言い方ですけれど問題が起きたならば切り捨てても問題はない程度の家との陛下のご判断でございますね。

 

 

 

 さて、そろそろメアリーに対しての貴族令嬢方の『大目に見る』猶予期間が終わろうとしております。尤も、『悪役令嬢』の立ち位置にいる令嬢方は既に攻略対象である婚約者に見切りをつけているので、今更何かをすることはないと思われます。

 けれど、そうではない、ゲームには出てこない令嬢たちも色々と仕出かしそうなのですよね。メアリーはまさにウェブ小説あるあるを地で行っていて、多少見目の良い貴族の令息には粉かけまくってますもの。

 流石に五大公爵家の令息たちは堕ちておりませんけれど、侯爵家以下の見目の良くて頭の軽い令息たちは軒並みヤられてます。その方たちの婚約者や恋人たちがそろそろ動きそうですわね。

 メアリーもよくあるパターンで仲間外れにされてるですとか、睨まれるですとか、意地悪されるなどなど、自分の主観でしかないことを被害者面して取り巻きたちに訴えているようで、少しばかり騒がしくなってまいりました。

 学院は社交界の練習場でもあります。大きな騒ぎにならぬうちに収めるのもわたくしの役目ですかしらね。面倒くさいことではございますけれど。

 ですので、五大公爵家の令嬢としてわたくしとエンセスター公爵家のエリザベス様とで何度かお茶会を開き、婚約者がメアリーの取り巻きになってしまっている令嬢たちを諭し、メアリーへの手出しは控えさせました。むしろ何かをするならば浮気をしている婚約者に対してですわね。

 令嬢方の中には婚約者の家のほうが立場が強く何も言えないという方もいらっしゃいます。そこはわたくしとリズの出番ですわ。学院内の風紀を乱しているとして、婚約者の令嬢を通して苦言を呈するという形で婚約者の男性側の実家へ『再教育せんか、ごるぁ』をオブラートに包んで伝えましたわ。

 メアリーへも何度か苦言を呈し、貴族の常識、マナーと礼儀を身に着けるように申し伝えましたの。勿論、人目のある所では彼女の恥になりますから、サロンにおいでいただいて、彼女の監督者である教師や王都のタウンハウスの執事にも同席していただいた上で、でございます。

 これはウェブ小説あるあるな常識的な苦言と助言を苛めや身分差別と言いふらさせないための配慮ですわ。

 そういった学院と実家の男爵家を巻き込んで苦言を呈し続けた結果、彼女はのびのびと過ごせる寮を出て、男爵家の使用人たちによる監視のあるタウンハウスからの通学となりました。そこでかなり厳しくマナーや礼儀作法を叩き込まれているようです(お庭番情報)。それにしては全く改善いたしませんけれど。

 退寮し執事たちに管理されることによってメアリーは授業が終わればすぐに下校し(迎えが来ているので強制下校)、休日もマナーや礼儀作法の講習のためにタウンハウスに缶詰め状態になりました。その結果、少なくとも攻略対象以外との関係はどんどん希薄になり二か月もすれば取り巻きは攻略対象の3人だけになっておりました。

 けれど、メアリーは中々にしぶとく、隙を見ては殿下に近づこうとし、王太子ルートの悪役令嬢であるわたくしを貶めようとするのです。まぁ、取り巻き以外誰も騙されませんけれど。

 少しばかり彼女を見て思うところもございますし、少々時間を取って彼女とじっくりお話しするのもよいかもしれませんわね。