アルシェによって明るい雰囲気になったところで、再び話を元に戻す。
「アルがNM持ちだし、姐御もいるし、俺が水になる必要はなくなったな。むしろ俺は土のまま支援に回ったほうがいいか」
水魔法の水晶を買わなくてはと思っていた迅速だったが、
「だな。やっぱり土だとTSだよな」
敵の動きを封じる『テッラ・ソリトゥス』は水の『ナトゥラ・ミラクルム』と並んで狩場で最も有用な魔法のひとつだ。その分、レア度も高く、市場価格も高額だ。
「俺、まだTSは覚えてないぞ。俺がいたころは12M(1200万)超えてたからなぁ ……」
チャルラタンの言葉に迅速は応じる。Lv.40で覚えられる魔法とはいえ、ファーストキャラクターのLv.40ではまだそれを買えるだけの資産など持っていないのが普通だ。
Lv.40のファーストキャラクターであれば、武器も防具もようやく基本的なものが揃い強化しているところだ。12Mもあれば、それらの防具をOE1周にして、武器を2OE品に買い換えてもまだおつりが来る。
迅速自身、装備を整えることが先だと然程必要性を感じていなかったこともあって、まだ覚えていなかった。というよりも迅速の現金資産は500K(50万)マルクほどしかなく、とても買えるものではなかった。
「さすがにTSの在庫はないな」
血盟一の資産持ちの
「焦らなくてもいいんじゃない? 迅さん、DEXエルフでしょ。TSはINT依存の魔法だから、INT初期なら殆ど効果はないわ。確かINT25まで上げてやっと役に立つって感じ」
別キャラクターでエルフをしていた
「INT依存か。じゃあ、次からINTに振らなきゃな」
「あ、私もNMの効果高めるためにINT振りのほうがいいですかね? それともMP増やすためにWIS?」
「あら、アルもDEXエルフでしょ? だったらまずはWISを増やしてMRを100にしたほうが装備選択の幅も広がるんじゃないかな。
「別キャラWISエルフですもんね、姐御。確かにそのほうがいいかなぁ」
「今どうこうより、虹になったときにどんなステになってるか考えるほうがいいだろ。WISやCONはMPやHPの増加量にも関わるから先にあげたほうがいいしな」
いつの間にかステータス相談会が始まる。まだ割り振りのできないナイト3人は蚊帳の外かと思ったが、今日のわずか2時間強の狩りで間もなくLv.50になるまでに経験値が増えているから、割り振れる日もそう遠くはないだろう。
「ステ振りはさ、俺らもちゃんと把握したいから、晩飯のあとにでも改めて時間作って勉強会しない? ステ振り失敗したら目も当てられないし」
疾駆する狼の言葉に
「で、アルはまだEOに入ってないから、加入作業な」
再び画面操作を教え、アルシェに血盟加入をしてもらう。同時に夏生梨とアルシェにアイテム欄の開き方を教え、そこに収納されている『指南の書』をタップするように言う。他のアイテムは実物が出現することはないのだが、この本だけはタップすることで実体化して読めるようになるのだ。収納するときは再度アイテム欄のアイコンをタップすればよい。
「細かいことはこれに書いてあるから、読んでおいて」
デサフィアンテはそう告げると、一旦場を解散することにした。まだ昼食を摂っていないから、ひとまず食事をして、それから女性2人に館内の案内だ。
が、我先にと電気ポットに向かいカップ麺を作り始めた男たちに夏生梨とアルシェは呆れ顔になる。
「何か言いたそうだけど、それは後回しね。昼飯食ったらアジトの中説明するし、他にもまだ説明しとかないといけないことあるからさ」
手にはき○ねど○兵衛を持ったまま言うデサフィアンテに女性2人は苦笑し、差し出されたカッ○○ードルを受け取ったのであった。
簡単な昼食を終えると、デサフィアンテは夏生梨とアルシェに館内を案内した。他の男たちはナイト3人の希望で再び狩りに出かけている。とにかくまずはさっさとLv.50になりたいということらしい。デサフィアンテのみならずアルシェよりもレベルが低いことがかなりショックだったようだ。
まずデサフィアンテは2人を2階へと案内した。3階の部屋に空室はあるが異性でもあるし、2人は別フロアのほうがいいだろうと判断したのだ。奥の2室をそれぞれの部屋と決めると、自動的にネームプレートが出現する。注文端末の説明をするために夏生梨の部屋に3人で入れば、昨日はなかったはずの物が目に入った。
部屋の造りと家具類はどの部屋も同じで、作りつけのクローゼットに机と椅子、ローチェストとソファにテーブル、そしてベッドだったはずだ。しかし、この部屋は女性の部屋と定めたからか、化粧をするための鏡台が置かれている。しかもごくシンプルなオフホワイトの無地だったはずの壁紙は淡い小花模様のシックなものに変わっているし、ダークブラウンだったカーテンは柔らかな優しい色合いへと変化している。この家生きてるんじゃねと思わず心の中で突っ込んでしまうデサフィアンテである。
一通りの説明を終えると、室内にこれまた自動的に用意されていた洋服に着替えるよう勧める。どうやら
数分後出てきた2人は現代日本風になっていた。夏生梨は長い髪をひとつに束ねてサイドに流し、七分袖のカットソーとジーンズ、アルシェはポニーテールにブラウスとフレアスカートといった恰好になっていた。
「2階にはまだ2人しか住んでない。男たちは全員3階だ。3階には俺の執務室と会議室もあるんだ」
3階へ上がり、会議室と執務室を案内する。アルシェは非喫煙者だが、夏生梨は愛煙家のため喫煙ルールについても説明しておく。続いて屋上、地下を案内し、1階へ戻る。案の定、2人は温泉の大浴場にハイテンションになっていた。
