攻略対象

 ゲームのオープニングイベントは失敗に終わりました。失敗するはずのないムービーイベントなのですけれどね。

 ここでゲームについて少しばかり説明いたしましょう。誰に? などと突っ込んではいけませんわ。あら、これってメタ発言というものでしょうか。まぁ、いいですわ。

 この乙女ゲームのタイトル『キラキラな恋をしよう~障害なんて乗り越えてやる~』という中々に口に出すのが恥ずかしいものでございます。通称は『キラ恋』でございました。

 物語はよくある元平民の下位貴族の娘が学院内の貴公子たちと恋をするというもの。この世界には魔法もございますが、そういった要素は一切関係なく聖女や精霊の愛し子などといった特別な存在のヒロインではございません。

 サブタイトルの障害とは即ち攻略対象たちの婚約者のことでございます。つまり、このゲームは略奪愛の物語なのでございます。略奪愛、つまり男性陣は浮気をするわけですが、それで貞節を守っている婚約者が責められるのが理不尽でございますわね。

 攻略対象は五人でございます。

 先ず、王道。王子様。

 リチャード・ウッドウィル。一年生十五歳。金髪碧眼。典型的な俺様王太子で夢見る恋愛脳。

 次にクール系。

 レノックス公爵家嫡男のマシュー・ダグラス。3年生十七歳。銀髪蒼眼。無表情で冷静沈着な秀才。

 続いてお色気担当。

 グレイ侯爵家のエドワード・ネヴィル。二年生十六歳。茶髪茶眼。女性関係が華やかな遊び人ですが、実は女性不信という典型的なパターン。

 それから脳筋枠、もとい、騎士。

 騎士団長子息のトマス・ブランドン。一年生十五歳。赤褐色の髪に灰色の眼。直情型の実直と言えば聞こえはいいですが、何も考えない脳筋でございます。因みに伯爵家ですが領地を持たぬ法服貴族ですので爵位名と家名は同じでございます。

 最後がショタ枠。

 タジネット子爵家のヘンリー・タジネット。トマスと同じく法服貴族ですので爵位名はございません。一年生十五歳。黒髪黒目、幼く可愛らしい見た目の泣き虫でございます。

 それからヒロイン。

 モーティマー男爵の庶子であるメアリー・ダドリー。一年生十五歳。ピンクブロンドにピンクの瞳。入学の数か月前に男爵家入りしたので貴族のマナーや常識、礼儀作法が全く身についていないという設定でございます。

 そして、悪役令嬢。それがわたくしです。

 レノックス公爵家長女であるブランシュ・ダグラス。一年生十五歳。銀髪蒼眼。ボンキュッボンなけしからん魅惑の肢体を持つ、マシューの妹で王太子の婚約者。王太子ルートの悪役令嬢でございます。冷たさを感じさせる色合いといい無駄にセクシーなスタイルといい、如何にも悪役令嬢として設定した容姿ですわね。

 わたくし以外にもそれぞれの攻略対象には婚約者がおりますので、その令嬢方も悪役令嬢という役割を振られますが、説明が冗長になりますので割愛させていただきます。一言申し上げるならどなたも素敵な淑女でいらっしゃいますわ。特にお兄様の婚約者はわたくしも大好きで既にお義姉さまとお呼びしております。

 ゲームの期間はヒロインの入学から卒業までの3年間でございます。その間にマシューとエドワードは卒業し、彼ら二人のルートを選ぶと卒業後は学院外でのイベントが中心となります。その分難易度が少しだけ高くなります。

 因みに年齢と学年はゲームスタート時ですので当然変化いたします。

 この障害となる悪役令嬢婚約者ですが、ゲームでは当然ながら攻略対象全員に婚約者がおります。これは現実とも同じでございますが、婚約を結ぶにあたっての経緯が若干異なっております。

 陛下は各家(婚約者サイド)に婚約許可の申請が来た時点で事情をご説明なさったそうですわ。貴族の婚約には陛下の許可が必要でございますからね。

 そこで、娘が婚約破棄を突き付けられて傷つけられる可能性があるが本当に婚約を結んでよいのかと確認をされたそうです。

 すると、各家ともそれを踏まえた上で婚約に至ったとのことでございました。そもそも色々な事情が絡み合っての政略でございます。起こるかもしれない程度の転生者の預言(その転生者がわたくしとは明らかにされておりません)で取りやめることは出来ないと。

 更に、婚約破棄やら婚約者を蔑ろにするやらの行動があった場合に攻略対象や娘がどういう対応を取り、どう行動するかで貴族としての資質を見極めると仰ったとか。貴族社会とは親子でもシビアでございますね。

 因みに兄の婚約者であるマーガレットお義姉様も事情はご存じです。兄は卒業後すぐに結婚する予定ですし、この一年を乗り切ればいいので殿下よりは気楽でいらっしゃいます。お二人とも仲睦まじい婚約者ですし、乙女ゲームの内容もご存じですので大丈夫でしょう。お二人ともヒロインの言動にはかなり忌避感を示されておいででしたからお兄様が攻略されることもないでしょうし。強制力さえ働かなければ問題はないと思いますの。

 ヒロインには是非、ノーマルエンド(誰とも結ばれず卒業するだけの友情エンド)を迎えていただきたいものです。逆断罪となっても色々と面倒が多ございますしね。