それから居間に戻り、厨房へと回る。
「で、ここがツッコミどころ満載の厨房。もうね、何処から電気引いてんのとか、発電所ドコーとか、上下水道完備なのかよとかね」
呆れた口調のデサフィアンテには構わず、夏生梨とアルシェは整ったシステムキッチンに興味を示した。
「ねぇ、食事ってまさかずっとインスタントだったの?」
昼食風景を思い出して夏生梨が尋ねると、デサフィアンテは笑って否定した。
「昨日は俺が作ったよ。カレーだけど。それに俺たちもまだ2日目だからね。食事はさっきので3回目。朝は皆コーヒーとパンで済ませてたな。菓子パンとか惣菜パンとか色々あるし」
「そう」
頷きながら、早速夏生梨は冷蔵庫の中身をチェックしている。その横でアルシェは調味料の種類を確認して夏生梨に伝えていた。
「今日から私が作るわ。アル、手伝ってね」
「はーい。私は姐御のアシスタントってことでー」
料理ができないわけではないが、ずっと実家住まいだったからアルシェは然程料理が得意ではない。実家の台所は母親の城で、アルシェはたまに母の指示通りに手伝う程度だった。一方の夏生梨は1人暮らしも長かったし、主婦だったこともあって、それなりに家庭料理ならば作れる。
「マジ助かります。俺と迅ちゃんが料理担当になってたんだけど、カレーとハヤシライスとパスタの無限ループになりそうだったんだよね」
自然と笑顔になってしまうデサフィアンテである。消去法により仕方なく料理担当になったとはいえ、レパートリーの少なさは悩みの種だったのだ。ましてや夏生梨の料理の腕前は充分に知っているのだから、笑顔になるのは当然だ。
「朝食や昼食のこともあとで相談しましょう」
夏生梨は血盟員の殆どが男性 ── しかも家事スキルはかなり低い ── だということから、家事は自分たちが担当したほうがいいと思ったようだ。デサフィアンテに血盟チャットのやり方を確認すると、早速主婦らしい発言をする。
〔今日の晩ご飯、何が食べたい?〕
その夏生梨の問いかけに血盟チャットは一気に活性化する。
〔姐御の手料理ならなんでも! 絢が姐御は料理上手だって自慢してたし!〕
〔俺、和食がいいー〕
〔あ、俺も。米食いたい。あと味噌汁もほしいー!〕
〔今日は肉より魚の気分。メタボりたくないし〕
〔お袋の味っぽいのがいいなー〕
男たちにしてみればカレーとハヤシライスとパスタの無限ループが回避されたわけで嬉しいことこの上もない。昨日のカレーは少し水っぽくて物悲しい気分になった。作ってくれたデサフィアンテには申し訳ないから何も言ってはいないが。そんな食事が料理上手という噂の美女(ここ結構重要)の手料理へとランクアップするのだ。テンションが上がらないはずがない。
〔OKOK。じゃあメインは何か煮魚にしようか〕
〔いい、いい!〕
〔それでお願いしまーす〕
一方、厨房と食糧庫を見終えたデサフィアンテたち3人はそれぞれ飲み物を用意して居間へと戻る。先ほどは説明できていない狩りについて話すためだ。
「とりあえず今日狩りをして判ったことなんだけど」
そう前置きをして経験値のこと、動きのこと、魔法のことなど、判った情報を全て伝える。デサフィアンテの説明に時折夏生梨とアルシェが質問したり突っ込んだりして説明を終える。
「実際に狩りをしながら掴むしかないわね」
「そうですねー。なんかしばらくは不安でNM連発しちゃいそうですー」
「判るわ。私も常時イムしそう」
主に2人が回復を担当することになる。当然もう1人のウィザードであるチャルラタンもそうではあるが、
「そんなに硬くなるなって。いきなり上位狩場とかは行かないから。ゲームしてるときと同じでいいんだよ。2人ともヒールも補助も巧いんだから。それに冥さんいるし、俺だって今日黒騎士になったし。他のメンバーだって今レベル上げしてるんだから」
安心させるようにデサフィアンテが言ったとき、それを裏付けるような血盟チャットが始まった。
〔
〔おお、おめ! 全茶は?〕
〔これから! 先にお前に報告〕
嬉しそうな理也の声が脳内に響く。どうやら順調に戦闘を重ねているらしい。
{デサフィアンテ:理也50HITおめ!}
デサフィアンテのワールドチャットを皮切りに血盟員全員が祝福のメッセージを発信する。既に使い方を把握していた夏生梨とアルシェも同様だ。
昼前の冥き挑戦者のワールドチャット以降、徐々にワールドチャットも行なわれるようになり、時間を追うごとにフィアナの雰囲気も落ち着いたものになっていた。昨日は戸惑いや混乱から何処か殺気立っていたが、それも幾分和らいでいる。血盟単位で行動する者が増え『生活』が始まったことも大きいのかもしれない。第2陣召喚者は然程多くなかったらしく、また各血盟主の動きが早かったのか、混乱を増長することはなかったようだ。
「さて、そろそろ夕食の準備を始めましょうか」
「そうですね。もう日も暮れてきましたし」
一通りの説明も終わったし、と夏生梨たちが腰を上げる。
「じゃあ俺は血盟日誌でもつけるか」
デサフィアンテも立ち上がる。
血盟運営記録は自動で記入されるものがあるが、それとは別にデサフィアンテは自分の手でも記録を残したほうがよさそうだと考えた。血盟運営記録は客観的な事柄を自動的に記録するだけだから、それだけでは足りない。日々の狩りや行動で判ったこと、それに基づいて考察したことは別に記録しておく必要がある。いや、この記録こそが重要だろう。いずれ君主仲間たちと連携するにしても情報は必要だ。
それにイル・ダーナは何回かに分けてプレイヤーを召喚すると言っていた。今日の第2陣で終わりということもないだろう(終わりであってくれればそのほうが良いが)。記録を残しておけば新たに召喚者が現れた際にそれを見せることで説明も時間短縮できるだろう。
女性2人に厨房を任せ、デサフィアンテは執務室に入る。注文端末を操作してノートと筆記用具を注文しようとしたところで、ふと思いついて電化製品項目を確認した。『電化製品』を取り扱っていることにツッコミたいところではあるが、これも今更だ。すると幸いなことにというか呆れたことにというか、そこではパソコンも扱っていた。デスクトップ、ノート、タブレットと、
ラッキーとばかりに(もう深く考えるのは止めた)デサフィアンテは普段自分が使っているものと同機種のデスクトップパソコンを注文する。注文確定と同時に出現したパソコンを立ち上げ、更に持ち運びもできるようにと軽量のノートパソコンも追加発注する。
パソコンが起動すると、まずはソフトをチェックする。
パソコンにブラウザが入っていたことからなんとなく予想はしていたが、ブラウザを立ち上げると同時にインターネットも使えるようになっていた。いや、『インターネット』といっていいのかどうかは不明だが、
有線でも無線でもなく、何の機器も設定もなく使えることが不思議といえば不思議だが、それも『この世界だから』と妙な納得をしてしまう。もっとも
スタートページとなっているのは【フィアナ・クロニクル】公式サイトに似た『フィアナWeb』というページで、そこには『指南の書』に書かれていた内容と各地域・モンスターの情報が掲載されていた。
更に各血盟にはそれぞれサーバースペースが割り当てられていて、血盟サイトの運営やデータのクラウド管理が可能になっていた。サイト作成のために必要な様々なもの ── サイトの雛型、
一体イル・ダーナは何を考えてこんなものを用意したのだろう。誰がちまちまとこのサイトを作り、素材を作り、スクリプトを集めたのだろうと考えると可笑しくなった。イル・ダーナの娘や息子 ── もちろん神。地水風火、そして死の神 ── が母の指示に従って作ったのだろうか? 古代ギリシア風の衣装をまとった神様がパソコンに悪戦苦闘している姿を想像してデサフィアンテは微かに笑った。
イル・ダーナの意図が何であれ、情報を発信し共有できるインターネットやウェブサイトは有り難い。与えられているならばそれは有効利用するだけだ。
ちなみに『フィアナWeb』にはメンバーページがあり、ゲームアカウントとパスワードを入力することでそのページにアクセスできる。
とりあえずデサフィアンテはブラウザを閉じると、テキストエディタを立ち上げた。そこにこれまでに気づいたこと、判ったこと、今後調べたいことや確認したいことなど、思いつくままに書き連ねていく。これは血盟サイトができあがったら、そちらに転載することになるだろう。恐らく夏生梨のことだから、デサフィアンテが管理できるようにブログのような簡単に書き込めるツールを組み込んでくれるはずだ。
一通り書き終えると、メールソフトを立ち上げ送受信設定をする。
「ホンットにこの世界は色々有り得ないよな。便利だからいいけど」
こういったネット環境があれば血盟外の友人とも連絡が取りやすいし、情報共有も容易になる。助かるには助かるが、世界観はどうしたとツッコミたくもなる。
呆れて溜息をつきつつ、『フィアナWeb』でモンスターやこの世界のアイテムを確認する。早速情報収集だ。
モンスターの経験値、出現場所、ドロップ、或いは様々なアイテムの効果。そういった情報が全て記載されている。
「ドロップ率は ……低いな。
【フィアナ・クロニクル】でレアドロップといえば、獲得率0.001%なんてものもあった。10万匹同じモンスターを狩ってようやく出るかどうかという確率だ。そんなアイテムがゴロゴロ存在するから、サービス開始から10年以上経っているというのに未だに取得されていないアイテムもあるほどなのだ。『最マゾMMO』といわれたのは伊達ではない。
その『最マゾMMO』といわれた原因のひとつがレベリングの困難さにもあるのだが、それに関してはかなり軽減されている。1レベルあたりに必要な経験値が100分の1になっているのだ。必要経験値の細かい数値までは覚えていないが、Lv.50代では8桁の数値だったことは覚えている。それが6桁になっているのだから、かなり軽減さていてると考えられる。
「確かに経験値溜まるの早かったよな」
日中の狩りを思い出す。8人のパーティを組んで温い狩場に行ったのだから、今日中に55HITは無理かもしれないと思っていたのだが、わずか2時間の狩りで達成してしまったのだ。単純に考えて1年かけて獲得する経験値を3~4日で獲得することになる。
「ってーことは、大体1~2日で1レベル上がるか ……。虹になるのも早そうだな」
恐らく1ヶ月半から2ヶ月で全員Lv.70になるのではないかと予想できる。であれば、タドミール討伐は2ヶ月から3ケ月が経ったあたりになるのか。それまでに早期引退組の装備を何とかしなければならない。
「早速週明けからはちょっときつめ狩場でレア狙いすっかなぁ」
となれば、何処の狩場がいいか。再び『フィアナWeb』に視線を戻し、狩場状況を調べる。幸いモンスターの種類や出現地はゲームと変わっていないようだ。
「絢、皆帰ってきたから晩御飯にしましょう」
ノックの音とともに夏生梨が顔を覗かせる。
「わざわざ呼びに来てくれたのか、サンキュ。ってかクラ茶かウィス使えばいいのに」
「あ、忘れてた。あったわね、そんな便利なもの。 ……っていうか、なんでパソコンなんてあるわけ?」
「ネット接続もできるぞ」
「あなたが突っ込むのに疲れたって言った意味、何だか判ってきた」
「だろ。まぁ、あとからこれのことは皆にも説明する。夏生梨に頼みたいこともあるし」
デサフィアンテはパソコンをスリープ状態にすると、夏生梨と食堂へ向かう。
食堂のテーブルにはホカホカと温かな料理が並んでいた。今日のメニューは秋らしく栗ご飯に秋刀魚の梅肉煮、それから冬瓜の鶏餡かけ、甘めに味付けした明太子入り出汁巻玉子に豆腐と油揚げの味噌汁だ。食卓に並んだそれらの料理に男たちは感動に目を潤ませている。大袈裟な ……と夏生梨とアルシェは思ったが、男たちにとっては大袈裟でもなんでもない。とりあえず腹が満たせればいいという『餌』ではなくきちんと味わえ楽しめる『食事』は大切だ。
「うまーい!!」
「姐御、アル、ありがとう!!」
男たちは餓鬼を思わせる勢いで食事を進める。作った2人はその様子に苦笑するものの、こんなにも美味しそうに食べてくれれば作り甲斐もあるというものだ。料理をする者にとって美味しそうに食べてくれる笑顔というのは何よりのご褒美なのだ。
「後片付けは俺たちがやるから、姐御たちはのんびりしててよ」
「それくらいさせて!」
「精神的に疲れてるだろうしね」
そう言ってくれる男たちに感謝しつつも、夏生梨とアルシェはきっぱりと断る。理由は二度手間になるからだ。昨晩と今朝使ったらしい食器や調理器具は一応洗ってはあったが、洗い残しが結構あった。それに洗い籠に放置してあり、食器棚に戻されてもいなかった。そのため、2人は夕食の支度の前に食器の洗い直しと片付けから始めなくてはならなかったのだ。
「キッチンは女の城ということにさせてもらうわ。食事関係とキッチン、食堂の掃除は私たちがやるから」
「そうですよー。朝ご飯も姐御と私で作りますー。狩りに行かない日のお昼ご飯もー」
夏生梨はきっぱりと、アルシェはのほほんと、それでも拒否は許さずに宣言する。基本的に【悠久の泉】のメンバーは女性に弱いため、それに逆らうこともない。むしろ有り難くそれを了承する。
「そうね ……朝食は7時半くらいから食べられるようにしておくわ。9時までには食べ終えてね」
「作ってあるものを温め直してくださいねー。朝は和食と洋食日替わりでー」
さっさと決めた2人に男たちは感謝するだけで異論はない。
結局、食事関係は女性2人に完全に任せることになり、男たちは共用スペースの掃除を分担するということで家事の担当は決まった。ちなみに洗濯もしようかという夏生梨の申し出は、他人の女性に下着類を洗ってもらうことも抵抗があるし、下着だけを別にするのも面倒だということで、各自が行なうことに変更はなかった。
家事の分担が決まると、食卓の話題はやはりこの世界のことになる。自然とそれぞれがこの世界に来た瞬間の話になった。
「そういえば、皆がこの世界に来た時間ってバラバラなのかな。多分こっちに現れたのはほぼ同じなんだろうけど」
ふと思いついてデサフィアンテは言う。
「あー、そういやそうだな。あっちでの時は止まってるんだろ? 全員が違う時間だと、色々面倒そうだよな」
理也も頷く。
「私はアルと待ち合わせしてて、ログインしたのは10月17日の午後10時少し前かしら。10時のドラマが始まったのまでは覚えてるわ」
「私も同じですー。忘れないようにケータイのアラームかけてて、鳴った瞬間アヴェリオンにいました」
今日来たばかりの2人が言う。
「あれ、フィアナ暦じゃ今日は18日だけど ……
17日であればデサフィアンテたちと同じだ。
「俺は多分、10時ピッタリだな。ニュースの始まりの時報といっしょだった」
「多分俺もほぼ10時だわ」
「俺もだ」
デサフィアンテ、迅速、チャルラタンが言う。3人はログインした瞬間にこの世界に来ている。
「俺は2時間くらい狩りしてたな。その最中だ。ちょっと前に時計見たら10時前だった」
「俺も1時間くらいおって、誰も知り合いいてへんから詰まらんし、10時になるし、そろそろ落ちよう思うてたらこうなっとった」
冥き挑戦者とディスキプロスは夏生梨たちと同じだ。既にログインしていて10時になったらこちらに飛ばされていたらしい。
「俺なんてキャラ選択画面だったぜ」
「俺はその前のデモ画面」
「俺、クライアントアップデート中」
理也、疾駆する狼、イスパーダはまだログインしていない状態でのトリップだ。イスパーダはともかく別キャラクターも持っていた中でキャラクター選択すらしていないのに、かつてのメインキャラクターでこの世界へ呼ばれている。
「ってことは、10月17日の午後10時の時点でクライアント起動してたプレイヤーが召喚されてんのか」
呆然とデサフィアンテは呟く。
「アルメコアからのメールとINする意思がトリップの鍵だったってことかしら」
夏生梨が首を傾げながら言う。
「ま、とりあえず、全員同じ時間にトリップしてるんなら、帰ったあとも不都合は起きないだろうし、それでよしとしとこうや。考えたってどうなるわけでもなし」
明るく言った冥き挑戦者に皆頷く。既に召喚され帰還条件も示されているのだから、このことが判ったとて大した意味はないだろう。少なくとも冥き挑戦者の言うように、帰って時が流れ始めたときに不都合が起こることはなさそうだと判っただけで充分だ。
「あ、そうだ。有り得ないことにこの世界、パソコンあるんだわ。んで、自動的にネット接続もできるようになってる。
デサフィアンテの言葉に既に知っていた夏生梨を含め呆れ顔になる。色々有り得ないことが多いが、最早何が起きても不思議ではない気がしてきた。
「それで、夏生梨。うちのクランサイト作ってほしい。まぁ、共同生活だから必要ないかもしれないけど、新規加入者来たり、誰か召喚されたときに情報共有しやすいようにね」
「OK。あとで必要なコンテンツ教えてね。中身も原案はちょうだい」
「それから、全員分のメールアドレスも発行されてる。フィアナWebってとこの個人ページで確認できるよ。ってことで、あとで部屋に戻ってそれぞれパソコン入手しといて。ハイスペックなのが色々揃ってるぞ。あ、会議とか勉強会とかで使うと思うから、ノートかタブレットがいいかも」
デサフィアンテの指示に全員が了解と答える。この中にパソコンが使えない者などいない。【フィアナ・クロニクル】がパソコンでプレイするオンラインゲームなのだから当たり前だ。
「で、今が7時だから、9時から会議室で今日の狩りの反省会とステータス勉強会な。そこで明日の予定も決めよう」
その指示の全員が了承し、食事の時間は終わったのだった。
食事のあと、夏生梨は早々に自室に引き取った。アルシェが『姐御はクランサイト作りがあるでしょ。今日は私がやっておきます』と言ってくれたから、素直に甘えることにしたのだ。9時からのミーティングまでにある程度形にしておけばあとが楽になる。
早速パソコンを入手し、各種設定を済ませる。ちなみに手に入れたのはデスクトップ1台とノート1台だ。それぞれを小規模LAN環境で情報共有できるように設定し、会議や勉強会ではノートを使うことにする。
各種設定が終わったところで、早速血盟サイトの作成に取り掛かる。
デサフィアンテが言っていたとおり『フィアナWeb』には必要な素材やスクリプトが揃っている。1からHTMLでタグを打って作ることもできるが、それではHTMLの判らないデサフィアンテにサイト更新を任せることはできない。ここはCMSを使うのが手っ取り早いと判断し、『フィアナWeb』から
画像素材を加工してテンプレートを作る。各コンテンツの内容はデサフィアンテからメールで送られてきており、それを基に『血盟規約』『血盟居館使用規則』は静的ページで作成し、『運営報告』『勉強会』はブログ形式の動的コンテンツで作成する。ブログ形式だから、今後はデサフィアンテでも更新可能だ。
更に『血盟員名簿』『資産管理簿』『提言・企画BBS』といったCMSのシステムでカバーしきれないものは該当のスクリプトを設置する。
一通りサイトの原型ができたところで、CMS更新、各種スクリプトの書き込みにはセキュリティ対策としてIDとパスワードを設定した。IDはそれぞれのメールアドレス、パスワードは仮パスワードを発行しておく。会議の始まる9時にはギリギリで完成していた。
夏生梨が血盟サイトの最終チェックを終えたところにちょうどよく血盟チャットでデサフィアンテからパソコンを持って会議室に集まるようにとの指示が入った。
夏生梨が入室すると、既に全員がノートパソコンを持って着座していた。10人全員がノートパソコンでタブレット型は1人もいない。10代或いは20代前半からのハードなパソコンユーザーの彼らにしてみると、タブレット型はパソコンとは思えないのだ。たとえ古いといわれようがキーボードをカチカチと叩いて(だからソフトタッチキーボードも彼らにとっては邪道)、マウスで操作するのが一番馴染むのだ。
そのせいか、それぞれが自宅で使っているのはミニタワータイプかタワータイプのデスクトップマシンで、キーボードもキーストロークの深いものを使っているらしい。俺ら古いなぁ、なんて笑いながらもそれが使いやすいのだ。ついでにいえば10人のうち半数以上が部屋においているのはデスクトップマシーンで、ここに持ってきているノートパソコンは会議や勉強会用だという。デサフィアンテ、夏生梨、冥き挑戦者、迅速は既に小規模なLAN設定で2台のPCを繋いで情報共有しており、理也と疾駆する狼はデスクトップは個人用、ノートは血盟関係用と使い分けるらしい。
「さて、パソコン談義はそこまでにして、第2回運営会議兼勉強会始めようか」
パンと手を叩いてデサフィアンテが全員の意識を切り替えさせる。それでもコーヒーを飲みながらの緩い雰囲気で会議スタートだ。
まずは共同生活ルールの変更点についての確認を行なう。夏生梨とアルシェが加わったことによって、食事当番と共用スペースの掃除担当が変わる。更に先ほどは朝食が午前7時半から9時の間で自由に摂ることになっていたが、やはり朝と夜は一緒に食事したいというデサフィアンテの希望によって、8時から全員で摂ることになった。そのほうが夏生梨たちの面倒も減る。
更に昨日は決めていなかったが、およその1日のタイムスケジュールも決める。朝食後10時までが掃除の時間だ。正確には10時にはクランハントに出発できるように終わらせておく。
午前10時から午後1時の約3時間を午前の部とし、その後は町に戻って昼食。『フィアナWeb』の情報でミレシアやセネノースといった大きな町には複数の飲食店があることが判っているから、そこでランチと休憩だ。
午後2時から5時まで午後の狩りを行ない、館に帰還。男性陣はクランハントで得たドロップの整理と売却、装備の修理やメンテナンスと狩場・モンスターの情報整理を行なう。その間に女性陣は夕食の支度だ。メニューにもよるが6時か7時には夕食。その後はフリータイムとなって、午後9時から30分から1時間ほど、クランハントの反省会と翌日の狩場決定。
毎日クランハントや狩りでは疲れも溜まる(主に精神面。体力はゲームキャラクターゆえにすぐに回復する)から、休日も決めておく。この世界にも七曜制があるため、水曜日と土曜日を当面は休みにすることにした。ちなみにこの2日は夏生梨とアルシェも食事当番からは外れ、食事は3食とも各自で摂る。毎日ずっと顔を合わせて一緒にいては元々が他人なのだから息が詰まることもあるだろうと、休日の2日に関しては完全にオールフリーにしたのである。
これから先は全員揃ってのクランハントばかりではなく、目的別のペアやパーティ狩りなどの希望も出るだろうことを踏まえ、それでも午前の時間は必ずクランハントに充てることにした。
「なんか学生寮みたいだな」
大雑把にタイムテーブルやスケジュールを組み、デサフィアンテはそう苦笑する。
「まぁ、仕方ないだろ。先が長いからある程度は決めておかないと、中弛みしたり怠けたりすることもあるだろうしな」
「レベルが上がれば狩場も難易度の高いところを増やすことになるだろうし、そうなったらタイムスケジュールの見直しも必要だろ? とりあえず、暫定的にこんなもんでいいんじゃないか?」
理也とイスパーダがそう言い、この世界に慣れ全員が銀変身(Lv.60)になるまではこのスケジュールで行こうということになった。今日の狩りで迅速、ディスキプロス、理也がLv.50を達成しており、残りのLv.50未満者は疾駆する狼とイスパーダだけだ。明日の目標は疾駆する狼とイスパーダのLv.50、夏生梨のLv.55、アルシェのLv.52達成だ。
「次に明日の狩場だけど ……って、今10人だから、2パーティに分けなきゃいけないな」
「フィアのところにLv.52未満全員とチャルさん、姐御と俺がペアでよくないか?」
「バランスは悪いけど、プリボーナス考えたらそれがいいかも」
「え、姐御と冥さんのペアなんて超危険な気がするんですけど」
「冥さんの暴走抑止は姐御か絢じゃなきゃ無理だろ。姐御の暴走抑止は誰にも無理だから、姐御の自制心にかけるしかない」
デサフィアンテの呟きに冥き挑戦者とチャルラタンが応じ、それにアルシェがツッコミを入れ、迅速が容認する。冥き挑戦者はゲームでは若干猪突傾向にあり、それを止めるのは君主であるデサフィアンテと『影の支配者(笑)』といわれた夏生梨の役目だった。もっとも、夏生梨は夏生梨でパーティを危険に晒さない程度には魔法で暴れることもあったのだが。
パーティの上限人数は8人に設定されている。現在の血盟員は10人だから、どうしてもパーティを分けざるを得ない。君主がパーティリーダーであれば経験値にボーナスが付くから、低レベル組はデサフィアンテのパーティのほうがいいし、ウィザードも1人入れておきたいところだ。冥き挑戦者の提案が妥当かなと思ったところに、全員のタッチパネルがポップアップし、『指南の書が更新されました。更新箇所:パーティについて』とメッセージが表示される。
タイムリーだなと思いながら示された箇所を見れば、パーティ人数に関する記述が追加されていた。
「俺たちの声、盗聴されとるんやろか」
「まさか ……とは言えないわな。ま、相手は神様だ。何でもありだろ」
ちょうど話題にしていたパーティ人数の上限に関する内容だったため、ついついディスキプロスは突っ込んでしまう。
ゲーム内においてはパーティリーダーが誰であろうとパーティ人数の上限は8人だった。しかしこの世界ではそれが変更され、血盟主がパーティリーダーの場合のみ、血盟員に限り上限が撤廃された。非血盟員の場合は上限8人までで、これは血盟員が何人パーティにいても関係ない。つまり、デサフィアンテがパーティリーダーであれば【悠久の泉】血盟員は何人でもパーティには入れるうえ、非血盟員8人の追加が可能になるということだ。
血盟に加入可能な人数は君主のレベル・クエスト達成状況・カリスマの値によって上限が定められている。デサフィアンテの場合、Lv.50以上なのでカリスマ値の3倍、Lv.45クエストを達成しているために更にその3倍が加入可能で、117人が上限となっている。即ち最大で117+8=125人の大パーティが組めることになる。もっともあまり人数が増えてしまうと状況の把握が難しくなるし、ウィザードたちの負担も増えることから、10人くらいまでが精一杯というところだろう。
「まぁとりあえず、これで明日は1パーティで行けるわけね。10人のうち
夏生梨の言葉に頷き、話を先に進めることにした。
全員の平均レベル的に狩場としては竜谷ではもう楽すぎる。しかし10人の大所帯のパーティでは適正レベルの竜谷の洞窟最深部は通路が狭すぎる。あの狩場の適正人数は1パーティ4人といったところだ。ならばカラベラ要塞か翡翠の塔かということになるが、ナイト3人がカラベラ要塞には不慣れなため、この世界に慣れるまでは理也たち早期引退組の知らぬ狩場は止めておこうということになった。
となれば残る候補は翡翠の塔ということになる。翡翠の塔は地上100階からなる中級以上の狩場で、10階ごとに階層が分かれ『邪悪』『闇』『死』『恐怖』などのテーマがあり、それに基づいたモンスターの出る狩場だ。1階から10階までは低層と呼ばれ、それ以上の階層はスタート地点の11階、21階などから11階層、21階層と呼ばれる。各階層は繋がっておらず、各階層の最上階の10階から次階層最下階の1階へは直接移動することはできない仕様になっている。低層にはミレシアの地下水路から入り、それ以外は11階であれば『翡翠の塔11階転移スクロール』というアイテムを使って移動することになる。
また、基本的にはパーティ推奨の狩場で、階層ごとに適正レベルも分かれている。低層から21階層であれば平均Lv.45から55、31階層から61階層であればLv.50から60、71階層や81階層であればLv.60から65、最上階の91階層ならLv.65以上の平均レベルはほしいところである。更に各階層最上階にはボスモンスターが出現し、100階に出現するバアルはタドミールの存在が明らかになる以前は魔族の王バロールと並んで最高難易度のボスといわれていた。
ゲーム時代、この翡翠の塔は【悠久の泉】にとって特別な狩場だった。平均レベルが45に届かないころから、クランハントでチャレンジしていた狩場だ。まずは理也、疾駆する狼、迅速、夏生梨の4人が下見してモンスターや道を確認し、クランハントに出かけた。『前回は7階までだったから、今日は8階までは登ろう』と1階1階登っていた。『11階スクがあと3枚で人数分揃うから、週末には11階層にチャレンジだ!』とワイワイと楽しんでいた。
当時のことをそう理也が振り返れば、皆懐かしそうな表情になる。
「初心者の集まりだったから、皆で手探りで一歩一歩だったよな」
今から考えればナメクジ並みの歩みの遅さだ。けれど、それが楽しかった。
「いいな、そういうの。俺にはそんな仲間いなかったな。廃人の集まりだったし」
疾駆する狼の言葉に心底羨ましそうに冥き挑戦者は言う。そんな初心者ならではの楽しみ方は全てすっ飛ばしてレベルを上げていた。勿体無かったと思う。
「でも冥さんは俺らをボス狩りに連れて行ってくれただろ。71階層とか魔族の神殿は冥さんがいたからこそ行けたんだし」
理也たちとの楽しさは一緒に成長してきた者とのもの。一方冥き挑戦者はベテラン高レベル者がいてくれるからこその楽しみだ。どちらも比べることのできないものだ。
「まぁな。お前らがすげーワクワクして楽しそうにしてくれてたから、次は何処に連れて行ってやろうって俺も楽しんでた」
だから冥き挑戦者はいつまでも血盟最強でいようと思った。仲間を楽しませるために。そして、この世界では自分よりも10歳以上若い彼らを守るために。
「冥さんにコワいところに連れてってもらう日を楽しみにしてます。で、絢、明日は何層にするんだ?」
イスパーダは冥き挑戦者に笑いかけ、デサフィアンテに話を振る。つい昔話になって脱線してしまう。そういえば【悠久の泉】の血盟チャットもよく脱線してクランハントの行き先を決めるのに時間がかかっていた。
今回は全員の連携を図ることが目的のため、11階層にいくことにした。【悠久の泉】の後期はクランハントといえば21階層に好んで行っていたが、今回は転移スクロールが不足しているため行くことはできない。【硝子の青年】時代には71階層にも行っており、こちらは冥き挑戦者が大量の転移スクロールを持っているものの、デサフィアンテ、夏生梨、アルシェ、冥き挑戦者以外は一度も体験したことのない狩場であり、平均レベルも心許ない。11階層であればターゲットを合わせ
「前衛の勘取り戻すのが目的だから、明日はFA担当分けるぞ。マーナガルムとミミックは冥さん、DSはナイト3人とディス、サキュは迅ちゃんな。迅ちゃんとアルはサキュ優先で倒して。冥さんならマーナガルムとミミックは2~3撃で倒せるから湧かなきゃ大丈夫だろ。あ、DSはバラバラにFA入れるんじゃなくてローテーションな。5回空振りしたら交代しろ。FAバラバラな分、ウィズ2人は大変だろうけど、2人ならやれるだろ」
冥き挑戦者、チャルラタン、夏生梨のスキルにさり気なく信頼を見せて、デサフィアンテは指示を出す。
「出発は今日と同じ朝10時ね。3時間狩りして、ランチ休憩のあと、スクの集まり方次第で11階層続行か21階層行くか決めよう」
それに異論は出ず、決定となる。
「じゃあ、次は
デサフィアンテの言葉に全員が『フィアナWeb』のステータス解説のページを開く。
【フィアナ・クロニクル】のステータス6種類あり、Lv.51以降、レベルアップごとに1ポイントのリマイニングポイントが付与される。それを任意のステータスに振り分け、キャラクターをカスタマイズしていくのだ。
6種類のステータスははSTR・DEX・CON・INT・WIS・CHAとなっている。
STRは
DEXは
CONは
INTは
WISは
最後にCHA。これは
これらにポイントを振り分けることによって他の重要なパラメータであるHP・MP・HPR・MPR・AC・ER・
「理也君と
「そうね。素が18だからMAXの35になるのがLv.67ね。そのあとはSTRが無難かしら」
「WISに振っても大した効果ないからな。WISで効果出すなら最低でも16ポイントは振らないといけないから、67+16でLv.83になっちまう。それよりはSTRに振ったほうが効果デカいしな」
「ああ。WISを上げるよりMR効果のある装備を使ったほうがいいな。フィアの昆布で20%アップするし」
「ナイトは元々のMRが低いものね。弱点補強よりも長所強化のほうがいいかしら」
冥き挑戦者、夏生梨、デサフィアンテが言う。この3人がほぼ講師役だ。
「イスはSTRだから攻撃側だな。でもナイトだしHPも欲しいよな。ナイト技能はMPじゃなくてHP消費だし」
「51から59までCONに振ってCON25は? ボーナスはそれでMAXだろ」
「そのあとはHP量とHPRで判断してCONかSTRか決めればいいんじゃないかしら」
名前の挙がったメンバーは頷きながらメモを取っている。
「ディスは冥さんと同じでよくないか? WIS23でそのあとSTR」
「いや、俺のWISは『ゲネシス・ラピス』の成功率上げるためだからな。今は黒魔石はNPCが売ってるし、無理に上げる必要はないだろ。ナイトが壁役になるなら、攻撃特化のほうがいい。火力が足りなくなるからな。STR35のDEX25が目標だな」
「あ、俺、それがええわ。エレティクスは殲滅して何ぼやし」
先にDEX25にしてしまえば、その分回避率も上がり、より育てやすくなる。そう考えながらディスキプロスもメモを取る。
「迅さんは攻撃型エルフ? それとも支援型?」
前衛陣が終わったところで、夏生梨は迅速に尋ねる。
「ゲームなら攻撃型で行ったけど、ここだと支援かな」
「ソリターが前提よね。じゃあ、まずFTA使ってMR100になるまでWISを上げて、その後INTがいいかしら」
「じゃないか。アルも同じだな。MR装備不要になれば選択の幅も広がるし」
エルフ2人には精霊魔法『
デサフィアンテ、夏生梨、冥き挑戦者を中心にアドバイスをしていく。しかしこれは飽くまでも参考意見に過ぎない。
一般的にナイトはCON中心、エレティクスはSTRとDEX中心、攻撃型のエルフであればDEX中心、魔法型のエルフとウィザードであればINTとWIS中心にポイントを割り振ることになる。君主の場合は『どれに振っても大きな違いはない』というキャラクター特性から全くのフリーダムで様々なタイプが存在する。なお、この振り方はクラスの特性を活かすための振り分けで、弱点はそのままだ。弱点を補おうとすれば当然別の振り方がある。しかし、弱点を補うためには多くのポイントを費やす必要もあり、ゲーム内ではポイントによる補正よりも装備による補強が重視されている。
近年の【フィアナ・クロニクル】の傾向としては
これらのステータスタイプによって揃える装備も異なってくる。
例えばデサフィアンテの場合は攻撃特化のSTR型君主であるから、その特性を活かすために攻撃追加ダメージのある『極光石の短剣』を使い、STR+1の『腕力の額飾り』とSTR+2の『剛力の篭手』、各ステータス+1の『モナーククローク』でSTR値を上乗せしている。弱点の
また、夏生梨の別キャラクターのエルフは魔力タンク型と呼ばれるWIS型であることから、
この2人は特性を活かす装備だが、冥き挑戦者の場合は弱点を補うものにしている。冥き挑戦者はCON初期であり、エレティクスはそれでなくともナイトに比べHPが少ない。そのため、CON+1の『コヴァスの兜』と『シャドウグローブ』、HPRボーナスのある『古代の革鎧』と『黒虎の革衣』、HP増量の『堕落のブーツ』といった防具を揃えて弱点を補強しているのである。
つまり、ステータスの振り方によって武器も防具もそれぞれ異なるため、ポイントをどのように割り振るのかは非常に重要になるのだ。ゲーム内ではステータスの割り振りに失敗してキャラクターを作り直す者も少なくはなく、ユーザーの強い希望によってステータスリセットのできるアイテムが課金アイテムとして登場したほどである。ちなみにその後、育てやすい攻撃型(STR型もしくはDEX型)でキャラクターを作成し、Lv.52になった時点で本来の目的のタイプへとステータスを変更する、というキャラクター育成方法も一般的になった。
今回の目的はタドミールを倒すことだ。タドミールは強力な魔法攻撃と物理攻撃を持っている。魔法攻撃は物理攻撃よりも射程が長いから、前衛後衛に関わらず
後衛のエルフとウィザードは魔法が主であるから、
それら基本的なことも含めて確認しながら勉強会は進んでいく。もっとも、デサフィアンテ、夏生梨、冥き挑戦者、チャルラタンは既に自分の目指すスタイルがあり、それに合わせたステータス割り振りを行なっている。今更ステータスの振り方を変えると中途半端になり戦いづらいキャラクターになってしまうこともあって、そのままの割り振りで進めていくことにした。4人とも特別奇抜な振り方をしていたわけでもなく、オーソドックスな攻撃型・魔法型の振り方だったということもある。要は迷っている、どうすればいいのか判らないというメンバーのための意見交換会というわけだ。
およその目安が決まったところで、勉強会も終わりとなった。
「最後に私から。絢から言われてクランサイト作ったわ。飽くまでもベースだから、要望あれば修正するから ……そうね、今日が金曜日だから、火曜日までに言ってくれる?」
夏生梨はそう言って完成した血盟サイトを示す。URLとID・パスワードはメールで全員に送信済みだ。
「さすが姐御。仕事速い」
「見やすいし、いいんじゃね」
早速それぞれがページにアクセスしている。
「これでいいと思うけど、じっくり見て変更希望箇所あったら言うよ」
というデサフィアンテの言葉で、ひとまずこの形での運用が決まった。
「血盟員名簿は各自で更新してね。ひとつでも数値が変わったら必ず更新すること。この情報を基にしてチャルさんや私はヒールの組み立てするからね」
HPやACによってヒールの種類を使い分けるのだ。ヒールによっては回復量はもとよりMP効率も違うし、重ね掛けのオーバーヒールでMP消費のロスをなくすためにも情報の把握は重要なのだ。
「ちなみに俺の持ってる名簿は自動更新されて最新情報だから、更新サボったらすぐに判るぞ」
「だったら絢が更新したほうが早くね?」
「いやいや、自分でやろうぜ」
ワイワイと賑やかに、本日の会議兼勉強会は終了となった。
今後しばらくは今日定めた方針に沿って活動していくことになったのである。